
桃田万里子 × 福 博充
目次
第1回■両ファンクラブに見る「自主」と「管理」
第2回■KPOPは、どこかで「異文化だからなんでもある」と思っていました。
第3回■究極のジャニヲタは、ジャニーズJr.を愛せる人たち?
第4回■私たちは「置かれた場所で咲きなさい」が好き!
第5回■アイドルと事務所は、花魁と置屋の関係に似ている
第6回■「メッチャ近いのにまだ双眼鏡で覗く人がいて、欲が深いと――」(桃田)
「この間、同じこと言われました(笑)」(福)
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▲第6回までアップされています。
▽今後の予定
第7回■「特等席で見られる、これが幸せな瞬間なんだと気づいたんです」
第8回■見られることに慣れていない私たち
第9回■ジャニーズの虚構とSMの虚構
⇒ 残りの3回分は、一週間後にアールズ出版HPにアップされる予定です。
http://www.rs-shuppan.co.jp/news/n23707.html
*面白い!と思ってもらえたら、ツイッターなどで共有してもらえると嬉しいです^^
”日産スタジアム3daysが発表されるなど前人未踏の領域を進む東方神起。
King&Princeがデビューするなど大きな変化があったジャニーズ事務所。
それぞれの熱心なファンである両者が、ファンとは何かを語るちょっとアカデミックな異色対談です。"(アールズ出版HP紹介文より)
福さんは、東京大学大学院総合研究科・多文化共生・総合人間学プログラム勤務で、院生時代に「ジャニーズを研究する」ことに挑戦したユニークな経歴の持ち主です。

このアールズ出版の対談ページのトップに使われている、それぞれの本と一緒に、ふせんの貼ったメモ用紙みたいなものも映っている画像。実は、これ、対談に先駆けて、偶然、私も福さんも、紙に論点を整理したり、自分の聞きたいことをまとめたりして作ってきた下書き。
この下書きの準備が、示し合わせたように同じだったので、「あー、研究畑の人間なんだな~~」と、最初から親近感がありました。そんな福さんにいくつか質問したことで、HPの対談には載っていないのが、このやり取り。
桃田 「福さんが東方神起に抱いていたイメージは?」
福 韓国の歌手。当時はそこまでめちゃくちゃがっつり見ていた訳ではないので、「有名なグループ」って感じでした。すみません!
桃「対談前に、東方神起のPVをご覧になったそうですが、その感想は?」
福 桃田さんの解説を、著作で読んでから見たので、”あーなるほど!そんな背景と意味があるなんて”という感じで、ここでも「見」ていました。笑 ただMIROTICのPVは、当時も観ていたので、その当時のことを思い出したりもしました。
桃 「SHINeeのライブに行ったそうですが、ジャニーズアイドルとの違いを感じましたか?」
福 ライブって「わらわら」しないものだと改めて思いました。それから、音の感触というのでしょうか、私はやはり日本語よりも韓国語で歌う彼らの歌の方が好きです。ちなみに26日のSHINeeのライブでは、「すずき しゅん」というダンサーが気になったので、ツイッターを探してしまいました。
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福さんと話していて気づいたのは、”アイドル”と”アーティスト”とは何が違うんだろう、と考えた時に、対談本文中にも出て来るんだけど、「見られること」に対する比重が大きいのが、アイドルなのかな、ということ。
実は福さんの本を読んだ時に、「あれ?歌とか、歌詞とか、PVとか、そういう話はいつ出て来るのかな?」と思っていて、それが一回も出てこない、というのが、気になったことの1つでした。要するに「聴く」という動作が全く出てこない。「見」るだけ(笑)。
それで、アイドルって、結局「見」られることに特化した存在のことなんだろうな、と感じました。
そして、その受け身の言葉が端的に示しているように、どこか主体性が曖昧なのが、アイドル。
それに対して、東方神起ってじゃあどんな存在なんだろうと考えると、福さんの、「歌手だと思っていた」という回答はとても印象に残りました。
たぶんそこには、東方神起の二重性が現れていて、
韓国で”アイドル”としてデビューしつつも、実はその在り方は、日本の感覚からすると、歌手=アーティストに近いものなんだろうな、と思います。
でも、彼らが、見られる価値のある対象としての身体ーースタイルの良さ、整った容姿を持ちつつ、事務所やクリエイティブスタッフと協力しながら、一つの”作品”を創り上げるスタイルでなかったら、こんなに日本で受け入れられることはなかったんじゃないか。
そうしたアイドル的要素ーー準備された衣装、用意された楽曲、振り付けーーその曖昧で緩い主体性こそが、逆に、安心して多くの日本人ファンを惹きつける要因になっているように見えます。
一方で、韓国人がアイドルに求めているのは”実力”で、整った容姿以上に、本格的なR&Bを歌える歌声とか、複雑なステップや見栄えのいいフォーメーションを組んだダンスパフォーマンスを求める空気がある。
そして、実は曖昧な主体性よりも、韓国人が好むのはその”実力”に裏打ちされた、強烈なカリスマ、自己を打ち出せる主体性なんだと思います。
大手事務所に所属していないけれど、自作曲や自分達でプロデュースを行う防弾少年団や、東方神起とカムバがかぶる、今韓国で大人気の、オーディション選出メンバーによる、Wannaoneのブレイクなんかは、そうした韓国ファンダムの気質を、よく表している。
それは脱・事務所というか、確かな実力から表現される、「自分自身」であること、事務所によって作られた存在としてではなく、表現する主体としてのスターを求める韓国の風潮が、色濃く影響しているのかもしれません。
センスの模倣相手が欧米で、特に個人主義的なアメリカ文化に対する無邪気なまでの憧れが、若者文化の土台を作っている韓国において、「自分自身を表現できる強烈なカリスマ」を求めるのは、自然なことなんでしょうね。
そのくせ、アメリカのようにアーティストが個人で活動できる仕組みではなく、日本と同じように、事務所単位でのプロモーションしかできない点は、実は依然として、自分自身を表現できる力を持ちながら、不完全な主体性しか持てないままなのであり、実はその提供された、アーティスティックな”実力”も”自分自身”も、10代の少女たちに、一過性のファンタジーを提供して終わる、という残酷な運命が待ち受けているのだけど。
東方神起は、防弾少年団やWANNAONEに比べたら、自己プロデュースや自作曲にこだわるグループではない、事務所依存度の高いグループという点において、日本のアイドルに近い存在だといえます。
一方で、彼らが持っている高い歌唱力スキルやダンススキルは、彼ら個人に帰するものであって、それはやっぱり自分自身を表現できるパワーとして感じられる。そういう彼らの一面は、日本人のアイドル観からすると、やっぱりアイドルというより、アーティスト寄りに見えるのでしょう。
日本で高い人気を誇っているのも、実はそのアイドルとアーティストの配分量の良さというか、バランスにあるのかな、と思うし、「実力」と言いながら、その実、実力があるというイメージを消費して終わる韓国エンタメの受け取られ方の中で、苦戦を強いられている部分だと思います。
そして、韓国エンタメというのは、ジャニヲタである福さんが、ハマっていくジャニーズJRの世界とは、真逆の力学なんだと思います。
どんどん「個」を隠蔽し、用意され、準備されたものを咀嚼し、求められるイメージに自己を演出し、作り替えてていくことで、「アイドル」になっていくジャニーズの世界。
そこではファンも一緒になって、1人の少年が「アイドル」として見つめられる存在になるまでを、追っていきます。
ファンがそれによって消費しているのは、実は「成長」「育成」という物語です。
一方で、韓国の”アイドル”達は、実力によって”自分自身”を表現している、とファンを圧倒してみせることによって”アイドル”になります。
東方神起の場合は、その高い歌唱力やダンスパフォーマンスで、アイドル低迷期と言われた時代に風穴をあけた訳だし、その実力重視の風潮の行きつく先が、防弾少年団のような脱事務所型のグループなのでしょう。
そこにあるのは、「強く才能豊かな存在」への憧れ、圧倒的なカリスマを主役にすえた物語です。
けれども、”実力”や”才能”、一朝一夕には身に着かないものを求めつつも、その実、短命なアイドルとして消費しきってしまう韓国の、この発信側と受け取る側のねじれや矛盾は、今後、どう韓国ファンダムが成熟していくのか、そしてKPOPを受け取る層が、どう世界に広がり多様化していくのか、という点によってのみ、解消される問題なのでしょう。
そして、東方神起が、アイドル的な要素ーー恵まれた身体を持ちつつ、準備された楽曲を歌い、振付をこなしながら、事務所と一体になって、ありうべき「東方神起」を演出していくやり方の中で、どこまで主体性を持ち、自分達の実力や主体性といったものを出していくのか。
そのバランスをもって、どう韓国と日本で活動していけるのか。
それは、日本と韓国のエンタメ文化の共通点と相違点を、今後ますますくっきりと浮かび上がらせる、一つの指標となっていくに違いにありません。
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桃田万里子署 2017年刊 東方神起ヒストリーを、インタビューやライブMC、番組などのトークを引用しながらまとめました。
トンペン×ジャニオタ 異色対談「私達は何を見ているのか?」ジャニーズを東大で”研究”という、異色の経歴を持つジャニオタ福さんと私の対談を、アールズ出版HPにて掲載連載中です。
⇒ http://www.rs-shuppan.co.jp/news/n23707.html
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