【観劇記録】Blue is near water | 手上のコイン Blog

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のらくら閑劇記 2010年1月7日(木)~11日(月・祝)


Atuwo Ohuchi presents
Story Dance Performance Blue the second
『Blue is near water~水辺に佇む青~』


中野ウエストエンドスタジオ


作・演出・振付 大内厚雄


Cast

大内厚雄 … 水沢蒼
岡内美喜子 … 山崎碧
畑中智行 … 川上了
小林千恵 … 島田葵
左東広之 … 海野亘


【気がつくと蒼は、水辺にいた。
足元を濡らす水は、冷たく、そして温かい。不思議と懐かしさが彼の胸のうちに広がる。

そこで、彼はかつての恋人の碧と再会する。もう二度と逢うことの出来ないと思っていた相手。
傷つけてしまった女性。
そして……。

ここはどこだろう…?蒼にはそれがわからない。
わかっているのは、自分にはもう一つわからないことがあるということだ。
現実としては認識しているし、頭ではわかっているのに、心ではまだどうしてもわからないこと。

大切に想っていた恋人の心を失ってしまったということ…。】


Story Dance Performance公演、演劇集団キャラメルボックスの俳優である大内厚雄さんのプロデュース第2弾である。

前作の感想はこちら
ダンスとパフォーマンスによって物語を創り出す。見せる。
基本的にダンサーとしての身体表現は主体ではない。というよりも、メンバー全員がダンス経験者というわけでもなく、あくまで役者としての感情表現が重きにある。
こういう形の公演は私は他に知らないので、とても面白い。


前回もそうだったけれど。
大内さんが描く物語には喪失がつきまとう。
死別。離別。
例え手を伸ばして掴もうとしても、理由もわからず指の間をすり抜けて零れ落ちていってしまうもの。
通り過ぎてゆくもの。


そして、取り戻すことの適わないもの。
『それはなぜ?』と訊ねてみても、時には答えの出しようのないもの。


でも、失われてしまうものがあるようにまた、残ってゆくものもある。
想いであったり、記憶であったり。自分を形作ってきた時間であったり。
それは、続いてゆく。

生きている限り繋がっていく。

過去の苦い思い出も、後悔も、狡さも、怠惰も。全部、切り離してしまうことはできないけれど。
繋がっていく。


喪失の哀しみだけではなく、勿論そういう部分も含めて、大内さんの世界なんだろうなぁと思う。


前回のキャラメルボックスの稽古場を使って行われた公演『Blue』では、楽曲をコラージュして、一つのストーリーを作り上げる形で、セリフはなくダンスパフォーマンスのみの作品だったが、今回の『Blue is near water』では、半分芝居のシーンが入った。
こういう別の要素をもつものを組み合わせるのは、構成が難しいと思うのだけれど、違和感なく入っていけたのは、上手いなと思う。


セリフは抽象的で、特に登場人物のバックボーンに関しては、ほとんど語られない。
けれどシンプルに登場人物の関係性は入ってくる。
一方的に恋人とは上手くいっているものと思い込んでいた男(水沢蒼)と、不満を募らせていて、その不満を理解してくれる男(川上了)に、結局流れていってしまう女(島田葵)と。
それに気づいた時、蒼は過去に自分から離れて傷つけた山崎碧の気持ちを、碧の寂しさや辛さをようやく理解する。
けれど、彼女はもう病気で亡くなっていて。
その死に『どうして?』と問いかけたところで、わからない。もしかしたら自分のせいなのかもしれない。そんな疑いを抱えたまま、もう答えてくれるものはない。

震災で『これから』を奪われた人。蒼の先輩だった海野亘。
彼の目の前にあった真っ直ぐなレールが、突然断たれてしまった理由もまた、蒼の中に納得することのできない何かとして残る。
なぜ死んだのが彼だったのか?。蒼には理解出来ないし、亘の死を『たくさん』の中の一人として、仕方なかったのだと思うことでは、答えにはたどり着けない。


死に問いかけても答えはない。
だから、答えというのは作るしかないのだと、碧は蒼に言う。


【『とても強いストレスが人に死をもたらすことがあるらしい。』
大切なものを失い、喪失感を埋めることが出来ずにいた蒼はようやく、自分が死にかけていることに気づく。
彼に、碧は言う。
『生きて』
と。
『魂が失われない限り、また必ず出逢えるから』

彼は水辺で立ち止まる。
岸辺に踏みとどまって、過去を。死者たちを、見送る。
これから先の未来に、また繋がってゆくために…。】


こんな感じで書いているとストーリーを追うだけで終わってしまうので、ちょっと散文的に感じたことを。

芝居の時やダンスシーンの一部や。
葵と了が2人になるシーンが何度か登場する。2人が上手くいっている時には、ステージ上のどこかに蒼もいて。
別れた後に2人の関係は知った、と蒼は言うけれど、常にそんな彼らを見ているのがとても切ないなぁと思ってしまう。知らなくても、心のどこかで感じていたのかなぁと。
…明らかに2人の行動にシンクロしているシーンもあったし。

それにしても、やっぱり大内さんと岡内さんのダンスは、綺麗でした。岡内さん手足長いしねぇ…。
全員タンクトップなので余計、大内さんの身体がいかに引き締まっているかわかるので(笑)
勿論、動きも綺麗なんだけど。見た目だけでも綺麗。
ダンスしている時は大内さんについ見とれます。
映像に効果音や音楽をつけると、観ている側の受け取る印象がガラッと変わってしまうようなもので。人間の身体と、動きの美しさ。それらがストーリーや登場人物の想いが重なり叙情的な部分で増幅されていてよりいっそう『美しい』と感じさせる。
綺麗だな~と思うだけで不思議と涙が出た。
千恵さんもダンスは上手いけど。小柄なので体型的にはやっぱりハンデがあると思うんですが、その代わりに、一つ一つの感情を表情や仕草で丁寧に表現していて、見ているとそれに引き込まれる。
メンバーの個性がバラバラなので、敢えて無理に揃えるのではなく、個性を生かしたダンスをしてました。
っていうか、揃えろって言っても実力差がありすぎて無理な気もしますが(笑)


あと、照明がけっこう凝っていて…(そういえば前回も稽古場の天井落ちてこないかという勢いで仕込んであったな…)視覚的にも面白かった。なるほど、照明ってこういうことも出来るのねぇとか、勝手に感心してました。
Blueの世界を作り上げる上で、あの照明は欠かせない。
他にも蝋燭を使ってみたり。前回はボールが光ったりもしたし。演出家が光を大事にしているのがよくわかる。


ダンスでは、手話を盛り込んだものもありました。
歌詞に合わせた手話だけれど、
大内さんと岡内さんの振り付けがお互いの立場に合わせて違っていて。
女には見えているものが、男には見えていない。その対比で、一つの歌詞でも、更にイメージが膨らむ。各々の役の立場もそれで明確にされているのも良かったし。


震災のシーンも、もちろん描かれていて。
崩れてきた家屋に潰されて圧死する人、生き埋めになる人、火事で逃げそこねた人。怪我をした人々。呆然と立ち竦む人。
助け合う人々もいるが、己のことしか見えない人も、犯罪にはしる人もいる。
頭ではもちろんわかってはいるが、視覚化されるとやはり、得体の知れない後ろめたさにギクリとする。


と、全編シリアスかといえば、遊びのシーンもあり。
ちょっと息をぬきつつ、楽しませて貰いました。
カンフー振りのダンス見る毎に、一瞬だけ『あ、マッハ2見に行かなきゃ~』とか思ってたのは、内緒で。(笑)すいません。トニー好きなんです♪←オイ


上演時間は一時間ながら、たくさんの要素を盛り込んでいるのに、決してせわしい印象は与えない出来で。
充実した一時間でした。
特に私は最後のダンスシーンで、蒼が死んだ人たちと顔を見合わせて嬉しそうに微笑みあうのを見ると、涙が出て仕方なかった。


二度と会えないと思っていた人にも、記憶の中でまた、会えることがある。ふとした風景の中にも、見つけられる。


生きていれば。


物語の中で、自分は蒼の魂の一部だと碧が語るシーンがあった。
別れた後に死んでしまった碧を。『どうして』と、蒼の心が呼び続けていたから。
そして、自分はあなたの一部だから、あなたが答えられない問いには私も答えられない。と。

逆説的に、蒼の知らないことも知っているという部分もあるけれど。蒼に対して生きろと言ったのは、記憶の中の碧ではなく、彼自身なのかもしれない、と思う。


哀しみや喪失感。答えの出ないまま自分を苦しめ続ける問い。
彼を死の淵まで追いやったのも彼自身だが、そこから立ち上がり、生きようとする力を与えてくれたのも、彼自身ではないのか。
だが、自分自身て何だろう?


人間は、魂のパーツが合わさってできている。
碧は、蒼の魂の一部はそう云った。


人間どうしが出会って、気持ちを交わして。通わせて。また通じなくなって。
交わした言葉も、気持ちも、一緒に見た景色も。つらい記憶も。傷つけたことも、傷つけられたことも。
お互いにその一部として積み重なり。
別れてもそれは消えることはなく。


自分自身は、自分だけで形成されることはない。
たくさんの人が、あなたを作っている。
私を作っている。


確かに、人間は生まれる時も死ぬ時も一人なのだろう。それ自体は誰とも共有できないものかもしれない。でも。

生きることに、意味はある。


好きな世界観でもあったし、作品そのものにけっこう力を貰えたなぁと思う。


…という訳で、大内さんが次回を早めに企画して下さることを期待します(笑)