【観劇記録】さよならノーチラス号 | 手上のコイン Blog

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のらくら閑劇記-ノーチラス
演劇集団キャラメルボックス2009オータムツアー
『さよならノーチラス号』


脚本・演出 成井豊


■東京公演
8月27日(木)~9月13日(日)
紀伊國屋サザンシアター


■大阪公演
9月17日(木)~20日(日)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ


■Cast


多田直人
岡田達也
坂口理恵
真柴あずき
前田綾
温井摩耶
筒井俊作
井上麻美子
鍛治本大樹
稲野杏那


森下亮(クロムモリブデン)
久保貫太郎(クロムモリブデン)



■Story


新人作家の星野タケシは、作家専業になることを決意。
会社を辞めて、都内にマンションを買った。
引っ越しの日、編集者の森真弓が手伝いに来る。
真弓がダンボールを閉じようとして、ふと中を覗いてみると、
ブリキでできた潜水艦が入っていた。
「これは何?」。真弓の問いに、タケシが語り出す。
15年前の夏、小学6年のタケシは、不思議な犬に出会った。
名前はサブリナ。人の言葉が話せる犬だった……。


劇団HPより



宿題たまってきちゃった。
すみません。順次消化しなくては。


夏の『風を継ぐ者』の出来があまりにも良く…。
再演の芝居というのは、初演を超えないと言われているものの、これは肩を並べたかひょっとして超えたのでは?と思えるものだったので。


さて、秋の再演は…?
むしろ期待は私の中では少なかったと言っていい。
そもそも、さよならノーチラス号という演目自体が、それほど面白いと思った記憶が無かったのだから。


全体的には、けっこうよく仕上がってました。
難を言えば…ていうのはまぁ、ありますが。私の場合はこの作品に特に思い入れができるほど、映像も見て無いので、わりと初見に近い芝居として愉しめたかな。

初演でのその長さとインパクトのせいなのか、「ノーチラスといえばダンス」とチラホラと耳にしていたダンスシーン。
動きが綺麗なので危うく、温井さんに釘付けになりかけて、途中でハッと気づいて、全体を見ましたが(^^;)朧な記憶でいっても、振り付けの印象は前回のが面白かったような気がした。なんだか、あっさり目で終わってしまった感が。


それにしても。サブリナは一家に一匹欲しいでしょう(笑)
坂口さん演じる、老犬のゴールデンレトリバー。まさしく犬!なのです。
とにかく犬!なのです。
まあ、今回ノーチラスをやると聞いた時から、一番に観たかったのはこの『サブリナ』
生サブリナはやはり可愛かった。
そうか、12歳の老犬だったっけ。と、記憶が朧な私は、セリフを聞いて思い出す。走り回ってすぐに息切れするのも老犬だからね(笑)と笑いつつ。ついつい、サブリナに気をとられて、そればっかり観ていたような気がしないでもない…。
人間が動物を演じる場合、多分に擬人化が進んでいて、だいたい仕草や動きにその片鱗が見えるとしても。「やっぱり人間じゃないか」という印象しか残らないのが常。
これがサブリナには無い。むしろ、動物と接していて、思わず「コイツ、○○なのに人間くさいな」と思う瞬間のあの感覚に近い。脱帽でした。坂口さん、凄すぎる。


主人公のタケシは、今回は初主演の役者さん。
観てみてなるほどなと思ったのは、多田くんの場合、少年時代のタケシには違和感を感じないんですよ。むしろ、大人になったタケシの方が、「うん?」て感じが少しあって。
もう少し多田くんの年齢が上でもこの役はできるだろうなと。
というか、せめてあと一年待ってこの演目をやって欲しかった気がするな~と。
タケシの演技にそこまで不満がある、というわけではなくて。(ほとんどメインは少年時代ですしね…)演技以外の要素というかな。そういうものもバランスとしては大事だと思うし。

同じ意味でいけば、岡田達也さんの勇也(弟)と、森下さんの芳樹(兄)のバランスも、兄弟の年齢が…。実年齢からして仕方ないんですが、どう見ても逆でしょ?という印象になるのがやや勿体無かった。
達也さんは確かに若く見えますが。森下さんも別に老けてないし。老け役なわけでもないし(笑)
せめて体格的に貫禄があればね…。


演技の部分で気になったのは、タケシが泣き出すところ。前後のタケシの感情部分を丁寧に演じていないと、あそこのタケシの『孤独感』が薄く、軽い感じに思えること。
あと、勇也の『坊主』と呼ばないというセリフ。
ラストまできて、あ。そういえばこういう展開だったけと。
いくら朧な記憶とはいえ知っていた筈であるのに意外に思えたのは、
たぶん、その前の時点で坊主、坊主とタケシを邪魔な子供扱いしかしない……いや。そういう印象を与えていなければならない筈の勇也から、全くそういう印象を受け取っていなかったからで。
達也さんの勇也って、威圧的じゃないもんな。
少年に恐れられつつも憧れられる男性というよりは、普通の気のいいお兄さんだった。

あと、ひっかかったのは、筒井さんの博が、タケシを殴ってまで教育しているようには見えないので、ちょっと言葉的に違和感が。これはどっちかというと、セリフのを方修正したらどうかな?と。
初演のタケシの兄、博は、ダメな父親の代わりに弟の父親代わりになって、何としてもきちんとした男に育てなくてはと気負っている、とにかく怖い兄だったけれど。
再演では、ずいぶんと円い性格になっていたし。全くキャラクターのつくりが違ったのでねぇ…。

という感じですかね。


初演のノーチラスとは全く赴きの違う作品になっているんじゃないのか?と思う。


ちゃらんぽらんで、どうしようもない父。厳しかった兄。母だけは頼りがいがあって優しいが、忙しい仕事を抱えて、タケシを構う暇はあまりない。
初演の家族は心がバラバラで、タケシは本当に孤独で。それでも家族と一緒にいたいと、いて欲しいと願っているだろう少年の健気さ。家族相手ではなく、サブリナと話すことでその孤独を埋めようとする、そんなタケシの想いが痛かった。
それだけはよく覚えている。


再演では、家族はそこまでタケシに孤独を与えない。一緒にいれば楽しい、いい家族だ。
その家族と離れて暮らさなくてはならない。という純粋な寂しさ。人恋しさ。
今回のタケシは、前回よりも鬱屈した部分が少なかったように思う。
そこに、変に大人の視点で美化されない「少年らしさ」という良さを感じた。
ノーチラス号を捨てられないタケシの気持ちが、今回の芝居ならストレートにわかるからだ。


勇也と、サブリナに出会った夏。
初めて奥多摩湖に行った夏。
自転車に乗れるようになった夏。
家族と共に過ごした夏。


忘れがたい夏。


それにしても、改めて生で観てみるとパワーのある演目なんだなーと思う。
風を継ぐ者もそうだったけれど。脚本の魅力というのがギュッと濃縮されたみたいに詰め込まれていて。
新しく料理されても、それが失われていかない。

さて、
冬は新作ですよね。
この濃密さに負けない新作であってくれればいいのですが……。