映画『破戒』を観てきました。
ストーリー
瀬川丑松(間宮祥太朗)は、自分が被差別部落
出身ということを隠して、地元を離れ、
ある小学校の教員として奉職する。彼は、
その出自を隠し通すよう、亡くなった父からの
強い戒めを受けていた。
彼は生徒に慕われる良い教師だったが、出自を
隠していることに悩み、また、差別の現状を
体験することで心を乱しつつも、下宿先の
士族出身の女性・志保(石井杏奈)との恋に
心を焦がしていた。
友人の同僚教師・銀之助(矢本悠馬)の支えは
あったが、学校では丑松の出自についての疑念も
抱かれ始め、丑松の立場は危ういものになっていく。
苦しみのなか丑松は、被差別部落出身の思想家・
猪子蓮太郎(眞島秀和)に傾倒していく。
猪子宛に手紙を書いたところ、思いがけず猪子と
対面する機会を得るが、丑松は猪子にすら、
自分の出自を告白することができなかった。
そんな中、猪子の演説会が開かれる。
丑松は、「人間はみな等しく尊厳をもつものだ」
という猪子の言葉に強い感動を覚えるが、
猪子は演説後、政敵の放った暴漢に襲われる。
この事件がきっかけとなり、丑松はある決意を胸に、
教え子たちが待つ最後の教壇へ立とうとする。
(以上、公式サイトより転記)


恥ずかしながら、島崎藤村の『破戒』は読んで
いなかったのですが、文学作品は好きなので
楽しみにして観に行ってきました。

とてもとてもよかったです。
有名な作家の小説が原作の映画なので、
今回はネタバレありで書きたいと思います。


若い世代の人たちには「部落」とか「穢多」という
言葉もすでにあまり耳馴染みのない単語に
なっているのではないかと思います。
私の世代ですら、社会科の授業や教職の単位でしか
ほとんど耳にしなかっま言葉です。
ここまでにはものすごく長い年月がかかったけど、
主に彼らの、そして日本国民みんなの努力で
身分制度を改善できたことは喜ばしいことだと
思います。

一方で、眞島秀和さん演じる猪子蓮太郎が発した
言葉にはハッとさせられました。
「穢多に対する差別がなくなっても、
また別の差別が出てくるだろう。」
残念ながら、全くそのとおりだと思いました。
猪子の言っていたとおり、現代に身分差別はほぼ
なくなっても、性差別や様々なマイノリティへの
差別はあらゆるところに存在しています。


間宮祥太朗さん演じる瀬川丑松は、長野の被差別
部落に生まれましたが、身分を隠してその土地を
離れます。そのとき父から「自分の出自については
絶対に誰にも話してはいけない。誰も信用しては
いけない」と強く戒められ、丑松はずっとそれを
守って生きてきました。
学生時代からの親友で同僚の銀之助にすら隠し、
近くで差別による騒動を目の当たりにすれば、
住む場所を変えるなどしていました。

丑松が教える小学校の生徒の間にも、差別は
ありました。それまでは仲良しだったのに、
大人が差別する言葉を聞いて「身分が違う」と
言い出して、いじわるをし始めるのです。
それは間違ったことだと教える立場のはずの
教師たちも強い差別意識を持っていて、
もし教員の中に被差別部落出身の者がいれば、
解雇して追い出すという姿勢です。
こういう教員のクラスの生徒は、どういう扱いを
受けたのか、映画では描かれていませんでしたが、
想像すると恐ろしいことだと思いました。

丑松は、周りで起きる差別に遭遇するたびに
怯えながら、父の戒め通りに身分を隠して
生きるしかありませんでした。
そんな中、同じく被差別部落出身の思想家、
猪子蓮太郎が書く書物に感銘を受けます。
自分の出自を隠さず、堂々と意見を述べる猪子に
丑松は希望を感じ、彼の言葉は心の支えとなります。書物を読んだ感想を書き綴っては猪子に送って
いると、ある日とうとう猪子が丑松を訪ねてきて
対面がかないます。
丑松は、自分も同じ身分であることを猪子に
打ち明けたくなりますが、父の戒めが耳に響いて
話すことができません。

差別を目の当たりにし逃げるように移り住んだ
お寺には志保という娘がいて、丑松は志保と
心を通わせます。志保の養母は、丑松に志保を嫁に
もらってくれと言うのですが、身分を明かせない
丑松は良い返事ができません。
さすがにお寺の人は差別をする側にはいませんが、
志保は士族出身で、到底釣り合わないと考えて
しまうのです。

志保は士族出身ではありましたが、家は落ちぶれて
いて、人減らしのためにお寺に養女に出されて
いました。実父は丑松の同僚教師でしたが
病気がちで欠勤が多く、職を追われていました。
志保の弟は丑松の受け持つ生徒でしたが、
家にお金がないために将来を悲観していて、
その憂さ晴らしもあって、仲良しだった被差別
部落の級友にいじわるをしていました。

志保の養母は優しい人でしたが、養父は志保に
夜這いをかけ、耐えきれなかった志保は、
お寺を出ていってしまいます。

そんな中、丑松を訪ねたときに志保を見初めた
丑松の同僚の新人教師が、丑松の出自に疑念を
抱き始め、噂を吹聴します。何も知らない銀之助は
「そんなことあるわけないだろう」と一蹴しますが、
学校は看過しません。
追い詰められた丑松は、疑いを払拭するため、
猪子の書物をすべて売り払う一方で、猪子の演説を
見に行きます。
被差別部落出身者以外の人の心をも動かす
素晴らしい演説を聞いて、丑松の心には勇気が
湧いてきます。
ところが、演説からの帰り道、猪子は反対論者に
刺されて命を落としてしまいます。

被差別部落に生まれただけで、本人に何も非はなく、
真面目に生きているのに、なぜこんな目に
遭わなくてはならないのか。
なぜ自分を偽って生きなければならないのか。
丑松は苦しみます。

学校の追求から逃れることも難しくなり、
丑松はとうとう銀之助に真実を打ち明けます。
銀之助は、そうとは知らずに何度も差別的な発言を
して、丑松を傷つけてきたことを詫び、学校にも
真実を伝えるという丑松を説得しようとします。
ですが丑松の意志は固く、生徒たちの待つ教室へ
向かい、最後の授業を展開し、ついに父の戒めを
破ります。

大好きな瀬川先生(丑松)が差別される出自で
あったことに子供たちは衝撃を受け、はじめて
差別が無意味で人を傷つけるものであることを
理解します。
丑松は何も悪くないけれど、子供たちに隠し事を
していたことを詫び、彼らとの時間がとても
幸せだったことを伝えて、学校を去ります。

丑松はこの町を離れて上京することにし、
ひとり町を出ていくことにします。生徒たちは
学校に行かず丑松を見送り、銀之助は志保に
知らせて、ひとりで町を出ようとする丑松をともに
待ち受けます。
志保は、丑松の出自がどうであれ、一緒に生きて
いきたいと告げ、丑松と志保はふたりで新しい
人生に踏み出します。


『破戒』が映画化されるのは60年ぶりだそうです。
丑松を演じた間宮祥太朗さん、ふだんはなんか
ギラギラした印象を勝手に持っていたのですが、
この丑松の物静かで目立たないように真摯に
生きている様子が予想外にハマっていて、
素晴らしかったです。

それから親友の銀之助を演じた矢本悠馬さん。
とても良い役者さんですよね。
このお二人は実生活でも親友だそうなのですが、
たぶん実生活でのお二人の関係と丑松と銀之助の
関係は全然違うだろうけど、とても魅力的な
おふたりでした。

明治時代の友情ってこういう感じなんですかね。
この頃書かれた文学作品は何冊か読んでいますが、
言葉の言い回しなどもあるのかもしれませんが
現代とは全然違って、なんか爽やかですよね。
作家というある種繊細な人々が描写しているから
かもしれませんが、無駄なものがないというか。
描いているものは重たい問題なのに、描き方が
涼しげで清々しいなと感じます。
良くも悪くも、真っ直ぐな人が多い時代だった
のかもしれません。

そういう雰囲気もよく出ていて、
とても良い映画でした。