オーストラリア大陸横断編 パース=シドニー

カンタス70便は深夜22:50、俺の期待と不安を乗せて定刻どうりにパースに到着。
そう、不安とは果たして入国できるかどうかと言うことだ。
(俺はアメリカで入国拒否を受けて日本へ帰されたことがある。別に決して怪しい人じゃないんですけどね。21歳の時に不法就労がばれて強制送還になっただけっすよ。ははっ。)
最高裁で判決を待ち受ける被告人のよ~な気持ちで入国審査の列に並んだ。
もちろん、一番優しそうに見える審査官の列にだ。
うぉぉ、遂に俺の順番だ。
「ホリデーできたの?」「いぇ~す。」「どこへ行くつもり?」「ちゃりんこでオーストラリアを旅するんだ!」「良い旅を!」
死刑判決から一転、無罪になってしまった気分だ。
『無罪!』と筆で書いた半紙を掲げて走り出したい気分を抑えて冷静にゲートをくぐり過ぎた。
さて、次なる難関は荷物検査だ。
はっきり言って荷物を広げて欲しくない。
チャリンコをバラしてダンボールと紐でぐるぐる巻き。
他の荷物は2時間もかけてテキトーにパッキングした。
このテキトーってのが曲者で、テキトーにびっちりしまい込んだから、広げちゃったら元に戻せない。
又しても、一番優しそ~な検査官の列へGo!
「このでっかいダンボールは何?」「ちゃりんこ」
検査官はカッターで10cm程ダンボールに切れ込みを入れ、ちょっと覗いただけで「OK!」
はっきり言って全然見ていませ~ん。
他の荷物は手も触れないで「OK!」と言う。
う~ん、やっぱりオージーは(オーストラリア人のこと)いい加減だ!
さて、時計の時間は深夜0時を回ろうとしている。今夜の宿は決めていない。
空港案内所のお姉ちゃんに近所の安宿を尋ねた。
「98ドル」おぃおぃ、全然安くねぇよ。
「のぉのぉ、ちぃーぺすと。ぷりぃーず」再度俺のスペシャルイングリッシュで尋ねる。
「だから98ドルだってば」とのお答え。話にならん。俺の旅はそんなブルジョアなモンじゃねぇ(北方兼三風に)。
幸いにもここの空港は24時間営業。今夜は空港のロビーに寝袋を広げて寝ることに決定。
をぉー猿岩石の旅みたいになってきた!
取敢えずチャリンコを組上げることにした。


先ずは記念撮影と、三脚を出してカメラを構えるとレンズの前に帽子を出して邪魔するヤツがいる。何と空港警備員だ。
「このダンボールは何だい?」と聞いてきた。
「原子爆弾」と答えてやったら「フッ飛ばしてくれたら、俺は明日から働かなくていいじゃん!」と大笑い。
そして自転車を組み上げ始めると、「Push Bike」と言ってきた。


失礼な!”押してく自転車”なんて、オレの自転車はオーダーメイドのエクスペンシブなチャリンコよ。
愛車のフェラーリより高いんだから!(この当時、我が愛車ランサーターボをフェラーリと呼んでいた。ランサーターボは、いつもニコニコ分割払いで購入。バイト先の先輩から3万円の4回払いで買ったのだ。自転車はそれより高かった。)
「It's bicyle!」と言ってやった。
しかし後で辞書を引いたら「Pushbike」は自転車だと書いていた。
知らなんだ・・・(こうして俺はこの国でお利口さんになっていくのである)
自転車だとわかると、「自転車?ここは駐停車禁止区域だ。後で罰金として俺にビールを奢れよな。がはははは!」人懐っこくジョークを飛ばしてくる。あぁ、オーストラリア人なんだな。遂にオーストラリアに来たんだなと実感。
このオヤジよっぽど暇なのかまだ話しかけてくる。
自転車で一周なんてクレイジーだとか、俺は日本語が話せるとか言って騒いでる。
それで出てきたコトバが「ホンダ、ミツビシ、トヨタ」だ。然もすっげぇ得意になっている。
中学、高校6年間英語を習った日本人でさえ「Can you speak English?」と聞かれれば「Little」って答えるのにだ。
自転車を組上げると空港の隅っこに寝袋を広げた。寝ようと思うがうるさい。賭けポーカーでアツくなっている輩がいる。何のことは無い。先刻の警備員だ。
警備そっちのけで、どっかのおっさんと待合席で楽しんでいる。
こんな奴でも守れるってことは、ここは安全ちゅ~ことなんだなと勝手に解釈し、空港のベンチに寝袋を広げぐっすり寝た。

翌朝パースシティーに向け出発。