Side C




唇を合わせるキスよりも先に、もっと凄いところに触れられた
相手は絶対に恋愛対象にならない同性のユノヒョン
手伝ってもらうだけ、練習相手になってもらうだけ
だから何も起こらない筈だった



「…っふ……」



僕からした二度目のキスは直ぐに終わる事なく、気が付いたらユノヒョンの舌が何かの生き物のように僕の舌をとらえて息も出来なくなった
熱い吐息混じりの声で、鼻で息をするのだと教えられて必死に従った
苦しいのにぞくぞくするような感覚に襲われて、腰に力が入らなくなった



「……っ…ユノヒョン……あの」



ずるずるとしゃがみ込みそうになった僕を、ヒョンが支えてくれた
腰だけじゃなく身体中力が入らなくて、ヒョンに凭れるようにしてしがみついている

それに対してありがとうございます、と言うつもりだった
けれども、気付いてしまってそれどころではなくなった



「チャンミナも、だろ
お互い様」

「…何の事か言ってないのに……」



何だかこれって、まるで抱き締められているみたいだ
気付いたら急に気恥ずかしくなった
でも、そのお陰で顔は見られていないし、背中を擦るユノヒョンの手が暖かくて心地好いから離れたくないって思った



「この間は寝てる時に…だったけど、今日はキスの所為?」

「分かんないよ
ユノヒョンは?」



本当は分かっている
ユノヒョンのキスがあまりに刺激的だったから
舌と舌を絡める、だなんて気持ち悪いと思っていたのに、頭の中が真っ白になるくらい気持ち良かったからだ



「分かんないけど…ユノヒョンの所為です」



『全部俺の所為にしたら良い』
そう言ったのはあの日の事
キスを練習したいと言ったのは僕
だけど、手馴れたユノヒョン相手だからこんな風になってしまったとしか思えない

まだ腰はもぞもぞするけど、ユノヒョンにしがみついたまま、固くなった部分が擦れ合わないように腰を引いた



「そっか…
俺の方はチャンミナの所為かなあ」

「…余裕ですね、声も何もかも全部」

「あはは、余裕に見える?
まさかこんな事になるとは思わなかったから、ちょっと焦ってるよ」

「ふうん…」



ユノヒョンの顔は見えないけど、余裕そうだ
きっと経験の差
僕も、好きな子が出来てちゃんと両想いになれて恋人として前に進めたら、そんな経験を重ねたらヒョンみたいになれるのだろうか

そんな『もしも』を想像してみても、慣れた自分に恋人が居ないからと言って、幼馴染みの『手伝い』をしようとは思えない



「ユノヒョンって、やっぱり博愛主義者ですね
優し過ぎるよ」

「急にどうしたの?」

「キスの練習も、『あれ』の手伝いもしてくれたから…」



腰の辺りに回された手が熱い
心地好いけど、そわそわする
このまま触れられていたらどうにかなりそうで…だけど、どうなってしまうのか分からない、そんな不思議な感覚

二週間前のあの日もそんな不思議な感覚があった



「あの日の僕みたいになってる誰か、が居たらヒョンは手伝うのかなあ…」



困っている人が居れば放っておけない、ヒョンはそんなひと
誰彼構わず、でプライベートな部分には触れないだろうけど、ユノヒョンの親しい相手なら…
きっと、僕じゃなくても同じようにしたんだろうなと思う

それがユノヒョン、だけど想像すると嫌な気分だった



「流石に手伝わないよ」

「え…」

「誰にだって出来る事じゃないし、誰にだって触れたいとは思わない
それとも、チャンミナは俺じゃなくても相手が経験者なら手伝ってもらう?」

「無理!!ユノヒョンでも恥ずかしいのに…!」



顔を上げてぶんぶんと首を横に振ったら、ユノヒョンと目が合った
少し険しい顔をしていたからびっくりしたけど、直ぐに優しく口角が上がったからほっとした



「そっか、良かった」



何が良かった、なのだろう
聞きたいけど、聞けなかった
目が合ったらもう緊張が最高潮になったし、緊張したら身体中がもじもじして腰がぞわぞわして、それどころじゃあなくなったから



「ユノヒョン、あの…」

「ん?」



目を見るのが恥ずかしくて視線を逸らした
でも、そうしたら赤い唇が視界に入って、ついさっきの激しいキスを思い出してしまった
腰の奥がうずうずして、何だか涙が込み上げてきそうだ



あの日以来、僕はと言えばユノヒョンに触れられた事を思い出して何度も何度も熱を持て余している
今朝もそうだったし、お陰で大変だった
これは僕のトップシークレット、ユノヒョンにだって絶対に言えないと思っていた



「実は……」



でも、ヒョンもあの日あの後僕に触れた事が引き金になって同じようになっていたのだと教えられた
この秘密を打ち明けて、もう一度ユノヒョンに触れてもらえたらもう一度気持ち良くなれて楽になれる



ドッドッドッ、と心臓の音が身体の外にまで響いているような気がする
緊張して目の前がチカチカする
ヒョンの腕をぎゅっと掴んで、意を決して口を開いた



「ユノヒョンに手伝ってもらわないと、楽になれそうにないんです
だから、もう一度手伝って欲しい…です」

「え…」

「その…ヒョンも同じ、だし…
直接触るのは怖いけど、下着の上からでも良ければ僕も…ヒョンを手伝います、だから…!」



男の身体に触れる、なんて考えた事すらない
想像したら気持ち悪過ぎて無理
でも、あの日以来僕は何度も夢の中で、想像の中でヒョンに触れられて気持ち良くなっている
現実でキスをしても嫌悪感なんて一切無かった

されるだけ、じゃなく僕もユノヒョンを手伝って気持ち良くさせる事が出来るなら、ふたりで秘密を抱えても…そう思った



「チャンミナ、止めておこう」

「え…」



拒まれる、なんて考え一切無かった
あの日、全てを始めたのはユノヒョンだから



「これ以上、でエスカレートして間違いでも起きたら大変だろ
俺達は幼馴染みなんだから」

「間違い…」

「俺が悪かった
そろそろ帰るよ」

「え、でも、ユノヒョン、そのままじゃ…」



すっと身体は離れていった
ついさっきまで、ヒョンの下半身は確かに熱を持っていた
でも、もう背を向けられて分からない



「また明日、チャンミナ」

「え…うん…」



これは拒絶だ
どうすれば引き止められるかなんて分からないし、引き止めないといけないのか、すら分からなかった
ただ、扉の向こうに消えていく背中を見守ってから、扉に手を当てて項垂れるしかなかった



「…どうして辛いんだろ…」



キスの練習をお願いするだけじゃなく、もっと恥ずかしい事を口にして、にべもなく断られた
でも、恥ずかしさよりも胸の痛みが遥かに勝っていた



あの日以来、僕の身体を熱くさせる唯一のひと、が居なくなったらすぐに熱は引いてしまって虚しさだけが残った



もう、扉の向こうは静かだ
ユノヒョンはとっくに廊下の向こうに行ったに違いない
そう思っていた僕は、ユノヒョンが扉の向こう側で同じように頭を抱え項垂れていた事を知らない












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読んでくださってありがとうございますドキドキ
あともう少しだけお付き合いくださいね

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