フカフカの砂道を行く。
自転車に乗るとめり込み前に進まない。
ひたすら押して歩く。
3kmの距離に1時間を費やす。
砂道が続くと不安になる。
果たして今日は、何キロ前進できるのか?
精神的にも肉体的にも俺にとっては辛い。
写真の場所はまだマシなほう。
もっとひどい所もあったが、写真を撮る気なんかしない。
写真を撮れる場所は、まだ余裕がある。
砂が深い道は本当に参ってしまう。
早く脱出したい気持ちでいっぱいだ。

cockatooクリークを超える。


これが道なのだ。
橋が架かっていないので、川に飛び込んで渡るしかない。
リバーとクリークの違いは、リバーは流れが有り、クリークは無いと言う。
しかしここはしっかり流れていてコケも生えていて滑りやすい。
こういう場合はいちいち荷物を降ろして3~4回分けて渡らなければならない。
一度に全部を運ぶとバランスを崩しひっくり返ってしまう。
さて、この川を渡る写真をはじめ、様々な写真を見て、「一体一人旅でどうやって写真を撮るのか?」と疑問を持つキミに説明しよう!(あのヤッターマンのカン高い声で)
ここだと思う場所でおもむろに三脚を出す。
そして、どの構図に自分が納まると一番カッコ良く見えるか考え抜き、カメラを固定しタイマーにしてシャッターを押す。
カメラに写ると決めた場所まで素早く移動し、写真に収まる。
特に川を渡る写真等は、水面の揺れまで計算して移動しタイマーが切れるようにせねばなるまい。
そして何事もなかったかのように、カメラを回収しに行く。
こうしてメモリアルな日々を収めるのだ。

ここで、すんげぇ爺さんに出会う。


リアカーを引いてケープヨークからタスマニア島まで歩くと言うのだ。
つまり、オーストラリア最北端から最南端を走破する予定なのだ。
俺がこの先の道の状態を説明しようとすると、その必要は無いと言う。
かつてケープヨーク→タスマニアを自転車で縦断したので知ってると言う。
そしてアーチャリバーを渡る頃、80歳になると言っている。
彼の存在は4日前から知っていた。
4WD車が声をかけてくれる時やキャンプしている時、
「今歩いてこっち向かっている奴がいる」とその存在を教えてくれたからだ。
毎日彼が歩いている場所は伝わってきたので、今日会えるんじゃないかと思っていたが、まさかこんな爺さんだとは想像もしなかった。
彼もまた、俺の存在を同じように4WD車の人達から聞いていたようだった。そして俺がオーストラリアを自転車で横断したということも知っていて
「わしも自転車でアメリカを横断したんだよ。若い頃の話だがな。」
「いつ横断したんですか?」
「10年まえじゃよ」
「10年前って・・・て70歳じゃねーか?まじっすか!?」
信じられる?
世の中上には上がいるもんだ。
この爺さんの装備は傑作だった。
巨大ソーラーパネルを装着し、スピードメータや温度計など、全てデジタル化されていた。


水を飲むときは、車のウィンドウオッシャー液を出すポンプを流用して、電気の力で水を口元までチューブで運ぶのだ。


その装備を物凄く得意げに説明するのだ。
その姿は、単なる子供にしか見えない!
水を出してみてくれとお願いすると、今はその装置が壊れたと悲しそうな顔をしていた。
まったくもって、お茶目な奴である。
凄い爺さんだが、ツッコミ所が満載だった・・・
お互い話し込み、がっちり握手をして別れた。
この後、再び砂の深い道を歩いたが、この爺さんの作ったリアカーの2本の轍を見て元気が沸いた。
彼は俺なんかよりずっと頑張っているはず。
彼の勇気が俺に力を与えてくれる。

この日はエリオットフォールにてキャンプ。


綺麗な滝に飛び込めば、体も服も勝手に綺麗になる。
ここでは若いカップルと仲良くなり、ビールをご馳走になる。


彼らと仲良くなり隣接してテントを張ったが、一晩中激しく愛し合う声が聞こえて眠れなかった。
翌朝満面の笑みで「ぐっどもーにんぐ」と言ってきたが、俺もここまで人生を大胆に生きてみたいもんである。