女性に酷くしたい、だとか…そんな願望なんて無い
愛するひとが居れば優しくしたい
自分が出来る範囲で精一杯包み込んで、泣かせたくなんて無い

それは勿論、ベッドのなかでだって同じ
男としての欲は決して少ない、とか無い訳では無い
だけど自身で処理すれば良いだけ
だから、愛するひとを抱くならば優しく、彼女が望むように、安心出来るように…そんな風にして触れたい



女性に限らなくたって、友人でも後輩でも先輩でも、どんなひとにも優しく接したい
周りに誰かを傷付けたく無い
それなのに…



「…ありがとうございます」



枯れて掠れた声で、横たわったまま俺を見上げる事無くチャンミンは言った
固い浴室のタイルの上、俯せになって背中は大きく上下している



「…ごめん、チャンミナ、俺…」



冷静になってみれば、自分がどれだけ酷い事をしていたのかが分かる
興奮してアドレナリンが出ていたからか、今のところ身体に疲れは無い
けれども、『この場』を見れば分かる

確か、何度か抱いた後で玄関からこの浴室に移動したんだ
チャンミンの脚が縺れてよたつくから、一度抜いて抱き上げてここ迄やって来た
浴室ならばどれだけ汚れたって直ぐにシャワーで流す事が出来るから便利だと思った記憶が有る



「…謝らないでください
僕が…真夜中なのにヒョンを呼んでしまったからなので」



そう言うとゆっくりと上体を起こした裸のチャンミン
視線が合う事は無い
彼の顔も身体も汗が張り付いて綺麗な顔には疲れが見えた
浴槽に手を掛けてゆっくりと立ち上がってシャワーヘッドに触れて、それから俺を…いや、俺の顎辺りを見て来たからやはり目は合わない



「なかのモノを、掻き出さないといけないので…
ユノヒョン、先に出てもらえますか?」



そう言うとシャワーを俺に渡して、広い浴室の隅で浴槽に腰掛けた

男同士で十代の頃から仕事で一緒に居る
だから、お互いの裸だって知っているし…
今は以前と違い別々に暮らしているから見る機会は減ったけれど、例え裸を見たって何か特別な事を思ったり意識する、なんて事は当たり前に無かった

けれども、今のチャンミンの身体は目に毒だ
確かに男なのに細い腰や白い肌
そこには幾つもの赤い痕が残されていた
項垂れるように俺とは反対側の扉の方を向いて俯いた時、鎖骨と首の辺りに歯型が見えた



何を言えば良いのか分からなくてシャワーでベタついたものを流して、それから湯が出たままのシャワーをそっとチャンミンに差し出したら彼は漸く顔を上げた



「もう流したんですか?
呼び出しておいて、ですが…やっと『普通』になったので
帰ってもらって大丈夫です
でも疲れさせてしまいましたよね…
仕事は昼からだし、ゲストルームで休んでもらっても大丈夫です」



疲れ果てた顔で、けれどもいつものチャンミンとして笑って、後はもう顔を逸らした
座ったまま気怠そうにシャワーを頭から掛け始めた



「…掻き出すって…」



そんなの、俺が何度も何度も、チャンミンに注いだモノしか無い
チャンミンは男として生まれて25歳まで生きて来て、それなのに突然変異の所為で男に、俺のようなアルファに抱かれる身体になった

本人が望んでいる訳では無いのに、抑制剤も飲んでいるのに制御出来なかった発情期で俺を…いや、アルファを求めた
そして、俺もチャンミンのフェロモンに誘われるように、彼を何度も何度も酷く抱いた



「巻き込んで、僕のような男の相手をさせてしまって本当にすみません
でも、お陰で落ち着きました」



チャンミンの声は酷く沈んでいた
抱いていた時も、もう理性なんて無い筈なのに、泣きながら落ち着いた声で『ごめんなさい』と何度も言われた

突然オメガになってしまって身体が変化したチャンミン
彼が一番大変なのに、男を抱く俺に同情するように謝る



「…巻き込まれて、なんて思って無いよ
だって、チャンミナは大事な『弟』なんだから
むしろ、俺を頼ってくれて嬉しい」



声を掛けたけれど、シャワーの音でもしかしたらチャンミンには届いていなかったのかもしれない
それとも、もうヒートが終わったからその事には触れて欲しくは無いのかもしれない



酷くしてしまった
これ迄どんな女性を抱いた時も、例え彼女達が望んでも酷くする事なんて無かったのに
アルファだからと優位に立つような事はしたく無かったのに
俺は、他のアルファとは違うと思っていたのに

それは全て、オメガという、圧倒的に俺のアルファ性を誘う存在によって一瞬で崩されてしまった



「…チャンミナ…」

「……」



聞こえているのか、それとも聞こえていないのか
何も答えは無い
座ったまま身体を流したチャンミンはゆっくりと立ち上がって、そしてぐらりと傾いた



「…っ、大丈夫か?」



慌てて腕を伸ばして抱き留めた
シャワーはガタン、と音を立てて落ちたけれど、俺達に当たる事は無かったからほっとした



「…すみません
ユノヒョン、どうしてまだここに?
もう出て、眠るなり帰るなり…勝手な事を言って申し訳無いですが、ゆっくりしてください」



俺の胸に手を付いてたチャンミン
抱き合っている時はずっと見つめ合っていたのに、ヒートが落ち着いたらもうそれも無くなった
それからはこちらを向いていたって合わなかった視線が漸く合って、チャンミンの大きな瞳に俺の顔が確かに映った



「チャンミナが心配で…俺の所為だから」

「…違います、僕の…オメガのヒートの所為です」

「でも抱いて疲れさせたのは俺だし、出したのも俺だ
…その、なかから出すんだろ?手伝うよ」



脚がふらついているチャンミンを左腕で抱き留めたまま屈んでシャワーをタイルの上から持ち上げた
右手でシャワーを持ってその腕で細い身体を正面から抱くように支えて…



「…何……っやめっ!」

「大丈夫、出すだけだ
ピルを飲んでいたって流石に残したままだと心配だろ?
俺が出したんだから最後までするよ」



尻に指を入れて、柔らかい入口を広げた
二本の指をなかで広げると、指にどろりとしたものが纏わり付いて奥から溢れるのが分かる
それは確かに俺が出したもので…
何だかぞくりとした



「…っいやだ…んっ…」



力の入らない手で俺を押し返そうとする
そんなチャンミンを見下ろして、大丈夫だ、と言うように額にキスをした
そうしたら、彼ははっとした顔で俺を見て来た



「何を…」

「チャンミナがこどものように駄々を捏ねるから
小さいこどもにするようにしたら落ち着くかな?と思って
チャンミナがオメガで俺がアルファで…だから仕方無いんだ
お互いに理性なんて無かったし悪いなんて思わなくても良い
これはただの後処理だから気にするな」

「……っふ…ん…」



事務的に言葉を紡いだら、腕のなかで身を捩っていたチャンミンは少し大人しくなった



「疲れてるだろ?身体も…気持ちも
俺は気にして無いから、大丈夫だから…」

「………ん…」



なかに入れた指に熱いチャンミンの粘膜が絡みついて来る
そして、俺の出した欲望も
理性が飛んでいた間の事は断片的にしか覚えていない
だけど、触れていると思い出してしまう



「…ありがとう、ございます」



指で掻き出して、それからシャワーの湯を少しだけ入れた
チャンミンは俺の肩をぎゅっと掴んではあはあと荒い息を吐いていた
もう、彼のものは力を無くしているし、息が荒くなっていたのも感じていた訳では無いと思う

だけど、まるでついさっき迄の時間が蘇ったようで身体が熱くなって…
けれども、俺も十代でも経験していないくらい、短時間で何度も出してしまったから、もう前が反応する事は無かった

それならば、もしかしたらチャンミンも俺の指で感じていたのだろうか



「…っ何を考えて…」

「ユノヒョン?」

「いや、何でも無い」



ゆっくりと抜いた指には少しばかり、俺のものとは違う、粘度の有る液体が纏わり付いていた
チャンミンのソコが女性と全く同じだとは思わない
だけど…女性のように濡れるのであれば、やはり、もしかしたら彼も俺と同じようにまだ少し燻った熱を持て余しているのかもしれない、と思った















   







「…何から何まで迷惑を掛けてすみません」

「…いや、大丈夫だよ」



浴室から出てもチャンミンはふらついていたから、身体を拭いてやった
服は玄関で抱き合っていた時に脱がせてそのままだったから、バスタオルを巻いて抱き上げて寝室まで運んだ
それから、
『後は自分でするから』
そう言った彼を制止して新しい下着とTシャツの場所を聞いて取り出した

流石に服を着せようと思ったら真っ赤な顔で
『こどもじゃ無いです!』
と言われたから…
それを境に少し俺達の間の空気が軽くなった



「チャンミナはもうこどもじゃ無いし服も着られるし…
うん、身体も充分おとなだって分かったから」



だから、態とおどけたような事を言ってみたら、彼はまた顔を赤くしてベッドの上に座って俺をじとりと見た



「25なんだから当たり前です
…で、ユノヒョンは帰りますか?どうしますか?」



チャンミンはそう言うと、何でも無い事のようにヘッドボードの上の薬を取ってフィルムから取り出した
水も無しにカプセルを一錠飲み込んだら、喉仏が上下した
確かに男性なのに、今のチャンミンはまるで女性でも有る
その存在は人類の一割…
いや、オメガは男女合わせて一割だから、男性オメガはもっと少ないのだろうけど…
兎に角、チャンミンの存在はとても稀有で、何だか神聖なものにも見えた



「もう朝の六時だ
流石に眠くなって来たからこれから帰るのはしんどいな」

「じゃあゲストルームで…」



申し訳無さそうにチャンミンが言う
それを無視してベッドの上に乗り上げたら、彼は俺を見上げて不思議そうな顔



「俺ももうくたくたで
ここからゲストルームに行く体力も無いんだ
知っているかもしれないけど、チャンミナのフェロモンにあてられてしまって…」

「…っはあ?何を…っ」

「あはは、兎に角俺も疲れてるんだ
チャンミナから連絡が有る前も眠れていなくて…やっと眠気が訪れたみたいだ
チャンミナの事も心配だしこのベッドは広くてゲストルームよりも寝心地が良さそうだ
だから、ここで寝させてもらうよ」



真っ赤な顔で口をぱくぱくさせるチャンミンを横目に、態と空気を読まないような態度で横になった
座ったままのチャンミンを見上げたら唇を尖らせていた



「何?俺を意識してるの?」

「意識してなんて…」

「もうヒートも終わったし、俺達はただの…仲の良いメンバーだろ
気にする方がおかしいよ」

「……」



上を向いて薄い掛け布団のなかに入って目を瞑った
少しどきどきしながら待っていたら、小さく溜息が聞こえて、それからチャンミンも布団のなかに入って来た



「おやすみ、チャンミナ」



何も無かったように声を掛けたら、
「おやすみなさい」
そう、小さく返って来た



ゆっくり瞼を持ち上げたら、右側のチャンミンは背中を向けて小さく丸まっていて…
それが、何だかとても痛々しく見えた



「…っ何…」

「苦しそうだったから
大丈夫だよ、俺も、お前も何も変わらない
チャンミナは今迄通りチャンミナだよ」

「……」

「妊娠が心配?病院にまた明日でも行くか?」

「…前回の後に詳しく聞きました
専用のピルを『その後』に一錠飲めば防げるそうです
だから…問題有りません」

「…そうか」



チャンミンを抱き締めているのは、彼が不安そうに見えて、どこか痛々しかったから

…本当は違う
優しくしたい、そして癒したいのも確かに本心
けれども…何より、この美しいオメガを俺だけのものにしたい
この秘密を知っているのは俺だけで、チャンミンが夜中のように頼るのは俺だけで良い

そんな、俺の誰にも言えない汚いエゴだ

















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