3年前の6月に、東京で栗城君と講演会をした。
講演会をした理由は、栗城くんが登山で指を失ったことだったんだ。
当時栗城くんは、なんとか指が蘇生しないか方々探して、インドだかどこかの「指が伸びる薬」とやらを手に入れた。
「なんだそれ、怪しさ満点じゃないか!」と尋ねると、これが少し伸びると言うではないか。
実際に伸びたと言う人もいたり、当の栗城くんも数ミリ伸びたと言うのだ。
ただとても高価な薬らしく「薄めて使ってます」と言うのだ。
をいをい、ちゃんと処方箋通り使えよーと思ってさ。
数ミリ指が伸びたことによって、山で滑った時にしがみつけて助かったりするかもしれないじゃん。
ぶっちゃけ死んで欲しくないじゃん。
だったらポケットマネーでポンと薬代を出しても良いんだけどさ。
それだとなんだか友人なのに変に上下関係ができそうでさ。
だったら働いてもらえば良いんだ。
栗城君も講演会活動をしてるから、俺と一緒に講演をして利益を全部あげるよって形にした。
(そんな彼の薬代を出すのが目的だったのに、結局半分くらいはネパール震災支援にお金を回してくれと栗城君が言うので回すことになった)
栗城君との出会いは10年くらい前。
福島正伸さんが行なっている「ドリプラ」と言うのがある。
そこで審査委員として参加してたら栗城君もいたのだ。
ドリプラの審査員にルールがあって、こんな感じで欽ちゃんの仮装大賞の審査員のように仮装しながら審査をするのだ。
これは予選の審査だな。予選の時は仮装しなくていい
これは罰ゲームじゃなくて、頼まれて瞼に目を書いてるのだ。
栗城君とは共通の友人が何人もいて、いつか会ってみたいなーと思ってて、ここで会えて喜んだのを覚えている。
俺は登山家じゃないんだけど、登山家が大好きだ。
人生で最も影響を与えた本は何ですか?
と聞かれたら、俺は「植村直己さんの青春を山に賭けて」と即答している。
![]() |
新装版 青春を山に賭けて (文春文庫)
680円
Amazon |
オーストラリア自転車旅をしていた頃、この本は常に持ち歩いていてボロボロになった。
ぶっちゃけ途中で自転車旅を辞めたくなるくらい辛さを感じることが多々あったのだが、植村直己さんの本を読むと気持ちが切り替わったのだ。
植村さんは俺より酷い目に遭ってるのに「それでも俺は幸せだ。大好きな山にいるのだから」なんてことが書かれてさ。
それを読んでは
「どうもすみませんでした」
とテントの中で正座しながらお辞儀したものだったw
途中自転車旅は挫折することもあったり復活させることもあったのだが、とにかくこの本に勇気付けられたのだ。
自転車旅を終えて一番残念だったのは、著者にお礼を言えなかったことだ。
帰国後植村冒険館を訪れたりしたけど、やっぱり本人にお礼が言いたかったんだよね。
冒険とは生きて帰ってくること
植村直己さんは常々おっしゃってたらしいけど、本当に残念だなぁと思ったのだ。
俺が帰国してからも「青春を山に賭けて」は愛読していた。
まだ会社が軌道に乗る前、会社に泊まりがけで仕事をしながらも読み更けてたなー。
ぐわわっとモチベーションが上がるんだよね。
だから、とにかくお礼を言いたいと悶々としていたのだ。
ただそんなことも忘れていた頃に、登山家の栗城くんに会ったのだ。
忘れてた俺のいろんな気持ちが蘇ってねー。
とにかく生きて帰れよーと良く話していた。
栗城くんの本で勇気付けられる人は多い。
本は10年20年経った後にも読まれることが多い。
特に体験談を伴った本は、時代を超えても心にバリバリ響く。
その読者がいつの日か、お礼が言いたくなることがあるだろう。
その時に著者が亡くなってたら。それは寂しいものだ。
栗城くんも素敵な本を書いている。
俺が植村直己さんに対するアツい思いを語りながら、
「だから生きて帰るんだよーっ」て話をしてたら、栗城くんが
「山の先輩が、楽しくなくなったら下山しろと言うので、楽しくなくなったら下山することにしているんです。」
そうかー。それなら無理はしないよな。
だから山に行くときは「楽しんでこいよ!」と言おうとしたが、「たの死んでこいよ」という語呂にもなりそうで、普段縁起を担がない俺ではあるが「楽しくなー!」と声をかけたものだ。
「成功してこい」と言うよりも「無事に帰ってこいよー」「楽しくなー」と声をかけたのさ。
ドリプラの審査員仲間からも慕われていて、彼の誠実であり人懐っこいキャラもあり、よくいじられていた。
いつだったかカラスに食糧を盗られて登頂を断念した時があった。
すかさずドリプラ仲間の一人が栗城くんの留守電にこうメッセージを入れたのだ。
「栗城!帰国したらリベンジ行くぞ!焼き鳥屋だ!!」
他にも面白かったエピソードがいくつもあるのだけど、みんな栗城くんのことを弄りながらも一目も二目も置いていたのだ。
とにかく一度栗城くんに会うと、誰でもファンになる。
俺と同じくらい小柄な男であったが、そんな魅力を持つ男だった。
彼の素晴らしさを紹介しつつ、彼の指のため、つまりは生きて帰るために2年前に講演会を行ったんだよね。
なんて言いながら、俺も講演会でちょっと弄っちゃってさw
「すげー苦しそうな表情で山に挑んでるけど、これ全部自撮りでスッゲーナルシストさんだからなw」
とかさw
俺もジャングルを超えてる時、自撮りしててさw
スッゲー苦しそうな表情をしてはいるが、ちゃっかり三脚を立ててセルフタイマーで撮ってるんだよなw
そう言う裏事情を知ってるから、栗城くんの自撮り登山もつい弄ってしまったw
でもね、こう言った冒険をたくさんの人と共有したいって気持ちはめちゃくちゃ分かるんだよな。
極地で見る景色ってとんでもなく感動するものでさ。
それをたくさんの人と共有したいって気持ちはすっごいすっごい分かる。
そして栗城くんが
「前にネットで中継しながら登った時、ものすごく否定的なコメントとか批判する人が多かったんです。でも登頂に成功するとコメントが一転して感動したとか有難うとか感謝に切り替わるんです。」
と目をキラキラ輝かせながら語ってたんだよな。
やさぐれてる人が一瞬にして感動や感謝になるって。
それと夢を途中で諦めた人が、自分を取り戻せたりもするって。
あー、こいつかっこいいなー。
めちゃめちゃいいやつだなー。
って思ったのさ。
だから、受講する人に知って欲しかったのは彼の生き様。
どんな否定をされても立ち向かう勇気と言う生き様。
それと比べたら、自分の悩みなんて小さく思うかもしれないし、何よりも誰かを応援しているとさ、自分の悩みが小さくなるのさ。不思議なんだけど。
悩みに意識を向けるよりも、もっと違う健全なものに向けると悩みって消えるんだよね。
そんなことも体感してもらいたかったのと、栗城君がいつも伝えるテーマで「一歩踏み出す勇気」これを体感してもらいたかったんだよね。
去年の7月のフェイスブックを見たら栗城くんとお寿司を食べていた。
「また栗城くんとの講演会も企画したいなと思ったのであった」
と綴っていた。
残念である。
なんだかツラツラと書いてしまったけど、俺、まだガツンと悲しくないんだよなー。
いつも1ヶ月遅れくらいでガツンと悲しくなるんだよなー。
ちょっと現実として直ぐにキャッチできないんだろうな。
でも頭がフラフラしてて、変な文章だったらごめんね。
長々と読んでくれてありがとう。
そして栗城くん、ほんとありがとう。