【観劇記録】ネジと紙幣 | 手上のコイン Blog

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のらくら閑劇記-ねじ
『ネジと紙幣 based on 女殺油地獄 』

2009年9月17日~27日
主催:ホリプロ・銀河劇場


脚本・演出 倉持裕


■Cast


森山未來
ともさかりえ
長谷川朝晴
江口のりこ
細見大輔
野間口徹
満島ひかり
小林高鹿
田口浩正
根岸季衣



■Story


常に何かにいらつき、家業を手伝わずに遊んでばかりいる行人。
家族にも愛想を尽かされているが、幼馴染で姉のような存在の桃子だけは行人を見捨てることなく、
面倒がおこる度に叱ったりなだめたりしてくれる。桃子は傍目には幸せな主婦そのものだが、
実は夫と子供との関係に悩み、なにか満たされない気持ちを抱えていた。

花火大会の夜。行人は入れあげているキャバ嬢が、自分以外の男・赤地と花火を見に来ると知るや激怒し、
男を蹴散らしてやろうと襲撃の計画をたてる。軽い威嚇のつもりが、悶着の末、誤って半殺しにしてしまう。
奇跡的に怪我から回復した赤地は、件の暴力沙汰をきれいさっぱり忘れてしまったように、
行人に儲け話を持ちかけてくる。不穏な空気を感じつつも、
これまでとは次元の違う悪事に引き寄せられていく行人・・・。

なぜ行人は、桃子を殺さなくてはならなかったのか?



以前。
たしかG2さん演出で倉持裕さん脚本…だったと思った『開放弦』という芝居があって。
これが、チケットはあったのに体調不良のためににっちもさっちもいかなくて、全く観られなかったという…苦い思い出なんですが。

で。それから倉持裕さんの作品は絶対に機会があればいつかはと思いつつ、先延ばしになってました。

今回はどちらかというと、役者さんより脚本・演出に重点を置いた観劇。


説明セリフの殆どない芝居。
…というのには私はすっかり馴れてまして。そのあたりは全く気にならず。家族のお互いの関係から徐々に立場を知ってゆくのを楽しみつつ。ストーリーを追っていきました。

場面転換の唐突さに一瞬だけ戸惑うところもあったのですが。
全体的には起承転結という。物語としては4コマ漫画のごとくシンプルなんですよね。
その「コマ割」
として意図的に区切られた印象を受けました。


そしてそこに交わされる会話自体は、具体的というか。気取らないというか。どこか日常の延長線上のような。
どこかにホームドラマのようなふんわりした部分を保ちつつ。笑いも適度に組み込みつつ。
ストーリーは淡々と、異質な禍々しい方向へ、抗えない勢いでつき進んでゆく。


主役の森山未來くん
舞台に立つこと自体はすごく自然な感じで。普通に存在していて。
彼のそういう感じ、好きなんです。
行人の苛立ち。家庭内でお荷物である、そのギクシャクとした不安定さ。
それが彼の『自然さ』にすっかり打ち消されていて。憎めないというよりも、そういう行人という存在自体に、周囲が知らず知らずのうちに『感染』している。そういう空気感がいい感じに出来上がってました。
惜しむらくは、あっさりと犯行に至ってしまう、行人の持つ危うさや欠陥を、部分部分でいいので、もう少し明確に滲ませることが出来たら、ラストの緊張感が増したと思う…。


役者さんとしては目的だった細見さんは、行人の兄役でした。相変わらず声の印象的な人だなぁ…。とか思いつつ観てたんですけど。
客演で出ている細見さんの芝居は、いつも好きなので。
今回は、比較的地味な役どころなのが残念かも。
っていうか、設定的にはワルな森山くんもそうだけど。
それを注意したり、取っ組み合いをしたりと張り合うはずの細見さんも、2人して『……なんか。迫力ないんですけど…』
って思って見てしまった(笑)


ともさかちゃんは、殺されるシーンがかなり体当たりで、それでいて色っぽくて、良かったなぁ…。


私たちは、普段の生活の中では『事件』を日常からは切り離して考え、心のどこかに境界線を引いて眺めていると思う。
この芝居の登場人物はその境界線をまるでないものとして、こちらの『日常』の範疇に散歩でもするように気軽にやってきて、通り過ぎてゆく。彼らのやり取りには、なぜかそんな印象を受ける。

だからこそ気づいてしまうのだと思う。
『事件』と『日常』の間には、実は境界線なんてものはないのだ、ということに……。


いや。
面白かったです。脚本自体も好み。
演出は視覚的にわかりやすくなるほどと思う部分よりは、構成的な部分での工夫の方が私としては面白いと感じた。
どちらにしても、良かったんですけどね。