大事な時に失敗する
それは思い起こしてみれば、僕にとって昔から良くある事
そして、今回も…だったから、正直、楽しみでならない記念日の…
それも、ユンホさんが休みを取ってくれてまで叶った貴重な平日のデートに向かうのに気が重かった



本当は早起きして弁当も予定通り準備していた
服は前日までに決めていたけれど、何度も何度も鏡の前に立ってはチェックして、その度に溜息
大学の友人には
『暑いから?にしても思い切ったなあ…
チャンミンじゃあ無いみたいだ』
なんて笑われた

馬鹿にされた訳じゃ無いと思うけど、童顔が更に幼く見えると言われて正直とてもショックだった
だって、僕の恋人は2歳年上の社会人
少しでも彼…つまり、同性なのだけど…
そんな彼に釣り合う為におとなになりたかったのにまるで逆効果



なかなか『大丈夫』と思えなくて、結局どれだけ鏡の前で格闘しても大丈夫にはならなかったから、今日は一日キャップで過ごそうと思っていた
…翌日は祝日でお互いに休みだから、夜は泊まりになる事はこの時点で失念していたのだけど

そんな訳で待ち合わせ時間のぎりぎりに到着して、いつも通り格好良くて優しい、僕にとって勿体無い自慢の恋人とオリンピック公園にやって来た
内心ずっとどきどきして、ばれませんようにと思っていたのに『その時』は結局あっという間にやって来て、笑われたり溜息でも吐かれる覚悟までしていた
なのだけど…



「ユンホさん、あまり見ないでください…」

「え?あ、ごめん
見ているつもりは無かったんだけど可愛くて新鮮でつい…駄目?」



ワックスペーパーに包んだ僕の手作りサンドイッチを頬張りながらもユンホさん、つまり僕の恋人がじっと見て来る
恥ずかしいのに隠す事も出来ない
だって、キャップは奪われてしまったし、普段なら前髪で隠れる眉毛も耳も、項も全部、短くなり過ぎた髪の毛の所為で隠せないから



「駄目じゃ無いです、でも恥ずかしいから…」



昨夜から仕込んでいたローストビーフをフォークで突き刺して口に運んだ
弁当箱を見下ろしていれば、ユンホさんの視線から少し逃れる事が出来る



「駄目じゃ無いなら良かった
チャンミンの手作り弁当は美味いし、記念日に髪型をサプライズで変えて、なんて…恋人として幸せ過ぎる」

「…ほんの少し切って整えるだけのつもりだったのに…」



そう、僕の失敗は僕達の記念日である14日の今日に向けて、美容室へ行った事
『暑いから少しだけ切ってすっきり…』
そんな風に伝えたら、気が付いたらベリーショートにまでなっていたのだ

提出する論文の期限がぎりぎりで寝不足が続いていて、ほんの僅かな時間なのに目を瞑ってうとうとしてしまったから気付け無くて後悔しっぱなしだった
担当してくれた美容師は
『夏らしくてとてもお似合いですよ』
と微笑んでいたし、他のスタッフ達も同様に、だったけれど僕は長めの方が好きなんだ
だって、自分に自信が無いから隠したいから



「勘違いされて短くされたなら…少し災難かもだけど、そのお陰でチャンミンがこんなにショートが似合う事も、普段とは違うカジュアルな服装も似合って可愛いって分かったから、それだけで最高のサプライズだな」



それなのに、ユンホさんは嬉しそうに頬を緩めて褒めてくれる

服装だって、髪型が変わったら今までの服が何だか似合わなくて変で…
手持ちのなかでも普段使わないカジュアルなTシャツと麻のハーフパンツを選び、更に大学帰りにファストファッションの店で買ったキャップを被ってやって来た



「…本当に似合ってますか?」



ユンホさんに『取って見せて?』と言われたからキャップは脱いでしまった
そして、そのキャップは今ユンホさんの小さな頭の上
後ろ前を逆にして被っているだけなのに、物凄く安かったキャップなのに、何だか…



「うん、似合ってる、キャップも似合ってて可愛かったよ
でも、顔が見えないから勿体無かった」

「…ユンホさんの方がキャップ似合ってます
格好良くて悔しい」



そう言ったら、ユンホさんの頬がもっと緩んだ
それから、彼はフルーツサンドをもうひと口、大きく頬張った
サンドイッチの前は確か、食べやすく短めに切ったパスタで作ったアラビアータを食べていた筈で…



「甘い物と辛い物、交互に食べるのが可愛いです」

「チャンミン、褒め過ぎだから」

「ユンホさんが格好良いから仕方無いんです
受け入れてください」



微笑んで、僕もアラビアータを食べたら今度はユンホさんが
「チャンミンの方が可愛いから」
なんて言う



「…本当にこの髪型でも大丈夫ですか?」



何度も何度も鏡で確認した
大学の友人達も初めて披露した翌日には
『もう見慣れた』
『今までのイメージとは違うけど、それも似合ってる』
とは言ってくれたけれど、自分ではやっぱりそうは思えなかった

それに、何よりユンホさんはいつも僕の事を『可愛い』と言ってくれる
僕だって男だし、格好良いと言われたい気持ちも有る
だけど、ユンホさんだけは別で、言われると胸のあたりがぎゅうっと締め付けられるような感覚になる
だからこそ、額が半分以上覗くくらい、耳も首元全部見えてしまうくらい髪の毛が短くなったら、可愛いどころかより男らしくなるだけのような気がして嫌だった



フォークを置いてから、つい、髪の毛を切ってからの癖で頭に手を添えてやっぱり何度触れても短い事を確認して沈んでしまった
俯いていたら、ユンホさんの視線を感じてそうっと顔を上げた
レジャーシートの真ん中に弁当箱やペットボトルを置いて、向かい合わせに座っていたのだけど、ユンホさんは『おいで』と言うように右側を手でぽんぽん、と優しく叩いている



「……」



立ち上がって、ゆっくりと右隣に座ったらユンホさんはキャップを頭から外して、そして僕の頭にぎゅっと被せた



「…っえ、前が……っん…」



適当に買ったキャップはサイズが大きかった
だから、ユンホさんも後ろにずらすようにして浅く被っていた
髪の毛を隠したい僕には丁度良かったのだけど、目深に被る形になったから、戸惑いつつも『見えないです』と言おうとしたら…



「…可愛いよ、本当に
大丈夫、どころか凄く似合っていてどきどきする」



ユンホさんの顔が見えないまま触れた唇
もっと触れたい、と思った瞬間にゆっくり離れて寂しいと思っていたら、熱の篭った声で囁かれた



「…っあ…」



キャップは直ぐにまた、ユンホさんの手で脱がされた
ほんの一瞬、視界をキャップで塞がれただけ
曇り空だし、ここは大きな木の下で木陰になっている
それなのに眩しいのはユンホさんの所為だと思う



「何で見えないようにしたんですか?」

「…だって、まだその髪型のチャンミンを見慣れないんだ
このままだと緊張して、上手くキスが出来ない気がしたから」

「…ここは外だからキスをしたら見られてしまうかも、なのに」

「チャンミンはしたくなかった?」



恥ずかしくて、まるで優等生な事を言ってしまった
けれどもユンホさんに言われたら、嘘なんて吐けない



「……」



ぶんぶんと首を振って答えを教えた
でも、更に
「ちゃんと言って?」
と優しく言われてしまったから
「嬉しかったです」
と俯いたまま返事をして、それからカツを挟んだサンドイッチに手を伸ばしてかぶりついた



「遠くにしかひとは居ないから、誰にも見られてないよ
それに、チャンミンは顔が隠れていたから…
もしも男同士だって思われても問題無い」

「……」



優しくそう言って笑う、僕の自慢の恋人
『思われたって、僕だって構いません』
そう、直ぐに言いたかったのに、口のなかはサンドイッチでいっぱいだから口を開ける事が出来ない

急いで咀嚼して、ごくんっと飲み込む
更にペットボトルのミネラルウォーターで流し込んで話そうとしたら、左側からユンホさんの小さな顔が近付いて来た



「…チャンミン…」



出会った頃よりも少し伸びた黒い綺麗な前髪
僕に向かって少し顔を傾けるとさらり、と流れる
それに見蕩れていたら、右の頬をそっと包まれた

もう一度キスされる、と思って目を瞑ったら、けれどもユンホさんの唇は僕の唇の僅か一センチ程左側に触れてぺろり、と舌で舐められた



「…っえ…」



そのまま離れて行ったから思わず声を上げたら、くすくすと笑う
そんな姿も格好良くて、まるで俳優みたい
と言うか、僕にとってはどんな俳優よりも格好良い

頬に添えられた手も離れて行ったから思わず唇を尖らせたら、また優しく微笑む



「キスだと思った?…ソースがついていたから」



ぺろり、と舌を出して笑う
恥ずかしくて慌てて口の周りを手の甲で拭ったら
「もう大丈夫」
と言われてしまった



「…キスを期待してるチャンミンの顔が可愛くて、我慢するのが大変だった
やっぱりキャップで隠して無いと大変だ」

「…我慢しなくて良いです……」



どきどきさせられたし、僕がソースをつけてしまったからだけど恥ずかしい思いもした
だから、僕も少しはユンホさんをどきどきさせたくて、腕を伸ばして首にまわしてキスをした



「……それに、僕だって男同士だって思われたって問題無いです
だって、最初から人混みのなかで声を掛けたので…」

「うん…そうだったな」



勿論、大勢のひと達の前で見せつけて…だとか、そんな事は思っていない
男同士で付き合うというだけで非常識だと思うひとが沢山居る事も分かっている
今、たまたま僕達がそういうひと達の悪意に晒されていないだけだという事も…分かっている

だけど、今日は記念日だし、大自然のなかではあるけれど、ひとは疎らだから許して欲しい



「あまりキスしていたら我慢出来なくなるので、食べましょう、ね?」

「それ、誘ってるの?」

「…っ、違います」



違わないのか、も分からないけれど、やっぱり恥ずかしくて次のサンドイッチを手に取った
空はやはり曇っているけれど、8月の一番暑い時期に外で過ごすには風もあるしうってつけ
会話も弾んで楽しくて、昨夜から準備していた沢山の料理も見る見るうちに無くなっていった















「……ふう…」



ほぼ全て完食してから、レジャーシートの上に座ったままお腹を擦った
今日穿いている紺色の麻のハーフパンツは、ウエスト部分が紐で調節出来るようになっている
家を出た時はぎゅっと絞めて結んでいたんだけど、途中で苦しくなったから緩めておいた
お陰で気にせずに食べる事が出来た



「チャンミン、沢山作ってくれてありがとう
本当に美味しかった
俺も次は何か作って…いや、料理は厳しそうだからせめて何か考えるよ」

「ユンホさんはいつも僕の為に色々してくれていますよね?
僕だって、ユンホさんの為にしたいだけです
それに、美味しいって言ってもらえて、それだけで充分です」



だって、嬉しそうなユンホさんの顔は僕にとって何よりのご馳走様のようなものだから
なんて事は恥ずかしくて言えないけれど、自分が作ったものがユンホさんの身体に入っていく、なんて何だか凄い事のようで…
ああ、これはもっと恥ずかしくて言えそうに無い



「じゃあ、次のピクニックもチャンミンの料理を楽しみにして良い?」

「勿論です…あ、何だか空が暗くなって来たかも…」



つい少し前までは曇っているとは言え明るさもあった
けれども、気が付いたら木陰に居る所為では無くて辺りが暗い
見上げたら雲が少し分厚くなっていた



「片付けて移動しますか?」

「そうだな、幾らこの木が大きくても、流石に木陰で雨宿りは出来ないだろうし…弁当箱やシートが濡れたら大変だ」



ユンホさんはそう言うと、広げたままだった弁当箱やペットボトルを片付け始めた
傘は折り畳みのものを持って来たから、片付けて動けば問題無いだろう
そう思って立ち上がったら、何か違和感を感じた



「…え…?…っあ…っ!」

「…チャンミン……」

「見ないで…っ」



慌ててしゃがみ込んで、それから『戻そう』としたけれど、しゃがんだ所為で上手く行かない
ユンホさんに背を向けて小さくなっていたら、後ろから抱き締められた



「チャンミン、それ…一年前に俺がプレゼントしたやつ、だよな?」

「……っ、見ないでって言ったのに…」

「ごめん、見えちゃったんだ
でも、俺以外にもしも見られたら嫉妬するから…」

「…っ…」



そう言うと、背中側に被さったまま、僕の…
膝まで脱げ落ちてしまったハーフパンツを持ち上げてくれた



「ああ、紐が緩んでたんだな
急に脱げたからびっくりしたよ」

「…ありがとうございます…」



後ろから長い腕が僕の前にまわって、『緩んでしまった』のでは無くて、お腹が苦しくて緩めて…
結び直さずにそのままになってしまっていた紐をもう一度結んでくれた



「あの、後は僕が片付けるので!」



背を向けたまま立ち上がって、お尻を触ってちゃんと穿けている事を確認して安堵した
今は顔を見られたらどうしたら良いか分からないから、キャップだけ探そうとしたら、ユンホさんが隣に立って僕を覗き込む



「あ…キャップ、返してください…」

「駄目、今返したら、また顔を隠すだろ?
可愛いから勿体無い」

「…じゃあ、今は見ないでください」



だって、下着姿を見られてしまって恥ずかしくて仕方無いから



「恥ずかしいの?チャンミン、大丈夫だよ」

「…恥ずかしいに決まってます」

「裸だって何度も…と言うか数え切れないくらい見ているし、下着姿だって見ているのに?」

「…だって、ここは外だし急に脱げるし、それに…」

「それに?」



弁当箱をリュックのなかに仕舞いながら言ったら、ユンホさんはペットボトルを彼のバッグに仕舞いながら尋ねて来る



「俺があげた…しかも、ちょっとエッチな下着を穿いているから?」

「…ユンホさん!もう…!」



顔が熱くて熱くて仕方無い
髪の毛で隠す事も出来ない
キャップもユンホさんの頭の上

下着は、確かに一年前にユンホさんに貰ったものを着けて来た
でも、それは今日が記念日で…
普段は恥ずかしくて穿けなくても、今日くらいなら勇気を出してみようと思ったから
ピンクだし凄くぴたっとしていて恥ずかしいけれど、ボトムスに響かなくて良いかなって思ったから
だから、別にユンホさんを誘ってるだとか、アピールしてる、だとか、そんな訳じゃ無いし…



「凄く嬉しい
本当は、ちょっとがっついてるって思われたかもって…
少し心配だったんだ
でも、使ってくれてありがとう」



立ち上がってレジャーシートを畳んでいたら、また後ろから抱き締められた
そんな風に言われたら、言い訳を並べる事なんて出来なくなってしまう
だって、本当は期待していたしどきどきしていたから
髪の毛の事でそれどころじゃ無い、とも思っていたけれど、やっぱり記念日だし…なんて思っていたから



「もっとがっついてもらったって良いです」



だから、結局僕も本音を漏らしてしまう



「本当に?」

「…はい」



振り返って、僕からキスをして、それから離れた



「今度こそ片付けましょう
ちょっと降って来たかも…」

「本当だ」



慌てて片付けて、後は何も無かったように歩き出す
ちょっとしたトラブルで大変だったけれど、ユンホさんが喜んでくれたし良かった、なんて呑気に思っていた
だって、髪型が不安で仕方無かったのに、それも褒めてもらえたから余計に嬉しかったんだ



この後は結局本降りになってしまったから、早々にユンホさんの部屋に向かった
そこで僕は、今日一番の後悔をする事になる
それは、ハーフパンツがずれて下着を見せてしまった事では無くて
『もっとがっついてもらったって良いです』
なんて言ってしまった事



ユンホさんはいつも、僕が『もう無理』と言えば僕に合わせてくれるんだ
でも、この夜は…



「…っ、あ…もう…ユンホさん…っ」

「ユノって呼ばなきゃ止めないよ」

「…ユノ…もう…無理…っん…」



続けて三回目、で僕が音を上げたのに
「やっぱり止まれない」
そう言って、僕の弱いところばかり攻められた



それでもやっぱり優しくて、『後悔』なんて言っても…
多分、誰かに話したら惚気だって言われてしまいそうなものなのだけど
















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読んでくださりありがとうございます

8月14日、一年前と違って今年は「グリーンデー」でした
恋人達が暑いなか森林浴をしたり山登りをしたり…
というユニークな日だそうです


一年前のエピソードに少し触れましたが…
そちらは、こちらから読んで頂けます
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