ハウスホーファー、倉前盛通、奥山真司…といえば「地政学」!
「地政学」が声高に論じられる時、戦争が起こるかもしれないって本当ですか?
[2024・8・7・水曜日]
奥山真司氏の『世界最強の地政学』(文春新書)を読みました。
地政学とは、「国家を率いる指導者や安全保障の担当者たちが、自国の安全や優位の確保を考える上で参照する、地理をベースとした思考のパターン」ということだそうです。
日本や英国だと「海」が国境。フランスやドイツやロシアや中国だと、従来は「陸地」が国境。米国は「海」?
それぞれの国は、そういう地理的状況に応じて、否応なく国防体制を考慮することになります。
アメリカは、メキシコ相手には陸伝いに「不法移民」問題がありますが、カナダとはとくに大きな問題はなさそうです。欧州主要各国も欧州連合(EU)となり加盟各国どうしでの「国境」紛争は原則なくなった模様。中国もインドとは小競り合いがあるものの、ロシアなどとは陸地での国境紛争は一応解決しているようです。だからこそなのか、海洋「侵出」をしだしているようです。
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1972年生まれの奥山さんは、2004年に『地政学 アメリカの戦略地図』(五月書房)という本を出しています。当時、まだ30代前半。ハードカバーの単行本です。私はリアルタイムでこの本を購読しました。いま手元にありますが、あちこちに赤線を引いた後があります。
それから20年が経過してこの本(『世界最強の地政学』)が出たわけです。この間、コリン・グレイという学者がいる英国のレディング大学で奥山氏は学んでいます。コリン・グレイといえば、日本でも、『核時代の地政学』 (紀尾井書房)という本が1982年に訳出されています。監修者は、小谷豪治郎氏。奥山氏は、恩師の著作も『進化する地政学――陸、海、空そして宇宙へ』『胎動する地政学――英、米、独そしてロシアへ』(五月書房)と何冊も訳出しています。
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文春新書では、地政学の発端から今日までの理論家…マハンやスパイクマンやマッキンダーやハウスホッファーなどの「学説」が紹介されたりもしています。私も「名前」だけ知っているような方々です。多少は書いた本も「積ん読」もしていますが……。
ミアシャイマーなんていう学者の名前も出てきます。奥山さんはミアシャイマーの『大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する』五月書房ほか)も訳出しています。最近でも、月刊誌「文藝春秋」(2022・6月号)に彼の論文「この戦争の最大の勝者は中国だ」が訳出もされていました。ウクライナ侵攻に関して、ロシアの言い分ももっともだという趣旨の指摘でした。盗人にも三分の理あり?
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本書の最後で、奥山さんはこう書いています。
「私は『地政学・戦略学者』という肩書でこの地政学(正確には古典地政学)というものを長年研究してきたし、それが注目されたり、それについて書いた記事や本が読まれたり売れたりするのは個人的には喜ばしいことだと思っている。ところがこれが注目されることについて、私は実に複雑な気持ちを抱いている。なぜなら私は、地政学がブームになっていることについては、喜ばしいことだとは考えていないからだ。というのも、地政学という考え方が脚光を浴びる時代というのは、えてして国際政治の状況が悪化している時期にほかならないからである」
「日本の歴史を見ても、地政学が最初に注目されたのは戦前・戦中の1930年代から1940年代にかけてであったし、2度目のブームは第二次冷戦が本格化した1980年代のはじめであった。そして3度目となる現在のブームは、アメリカのイラク侵攻前後『アメリカ一極時代』が終わりを告げる2002年頃から続くものだ。端的にいえば、地政学が注目される時代というのは、先の読めない不安で緊張が高まった時代なのだ」
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おっしゃる通りですね。「先の読めない不安で緊張が高まった時代」とは……要は「世界各地で戦争や紛争が勃発している時代」ともいえるのではないでしょうか。
ハウスホーファーの『太平洋の地政学』という本が、岩波書店から1942年に訳出されています。当時、この本を「解説」した本が、最近復刊もされているそうです。佐藤荘一郎 (著), 太平洋協会 (編集) 『ハウスホーファーの太平洋地政学解説』(ダイレクト出版)。
第二次冷戦期の1980年代初めには、倉前盛通氏の『悪の論理 地政学とは何か』(日本工業新聞社・角川文庫)もベストセラーになりました。これは当時一読した記憶があります。
奥山さんは、アメリカのイラク侵攻は失敗だっというふうに見ていますが、核兵器を持ってなかった時期に叩いておいてよかったと見ることも可能かもしれません。北朝鮮とて、まだ核を持ってない時に叩いておけば(クリントンのころ)今日のような北朝鮮の不気味な核戦力に怯える必要はなかったかもしれません。いや、そもそも、第二次大戦で、少なくとも日本敗戦後、蒋介石をもっと強く支援していれば……と。毛沢東にアメリカの一部が共鳴しなければ……。文革の悲劇も、チベット、ウイグルなどの悲劇もなかったかもしれません。
歴史で「イフ」を思うのはナンセンスといえばナンセンスですが、同じ過ちを繰り返さないためには、時々「イフ」を考えることも必要かもしれません。
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ハウスホーファー、倉前盛通、奥山真司……。日本で活躍し名の知られた地政学の唱道者といえば、この三人になるでしょうか(ハウスホーファーは日本に滞在したこともあるそうですから)。「知性」のない人では「地政学」は論じられないと思います。奥山さんはユーチューバーとしても活躍されている模様。でも、なぜか地上波テレビではあまりお見かけしていないような気がします。BS8やBS4のような夜やっている討論番組などに出ていたでしょうか?
なんだかんだといってもまだ地上波を見る人は少なくありません。「奥山地政学」がより普及してほしいものです。
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オバマさんが、米国は「世界の警察官」に非ずと述べたことは有名ですが、その後も、「米国は世界のセコム」ではありませんが、一応「世界の警備官」のような動きはしているのではないでしょうか。110番すれば、「無料」で警官が駆けつけてくれるように、国際社会では国連軍が助けにくることはありません。
しかし、セコムと契約していれば、セコムは駆けつけてくれます。私は「セコム」などとは契約していないし、コストがどれだけかかるかは知りません。警察のある国内社会でも民間セコムがある。ならば、国連軍が事実上存在しない国際社会にあって、国連軍に準ずるものとしては、独立国家の集団的自衛権行使のための軍事同盟(&有志連合)ではないでしょうか。
欧州の多くの国はNATOに加盟しています。ウクライナは加盟していなかった。そのウクライナの惨状を見て、中立国を気取っていたスウェーデンやフィンランドは慌ててNATO入りしました。日本だって、NATOに入ればいいのかもしれませんが(地理学・地政学的に無理でしょうか?)、集団的自衛権の行使が完全にはままならない日本は無理で、せいぜいで日米安保条約しかありません。でも、その安保体制と自衛隊などによって、戦後80年弱の独立は守られてきたといえるでしょう。
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軍事はアメリカに任せて、日本は経済発展に専念する、日米安保タダノリ論なども言われたことはありましたが、それは昔のこと。なんだかんだといっても世界の経済大国上位国。自衛力の増強は必要ですし、万が一の保険のために「思いやり予算」などもふくめて、米国の軍事基地を国内に置くのもやむをえないことといえるかもしれません。
これは「セコム」しているようなものかもしれません。しかし、それこそ「地政学」的に見て、日本列島というのが、対ソ(対露)、対中戦略を構築する上でも重要な地理的なメリットがあるともいえるのではないでしょうか。視点を変えれば、アメリカは日本に多額の「地代」を払ってでも基地を置かせてくださいと頼んでくるべきなのかもしれません。
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専門的なことはよくわかりませんが、そのあたりは阿吽の呼吸でウィン・ウィンの関係として、日米友好体制を確立し、共同防衛態勢を構築していけばいいのでないでしょうか。沖縄はじめ軍事基地周辺での米軍人の乱暴など、ゆゆしき問題もありますが、あくまでもそれは個々人の軍人のモラル低下が第一の原因。それだけをもってして、基地撤去等々を言うのはイデオロギー過剰では?
小川和久氏の『日米同盟のリアリズム』 (文春新書)によると、「日本が日米同盟を解消すれば、米国は『地球の半分』の範囲で軍事力を支える能力の80%ほどを喪失し、回復しないと考えられる。日本を失った米国の言うことなど、ロシア、中国だけでなく、北朝鮮までもが聞かなくなり、米国は世界のリーダーの座から滑り落ちる可能性が高い」とのことです。
地政学的な「戦略的根拠地」として日本は重要だというのです。だから、中国やソ連(ロシア)が、日本と米国の間に楔を打ち込み、自国のほうに向くようにすれば、逆に対米的戦略を構築する上で重要だから…となるのかもしれません。
変な譬えですが、日本は「恋人」にするなら、「米国」にするべきか、もしくは、「ロシア」や「中国」にすべきかと考慮し、どうせ、「恋人」にするなら(「恋人」になるなら?)、「隷属」するなら? 保護されるなら? 普通の常識をもつ「米国」のほうが無難な選択ということになるのではないでしょうか。
個々人が結婚する時、自分が女性なら…。相手はイケメンで高収入、そして性格も温和な人なら、それがベターでは。なにも好き好んで、不細工で低収入で性格的に暴力的な変態的な?人と結婚する必要はないでしょう。でも、そういう人のほうがいいとはやし立てる人も世の中にはいるのかもしれません。蓼食う虫も好き好き? 人生は難しいですね。
では、ごきげんよう。