神保町シアターで溝口健二の近松物語 | 楽しい倫敦 おいしい倫敦 

神保町シアターで溝口健二の近松物語

2024.2.16(金)

神保町シアター の今のシリーズが 女優魂 忘れられない「この1本」、代表作の特集ではなく、独断と偏見で選び抜いた女優たちの魂の演技を見るためのプログラムとのことで、女優16人の16本は、上段中央の霧の旗の倍賞千恵子、その下に小さく近松物語の香川京子、右上が㊙色情めす市場の芹明香、鬼畜の岩下志麻、その下に浪花の恋の物語の有馬稲子、乳房よ永遠なれの月丘夢路、怪談雪女郎の藤村志保、雪夫人絵図の木暮実千代、やっさもっさの淡島千景、下の中央には女囚さそり 701号恨み節の梶芽衣子、執炎の浅丘ルリ子、小さく西鶴一代女の田中絹代、不良少女の和泉雅子、秋津温泉の岡田茉莉子、墨東綺譚の山本富士子に洲崎パラダイス 赤信号の新珠美千代、かな?(敬称略)その他の女優は魂が無いって訳じゃあないと思いますけど。

で、観に行ったのは 近松物語、1954年の香川京子さんと言うより 溝口健二監督 の映画。溝口と言えば小津安二郎、黒澤明と共に海外でも評価が高い巨匠とされたものだが(最近は北野武とか河瀨直美などが加わったかな)地味めで、一般の知名度は少し落ちるかも。

でも大経師(朝廷御用の経師の長で大経師暦という暦の販売でも稼ぐ大物)の妻、おさんと手代の茂兵衛の姦通、磔刑という実際にあった事件を近松門左衛門が脚色して人形浄瑠璃にした「大経師昔暦」を川口松太郎が劇化、それを映画化したこの1本は、香川京子 のおさんと 長谷川一夫 の茂兵衛がちょっとした行き違いが重なって姦通と誤解されての道行き、阿漕な大経師(進藤栄太郎)ともう一人の手代(小沢栄太郎)、だめだめのおさんの兄(田中春男)が絡んで涙を誘う。近松も近松だが流石にうまいこと映画に仕上げたと思う。大店の店内とか街の描写なんか今やこうはできなくなってるだろうとも思う。女中役の南田洋子、公家の十朱久雄、浪花千栄子など懐かしい顔触れが若々しい顔を見せてもくれる。もっともおさんの母の浪花さんはまだ四十代だったはずだが、既にばーさんっぽく老け込んだ役だった。

この事件は相当話題になったようで、井原西鶴も好色五人女の一編に取り上げているとか。