半世紀ぶりの? 大島渚の日本春歌考 | 楽しい倫敦 おいしい倫敦 

半世紀ぶりの? 大島渚の日本春歌考

2024.5.10(金)

神保町シアター の 戦前戦後 東京活写 映画の中で生き続ける失われた東京の風景 をもう1本、今度は1967年の大島渚監督、日本春歌考とした。

これは半世紀前の学生の間では人気の1本で、名画座の2本立にはよく登場したから2回、もしかしたら3回観ている。前橋から受験の為に上京した高校生7人(学生服にセーラー服の時代だ)のたった2日の間のあれこれ、なのだが、何でも企画から公開までたった2ヶ月という荒業、丁寧に練り上げた脚本ではないからぶっとんで難解な上に低予算でもあり、たった2日の間に冒頭の目白の学習院大学のピラミッド校舎、続く四谷の上智大学のグラウンド、どこだかの女子大学、新宿駅西口、竹橋のパレスサイドビル、駿河台の山の上ホテルから下る道などの天気がはちゃめちゃで大雪が降りしきったり、それがあがった後だったり、きれいに乾いた後だったりの行ったり来たり。大雪が計算違いだったんだろうが、順撮りじゃないために、初めて観た時は頭がこんがらかったものだ。

低予算は出演者にも現れており、ギャラが高い役者は皆無。主役の高校生、荒木一郎 は前年に「空に星があるように」の大ヒット、この年には「いとしのマックス」で紅白にも出ることになるがまだ駆け出し、高校生仲間やマドンナ役は全員が二十歳ちょいの無名役者で、重要な役で三十代はまだそうは売れていなかった 伊丹十三(当時はまだ一三)と大島の妻の 小山明子 だけ。敢えて言えば大島組の渡辺文雄や小松方正が特別出演しているが、黒丸の日章旗を掲げて山の上ホテルの坂道を下るなど紀元節復活反対のデモ行進するだけで台詞無し。そう、これはまさに建国記念日=紀元節復活の時の映画なのだった。もう当たり前になってしまっているが、紀元前の神話の神武天皇即位の日? それをどうやってこの日と計算したのか馬鹿げた話なのに、戦後にもなって復活させたのは本当にナンセンス。

もっとも二十歳ちょいで半世紀前は誰が誰やらだった無名役者を今改めて見渡すと、何とまだセーラー服の田舎女子高生が似合った宮本信子(でも不倫交際相手だった伊丹は少し前に前妻と離婚成立)だったり、アングラ系の自由劇場を旗揚げしたばかりの串田和美にその仲間の佐藤博、吉田日出子や田島和子だったりした。

謳い文句の失われた風景はピラミッド校舎とちらっと映る明治大学の旧本館、まだ傷痍軍人がいた上野駅の暗い地下道や大衆食堂辺りかな。流石に全部が全部は分からない。えげつないストリップとかの壁広告も今は無いかな。