僕の恋人は夜行性
と言うか夜に働いている
だって、No.1ホストだから



昼間にデートするだなんて初めてで、僕は楽しみで楽しみで仕方無かったのだけど、8月の一番暑い時期
普段昼にはあまり出歩かないであろうユノにとっては少し…
いや、かなり辛い状況になるかな、なんてふたりで外に出てから気付いた
メトロに乗っていれば涼しい
けれども改札を抜けて一歩外へと出れば外はもう灼熱



「…ユノ、大丈夫?」

「ん?何が?」



汗がぶわっと吹き出して来る感覚
それから日差しにくらくらしてしまう
昼間行動している僕でもこうなのだから、繊細そうに見えるユノにはデート、どころか苦行になるかもだし…
それに、熱中症にならないように、年上として僕がちゃんと見ていないと、と思った

右手で額の汗を拭って左側のユノを見たら、涼しげに微笑んでいる



「暑いだろ?熱中症になったら大変だから、無理しないで
何かあれば僕に言って」



ユノに借りた紺色の開襟シャツ
その胸元を指先で摘んでぱたぱたと仰いだら、ユノの長い指が僕の額に触れた



「暑いけど大丈夫だよ
それに、俺よりチャンミンの方が暑くて大変そうだ」

「だって、今日は36度になるって…」

「汗が凄い、舐めて拭いてあげようか?」



僕の額の汗、それに触れた人差し指をぺろりと舐めたユノ
外なのに、お盆休みで周りにはひとが沢山居るのに
太陽よりもユノの所為で身体に熱が籠る



「っちょっと!舐めなくて良いって!汚いからこれ飲んで」



慌てて、麻のワイドパンツのポケットに無理矢理入れていたペットボトルの麦茶を取り出してユノに渡したら笑顔で受け取った
ただのお茶を飲む姿すら決まっていて、男として少し嫉妬するくらい
なんて、そもそもユノに敵わない事なんて分かっているし、本来であればオタクの僕なんかと関わる筈も無いひとなのだけど



「汚くなんて無いよ」



ペットボトルの蓋を締めながら笑う
その笑顔はプライベートの時のユノの顔で、少しあどけなさも感じられる
初めて出会った時はあまりに美人でオーラが有るから年上かと思ったけれど、本当は2歳年下の僕の恋人



「俺よりチャンミンの方が暑そうだから、しんどくなったら我慢せずに言う事、良い?」

「…分かったよ」


 
ユノは暑さすら楽しんでいるように笑顔で、僕はもう暑さで少しやられている
そもそも、僕は昼に働いているとは言えオフィスで働く普通のサラリーマンだし、友達も多い方じゃ無い
休日は外に出掛けるよりも、部屋でゲームをしたり漫画を読んで過ごす事の方が多い

勿論、真夏の昼間に外に出る事だって有るけれど、誤算だったのはユノがとても元気そうだという事



「…男らしいところを見せたかったのに…」

「ん?何か言った?」

「え…ううん、何でも
行こう、あっちに見たい店が有って」



ユノの左手を引いて歩き出した
男同士だし、あまりひとに見られるのは良くないと思っている
だけど、今日のユノはホストとして働く時とは違って長めの前髪をさらりと下ろしている
派手なスーツでは無くて、カーキのTシャツと黒のスキニーパンツ
スタイルの良さや顔の小ささ、物凄く美人なのは変わらないけれど、まさかこのひとがホストの『ブルー』だとは思われない

休日の都内はひとで溢れているから、はぐれない為
そう理由づけてユノの手を引いて歩いた



「あ!ここ、見ても良い?」

「うん、探してたものでも有りそう?」

「うん、漫画の新刊と…あとグッズも買いたくて」



普段は、と言うかこれまでも所謂リア充、だとかカースト上位の友人や誰かと趣味を共有したり話をする事なんて無かった
馬鹿にされるって分かっているし、理解されない事も分かっているから
だけど、ユノはそんな僕でも受け入れてくれて、好きな漫画を貸したら『面白い』って言ってくれて…
そこに嘘が無いのも分かるから、一緒に居て楽しい

たまに立ち寄るアニメや漫画の専門店に入ったら、そこも普段以上に客が多かった
夏休みでお盆休み、地方からやって来た旅行客や外国人の姿も目立っている



「あ、これ!買わなきゃ」



普段は多分、大人しい方だと思う
だけど、夢のような空間にテンションが上がって、今日まで買うのを我慢していた新刊やグッズを次々に手に取った



「あはは、急に元気になった
暑さでしんどそうだったから心配していたんだけど良かった」

「…うん、だって好きなものに囲まれて…
しかもユノと一緒だから」



店内は空調も効いているし、客は殆どが僕と同じオタクばかり
だから安心して過ごせる
ユノも僕が手に取るものを見て珍しそうに、けれども楽しそうにしてくれているからひとりで居るよりも楽しい



「チャンミン、これ」

「え?」



購入して開封しないとどのキャラクターが出て来るか分からないランダム商品
買おうか我慢しようか、棚の前で悩んでいたら、少し離れた棚の前に立つユノに手招きされた



「ご自由にどうぞってなってる
チャンミン、被ってみて」

「ええ…それって…」



笑顔のユノが持っていたのは、テレビなんかで見た事のあるうさぎの耳の被り物
多分、帽子なのだろうけど、可愛い女の子が被るならまだしも、僕が被ったって似合わないだけ

ユノの前に立って、差し出された帽子のようなそれをじっと見下ろした



「ユノの方が絶対に似合うよ、被ってみてよ」

「俺は嫌
それに、チャンミンが被ったら絶対に可愛いから…ね?」



そう言うと、ゆっくりと僕の頭にうさぎの耳を乗せた
幸い鏡は僕の位置から見えないから良かったけれど、こんなのひとに見せられる姿じゃあ無いと思う



「うん、可愛い!で、この紐を握ってみて?」



絶対に可愛い訳が無いと思う
それでも大好きなユノに言われたら嬉しくない訳は無くて、被り物から垂れ下がっている紐を言われるままに握った



「こう?」



握ってみたら、ユノが物凄く嬉しそうにするから、恥ずかしいけれど愛されているなあって思う
とは言え、店内はひとも多いしもう外そうとしていたら…



「何あれ、帽子被ってる方地味過ぎない?
もうひとりはイケメンなのに釣り合って無さすぎ」

「しかも全然似合って無いし」



近くを通った女の子ふたり組
通りすがりに笑いながらそう言われて固まってしまった
一見オタクには見えないだけ、かとも思ったけれど、歩いた先でも周りを見て嘲笑したり何か大きな声で話しているから、冷やかしで入って来たのかもしれない



「レジに行って来るから待ってて」

「チャンミン…」



大きくて長い、白い耳のうさぎの被り物
頭から外して眺めてみた
鏡を見なくたって僕には似合わない事なんて分かっている
だけど、それよりも悲しいのは例え友人、としてでもユノとは釣り合っていないと言われた事



欲しくて堪らなかった漫画の新刊
どれにしようか悩んで決めたアニメのグッズ
好きなひととの楽しいデート
そもそも僕とユノが釣り合っていない事なんて分かっている事
それでも好きだから、ユノも僕を好きでいてくれるからそれで良いと思っていた
だけど、何だか一気に現実に引き戻されて沈んでしまった

レジでお金を払って自分のものになる瞬間
袋を渡されて手にする瞬間はいつもとてもわくわくするのに、受け取った袋はずしりと重たくて、買わなきゃ良かった、なんて思ってしまった



「…あれ…」



レジを終えて店内を見渡したけれど、人混みのなかで誰よりも目立つ筈のユノが見当たらない
僕が勝手にレジに向かったし、レジも並んでいたし…
そもそもユノだって僕の趣味に付き合うのは楽しく無かったかもしれない
悲しくなって、何故だか泣きそうになりながら出入口の方に歩んでみたら、ユノの背中を見つけた



「ユ…!…あ…」



手を上げて名前を呼ぼうとしたら、恋人の向かい側にさっきの女の子達の姿
彼女達は笑ってユノを見上げていて…



「…そうだよね…」



そもそも、僕には勿体なさ過ぎるくらいの恋人
ユノの事をイケメンと言っていたし、話に花が咲いているのかも
そもそも僕は普段から勝ち組に見えるひと達の事は避けて生きて来た
一瞬、幸せな夢が見られただけだと思おう
声を掛ける勇気も無くてそのまま3人の横を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれた



「ああ、そうそう
俺の恋人は誰よりも見ての通り可愛くて綺麗なんだけど…
そんな事も気付けないなんて可哀想だな」

「え…」  

「チャンミン、遅い
待ってたよ、デートの続きをしよう」



女の子ふたりに向けてとてつも無く綺麗な顔で言ったと思ったら、今度は僕に天使のような笑顔
キスされるんじゃ無いかというくらい顔を近付けて来た
一瞬、何が起こったのか分からなかったけれど、ユノの手が僕の手を握って「行こう」と言うから、僕はまだユノの恋人で良いんだって思えた



手を引かれて太陽の照り付ける夏空の下、僕の手を引くユノ
身長は変わらない筈なのに一歩一歩が大きくて、着いて行くのが大変で…



「ユノ、ちょっと早い…」



手を引かれたまま半歩前のユノに声を掛けたら、くるりと振り向いて僕を見る
道の端で立ち止まって、それから今度は身体ごと振り返って、両手で僕の手を握る



「チャンミン」  

「何…」



真剣な表情だから、やっぱりこんなデート楽しく無いのかも、と怖くなった
ユノがまるで僕の理想通りの美人で…
それだけで無くて優しくて、僕の趣味にまでこうして付き合ってくれる 
僕は『自分の方が年上だからリードしたい』なんて思っている癖に、合わせてくれるユノに甘えてしまっていたと思う

そんなの、呆れられても仕方無い
謝らなきゃいけないと思って目をぎゅっと瞑って息を吸ったら、繋いだ手が離れて抱き締められた



「え…」

「チャンミン、さっき俺を置いて出ようとしたよな?」

「だって、ユノと女の子達が話していたから…僕なんて邪魔かなって…」

「どうして?俺達は恋人同士なのに」

「でも、僕とユノじゃ釣り合っていない 
あの子達も言っていたし誰だってそう思うよ、だから離して」


 
周りのひと達の視線を感じる
恥ずかしくて、そして情けなくて…
見た目よりも厚い胸に手を置いて身体を離してから、ユノの顔を上目遣いに見た



「釣り合うって?
俺もチャンミンの事を最初から良いなって思っていたけど?
それに、声を掛けられたから断っていただけ
あの子達にもチャンミンの事を自慢したの、聞こえたよね?」

「ユノ…」

「出会って直ぐに『タイブだ』って大胆だった癖に
付き合ったらもう飽きた、なんて言うつもり?」

「そんな訳…!今日だって楽しみで…楽しくて仕方無くて…
だけど、僕ばかり楽しんでいたのかなって思うと…っん…」



行き交う人々の視線は相変わらず痛い
好奇の目だったり、やっぱりユノに見蕩れているような視線も 
だけど、もう一度抱き竦められて、そしてキスされたらもう、頭のなかはユノでいっぱいになった
そして…


 
「可愛いチャンミンと一緒で、チャンミンの好きなものにも囲まれて幸せで仕方無いのに?
これでも分からない?」


 
ゆっくり唇が離れたら、照り付ける太陽よりも熱いユノの言葉と視線
それだけ言われて『分からない』なんて言えないし、恋愛初心者の僕だって愛されているって分かる


 
「好きだよ、チャンミン」

「…僕も…」



 こくこくと頷いて、ユノのTシャツの胸元をぎゅっと掴んだ
嬉しそうに微笑むユノの笑顔も視線も眩しくて、何だかくらくらして…



「チャンミン?」

「え…」

  

身体に力が入らなくて熱くて仕方無くて、ユノに抱き着くようにして目を閉じた


 
折角の昼デート、それなのに僕は軽い熱中症状態になってしまったらしい 
と言うのは、その後『別の場所』で目覚めて知る事なのだけど…
年上の癖に決まらない、結局リード出来ない僕でもユノは好きだと言ってくれるから、ありのままの僕で…
だけど、少しずつ恋愛経験値を上げて、やっぱりいつかはユノをリード出来る男になれたら良いなあと思う














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後編、と言いながら相変わらず長くなってしまい書きたいエピソードが入り切らず、切りの良いところで終わりにしてみました
あと1話かな?有るのですが、機会が有ればそのエピソードも書けたら良いなあと思っています


読んでくださりありがとうございます