戦前戦後の東京の風景、にっぽんのお婆ぁちゃん | 楽しい倫敦 おいしい倫敦 

戦前戦後の東京の風景、にっぽんのお婆ぁちゃん

2024.4.25(木)

神保町シアター が今度は 戦前戦後 東京活写 映画の中で生き続ける失われた東京の風景

そう、古い日本映画を大好きなのは映画そのものもさることながら懐かしい俳優、風景を見るのが楽しいという要素も大きい。中段左の三波春夫も特別出演した 東京五輪音頭 なんか実に楽しかった。その下の小さな写真の 赤頭巾ちゃん気をつけて の有名な場面、銀座東芝ビル(今の東急プラザ)の旭屋書店なんかも懐かしいが、1970年、高校生の頃に大ヒットしたあの映画をまた観たいとはあまり思えない。それなら学習院大学のもう取り壊されたピラミッド校舎などが登場する大島渚の 日本春歌考 かな。

で、第1週に観に行ったのは最上段左端の 喜劇 にっぽんのお婆ぁちゃん、1962年、水木洋子原作・脚本、今井正監督の所謂社会派喜劇。

おとぼけばあさん(北林谷栄)と喧嘩ばあさん(ミヤコ蝶々)が浅草のレコード屋の店頭で橋幸夫のレコードを聴きながら歌って踊って意気投合、二人で街をうろうろしてトラブルにあったり親切なニコニコ女子店員(十朱幸代)やセールスマン(木村功)と親しくなったり、なのだが、実はおとぼけは老人ホームでどら焼きの盗み食いを疑われ、喧嘩は息子(渡辺文雄)とそのヒステリー女房(関千恵子)一家との狭い団地暮らしのストレスでどちらも家出状態、死に場所を求めて吾妻橋の上で車道に飛び出すも死にきれないってちょいブラックなコメディ。

これは主演級スターゼロ(十朱はまだ20歳)の代わりに脇役高齢者オールスターという珍品だった。老人ホームのスタッフ(園長の田村高廣、副園長の小沢昭一、沢村貞子、市原悦子)、まだチョイ役のおまわりさんの渥美清辺りは若いが、ホームの仲間のお上品なあそばせばあさん(東山千栄子)とざあますばあさん(浦辺粂子)、風船ばあさん(飯田蝶子)、大食いばあさん(原泉)、いじわるばあさん(岸輝子)、酔っぱらいじいさん(伴淳三郎)、優等生じいさん(左卜全)、インテリじいさん(渡辺篤)、政治家じいさん(上田吉二郎)、八卦見じいさん(殿山泰司)などまあすごい顔触れだった。三木のり平だってちょこっと出る。

但し、実年齢は案外若かったりする。72歳という設定以上にばあさんに見える北林谷栄はまだ51歳、ミヤコ蝶々なんか42歳でもメイクと演技力でカバーしていた。以前書いたように、本当のばあさんでちゃんと演技できる役者はそうそういなかったから、ばあさん役を得意とする女優が必要だったのだ。

1962年と言えばこちらがまだ小学生で、父方の菩提寺が浅草本願寺の末寺で毎年お彼岸に浅草を訪れていたから、猥雑なこの六区だとか鳩だらけだった浅草寺、ニコニコ女子店員が働く焼き鳥の鮒忠など鮮やかに記憶が蘇る。(雷門や仲見世、新仲見世、松屋は然程変わっていない。)

これだから古い日本映画は楽しい。

なお、ミヤコ蝶々は息子の転勤でという設定か、大阪弁だった。でなきゃあ自然な演技ができなかっただろう。