映画『ある男』を観てきました。

ストーリー
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者で
ある里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫
「大祐」(窪田正孝)の身元調査という奇妙な
相談を受ける。
里枝は離婚を経て、子供を連れて故郷に戻り、
やがて出会う「大祐」と再婚。そして新たに
生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたが、
ある日「大祐」が不慮の事故で命を落としてしまう。
悲しみに暮れる中、長年疎遠になっていた大祐の
兄・恭一が法要に訪れ、遺影を見ると
 「これ、大祐じゃないです」と衝撃の事実を告げる。
愛したはずの夫「大祐」は、名前もわからない
まったくの別人だったのだ‥‥。
「大祐」として生きた「ある男」は、いったい
誰だったのか。何故別人として生きていたのか。
「ある男」の正体を追い“真実”に近づくにつれて、
いつしか城戸の心に別人として生きた男への
複雑な思いが生まれていく―――。
(以上、公式サイトより転記)


いやー、期待以上におもしろかったです!
妻夫木聡さんに安藤サクラさん、窪田正孝さんと
聞けば期待はとても高まっていたのですが、
それを超えておもしろかったです。


離婚して、小さな男の子を連れて実家に戻ってきた
里枝(安藤サクラさん)が、実家の文具店で
店番をしていると、地元の者ではない男(窪田正孝
さん)がやってきて、画材を買っていきます。
度々訪れる「谷口大祐」と名乗るその男と里枝は
次第に親しくなり、結婚して女の子をもうけます。
その子が2歳になる頃、大祐は仕事中に自分が切り
倒した木の下敷きになって亡くなってしまいます。

大祐の一周忌に、彼の兄(眞島秀和さん)に
連絡をしてみると、遺影を見た兄は、
「これは弟ではない」と言います。
里枝がこの数年を共にした男は一体誰なのか。
離婚調停時に担当してもらった弁護士の城戸
(妻夫木聡さん)に相談し、夫「X」の素性を
探ります。


もう配役がパーフェクトです。
安藤サクラさんの抑えた演技が素晴らしかった!
子どもを亡くし、離婚し、再婚した夫を亡くすと
いう波乱万丈な人生を歩むひとりの女性の、
妻の面と母親の面を自然に静かに素朴に演じられて
いて、とても素敵でした。

窪田正孝さん、かっこよかったーー。
里枝の文具店に現れて、雷で落ちたブレーカーを
上げるときの横顔がめちゃくちゃ美しくて、
里枝じゃなくてもこれは恋に落ちます。
良い夫、良い父親で、里枝と息子と娘、里枝の母と
5人で幸せに暮らしていましたが、大きな秘密を
持ったまま、事故死してしまいます。
窪田さんは、大祐を名乗るXとその実父の二役を
演じているのですが、パッと見でどちらか分かる
表情の演じ分けは天才。器用な役者さんだなぁ。

Xの身元を探る弁護士の城戸は、帰化した在日
外国人なのですが、それに何の意味があるのか
最初は分かりませんでした。
でもこのことが、彼をただの弁護士としてでは
なく、ひとりの人間として描いていく要素に
なっていきます。
余裕のある人権派の弁護士の顔から、人間、
城戸章良の心情が表出する瞬間は凄まじかったです。
激高して怒鳴るシーンではビクッとしてしまいました。
妻夫木さんも良い役者さんですね。

この城戸を精神的に追い詰めるのが、
柄本明さん演じる小見浦。
のらりくらりと正面から向き合うことを避けて、
なぜかこちらのことはすべてお見通しで、
痛いところを巧妙に突いてくる。
頭が良すぎて、異常で、不気味。
出会いたくない人です。
柄本明さん、こういう役ぴったりですよね。

あと、里枝の息子、悠人を演じた坂元愛登くんも
よかったです。
里枝と悠人のやりとりに心温まりました。


「自分以外の誰かになり代わりたい」という思いは
誰もが一度は考えることだ、というのが、
この作品のテーマのようです。
「そんなことない、私は私でいい」という人も
多いと思いますが、それは幸せなことかも
しれません。それでも、例えば親に叱られたり
学校で嫌なことがあったりしたときに、うっすら
誰か別の人間になりたくなることってあるんじゃ
ないでしょうか。
ただそのほとんどは本気じゃなくて、
実際に実行する人はほとんどいません。
でも、自分として生きることで多大な悪影響が
あって、何年も悩まされていて、それを斡旋する
人がいるという条件がそろってしまったら、
実行してしまうかもしれません。

「自分」というのは何でしょう。
名前以外で説明しようとしたら、私ならどう説明
するだろうと考えました。
谷口大祐になった彼は、「別人」だったかも
しれないけど、谷口大祐として行きた数年間こそ、
本当の彼だったのではないかと思うのです。
結局、大切なのは「自分らしく、どう生きるか」
ということに尽きますね。


ミステリーとしてもヒューマンドラマとしても
とてもおろしろかったです。