映画『そばかす』を観てきました。
 
ストーリー
私・蘇畑佳純(そばた・かすみ)、30歳。
チェリストになる夢を諦めて実家にもどって
はや数年。 コールセンターで働きながら
単調な毎日を過ごしている。
妹は結婚して妊娠中。 救急救命士の父は鬱気味で
休職中。 バツ3の祖母は思ったことをなんでも
口にして妹と口喧嘩が絶えない。 そして母は、
私に恋人がいないことを嘆き、勝手にお見合いを
セッティングする。
 
私は恋愛したいと言う気持ちが湧かない。
 だからって寂しくないし、ひとりでも十分幸せだ。 
でも、周りはそれを信じてくれない。
 
恋する気持ちは知らないけど、ひとりぼっちじゃない。 
大変なこともあるけれど、きっと、ずっと、大丈夫。
進め、自分。
(以上、公式サイトより転記)
 
 
三浦透子さんが主演で、前田敦子さんも出演、
テーマも興味深いなと思って観てきました。
これが年内ラストの鑑賞かな。
 
とても好きなタイプの作品でしたねー。
すごくよかったです。
キービジュアルは、ビルの屋上と思われるところで
目を閉じてタバコを吸う三浦透子さん。
タバコは嫌いだけど、三浦透子さんとタバコって
なぜだかすごく似合いますよね。
『ドライブ・マイ・カー』でも吸ってましたが、
今回は全然違うキャラクターで、全然尖った
キャラクターではないのですが、やっぱり似合う。
タバコを吸ってるシーンって、こちらに煙がくる
わけでもないのに、その姿を見るだけでウッとなる
感じがあるのですが、三浦さん演じる佳純が
フーッとタバコの煙を吐き出すと、心に溜まった
黒いものが吐き出されていくように感じて、
気持ちいいんですよね。不思議。

ちょっと(かなりかも?)ネタバレがあります。
これから観られる方は、ここでストップで
お願いします。




 
佳純は、恋愛感情も性的欲求も持たない女性です。
少し前に、NHKドラマ『恋せぬふたり』でも
同じテーマを取り上げていました。
一般的に、異性に対して恋愛感情や性的欲求を
抱く人がマジョリティとされていて、近年では、
同性に対してそういう感情や欲求を抱く人への
理解が少しずつ進んできています。
そして今、この作品で描かれる佳純のように、
「誰に対しても恋愛感情も性的欲求も湧かない」
という、当事者以外にとっては初めて出会う
タイプの人たちが取り上げられ始めています。
 
私個人的には、ものすごい恋愛体質な人がいるの
だから、逆に全く興味がない人だっているだろうと
思っているので、そういう人たちが生きづらさを
感じているとは思っていませんでした。
恋愛体質な人が困っているように見えなかったから、
その逆もしかり、的な発想です。
 
でも、家族の問題がありました。
佳純は母親(坂井真紀さん)からの「早く結婚
しなさい」という圧力に耐えかねていました。
年頃の女性なら誰でも多少は経験するかな、と
思うのですが、これって本当に厄介ですよね。
「結婚する気はあっても相手が見つからない」場合も
この圧力はしんどいでしょうが、そもそも結婚を
したくない人にとっては、生き方の押し付けでしか
ないと思います。
想像してみてほしいです。
例えるなら、結婚して幸せに暮らしてるのに
早く離婚しろと言われてるのと同じでは??
今の時代、私という個人が誰とどういう生活を
送ることを選ぼうと本人の自由のはずです。
結婚して幸せな人はいっぱいいて、それはとても
良いと思うけど、結婚しないことが幸せな人も
いるんです。恋愛はするけど結婚はしないという
人だっています。
「自分が幸せだから自分と同じ幸せをあなたも
選ぶべき」だなんて、なんて傲慢なんでしょう。
それとも「自分だって我慢して結婚したのだから
あなたもそうすべき」ということなのでしょうか。
しかもそれを望んでないと言われると
「本当は淋しいくせにやせ我慢して」だなんて。。

幸せは人それぞれ。
家族にさえ本当の自分を理解されないというのは
とても苦しいだろうなと思います。
だけど、お母さんも妹(伊藤万理華さん)も
悪気は全くないんです。家族ですから。
社会全体の「常識とはこう」というものに
とらわれているだけで、佳純に幸せになってほしい
という思いは本物のはずです。ただ娘が、姉が
心配なだけ。
だからこそ、佳純も言い出せなかったんですよね。
 
母と妊娠中の妹からはそんな感じでなかなか
理解してもらえないのですが、お父さんとの
やりとりがとてもホッとできる時間です。
お父さん(三宅弘城さん)は救急救命士なのですが
欝気味で休職中です。自分自身がつらい状況だけど、
娘のこともいつも気遣っています。
佳純も父親を気遣っていて、ふたりの会話は
思いやりに満ちているんですよね。
病気だからと変に意識するとか、結婚しない娘を
哀れに思うとか、そういうのでは全然なくて、
純粋に、お父さんが、娘が、自分の自由に今を
生きているだろうか、そういう想いが見えるんです。
お父さん役の三宅弘城さん、最近よくお見かけする
気がするんですけど、とても雰囲気が良くて
好きですね。
 
前田敦子さん演じる真帆ちゃんもすごくよかったです。
こんな友達がいたらすごく心強いし、
私もこんなふうに強くなりたいなと思いました。
まぁ私は結構誰にでも言い返せるくらいには
そこそこ強いのですが。笑
真帆ちゃんがいいところは、怒るときに
誰かをダシに使わないところです。
真帆ちゃんは父親のことが嫌いなんですね。
市議会議員である真帆ちゃんの父親が視察で
佳純の働く保育園に行ったとき、佳純が作った
デジタル紙芝居について、理解のないことを
言ったことを知ります。
それに怒った真帆ちゃんは、街中で演説している
父親に怒鳴り込みに行きます。
でも佳純を守るとか肩を持つようなことを言って
怒るのではなく、父親のものの考え方とか人への
態度とか、そういうことに対して怒るのです。
もし私が佳純だったら、自分のせいで真帆ちゃんが
お父さんと険悪になってしまったりしたら
とても自分を責めてしまうと思うのです。
だけど真帆ちゃんがそういう怒り方をしたことで、
佳純は自分のせいだとは感じなかっただろうと
思います。
そして、いつも自分の感情を押し殺してきた
佳純は、こんな風に大胆に感情をぶつける
真帆ちゃんに憧れたんだと思います。
そして、一緒に住もうと提案します。
 
ところが、真帆ちゃんは元カレとよりが戻って、
結婚することになりました。
真帆ちゃんと暮らすことにワクワクしていたのに
突然それがダメになって、佳純は落ち込みます。
たしかに落ち込みます。でも「真帆ちゃんが
幸せなら、私はそれが一番いい」と本心から
言えるのです。
それに対して妹は「強がりだ。お姉ちゃんが
レズビアンなのはわかっている。そんなのみんな
わかってるし、だからどうということもないの
だから、認めなよ」と言ってしまいます。
佳純は本当に真帆ちゃんの幸せが一番だと思っていて
一緒に住めなかったことは残念だけど、傷ついては
いないんです。
人の幸せや自由を心から喜べる人なのです。
 
家族も友達も恋人も、いればつい依存したり、
執着したり、コントロールしたくなることも
あると思います。
でも佳純にはそれがない。
自分が自由を求めているから、相手の自由も
尊重できるのだろうと思います。
 
佳純は、父親に怒りをぶつける真帆ちゃんを見て、
自分も勇気を出して家族に自分の気持ちを
吐き出します。
家族だって、佳純を縛り付けたかったわけじゃ
ないんですよね。ただ、自分の幸せのものさしで
しか、見られなかっただけ。
ずっと佳純を静かに見守ってきたお父さんは、
やっと自分の意思を明確に示した佳純を見て、
自分も自由になることを選びます。
一人の勇気が良い方に連鎖していく。
現実はこんな簡単じゃないだろうけど、希望でした。
 
ラストシーン、よかったなぁ。
佳純がお行儀悪くわざと立膝をしてお母さんが
叱ると、お父さんも膝を立てます。そしてついには
おばあちゃんまで。
そして叱っていたお母さんもおかしくなって
笑ってしまいます。
「お行儀よく」というのが苦しい時もある。
だったら楽な姿勢にしたらいいよ。
お父さんもおばあちゃんもそれを応援するよ、という
エールのように感じました。
 
全体的に、ふっと笑ってしまうシーンがあちこちに
ちりばめられていて、とても没入できました。
みんなが本心から自由な生き方を選べるには、
あとどれくらいかかるのかなぁ。
一歩ずつ、そういう未来に進んでいけたらと思います。