この日からゴールのCOOKまで車には1台も会わなかった。
走行中列車には(主に貨物列車)毎日2~4回会う。
風は向かい風。
110kmを13時間もかかって走るが、360℃人の気配の無いところを走るのは気分が良い。
いくら走ったって、この世界には自分しかいないような錯覚になる。
何だか寂しいような気持ちになってくると、レールと地平線の向こうから列車がぼんやり蜃気楼のように現れ、ゆらゆらゆっくりやってくるが、自分の横に来た時、びっくりする速さで行ってしまう。
だけどその時、俺に気付いた運転手(障害物の無い地平線の世界なので気付いてくれる)は、汽笛を鳴らし励ましてくれる。
凄く嬉しく凄く力が湧く。
思いっきり手を振り返したいのだが、ガレガレ(石だらけ)の道は両手でがっちりハンドルをホールドしないと石を避けられない。
フロントに水と食料を満載しているので、ちょっとの衝撃でもあっさりバランスを崩してしまう。
やがて列車は空と大地の狭間に吸い込まれていく。
長い長い貨物列車も地平線と地平線をつなぐことはできない。

 

日射病になっても誰も助けてくれない。
高い木があると、影に飛び込む。
この木には、10頭くらいのカンガルーが休息していたが、俺を見るなり即効逃げていった。
「ごめんよ~」と言いながらも、日陰で休む。


日射病で倒れたら、むちゃくちゃリスキーだ。
マットをひろげ自分で影を作って休んだりもした。
ボ~っとしたら自分で自分の頭を試してみる。

 2ケタ同士の足し算が出来ない   →  まだ大丈夫
 2ケタと1ケタの足し算が出来ない  →  少しやばい
 朝食べた物が思い出せない     →  やばい
 九九が言えなくなる          →  とってもやばい

Wilban Sdgに小屋があった。
WILBAN HOTELと凝った落書きがあった。
ビールの看板もある。
中には何も無い。
頭に被っているのはハエよけネット。
言わば蚊帳を被るようなものだ。
ハエと乾いた空気がこの世界を支配している。
ここでリンゴを食べようとする。
昨日フルーツが食べたくなったので、ローリナの住人に売ってくれと言ったのだが、タダでくれた。
ありがたい。
リンゴが熱くならないように、軽くてスグレモノの保冷バックに入れておいた。
その場で食べるよりも、走行中の方が体が欲するので甘く感じる。
昨日ぐっとこらえてガマンをし、今さぁ食べよう!と思ったのだが・・・
バックごとどっかに落とした・・・
すっげぇぇぇぇ~ショック。
 

運動会のマイムマイムで次は好きな娘とだ!と思ったら曲が終っちゃったくらいショックだ。
こんなんだったら昨日食っときゃ良かった・・・
しかし後悔しても仕方がねぇ。
そんな時は、向かい風に挑むカッコイイ俺の姿を写真に収め、クールな自分に浸る。


強がるコトが漢の道だ!!