ほみにずむ(*∵)´,,•J•,,`)大好きなふたりのお名前を借りた、私の頭のなかのお話でフィクションです。興味の無い方は閲覧を避けてください。ブログ内の文章の著作権は全て私個人に帰属致します。転載転記は禁止致します。
納得がいかない現実世界で通常起こり得る筈もない驚きの出来事を切っ掛けに僕はユノと付き合う事になったなのに、恋人同士になってもユノの様子は友人の時からあまり変わらない遊ぶ回数やふたりで過ごす時間は以前よりも増えたし、何となくユノの嫉妬も感じるでも、納得がいかない極端な言い方をすれば、ユノが僕を好き過ぎるがゆえに僕はユノと同じような夢を見たそう、猫になってユノに飼われて溺愛される夢夢の中で猫の姿で散々愛されて、それまで全く意識していなかったユノに恋愛感情を抱いた「なのにどうして…」そう、どうして僕ばかりユノを好きでユノは涼しい顔をしているのか現実主義でロマンティックなドラマやフィクションなんて鼻で笑っていた僕が現実にそんな世界に巻き込まれてユノと両想いになってハッピーエンド…の筈なのにどうして溺愛されるどころか以前とあまり変わらないユノにやきもきしなければならないのか「ああもう…!」放課後、ユノの家、ユノの部屋到着して早々お菓子を持ってくると言って涼しい顔をして部屋を出て行った元友人現彼氏、へのもやもやを彼の部屋のクッションを力任せに抱き潰しぶんぶん頭を振る事で発散している恋に振り回されるなんて馬鹿らしい、と恋愛話で盛り上がるクラスメイト達に内心溜息を吐いていた過去の僕が今の僕を見たら笑うか呆れるか…それとも、嘘だと思うだろうかこれじゃあまるでただの思春期男子だ恋愛初心者で雰囲気を作る方法なんて分からないかと言って、ユノはふたりきりになっても下心たっぷりな顔で触るだとかそれ以上の何か、だとかをしようとはしない僕だってそれ以上の何かを期待している訳じゃないユノを好きになったし、以前ユノの下半身が僕で反応した時に気持ちが昂揚した、けれどもユノの裸を想像して何かしてやろうとは思わないし、何でも分かる優秀なデバイスで男同士のあれこれについて調べた結果怖気付いてしまった「だけど、好きなんだよ…」僕への言えない恋心を募らせて夢まで見たユノは、僕を相当好きだと思う実際そうだと話していた手を繋いだしキスもしたでも、現実に恋人になってからのユノは、夢の中のように蕩けるような目で僕を見てはくれない考えたくは無いけど、もしかしたらユノは現実の僕と付き合って『想像と違った』『チャンミンを好きなのは勘違いだった』などと思っているのではないか気付いてしまったらもう、そうとしか思えなくなってしまったもしかしたら心の中で別れるタイミングを必死で考えているのかもしれないユノは優しいから、なかなか言い出せないのかもしれない考えれば考える程、胸が苦しい春は心躍る季節だとか言うけど、このままでは今年の春は僕にとって苦いものになってしまういや、こっちだって好きになってしまったのだから、上手くいくように努力をするべきだ何とかそう言い聞かせて、クッションに顔を埋めたユノの匂いがした以前は友人の匂いを気にした事なんてなかったのに、今は落ち着くしどきどきするし、好きだと思ってしまうこんなの僕らしくない、自分らしくないでも、それを嫌だとか怖いと思うプライドよりもユノへの『好き』が勝ってしまう「責任取れよ、ユノ」「チャンミン、呼んだ?」「……っ、うわっ!!いつの間に戻って…」突然の声に驚いて顔を上げたついさっきまでこの部屋には僕ひとりだったのに、スナック菓子の袋を抱えたユノはもう部屋の中、扉はしっかり閉まっている「どうした?具合でも悪かったのか?」「はあ?何で?」突拍子もない問い掛けと心配するような顔で僕の前に腰を屈めるユノ、見上げる僕の顔は間抜けだったと思う「え、チャンミンが俯いて丸くなってたから…」「……」今度はユノが不思議そうな顔になったそんな顔でもイケメンはサマになるから狡い以前は狡いなあ、としか思わなかったけど、今は『そんな顔も格好良くて好きだと思ってしまうから狡い』に変わった「ユノが遅いから仮眠してただけだよ」ユノへの気持ちを拗らせていたのがバレていないようだほっとして誤魔化したら「寝ながら俺の名前を呼んでたの?」と優しく微笑まれた「…っく……」「チャンミン?胸が痛むのか?やっぱり体調が…」「違うよ!ユノが格好良いから…」制服のシャツの胸元を思わず掴んだら、本気で心配された本心で答えてから恥ずかしくなったけど、斜め下に目を伏せるようにして「そっか、ありがとう」と低く呟くユノを見たら恥ずかしさよりも『好き』が上回ったやっぱり諦められないユノが現実の僕と付き合って幻滅していたとしても、こっちはこっちで好きになってしまったし、気持ちは膨らむばかり何とかユノの理想の僕にならなければ、と誓った「ユノは元々どんな子がタイプなんだっけ?」理想になるには、まずは理想を知るところからふたりきり、誰にも聞かれる見られる事もないこの場所で小腹を満たしながら聞き取り調査を回数する事にした「タイプ?……特別これ、っていうものはないよ」「本当に?理想とかあるだろ?!」「理想……」ユノのベッドを背にして隣同士で座っている立てた膝の上に置いた腕に時折ユノの腕が当たり、その度に緊張する「そう、理想今までユノとはこういう話ってしてこなかったし、この機会に教えてよ」ユノは答えを渋っているのだろうかちらっと左側を見たら、ばちっと目が合った何となく避けられているような気がする、なのにこういう時はユノの方が僕をじっと見てくるその圧に負けて視線を先に逸らすのは僕の方が多くて、今もそうなってしまった「理想はチャンミンだよ」「僕が理想って…なんか適当じゃない?」かわされてしまったようでむっとしたでも、隣からはふっと笑う時の漏れた息と「本当だよ」という優しい声やっぱりかわされている、もしくは僕を傷付けまいと優しい嘘を吐いたのか…いや、夢の中の『僕』が理想だったのかもしれない「チャンミンは綺麗な子が好き…だっけ?」「…綺麗で可愛いに越した事はないから」「なのに、俺と付き合ってくれてありがとう」「理想と現実は別だよそれに、今はユノしか見えないし…」言ってから、何だか気持ち悪い言葉を口にしてしまったと気付いた引かれたかも、と思いちらっと左に視線を向けたらまた目が合って切れ長の目が弓なりになった『ユノはどう?』と聞きたかった、だけど聞けなかった引き出すなんて情けないし、優しいユノは模範的な笑顔で『チャンミンが好きだよ』と言いそうだから遠慮されたり無理矢理言わせたくない本心で好きだと思われたい、言われたい本当はもっと触れたいし…「…っ、チャンミン?」「え……あっ、ごめん無意識だった」いつの間にか、ユノの肩に寄りかかっていたしかも、左手でユノの手をぎゅっと握っていた「これじゃあ、ユノが食べられないし動けないよな」「大丈夫疲れたなら俺に寄りかかって」疲れてない大丈夫、なんて聞きたくない抱き締めたいし抱き締められたい手を握り返して欲しい恋人ってそういうものではないのだろうか経験が少なくたって分かるまるで倦怠期、もしくは別れる寸前のカップルのようだって「あ…そうだ、ユノスラックス、洗わないと!」顔が見られなくて視線を落としたら、昼休みにユノのスラックスにアイスが垂れた事を思い出した僕がお節介して拭いたから、ほとんど染みにはなっていないだけど気になって、スラックスの太腿に触れたユノは小さく、だけどびくっと揺れて慌てたように立ち上がった「ユノ?」「あ…うん、そうだよな着替えてくるよ適当に食べて待ってて」「うん…」ユノは逃げるように慌てて部屋から出ていったその背中が扉の向こう側に見えなくなってしまう瞬間に「そんなに嫌なのかよ」と呟いてしまった自分で放った言葉に心が傷付いた流石に嫌われているとは思わない、だけど避けられているとは思う理想に近付くどころか、尋ねても誤魔化されて教えてもらえない、これじゃあ何も始まらない「……」僕が一番好きなスナック菓子僕がそればかり好んで食べるからユノも好きになった、と以前聞いた事を思い出した今はそれが幸せな思い出になったのに、咀嚼しても何だか味がしない「ユノの馬鹿こんなに好きになっちゃったら、もう引き返せないのに…」胸が苦しい僕の事をひっそりと想ってくれていた時のユノもこんな気持ちだったのだろうか分からない、だけど、夢の中でユノを好きになって抱えた胸の痛みよりも両想いになったのに近付けない痛みと切なさの方が僕にとっては苦しいやけくそのように、味のしないスナック菓子を次々と頬張った色気よりも食い気、でも大好きなものを食べても心は全く満たされなかった━━━━━━━━━━━━━━━初々しいふたりを書くのが楽しすぎて、毎度の事ですが今回も長くなりました…あと一話で終わります読んだよ、のぽちっをお願いしますにほんブログ村
高校三年生の春クラス替えにあんなにも緊張して手に汗握り、新年度の数日前から文字通り祈るくらいだったのは人生で初めてだったその結果…「ユノ、早く食堂に行こう!」「うん…」「何ぼうっとしてるんだよ春だから?春眠暁を覚えず、って言うもんな」でも急がなきゃ、と俺の腕に触れるチャンミンぼうっとしていると思われたのも恥ずかしいけど、それ以上に頬が緩んでしまうのがバレる方が恥ずかしい表情筋に思い切り力を込めて立ち上がった「今年もユノと同じクラスで良かった新しい友達を作るのは毎回緊張するし、それに…」「俺もチャンミンと同じクラスで良かった最初から席も隣だしツイてる」「うん…なんか照れるな」高校三年生、今年の春は人生の春にもなった毎日毎晩の必死の願い、祈りが通じたのか必然だったのかは分からないけれども、強い想いは時に奇跡を起こすのだとこの身をもって知ったのはついこの間の事昼休み開始直後、廊下は生徒だらけ授業中は静まり返る廊下は今、ふたり並んで歩くには少し狭いくらいだ「…あ…チャンミンごめん、当たった」必然的に距離が縮まって、右側のチャンミンの手に指先が触れてしまった心臓は一気に飛び跳ねたけど、さっきのように顔に出たら恥ずかしいから何とか耐えてみせた「謝らないで良いのにちょっと触れるだけでもユノは嫌なのかよ」「……」悪い、とは思っていないだけど本音を出すと『嬉しい』になる校内で生徒だらけなのに言える筈も無いかと言って、何も言わないでいるのも難しくて出た言葉それをこんなにも突っ込まれるとは思わなかった「嫌だなんて有り得ないほら、親しき仲にも礼儀ありって言うだろ」それっぽい言い訳をしたチャンミンは納得いかない様子で唇を尖らせてしまった「僕は、偶然でもユノの手が当たって嬉しかった…ユノが好きだから」「……っ…」顔には出したくないしまりのない顔だと思われたくない恋に夢中で必死な男だと思われたくない少しでも格好良いと思われたい、ちゃんと、もっと好きになって欲しい願う事すら出来ないくらい不可能に近かった俺の片想いは届いただけでなく叶ってしまったけれども、今チャンミンから向けられる特別な想いは俺自身が努力した結果ではない未だに不思議だけど、チャンミンが俺の夢の世界に入り込んだとしか思えない夢を見た事で俺を意識してくれた、そうして俺達は恋人として付き合い出したのだ「自分に嫉妬する日が来るとは…」食堂に向かい、俺の半歩前を急ぎ足で歩くチャンミンに聞こえないように呟いたチャンミンは夢の中で猫になった、猫のチャンミンを溺愛する夢の中の俺、に惹かれた現実の俺はと言えば、気持ちを伝えたり知られて友人関係が壊れる事を恐れ何も出来なかった男つまり、どんな風に今のチャンミンと接したら良いのか分からないずっと好きだった事は現実でも伝えたが、それ以上の『何か』と言えば手を繋いだりキスをしたくらい不思議なあの夜、身体が素直に反応してしまったしそれを知られてしまったけど、それ以上の疚しい事はしていない何か、をして嫌われるのが怖い「ユノ!こっち!!遅いよ」「今行く!」食堂で席を確保したチャンミンはこちらに向かって大きく手を振っているその手が別の生徒に当たって、慌てて頭を下げてから「早く」と唇を動かしてまた俺を見るこんな光景は友人だった時と変わらない、でも…「ああもう、しっかりしないと」また、緩む頬に力を込めて表情を引き締めた「お待たせ、チャンミン」「遅い早く並ぼう、ユノは何にするか決めた?僕は日替わりの激辛ラーメン!」拗ねたように俺を見るチャンミンこんな表情は、あの不思議な夜以前は見せてくれなかった彼は今、俺に特別な感情を持ってくれているお陰で一緒に居ると毎分毎秒冷静で居られなくなる程に幸せで、そして同じくらい不安になる涼しい顔で激辛ラーメンを食べたチャンミンが暑いと言うから校舎の外のベンチで涼む事にした食後のお供の棒アイスを並んで食べるだけで、まるでデートのようだなんて思ってしまう「なんかさあ、これもデートなのかな?」「……っ…」心を読まれたのかと思って噎せてしまった情けなくて恥ずかしい顔を逸らす俺を覗き込むようにして、何も知らない大きな瞳が近付いてくる「大丈夫?」「……大丈夫」大丈夫、と答えたその声が思い切り掠れているチャンミンが空いた手で背中を擦ってくれた嬉しいけれどもそれ以前に情けない触れられてどんどん速くなる鼓動に気付かれたくないこんなに余裕の無い男だと思われたくない『夢の中のユノ』じゃない現実の俺はチャンミンの前で格好付けてきたのだ今更キャラ変更?無理夢の中のユノなら許されても、現実の俺がチャンミンを溺愛して理性を無くしたら一気に嫌われるかもしれない、やはり無理「チャンミンありがとう、もう大丈夫」「本当に?涙出てる」「え……っ…」何でも無い顔を精一杯作ったのに、子首を傾げたチャンミンが顔を近付けて俺の目元に触れたから裏返ったような声が出てしまった「ほら、大丈夫じゃないじゃん噎せないように気を付けろよ」これが聖母の微笑み…いや、チャンミンは男だからこの場合何と言うのだろうか至近距離で警戒心ゼロ、どころか慈しむように見つめられたら押し倒したくなる衝動に駆られる「ユノ、チャンミン!何イチャついてるんだよ見せ付けるなよ」聞こえてきた声にはっと我に返ったチャンミンもすっと俺から離れただけど…「羨ましい?良いだろ」偶然通りかかったらしいクラスメイトの揶揄いに、チャンミンはとんでもなく可愛い笑顔で答えた「羨ましいから俺も早く彼女作るわ」じゃあな、と手をひらひら振るクラスメイトと手を振り返すチャンミンそれを呆然と眺める俺「うわっ!ユノ!!」「…え?」「アイス!落ちてる!」大きな瞳を更に大きく見開いたチャンミンの言葉で、左手に持っていた棒アイスが棒だけになっていた事に気付いた幸いな事にベンチは汚れていなかったけど、またしても情けない姿を見せてしまった「ちょっと待ってて」そう言うとチャンミンは溶けかけの棒アイスを口にくわえた口元を凝視してしまった、一瞬にして良からぬ事を連想してしまったチャンミンが戻ってくるまでに落ちて溶けてしまったアイスを拭かなければ、と思いスラックスのポケットからティッシュを取り出した屈んで拭き終わったところに、もう何もくわえていないチャンミンが戻ってきた「ユノってたまに抜けてるよなあ」「チャンミン?え…」「動かないで」チャンミンは突然、俺の前に跪くようにして腰を屈めたつまり、今彼は俺の股の間に居る流石に妄想や想像でも『それ』はしていないそれに近い事は想像してしまった事はあるけれど「チャンミン、何を…!」「気付いてないの?アイスで汚れてるから早く拭かなきゃシミになるだろ」どうやら、チャンミンはハンドタオルを濡らしてきたらしい左の太腿に少しだけ垂れていたアイスを拭うチャンミンは「ユノのお世話をするのも良いな」と機嫌が良さそうに見える俺には、お世話というか別の事に見えてしまうこんな不埒な思いを抱いているだなんて知られる訳にはいかない「ありがとう、でも自分でするから…」「駄目、僕はユノの彼氏だよね?これくらいさせてよ」「……はい」股の間にある可愛い顔が俺を見上げてじっと見つめてくる押し倒してしまいたい、いや、その前に思い切り抱き締めて攫ってしまいたい、顔中にキスしたいだけど言えない、現実の俺は、チャンミンの友人として過ごしてきた俺はそんな男じゃないから目の前のチャンミンは俺の恋人になった、だけど目の前のチャンミンは夢の中のユノに恋をしたのだから人生の春が訪れた叶う筈の無い想いが通じたそれなのに怖くて仕方無い無邪気に好きだと言ってくれる、好意を隠そうともしないチャンミンに素を出したら全てが終わってしまいそうで怖い「ユノ、今日放課後ユノの家に寄っても良い?」「うん、もちろん…」「へへ、楽しみ」顔全体で感情を露わにするチャンミンを見下ろしていたら、抱き締める事は我慢出来ても表情管理には失敗してしまった「ユノも楽しみ?」「楽しみだよ」「…聞かなくても分かったけど、嬉しい」表情管理更に失敗、制御不快それなのにチャンミンは嬉しそうに笑って隣に座ってくれたさっきまでよりも距離は近付いていて、ぴたりとくっ付いた肩と肩から体温が伝わってきた表情管理はもはや制御不可だけど、チャンミンには現実の俺をちゃんと好きになって欲しいし幻滅されたくない放課後も冷静に余裕をもって過ごそうと心に誓った━━━━━━━━━━━━━━━先日のお話のその後、です書き出すと止まらないくせがあるので色々浮かんでしまいますが、前後編予定で何とか収めようと思います続きも読んでいただけたら幸いです読んだよ、のぽちっをお願いしますにほんブログ村
これは絶対に現実そうじゃ無きゃ困るこれ以上何かあれば頭が混乱してどうにかなりそう「痛っ、痛いよチャンミン!」「痛くしてるんだってユノもほら、思いっきり叩くか抓ってよ」寝起きのユノの頬をむぎゅっと抓ってから、今度は自分の顔を差し出すようにぐっと近付けた僕の部屋、僕のベッドシングルサイズのベッドは育ち盛りの男ふたりが乗って動くと時々みしっと悲鳴をあげる「チャンミン、ちょっと近い」「はあ?僕を抱き枕にして寝てたやつが言う?」「……ごめん…無意識だったんだ」謝られると調子が狂う男同士、それなりに仲の良い友人であるユノと僕彼は元々今夜この部屋に来る予定だったし、それを忘れて眠ってしまった僕が悪い旅行帰りで疲れていたであろうユノは僕が起きるのを待ちながら眠ってしまっただけで、男同士で抱き枕にされて怒るものでも無い「…夢で嫌って程ユノに抱き締められたり頬擦りされたり、とにかくベタベタされまくったから今更だよ」「まじか…そうか…そうだよな……嘘みたいで信じられないけど、俺が毎晩あの夢を見ていなければこんな事にならなかったと思う」「何だよ、さっきから反省モードだなあもっと堂々とすれば良いだろ『俺のチャンミン』って何度も何度も言ってたんだから」殆どは僕の夢の話現実ではさっき、目が覚めた時に聞いた一度きりだけど、どうやらユノも猫の僕と過ごす夢を見ていたらしいし夢の延長での言葉だったから、夢の中でも繰り返していた筈「で…ユノはその…何で僕が猫になるような夢を見たんだよ」本当は、今夜ユノと会ってお土産を貰って旅行先での話を聞いて、普段通り過ごす予定だったそんな事も忘れて眠ってしまうその前までは、ユノを特別に意識した事は無かったなのに今は、友人のユノが僕に対してどう思っているのか、が気になって仕方無い夢の中のユノとついさっき目を覚ましたユノ同じでは無いと分かっているけど、同じであって欲しいと思ってしまっているだって、僕は夢の中で人間の自分にすら嫉妬したくらい…夢の中でユノに恋をしてしまったから「何でって…」ベッドの上で向かい合って座っているあぐらをかいて堂々と座っていたら少し冷えたから、毛布を引っ張って巻き付けようとしたらユノが手伝ってくれた「僕にばっかり掛けたらユノが冷えるよ」「ありがとう、でも、今は反省モードだから良いんだ」何を反省する必要があるのか分からないと一瞬思ったけど、多分僕を抱き枕にしていた事だろう薄手のブランケットをユノに渡した風邪なんて引かれたら困るし、反省して欲しいなんて思っていないから「チャンミンは…?」「え?」「逆に聞くけど、チャンミンはどうして俺の飼い猫になる夢を見たと思う?心当たりは?」真剣な顔で聞かれたから考えてみたあるとすればひとつだけだ「寝る前に、あの歌を聞いてたからかなそれで、ユノの事を考えていたかも」「え!俺の事?!」「大きい声出すなって…」目を大きく開けて何だか嬉しそうなユノに圧倒されながら、こほんと乾咳をして切り替えたユノが好きだと言う影響であの歌を聴く事が増えた事聴いていたら以前よりも歌が好きになった事『一日だけでも良いから好きな子の飼い猫になりたい』そんな歌詞を理解出来る、と言ったユノの言葉を思い出していた事「僕はあんまり分からなかったけど…ユノには実は好きな子が居るのかな、とか、ユノは僕より進んでる気がするとか、そんな風に考えてたでも、勘違いするなよ!ユノを好きだったとかじゃ無いよ」慌てて付け足してから顔を上げたら、今度は沈んだように眉を下げて小さく「そうだよな…」と呟くユノ常に明るく前向きな友人のそんな表情を見たのは初めてかもしれなくて驚いた「どうしたんだよ、ユノそれじゃまるで僕を好きみたい……あ…」まだ頭は混乱しているようだ途中まで話して思い出したユノは多分、僕に好意を持っている友人以上の…きっと、多分恋愛感情を「…ユノは何で、猫の僕を飼う夢を見たの?」「俺は……ああもう、言うつもりなんて無かったし嫌われたく無かったのに」言いたげにしているのに、口を開くとまた閉じて逡巡する様子こんなユノも初めて見たもう少し見ていたい気もするけど、それよりも僕だって待つのが限界「早く言えよ、気になるんだって」「…もう分かってるんだろ?」「…分からないよ夢の中では聞いたけど、夢だし…」駆け引きなんて出来ないただでさえ恋愛初心者、自覚したばかりの恋に余裕なんて無い喉がからからになって唾を飲み込んだら音がした恥ずかしかったけど、前を向いたらユノが見た事無いくらい緊張した様子だった学校で大勢の前に立つ時よりも緊張して見えたから、僕だけじゃ無いのだと思えて少し落ち着いたユノはちらっと僕を見た、けれども直ぐに視線を逸らされた追い掛けるようにじっと見たらばちっと目が合ったから恥ずかしくなった今までこんな事は無かったのに不思議だ今度は僕の方が視線を逸らせなくなった冷静でいられないのを悟られないように、必死に平静を装った「好きだから俺だけのチャンミンになって欲しかった」目を見ながら、至近距離でこんなにもストレートに気持ちをぶつけられた事も初めて慣れていないから、頭が真っ白だまた喉が渇いて、もう一度唾を飲み込んだ「嫌われたくないし関係を壊したく無かった言える訳無いし…俺、物凄く勝手だろ」「……」ひと言、『言えば良いのに』と言いそうになったでも、夢を見る前の僕がそう言われたらどう感じただろうか変わらずに友人としてやって行けたかなんて分からないし、気持ちに応えられるかなんて分からないそもそも想像すらしていなかったのだからユノが話す通り、彼は僕の事を思って関係を壊さないよう何も言わなかったのだろう、と少しは理解出来た「チャンミンが同じような夢を見たって知って、考えれば考える程情けないし恥ずかしいし申し訳無い気持ちでいっぱいだよなのに、突き放さないでくれてありがとう」「猫にされたとは思わなかったし、もう人間に戻れないのかもって思って不安だし怖かったよ外に出ようと思っても出られない、なのにユノは僕を置いていつも通り学校に行くし…」「…チャンミンに本当に猫になって欲しかったんじゃ無いよ不安にさせたり怖い思いもさせたく無いし…」恥ずかしさと申し訳無さが混じり合ったような、見た事無い顔をしたユノは腿の上でぐっと拳を握っている夢で不安になったり怖くなったりしたのは夢の中での真実でも、それを現実のユノが謝るのには違和感不思議だし良く分からないけど、夢だったのだから「良いよ、今日は遅いしまたゆっくり話そで…何で今度はそんなに距離を置こうとするんだよ」「え…いや、チャンミンこそ…何でそんなに近付いて…」友達だったのに、普通の、普通よりは少し親しい友達だと思っていたのに何事にも動じない完璧なやつだと思っていたのに、僕が近付くだけで慌てふためくだなんて知らなかった「猫の僕にはゼロ距離だったのに」「それは…」「僕だけの夢?でも、元々はユノの夢なんだよね?」僕達が全く同じ夢を見ていたのかは分からない分からないけど、焦って顔を赤くするユノを見たらもっと近付きたくなる悪戯心じゃ無い、夢を見て抱いてしまったユノへの特別な気持ちからくる欲求「チャンミン…!」「…捕まえた僕ばっかりユノに良いようにされるのは狡い僕だってユノを可愛がりたいよ」猫じゃ無い、僕はユノと同じ人間当たり前の事実、現実だけどあの夢の後だから物凄く特別な事に感じるベッドの端、壁際まで追い詰められたユノをぎゅっと抱き締めたら『好き』と強く思った夢が切っ掛けだけど、触れる温もりも今の僕のこの感情も確かに現実だと思うと安堵した「チャンミン、えっと…」「ユノが好き夢だけじゃ無くて、今こうしているだけで幸せ」拒否されないし押し返される事も無い密着していて顔は見えないけど、ユノの声で焦っているのは分かる猫になった世界では小さ過ぎて僕には何も出来なかった、だけど今は違う満足感と高揚感でいっぱいになって、そんな気持ちのままユノの小さな頭にちゅっとキスをしたそう、夢の中で僕がされたように「チャンミン…」「ん?」夢では恋心のようなものを自覚してから辛くて仕方無かった自分に嫉妬して苦しかったそれらから解き放たれて浮き足立っていた僕は、ユノの声が低くなったと気付くのが遅れたあれ?と思った瞬間、身体は引き剥がされてそのまま…「うわっ!…ユノ?」あっという間に体勢は代わり、仰向けの僕をユノが見下ろしていた「…チャンミン、俺を揶揄ってる?勝手に好きになって勝手な夢を見て、悪いのは俺だけど…だからって、これ以上煽られたら止められなくなるよ」「…は?何言って…」僕を夢の中で猫にしておいて、ユノは何を言っているのだろうそれこそ揶揄われているようだけど、僕を見下ろす目は真剣で冗談で返せるような雰囲気では無い手首はしっかり掴まれているし、腰の上に乗られているから動けない「さっきは俺の事を好きじゃないって言ったよな?なのに、今度は好き、だなんて…」「それは…夢を見る前の話だよ!今は…さっき、だけど、ユノを好きだってちゃんと思った嘘じゃない、揶揄ってない」夢では言葉が通じなかったでも、ユノはひたすら僕を溺愛していた人間のチャンミン、に確かに恋愛感情を抱いていた言葉は通じなかったけど分かりやすかった現実は言葉が通じるのに簡単じゃない「猫だと『置いていかないで』『僕だけを見て』って言っても言葉が通じなかった元に戻ったからちゃんと伝えたのに、なのに信じてもらえないのかよ…」「…チャンミン…」言葉が通じても信じてもらえない事が悔しいやっぱり夢の中と現実は違うのか「もう好きになっちゃったのに…どうしたら良いんだよ」悔しさで目頭が熱くなった悟られたくなくて、唇の内側をぎゅっと強く噛み締めて顔を逸らした「…俺は…もうずっと前から、チャンミンが好きだよ」「……」「言えなくてごめん隠してきたし、夢の事も驚いたし動揺したチャンミンが突然こんな風になって、嬉しいけどそれよりもどうしたら良いのか…」「……結局、嬉しくないって事?」「違う!そうじゃ無くて…チャンミンの夢の中の俺がいたからチャンミンが俺を好きになってくれた、て事だよな?夢の俺の方が良いのかな、とか複雑だし…」手首を掴む手はいつの間にか外されていた自由になった身体でユノから逃げるように横を向いていたけど、もう一度振り向いてユノを見上げた膝を立てて座るユノの彷徨う視線を捕らえたら、ばちっと目が合った「僕だって夢の中の『人間のチャンミン』に嫉妬した辛かったし寂しかった」「俺が好きなのはチャンミンだよ」「…僕が好きになったのもユノだよ夢が切っ掛けだけど、さっきユノを抱き締めて確信したそれじゃ駄目?」起き上がって、もう一度ユノに触れたもしかしたら拒絶されるかも、という不安が芽生えたから握り締められた手に重ねるようにそっと「今までは触れても緊張しなかったどれだけ仲が良くても、ユノが相手でも、男同士で必要以上に触れるなんて有り得ないって思ってたでも…」「でも?」「どきどきする」拒絶されたらどうしようこの胸の高鳴りに気付かれたらどうしよう気付いて欲しい、だけど恥ずかしいもっと触れたい、でもどうしたら分からないそんな緊張感は初めて感じるものだった「現実のユノは僕に触りたいって思わないのかよ」汗がじんわり滲んできた恥ずかしい、でも触れていたい緊張で震える手に力を込めて、触れ合う箇所を見下ろしていたら握られた拳がぱっと開いた「…あ…ユノ…」「またそうやって煽る」「え?…っ、擽った……ユノ!」僕が触れるばかりだったのに、突然ユノの手が僕の手や指や腕に触れてくる触れられているだけなのに、何だか妙に恥ずかしくなる擽ったくて痺れるような感覚まるで夢の中で猫として可愛がられていた時のような感覚「ん……っ…」ぎゅっと目を瞑って耐えていたら、強く抱き締められた耳元で大きく深呼吸するユノの吐息触れ合う胸と胸から走る鼓動が伝わってくるユノも僕も何故か息が荒いそして…「うわっ!!ユノ…っ…」「…チャンミン、声が大きい…!」右足の付け根辺りにごりっと固い何か、が当たって気付いてしまった思わず声を上げたら焦り顔のユノが大きな手で僕の口を塞いだ「…だって…」「悪い、でも、チャンミンが可愛い声を出すから…」「はあ?!可愛く無いよ」突然大きくしたユノに驚いたけど、不快、どころか何故かそわそわする嬉しい、と言って良いのかは分からないけどそれに近い気持ち困るユノの方が可愛くて優位に立てたような気分になっただけど…「チャンミンもちょっと大きくなってる」「え……っ!!」指を差されて見下ろして、絶句した恥ずかしくて堪らない、消えてしまいたいだけどユノが嬉しそうに笑って、また僕の手を妙な感じで触ってくるからもっと反応してしまう「ユノ、もう…!」「もう、何?」「今日は遅いから帰った方が…」いつの間にか僕の方が追い詰められている浅い息で必死に伝えたら、ユノの攻撃は止まっただけど、にっこりと笑顔で見せられたスマートフォンのメッセージで目眩がした「だってさ」「………」それは、僕達の母親同士のメッセージのやり取り僕の元にやって来たユノが僕と一緒に眠ってしまった事に気付いた母親達によって、ユノはこのまま僕の部屋で一晩過ごす事が決定されていた「この状況でユノと朝まで…寝られるかな」「それは俺もだけど、今はチャンミンと離れたくない」「……っ…」友達からこんな事を言われてときめく日が来るだなんて「チャンミンが俺を好きだなんて夢みたいだでも、夢じゃ困る」「僕だって夢じゃ困るよ」もうあんな夢は懲りごり、二度とごめんだだけど夢のお陰で二度と出来ないような恋に出会えた「ユノ」「ん?」「僕を好きになってくれてありがとうでも!二度と僕を猫にするなよ?!」「うん」ごめん、と泣き笑いのような顔で謝るユノを見て胸が締め付けられた僕が夢の中で悩み苦しんだ時間の何倍、何十倍もユノは悩んだのかもしれないもう一度、ユノを抱き締められるこの腕で強く抱き締めて「ユノが好き」と伝えた噛み締めるように頷くユノから「ずっと前から好きだった」と返ってきて、それに気付かなかった頃の自分に少し嫉妬した「僕、割と重いタイプなのかな…」「何?チャンミン」「何でも無いこうしてたらまたユノが固くなるかもしれないから終わり!」ばっと腕を離したけど、結局この後抱き締められて、朝までぴったりとくっ付いて眠った男らしく僕から抱き締めるのも良いし、夢では出来なかった事だから良かっただけど、夢の中で抱き締められた心地良さを思い出して幸せだったユノから抱き締めてくれなかったら痺れを切らして『ユノもちゃんと僕に触って抱き締めてよ』なんて恥ずかしい台詞を口にするところだったから良かった途中何度も目を覚まして眠れなくなったし、その度に顔中にキスされたり身体が熱を持て余して大変だったでも、寝ぼけていても朝になってもずっと夢じゃない、現実だったし僕達の日々はまだ始まったばかり━━━━━━━━━━━━━━━毎日更新の筈が結局間が空いてしまいましたしかも、短くさらっと終わる予定が書き始めると案の定長くなってしまい…ですが、個人的に楽しんで書いたので読んでいただけて嬉しいです本編は終わり、で、もう1話だけ今度こそ短いその後を更新したいなあと思っていますその時はまたお付き合いいただけたら嬉しいです最後に、読んだよ、のぽちっをお願いします 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Side Y片想い歴、それなり相手は告白なんて出来ない同性の友人ドラマなんかで『今の関係を壊したく無いから好きだと言えない』と出てくるけどまさにそう…いや、対異性の恋愛模様を描くドラマよりも俺の方がもっと切羽詰まっている切羽詰まってはいるけど、深刻で思い詰めるような恋では無かった友人として特別な位置に居られるように努力した結果、自分なりに満足出来るくらい近くに居られる何かあれば頼ってもらえるし、お互いの家に行き来したり親も公認の仲の良い友人になれた告白して砕け散って今の関係を壊すよりも、このまま仲の良い友人のままで居た方が良い何もせずに端から諦めるのは信条に反するだけど諦めたのでは無く、近くに居られて満足しているチャンミンが彼女を作るよりも俺と居る方が楽しい、と思えるように努力すれば良いのだとずっと言い聞かせてきた「……流石に重症だろ…」目覚めは良い方、そんな俺の起床直ぐの言葉がこれ目覚めは良いし夢から覚めたら直ぐに『あれ』は夢だと分かる、現実と混同する事なんて無いだからと言って良いとは言えない、いや、夢自体は幸せなものだし目が覚めて現実に戻ってきても思い出すと顔の筋肉が緩んで締まりの無い表情になってしまいそうだけど…「ユノ?起きたのか?」「…父さん、おはよう早いね」隣のベッドで眠った父親は既にシャワーを浴びて身支度を整えていた彼が目を覚ました時に、夢の中で幸福に包まれていた俺が変な顔をしていなかっただろうか、とふと思った「俺、寝言とか言って無かった?」「急にどうした?何も気にならなかったよ」「…良かった普段は同じ部屋で寝ないから気になっただけ」両手で顔を覆って父親の視線から逃げた春休みを利用してやって来た家族旅行日常から離れて旅先に来ても、俺はと言えばあの日から毎晩繰り返す夢を見ているひっそりと片想いを続ける友人、チャンミンが俺の可愛い飼い猫になる夢夢の中では日常のまま俺の部屋、俺のベッドに猫のチャンミンが居る朝起きると俺の胸の中に居て、寒そうに小さく丸まっている甘えるように鳴いて見上げてくる大切で可愛くて愛おしくてキスをしたら、たまに反撃に遭う事もあるけど何をしても許してくれる夢の中では春休みなんて無くて、冬の日を繰り返すチャンミンと離れたくないけど学校に行って、学校では人間で友人のチャンミンと一緒に過ごす日中は伝えられない気持ちも帰宅して俺を待つ猫のチャンミンには幾らでも伝えられる『大好きだよ』『チャンミンだけだ』『俺だけのチャンミンになって』夜は必ず同じベッドで眠るし、夜中に起こされても幸せしか感じない伝えられない健気な片想い、だったのは過去の話身勝手なエゴが生み出した願望は毎晩毎晩夢となって現れるせめてもの救いは人間のチャンミンに対して肉欲を具現化したような夢は見ていない事流行りの歌の歌詞にあった好きな相手への願望とは言え毎晩夢にまで見るのは充分おかしいおかしいとは分かっていても幸せ、夢で満足出来ればこのまま現実と夢を区別して生きていけるだから大丈夫なのだと自分に言い聞かせて、家族との旅行を楽しんだ「オッパ、凄く嬉しそうだね」「え?楽しかったよな、旅行」誤魔化したけれども、隣に座る妹はまるで何かを見透かそとするようにじっと見てくる旅行も終わり見慣れた景色の街へ戻ってきた最寄りの駅からバスに乗った道中の事「旅行は終わっちゃって後は現実に戻るだけ、なのにそんなに嬉しそうなのはどうして?」「家族四人の旅行は久々だし楽しかったなあって思ってたお土産も色々買えたし写真も沢山撮っただろ?現実も…まだ春休みも残ってるだろ」「そうじゃ無いってば…この後が楽しみなんでしょ?オッパの顔に書いてあるよ」「……友達に会いに行くのに楽しみなのは普通だ」普段は兄を揶揄わない妹にこれ程言われるくらい、顔に出ていたとは思わなかった少し伸びた前髪をかき上げて整える振りで、これ以上の詮索はかわす事にした現在時刻は夜の八時過ぎ少し遅くはなってしまったけど、春休みでただでさえ毎日会えないからこそ少しでも早く会いたかった「じゃあ…遅くなりそうなら連絡する」「シムさんご両親にも宜しく伝えてね」「分かってるでも、母さんもチャンミンの親に直接連絡してるんだろ」そうよ、と笑う母親と家族家族ぐるみの仲では無いが母親同士は連絡を取り合う仲だから旅行帰りのこんな時間でも堂々とチャンミンの家に立ち寄れる恋人になれなくても、それなりに特別な友人の位置だと思う「じゃあ俺はここで…」重たい荷物は親に預けて、身軽になって自宅よりも少し手前のバス停で降りた降りるまでは平静を装って、家族を乗せたバスが発車してからスマートフォンを見た「一応入れておくか」チャンミンとのトーク画面で『バス停に着いた』と送信した毎日やり取りはしていない、だけど数日の旅行中は普段の休日よりも頻繁にやり取りしていたと言うのも、旅行先にチャンミンが好きな立体パズルの大型施設があったから普段よりも沢山写真を撮ってチャンミンに送ったし、お土産を買ってこうして早速手渡す事にした今日のメッセージを見返すと、我ながら少し必死にも見える『チャンミンが家に居るなら、帰りにそのまま寄って渡すよ』と送信したら『疲れてるだろ、今度で良いよ』と返されてしまった間髪あけずに『大丈夫、折角だし早く渡したい』と送信した「…勘違いしたら駄目だって分かってるけど…はあ…」『本当は早く見たかったから嬉しい』チャンミンの言葉を噛み締めて、緩む頬にぐっと力を入れた早く見たい、のは俺の姿じゃ無くてお土産俺に早く会いたいのでは無い分かっていても、夢の中で俺だけに懐く猫のチャンミンとその言葉が重なってしまう春休みに入り、毎晩見る夢の所為で勘違いしそうになるだけど流石に夢と現実は別だとしっかり理解している今は現実、俺達はただの少しだけ仲の良い友人言い聞かせながらチャンミンの家への道を歩いた「チョン君、お土産ありがとうね後でお母様にもお礼を伝えなきゃ」「気にしないでください両親もシムさんにくれぐれも宜しくと言ってましたあと、ジュースとお菓子も持っているのでお気遣い無く…」シム家に着くまで、送信したメッセージは既読にならなかっただけど気にしない、事前に大体の時間は伝えているから家族宛てのお土産もしっかり渡して『礼儀のある友人』として笑顔で、こんなひとつひとつの行動が大切だ「……」チャンミンの部屋の前で一旦止まって、誰にも見られていない事を確認してから深呼吸した部屋の中からは何も聞こえない、漫画やゲームに夢中になっているのかもしれない「チャンミン、入るよ」声をかけて、それからノックした反応は無いイヤフォンでも着けているのかも、と思ってもう一度だけノックしてからゆっくりと扉を開けた「チャンミン……何だ、寝てたのか」そうっと扉を閉めて、ゆっくりと音を立てないようにしてベッドへと向かったノックしても声をかけても起きなかったから多少の物音では起きないかもしれない、だけどふたりきりの空間で好きな相手の寝顔を見られるだなんて特別過ぎるイベントを逃す訳にはいかない穏やかに寝息を立てて、ベッドの上で猫のように丸まって眠るチャンミンその寝顔を至近距離でじっと眺めていると、夢の中の猫のチャンミンを思い出した「おんなじ表情に見える、不思議だな」不思議だけど、そもそもあの夢は俺の願望の現れそう思うと当たり前なのかきっとその内に目を覚ますこれは現実でチャンミンは猫じゃ無い現実のチャンミンなら、目を覚ました時目の前に俺が居たら甘えるように鳴くなだんて以ての外驚いて叫ぶか…もしくは動じず冷静に『いつの間に来たんだよ?!』なんて言うかもしれない早く話がしたいチャンミンの喜ぶ顔が見たいだけどこのまま寝顔を見ていたい気持ちもある「……ふぁ…」噛み殺す事無く思い切り欠伸したついさっきまでは気分が高揚して忘れていた眠気はチャンミンに会えて彼の寝顔を眺めた事で戻ってきたチャンミンも中々起きないし、少しだけ…そう思って、彼がベッドの片側に寄っているのを良い事に隣にお邪魔しようと決めた「友達だし、何もしないし…ちょっと横になるだけ」言い訳にしかならない事を呟いて、そうっとベッドに身体を横たえるシーツに広がった柔らかなチャンミンの髪の毛が鼻先を擽って何とも言えない気持ちになる抱き締めたくなる気持ちをぐっと堪えて、横向きに眠るチャンミンの背中と丸い頭を眺めながら眠気に抗った結局俺はそのまましっかり寝落ちしてしまった無意識だったから眠ったつもりなんて無かったしかも、現実のチャンミンの後ろで眠りながらも毎晩見る夢を見てしまい…つまりは、夢の中で俺だけの大切で可愛い『猫のチャンミン』と戯れて幸せな時間を過ごした抱き締めるとリアルな感触、体温すら感じられた夢も何度も繰り返す事で精度が上がっていくのだろうか、なんて思った「チャンミン、一日でも良いから俺だけの…」猫のチャンミンが普段よりも温くて抱き心地が良かっただからだろうか、人間のチャンミンを抱き締めているような錯覚に陥って、夢の中で願望をこぼした猫の姿じゃあやっぱり足りない優等生ぶって叶わない恋でも良い、なんて言い聞かせてきたけど本当は想いを伝えたい、叶う事ならば特別な友人では無く恋人になりたい「俺だけの、何?」ぐっと噛み締めた言葉の先を、誰かが聞いてくる猫のチャンミンは喋らないなら誰が?現実のチャンミンの声に似ている、これは夢だから遂に現実のチャンミンまで登場したのかもしれないそうだ、夢ならば言える「……俺だけのチャンミンになって」夢の中でもはっきりとは言わなかった言葉を口にした一気に緊張が高まった猫のチャンミンには『大好き』『愛してる』と言い続けてきたのに、現実のチャンミンへ向けた想いであるだけでこんなにも違うドキドキしていたら、猫のチャンミンが腕の中で身動ぎした逃げられないように慌てて手を伸ばして掴んだ「うわっ!!」「……え…」大きな声に世界がぐるりと回った否、目が覚めて眠っていた事に漸く気が付いたそして、俺はと言えばチャンミンのベッドでチャンミンを後ろから完全に抱き締めていて…「…チャンミン…!あれ、俺いつの間に寝て……え、夢?!」やばい、と思って起き上がり、ベッドの端まで移動した何処までが夢で何処までが現実だったのか、寝起きの頭では分からないいや、これもまだ夢の中かもしれないそうだ、きっとそうに違い無い出来るだけポーカーフェイスで、出来るだけ視線を泳がせる事無くチャンミンをちらりと見たチャンミンは驚いた様子、でも夢なら大丈夫「『俺だけのチャンミンになって』って何?」俺に都合の良い展開にはならないようだつまり、これは現実寝落ちしていつもの夢を見て、夢だと思い現実のチャンミンへの願望を伝えてしまった「チャンミンが猫じゃ無い…」大混乱、頭は真っ白こんな台詞しか出て来ないいや、だけどチャンミンが俺だけの猫になる夢、については俺だけしか知らないから今から誤魔化せるその後はどうしよう、と寝起きの頭で必死に考える俺に、信じられないような言葉が降ってきた「え?やっぱりあれって…夢じゃ無かったの?!」目が飛び出てしまうくらい驚いた友人に『猫じゃ無い』と言っても怒らないし不思議がらない、それどころか何かが腑に落ちたような表情寝ぼけて独占欲丸出しの酷い告白をしてしまってピンチだっただけど、寝癖のついたチャンミンは頬を紅潮させて寝「早く教えろよ!」と俺に詰め寄る何だか今までよりも距離が近い気がしてどうにかなってしまいそうな俺を落ち着けてくれたのは、扉の外から俺達を窘めるチャンミンの母親の声だった「静かにしなきゃ…て言うか、もうこんな時間だったんだユノがいつ来たのかも知らないよ」「…俺も、一時間以上寝ちゃったみたいそれで……まずはこれ、チャンミンに約束したお土産…」「あ!!そうだ、ユノが来る事忘れてた…」俺が物凄く楽しみにしていた事を忘れられていた忘れられていたから眠ってしまったのだろうかそう思うとショックだ「…ありがと、ユノほんの数時間なのに長い夢を見てたんだ……ユノの飼い猫になってユノに溺愛される夢」ショックな気持ちは一瞬で吹き飛んだ押し付けるように渡したチャンミン好みのお土産をじっくり見る事無く、俺をじっと見つめるその視線は今まで感じた事の無かったものだから「…そんな事、本当にあるのか?」「ユノの夢も教えてよ夢と、それから…僕の事をどう思っているのか、も」旅行帰り寝落ちからの寝起き夢だと思って無意識で言葉にした身勝手な独占欲そして、目の前にはまだ少し眠たそうに潤んだ瞳のチャンミン「チャンミン、これって現実だと思う?」「そうじゃ無きゃ困るよ猫だとユノに何を言ってもちゃんと伝わらないんだからはあ…人間に戻れて本当に良かった」「……嘘だろ…」羞恥でどうにかなりそうだそれと同じくらい、まるで俺の夢を共有したかのような友人の可愛さにもどうにかなってしまいそうだった━━━━━━━━━━━━━━━また間が空いてしまいましたが、今度こそあと1話です読んだよ、のぽちっをお願いします 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Side Y高校生になって出会った友人同じクラスになった偶然にも家が近かった初めは特別仲の良い相手では無かった周りには性格が全く違うと言われるし、当の本人である俺もチャンミンも異論は無いだけど、話せば話す程、同じ空間に居れば居る程何故か心地好くて彼との時間を楽しみに思うようになった性格、気質、趣味、食の好み、ありとあらゆる事が笑えるくらいに違うなのに、何かあった時に感じる事や思う事は同じ何もかも違っていても、そんな事は相手を信用するにあたっては関係の無い事むしろ違うからこそ一緒に居て楽しい「チャンミン、ごめん待たせて…」「……ん…ゆの?」「おはよこれ、待たせたお詫び」眠たげな友人に紙パックのジュースを差し出したまるで今戻ってきたように振る舞っているけど、本当は五分以上寝顔を見ていた友人だった…いや、今も変わらず仲の良い友人である彼の寝顔や寝起きのぼんやりした顔を見て恋を自覚したから、俺にとっては特別な姿「はあ?そんなの良いのに…」俺達しか居ない放課後の教室ううん、と大きく伸びをするチャンミンの目の端には涙が溜まっている思わず手を伸ばして指先で拭ったら、一瞬びくっと固まる「涙が零れ落ちそうだったから」「寝起きに欠伸すると何でか涙が出るんだよなユノも?」「うん」手を引いて、ぐっと握った舐めてしまいたい、と思った冗談だと後で言っても、そんな事を口にすれば流石に気持ち悪がられるだろうから言えない「で、生徒会の仕事は終わったの?」「ああ、チャンミンを待たせてるから急いで終わらせた」「へえそれは良い心掛けだな」冗談だよ、と子どものように笑ったチャンミンは立ち上がり伸びをした「ユノを待つ間に勉強かゲームしようと思ってたんだけど、気付いたら寝てたみたい」「それは良いけど、冷えてない?」「今日は暖かいから大丈夫」『友達』だから自然にチャンミンの手を取って確かめた『友達』の俺を良く知るチャンミンからすれば慣れている事だろうに、毎回少し驚いた様子で目を丸くするそんな姿も可愛いし、そんな姿も好きだからついやってしまう「僕は男だから良いけど…ユノ、女子にもこんな風にして触れたりしてないだろうな?」「無いよ相手を意識して無くても、変に勘違いされたら困るし…」「なら良いけどユノはただでさえモテるし、毎回断るのにも気を遣ってるのを知ってるから」本当は、男相手でもこんなに触れる事は無いチャンミンだけが特別チャンミンにも周りの友人達にも気付かれないように自然に振る舞っているだけ「ありがとう、チャンミンは優しいな」「…モテる、は一応否定しろよ」「あはは、そんなのどうでも良くて忘れてたそれにチャンミンだってモテるだろ」教室を出ながら無い無い、と肩を竦めたチャンミン本当にチャンミンはモテる、だけどチャンミンは多分鈍感で相手からのアプローチに気付いていないその内に相手も諦めたり他の男子に目を向ける事が多い…なんて、我ながら観察し過ぎだという自覚はある「寝癖付いてる」「ん?ありがと帰るだけだし良いよあ…でも、ユノの家にお邪魔するからちゃんとしておいた方が良いよな」自然に頭に触れて自然に手を離した直後、同じ箇所にチャンミンの手が触れる間接的に触れ合っているようでドキドキする「今日は猫の日、って話で思ったんだけど…チャンミンって猫っ毛だよな」「癖毛だから?朝は絡まるし風でも絡まるし、直ぐに寝癖が付くし…良い事無いよ猫なら飼い主がブラッシングでもしてくれるだろうけど、そうはいかないし」「なら、俺が一緒に居る時は何時でもブラッシングしようか」「ユノにそんな事させたら、女子達に『酷い!』って怒られそう…て言うか、自分で出来るしそれくらい面倒臭いって事」チャンミンは俺の真っ直ぐな髪の毛が羨ましいのだと言った俺はチャンミンが羨ましいのでは無くて、チャンミン自身が欲しい癖毛が良いのでは無くて、好きな相手だから癖毛も愛おしい好きだから全部欲しいし触れたい、それだけ約一ヶ月後には春休みがやって来る二月まだまだ冬、だけど暦の上では春だし、今日は季節外れに暖かな一日だった「寒っ…!やっぱり外に出たら寒い」「うん、早く俺の家で暖まろう」「そうしたら、今度は自分の家に帰るのが面倒になりそう」ダウンジャケットごと自分を抱き締めて首を竦めるチャンミンに「じゃあ、泊まっていく?」と尋ねたしょっちゅう泊まるような仲では無いけど、何度かお互いの部屋に泊まった事はあるそれもこれも、俺がチャンミンとの仲を自然に、かつしっかりと深めてきたからこそ「んん…どうしようかな泊まるのは流石に悪いし…ユノの家族に緊張するって言うか」「緊張?チャンミンらしいな俺には緊張しないの?」「ユノは友達なんだから緊張なんてしないよ当たり前だろ」嬉しいような、複雑なような…警戒されていないのは嬉しいどちらかと言うと内向的なチャンミンにとって、泊まりも出来る間柄の友人になれた事はとても嬉しいだけど、同じベッドや同じ部屋で寝ても緊張しないのは全く意識されていないという事で複雑それで良いしそうでは無いと友人関係を続けられいからこれで良い、なのに複雑「それって、チャンミンにとって俺が特別って事?」「そうだよこんな面倒臭い僕とずっと友達してくれるやつなんて少ないし、ユノは特別だよユノみたいな友達は大切にしないといけないって思ってるし、親にもそう言われる」「チャンミンを面倒臭いだなんて思わないよ他の誰より信用出来るし信頼してる」「…ふうん…そうそう、だから、うちの親なんて『ユノ君ならいつでも泊まりに来て欲しい』とかいつでも大歓迎だとか言ってて…」照れたように少し早口になるチャンミン『友人』として褒めたから照れているのだと分かっているけど、そんな顔を見るともっと好きになるし勘違いしそうになる勘違いなんてしないし、ちゃんと自分の立ち位置は分かっている、こうして心の中でひっそりと思うだけ結局この日は予定通り俺の家、俺の部屋でふたりで勉強して、その後チャンミンは彼の家に帰った遅くなったから家まで送る、と言ってみたけど『男だし、友達なのに気を遣うなよ』と返されたら何も言えなくなったそれでも心配だし一分一秒でも長く一緒に居たい、なんて本音は『友人』の顔をしていても言えない「…はあ……」『帰ったら連絡して、だなんて、ユノはまるで僕の保護者だよね』無事に帰宅した事を知らせるメッセージを見て安心した「保護者?チャンミンは鈍感だなあ鈍感なままで居てもらわなきゃ俺が困るけど」ベッドに横になって、シーツをぎゅっと握り締めたつい一時間前にはチャンミンがうたた寝していたベッド眠ってしまって遅くなれば、そのまま朝まで一緒に居られるかもしれない、なんて思っていたけどそうはいかなかった俺が保護者、だなんてとんでも無いこのベッドにチャンミンの痕跡が少しでも残っていないだろうか、と必死で顔を擦り寄せたり、寝顔を思い出してはあらぬ事を考えている、ただの下心だらけの思春期の男だけど、下心を加速させたら止まらなくなりそうだから必死でブレーキを掛けている「そうだよ、だから…」チャンミンの全てを知りたいあの流行りの歌の歌詞のように、一日だけでも彼の飼い猫になれたらまだ知らない彼の全てが分かるだろうかそう考えて、この汚い欲望を少しでも綺麗なものにしよう、としてきただけど無理猫になっても我慢出来ないそれよりも、彼が俺のベッドで一日中過ごして俺だけを見てくれるような、俺だけの猫になったら良いのに想像で彼を組み敷いてキスをして、不埒な事をするよりはまともなのだと言い聞かすそうして、この夜から毎晩のように夢を見るようになった好きだけど言えない、伝えられない、知られてはならない相手が俺だけの猫になる幸せな夢を━━━━━━━━━━━━━━━今度こそ後2話(か3話)です読んでくださってありがとうございます読んだよ、のぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
Side Y『オッパの感性は私よりも女子みたい』そう言われた事は忘れられない言葉を無くす俺に、妹は続けて言った『あくまでも感性の話オッパの見た目は男らしいから余計にそう思えるのかもオッパはモテるから、オッパを好きな女子からすれば嬉しいと思うよ』最後の一文については触れずに、そんな兄妹のやり取りがあったのだと話のネタにしていたら、クラスの友人達からも「だから余計にモテるんだろうな」「顔も良いし感性も繊細だなんて女子達からすれば理想でしか無い」と言われたモテないよ、と言ったら謙遜はいらないと友人達に即答されただけど、俺にとって唯一好きな相手に特別だと思ってもらわなければ何の意味も無いのだこの恋の相談は誰にも出来ないし、報われそうも無い不毛な恋「お、チャンミン戻ってきたか」「どうだった?やっぱり告白だろ?」向かい合って座る友人が俺の向こう側を見ながら呼んだ名前にドキりとした足音がこちらへと向かってくる、それだけで心臓は飛び跳ねそうになる事を俺以外は誰も知らない「違うよ仮にそうだとしても、皆が居る場で言う事じゃ無いだろ」「本当か?チャンミンはモテない俺達の仲間のままか?!」「はいはい、そうだよ僕達は爆モテのユノとは違うからね」『違う』なんて言われたら、それがどんな内容であれ切ない特に、今俺の隣の席に座った友人チャンミンからであれば尚更だ「じゃあ、わざわざ呼び出してまで何の用だったんだ?」「それは…」別のクラスの女子から外へと呼び出されたチャンミン俺が物凄く気になっていた事を聞いてくれた友人には心の中でガッツポーズをしたし賞賛を送った全てポーカーフェイスのままでひっそりと「言わないよ言うまでの事でも無い」「ええ、勿体ぶるなよチャンミン」「勿体ぶって無いし、告白された訳でも無いこの話は終わり!それより、僕が居ない間に皆で何の話で盛り上がってたのか教えろよ」頬杖をついて笑うチャンミンがちらりと俺を見たドキッとしたのと同時に、無意識でチャンミンをじっと見ていた事に気付いて焦った焦りなんて顔には出さないし、『いつも通り』普通の笑顔で何も無かったようにやり過ごしたもう何年もこうやって隠してきたから今更バレない自信がある「さっき…何の話だっけ?」会話の切り替え方も我ながら自然いや、男同士仲の良い友人同士でたまたまぼうっと見ていたって不審になんて思われないから堂々としていれば良い「ほら、ユノが女子よりも女子って話!」「え?ユノが??はあ?」誤解を生むような言葉、チャンミンは大きな目を更に真ん丸に大きくして俺と友人を交互に見ている誤解は直ぐに、今から解けば良いからそんな事は問題じゃ無い問題は、驚くチャンミンがあまりに可愛らしいって事「ユノはどちらかと言うと男、って感じだよむさ苦しい男、よりは女子達の理想の王子様って感じ」「王子様…はちょっと言い過ぎだし、持ち上げても何も奢らないからな、チャンミン」「奢って欲しいからって無理矢理褒めたりしないよ謙遜の仕方までユノはユノだよなあ」じっ、と俺を見つめて納得いかない様子のチャンミン誤解を解く必要も無さそうだし、こんなにも見つめてもらえたら今日は良い日だ「妹に言われたんだよ俺の感性は女子みたい、だから女子からすれば嬉しいんじゃ無いか、みたいに」「感性…」呟くチャンミン、もう彼の姿しか目に入らないチャンミンが戻ってきたら全部で四人になったからか、残るふたりはふたりでまた別の話で盛り上がり始めたようだし丁度良いここからは俺がチャンミンを独り占め出来る「ああ、そう言えばユノがこの間言ってた事を思い出した」「ん?何?」「あの歌…最近ユノがハマってて、お陰で僕までよく聴くようになった歌だよ歌詞に共感出来るって言ってたよね?僕にはあまり分からないし、ユノはロマンチストだなって思った」「『一日だけで良いから好きな相手の飼い猫になりたい』の事?」そうそう!と頷くチャンミンは、続けて「女子に喜んでもらう為とかモテる為に『僕も分かる!』とは言えないかなあ」と素直に苦笑いしている「あ!ユノの考えを否定した訳じゃ無いからな!」「分かってる」俺が知っている限りでは、チャンミンにはそれなりに長く続いた彼女は居ないさっきは謙遜していたけどチャンミンは女子から人気があるし、告白だって何度も受けているその中の誰か、と付き合っては短期間で別れたのが数回それが俺の知る限りでの、この友人の恋愛経験そこに割り込むだなんてまず不可能チャンミンは同性に対して恋愛感情を抱く人間では無いし、俺のように都合良くひとりだけに対しては性別も関係無い、なんて思う事も無いだろうから戦わずして負けるのは俺らしく無いだけど本気だからこそ慎重になる、全てを失って友人ですら居られなくなる事には耐えられないから、彼の一番の友人という位置を必死に守っている「我ながら、健気だよなあ」「何が?感性の話?」「え、いや…ええと、うん」じっ、と覗き込んでくる大きな茶色い瞳本音を口にしてしまいそうになるけど、この眼差しに簡単に負けるような生半可な覚悟の片想いでは無いこの気持ちはずっと閉じ込めていくと決めたし、夢や想像以外ではどうにかなる事は不可能だとちゃんと分かっている「そうだ、ユノさっき話をしてた隣のクラスの女子なんだけど…」「チャンミン、やっぱり告白されたの?」「違うって」隣の友人ふたりはもう俺達とは別で盛り上がっているから、小声で話せば聞かれる事は無さそうだそれでもチャンミンは言い難そうに様子をうかがってから、スマートフォンを取り出し素早く指を動かしたスマートフォンを見て、とジェスチャーされたから机の上の小さな機械を手に取ったチャンミンとのトーク画面に受信したばかりの新着メッセージがひとつ、それだけで物凄く胸が高鳴るのに内容は残念だった「連絡先の交換はしたくないから、今度会った時に直接話すよ」先程まで数分間チャンミンを呼び出していた女子は、俺との仲を取り持って欲しいとチャンミンにお願いしていたらしい間接的に伝えずに直接伝えたら良いのに…なんて言えない俺はどうやっても伝える勇気が出ないのだから「交換はしないって…ユノは端から断るの?」「うん」「良い子だったよユノを本当に好きなんだろうなあって思った」その言葉が俺をどんな気持ちにさせるのか、チャンミンは知らない友人同士、普通の会話チャンミンは何も悪く無いなのに、こんな時いつも胸がずきずきと酷く痛む叶わない恋の苦しみを知っているからこそ、自分に向けられる想いに対しても誠実に応じて断らないと、と思うようになった「考えてみたら良いじゃん!深く知ればまた気持ちも変わるかもしれない、あの歌詞みたいに相手を想うかもしれないから」「チャンミンは俺とその子に付き合って欲しいの?」「え…そういう訳じゃ…ただ、良い子だったしユノは物凄く良いやつだし!友達として思っただけで、押し付けたい訳じゃ無いよ」冷たく言い放ったつもりは無かったけど、しゅんとさせてしまったそこまで大人にはなれない、そこまで気持ちをコントロール出来ないだけどチャンミンは悪く無いから反省して「ありがとう」と伝えた「そうだ、猫と言えば…今日は『猫の日』らしいよユノは知ってた?」「そうなの?知らなかった」「じゃあ教えてあげるよ今日は何月何日?二月二十二日だろ?だから…」二、を『にゃん』と呼ぶからそれが三つで猫の日なのだと言うチャンミンがあまりにも可愛くて…「え、どういう事?チャンミンもう一回教えて」「だから…にゃんにゃんにゃん、って読めるだろ?それで猫の日…」「うん…」「ユノ、何で笑ってるんだよ」「え?いや、チャンミンが可愛くて…」隠し切れなくて思わず本音を漏らしたら、友人は耳まで赤くして揶揄ったのか、と怒ってしまったそんなところも可愛いし、まるで猫のようだそうだ、もしもチャンミンが、たった一日でも良いから俺の、俺だけの飼い猫なら…俺だけのものにして、閉じ込めて、他の誰も何も彼に近付けないように出来るのに「うん、そうだな…」あの流行りの歌は好きだし共感出来るだけど、もしも俺なら、彼の飼い猫になるよりも飼い主になって大切に大切にしたいそんな風に密かに思った━━━━━━━━━━━━━━━更新が空いてしまいました予定よりも少しだけ伸びそうです、が、後2.3話です最後までお付き合いくださいね読んでくださってありがとうございます読んだよ、のぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
「チャンミン!!」勢い余って二階の部屋の窓から落ちてしまった猫の姿の今なら、怪我ひとつせず華麗に着地出来るだろうなのに、ユノはと言えば驚きと焦りが混じったような顔で両手を目一杯広げ伸ばして僕を受け止めた後で思えば、ユノの隣には人間のチャンミンが立っていたのに猫に向けて同じ名前を呼ぶなんておかしい人間のチャンミンには、猫に同じ名前を付けた事を秘密にしていたのに自らそれをばらすような結果になるなんて笑えるでも、この時猫になった僕は『嬉しい』と思ったそれはきっと一種の優越感同じチャンミン、でも僕を選んだという優越感人間のチャンミンがその時どんな表情だったか、なんて…表情どころか顔全体にモザイクがかかったように何も見えなかったのに「良かったチャンミン、本当に…」僕を強く抱き締めて泣きそうな声そんな風になるなら、僕が窓から飛び落ちてしまう前に帰って来いよ人間のチャンミンにばっかり鼻の下を伸ばしてないで、『チャンミン』と名付けたからには僕にだってもっと愛を注げよそう言おうとしたけど言葉にならなくて止めた言葉にならなかったのは、ユノに抱き締められて胸いっぱいになってしまったからその隣に僕の『在るべき姿』が立っていたもしかしたら元に戻れるチャンスかもしれなかったそれなのに、そんな事はどうでも良くなってしまったのは優越感の所為だろうか自分は猫だって受け入れ始めているのか、それとも…「チャンミンは本当に俺の事が大好きなんだな」「っ、何言ってるんだよ!勘違いするなよ!」気が付いたら、ユノのベッドでユノに抱き締められていた人間のチャンミンはもう居ない何か言っていたのか、『猫のチャンミン』に驚かなかったのか何も分からないままなのは、それだけ僕の気が動転していたのか「いや、流石におかしいだろ…」そんなの言い出したら猫になってから全部そうこの世界は全ておかしいだけど物凄くリアルだユノの家、家族、部屋、ユノという友人の存在それらは全て僕が知る現実と同じけれども現実にユノは猫を飼っていなかったユノは、まるで恋をしているような顔で僕を見てはいなかった「…ああ、でもそう言えば…」僕の名前の響きが良い、とは言われた事がある僕らしい名前だとか、自分では良く分からないような事も言っていたそう思えばやはり、ここは現実をベースにした何かしらの世界で過去なのだろう「チャンミン?」「何?毎回答えたって会話にならないじゃんユノ、って呼んだって…」ユノの方が猫よりも余っ程、喉をゴロゴロと鳴らしているように見えるつまりそのくらいでれでれしているし猫のチャンミンを溺愛しているだけどやっぱり違う人間のチャンミンとメッセージのやり取りをしていた時のあの表情とは全く違う「ユノは、僕…チャンミンの事をどう思ってるの?…それがもしも分かっても、これは僕の現実じゃあ無いし、それなら意味なんて無いか」頭から背中までゆっくり撫ぜられている気力で何とか抗っていたけど、どれだけ気を張っても瞼が重たくて重たくて重力に逆らえない「ふふ、チャンミン気持ち良さそうだなあ俺の手が好き?」「僕の今のこの手じゃ届かないだけだって…ふああ…」「にゃあ、だって甘えて可愛いなあ」「にゃあ、なんて言ってないよ!!猫じゃあるまいし…!」はっと目を見開いて立ち上がった立ち上がっても横になるユノをやっと少しだけ見下ろせるくらいの小さな姿猫の姿で可愛がられる事には少し慣れてしまったけど、よく考えたらまだ丸一日も経っていない「それでこれじゃあ…もう一度寝て起きたら心まで猫になったりとか、流石にそんな事…無いよな?」ふと過ぎった考え恐ろしくなって頭をぶんぶんと振ったそんな事何も知らずにユノは楽しそうに笑っている「てかさあ、ユノは何で猫を飼ってるんだよこの家には猫も犬も居なかっただろ、なのにどうして…」必死な僕を片手で撫ぜながら、ユノはスマートフォンしか見ていない『人間のチャンミン』よりも僕…猫のチャンミンを選んだようで優越感に浸ったのはついさっき、だけど今はまたふつふつと怒りに似た感情が僕を支配てしいくゲームをしたり、スポーツ鑑賞の時以外はこんなに熱くなる事無いこの僕が、だ「ユノ、口笛より僕を見ろよ…!」「ん、聞いてるよ、チャンミン」「全然聞いてない、何だよ、僕はこんななのに、ご飯だって食べてないのにユノは…」言いながら気付いた水しか飲んでいないのに、その割にはお腹が空いていない猫の身体だからなのかは分からないだけど思い切り食べたいラーメンや焼肉にハンバーガーに…ユノは『チャンミン』とふたり、男同士なのに奢り合って食べてきたのだろうか「チャンミンは僕だろ…」仰向けだったユノがごろん、と横向きになった不貞腐れてユノから逃げたら、まるでそれを追い掛けるようにして後ろから触れられた背中にユノの吐息がかかって擽ったい「いつまで鼻歌なんて歌ってるんだよ」擽ったいのに気持ち良いユノが鼻歌で奏でるリズムに乗ってゆっくり撫ぜられているせめてもの抵抗で背中を向けたままでごろんと横たわった「あはは、同じポーズだなチャンミンとふたりでこんな風にベッドで…なんて緊張する」「……何言ってるんだよ、今更」夜中、目が覚めた時も同じベッドで眠っていたベッドから降りようとしたら必死で止められたなのに緊張だなんて意味が分からない呑気な鼻歌に、初めはいらいらした『チャンミン』と遊んで帰ってきたから気分が良いのか、とか良く分からない事を考えていらいらしたどうしていらいらするのか、はあまり深く考えてはいけないような気がした全ては僕が今、ユノに飼われた猫だからそう思うしか無い「…ん?この歌……」何度か繰り返されるメロディー初めは何の曲か分からなかったけど、記憶にある歌だと気が付いた流行りの歌学校の女子達が騒いでいる、アイドルグループが歌う恋の歌ユノもこの曲が好きで、歌詞の気持ちも分かるんだと言っていた、僕にはあまりにロマンチック過ぎて理解は出来ない、と思っていた曲理解は出来ない、だけど耳に残るメロディーや優しいボーカルは嫌いじゃ無い、そんな曲「ユノの方が『分かる』って言ってたのに、どうして僕が猫に…」この曲と今の僕の状況を重ねてしまった好きな相手の飼い猫に一日でもなれたら良いのに、そんな切なる恋の想い…らしいけど、僕はユノに恋をしていないからやっぱり違う馬鹿馬鹿しい事を考えてしまい、はあと溜息を吐いた同じタイミングで、いつの間にか鼻歌を止めたユノが僕の背中にぐりぐりと顔を押し付けてきた「ふっ、あはは、擽ったいよ、ユノ…!」「猫になるより、猫になったチャンミンを独り占めしたいなんて言える訳ないよなあ…」やっぱりあの流行りの歌だそして…「…………は?」今までも会話は噛み合っていなかっただけど、僕はユノの会話を理解出来ていた当たり前だ、僕は本来人間なのだからでも意味が分からないユノはこの世界の『人間のチャンミン』からのメッセージに対してまるで恋をするような表情を見せたまるで、であって、そんな筈は無い僕達は友人だから「チャンミン、大好きだよ」「……」猫になって丸一日も経っていないこの、短いけれどもとても長い間に何度も何度もユノから言われてきた言葉慣れたのに、何故か今とても恥ずかしい「やめろってユノ、くっつき過ぎ…」「ちゃんと顔を見て言えたら良いのにけど、そうしたら友達じゃいられなくなるかな幻滅されるかな…」「至近距離で何度も言っただろ!キスだって…」そうだ、ユノは無断で僕の顔にキスしてきた男同士なのに、相手は猫だと思って…そうだ、僕は今ユノの飼い猫ならば、この言葉は『僕』へ向けたものでは無く、人間のチャンミンへ向けたものなのか「ああもう…頭がおかしくなりそうだ」「チャンミンが好きで好きでおかしくなりそう…絶対聞かないで、まだ起きないで、出来たら朝まで…」「はあ?ずっと起きてるってば……」処理不能な沢山の感情がごちゃ混ぜになっている流石に振り返ってユノの顔を見てやろう、と思った瞬間、世界がぐらっと大きく傾いた目を開けていられなくなってぎゅうっと瞑った足元まで崩れてしまいそうで怖くなった、だけど後ろから何かに抱き締められていたから落ちずに済んだ「今の、何……」漸く収まってゆっくりと瞼を持ち上げた自分の声は何だか物凄く掠れていて小さいまるで寝起きのようにベッドの上に横になったまま小さく息を吐いて今度こそ振り返ろうとしたら、何だか違和感がある「……ん?……うゎっ……!!」振り向いたらユノが小さくなっていて叫びそうになった小さく、では無いさっきまでが大きすぎただけで、多分これは僕と同じくらいの大きさそしてここは、僕の部屋で僕のベッドだもう一度顔を元に戻して、横になったまま自分を見下ろした僕は確かに僕で、人間のシムチャンミンだったほっとして涙が出てきただけど、動こうにも動けない何故かと言うと、ついさっきまでのようにユノが僕の背中側にいて僕の腹に腕を回しているから「ちょっと、ユノ…」混乱する頭で、軽く振り向いて呼び掛けてみたユノはううん、と眉を寄せてから「チャンミン」と小さく呟いた「そうだよ、チャンミンだよ女子と間違えてる訳では無さそうだなそれなら良いけど…」「チャンミン、俺の…」「……どうなってるんだよ…」まるで夢から覚めたようきっと夢だったなのに、現実に戻ってきてもユノは夢の続きのまま「おい、ユノ僕は『ユノのチャンミン』じゃ無いよ」「…分かってる、でも………」「でも?なら何だよ」もしかしたら、これもまた新しい夢かもしれないとりあえず人間には戻れたから心に余裕が生まれたまだ頭はぼんやりしているけど、寝惚けたユノとの会話も成り立っている「ユノ?腕も離して欲しいんだけど…」「ん…」こんなに人と密着する事が無いからどうすれば良いのか分からない猫になって慣れたけど、やっぱり恥ずかしいユノの体温や鼓動が背中越しに伝わってきて、知ってはいけないものを知ってしまったような妙な気分になる「なあ、ユノってば…」「一日でも良いから、俺だけの…」「俺だけの、何?」「俺だけのチャンミンになって…」「…っ……」ドキッとして固まったごくん、と唾を飲み込んで、速くなる鼓動に戸惑いを覚えた猫のチャンミンに言っているのか、あの世界の僕では無いチャンミンに言っているのか、それとも…「分かんないよ、もう…」何かに縋りたくなって、腹に回されたユノの手を掴んでぎゅっと握ったびくっ、とその手が震えたから反射的に手を離したら今度は追い掛けてくるように掴まれて…「うわっ…!」「チャンミン?!あれ、俺いつの間に寝て…え?夢?!」掴まれたと思ったら、今度はまた直ぐに離されたそれだけで無く慌てた様子で飛び起きたユノは僕のベッドの端っこで『まずい』という表情「『俺だけのチャンミンになって』って何?」「え?あれ、チャンミンが猫じゃない…」「え!!やっぱり『あれ』って夢じゃ無かったの?!」ふたり共焦って声が大きくなってしまったそのまま固まっていたら、扉の外から「もう深夜だから静かにしなさい」と母さんの声頬をつねってみたら痛かった猫になった時も痛かったけど、ならば全てが現実なのか枕元にあったスマートフォンを手に取ってみたら、覚えている一番最後の時間…のほんの数時間後の深夜だった「やっぱり夢…?なら、どうしてユノが部屋に居て僕を抱き締めてるんだよ」「チャンミンがどんな夢を見たのかは分からないけど、その…」もうすぐ高校三年生、の春休み明日、いや、今日も休みだから夜更かししたって問題無い会話も出来るようになったから、謎解きをしていこうと思うユノを前にすると収まる事の無い胸の高鳴りについて、も含めて━━━━━━━━━━━━━━━読んでくださってありがとうございます忙しさで早速(目標の)毎日ペースでは無くなってしまいましたが…久しぶりのお話、個人的にはとても楽しく書いています最後までお付き合いいただけたら幸いです読んだよ、のぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
夢を見た夢の僕は一匹の猫を飼っていた両手で簡単に抱き上げられる可愛い猫に僕は名前を呼び掛けて…「……夢か…」名前を呼んだら猫が僕の顔を舐めたざりっとした猫の舌の感触がとてもリアルで驚いた「嘘だろ、何で『これ』は醒めないんだよ…」目覚めたのはベッドの上僕のものでは無い、これは友人であるユノのベッド、そしてユノの部屋ぐぐっと伸びをして欠伸をしたのは、そんな余裕があるからじゃあ無くて止められない本能のようなもの何の本能って?多分、猫の「はあ……」夢で、僕は人間だったそれが本来の姿で今が何かおかしいだけなのに夢が現実で、この現実が悪夢のよう夢と今が真逆になったようだった、何故なら僕は夢の中で猫に向かって『ユノ』と呼んだから舐められた舌の感触がリアルなのは、今僕が猫だから眠ってしまう前に、これもきっと猫の本能なのだろうけど…手をぺろぺろと舐めたらざりっとした独特の感触があったから伸びをして起き上がりジャンプした窓枠にバランス良く着地して外を見下ろした今、僕が居るこの世界は二月の下旬つまり過去らしい…けど、二月のユノは猫を飼っていなかった視界に入るのは僕が知っている近所の景色、冬の街、そして茶色い毛の猫の手や身体「猫なら前脚、だっけ違う、僕は人間…!」間違い無く僕は人間だ実際、この世界にも人間のシムチャンミンは存在していてユノと友人関係らしい今朝もメッセージアプリでやり取りをしていたのを見たし、猫の僕が『チャンミン』と名付けられたのも人間のシムチャンミンからだと分かったそう、僕は人間シムチャンミンだなのに猫の姿になってユノに飼われている外に出ようと思えば出られたのに、その勇気すら出ずに登校するユノをただ眺めてふて寝してしまった「お腹空いたよお…」いつもとは違う不思議な腹の音よだれを飲み込んでも空腹は満たされない部屋を見渡したら水が入った皿が見えたから、これなら大丈夫だと自分に言い聞かせながら舌で舐めたユノは薄情だ家族が認めるくらい『猫のチャンミン』を溺愛しているくせに、何度も何度も大好きだとか言って目尻を下げていたくせに心は人間の僕からしたら有り得ない事だけど…キスまでしたくせに、置いて行くなよと懇願する『猫のチャンミン』を置いて家を出て行った溺愛しているくせに、『人間のチャンミン』と放課後に予定があるから帰宅が遅くなるとか言う溺愛しているくせに、僕を…『猫のチャンミン』を見つめるよりももっともっと、そう、まるで恋をするような表情で僕とのトーク画面を眺めていたからユノに大切にされたい、そんな願望を抱いてはいないだけど今の僕にはユノしか居ない、多分まるで恋をしているように見えたのはきっと勘違い、それか猫になってしまった事による被害妄想だとか、とにかく僕は今普通じゃ無いのだ「そうだよ、だからこんなにも寂しいし…」寂しい人間に戻れない事もだけど、ユノが居ない事が寂しい寂しいから、飛び出る勇気の出ない窓の外を眺めるよりもベッドに戻って毛布に潜り込んだここはユノの匂いがする、体温が残っているような気がする「くそっ…」涙が滲むのは、悔しさゆえかそれとも寂しさがほんの少しだけ紛れたからなのか分からないこんな事で寂しくなるよりも、人間のチャンミンがどうしているのかとか、人間のチャンミンの意識は一体何なのか、とかどうすれば元の姿に戻れるのか、とか、考えなければならない事は山ほどあるのにふて寝から目が覚めた後、更にまた眠ってしまったこれも猫の身体の所為なのか、眠くて眠くて堪らない目が覚めても僕は猫のままでユノのベッドの上に居るままどちらかと言うとリアリスト、ファンタジーのような事はフィクションとして楽しむのは良くても現実味なんて皆無だと思っているだけどこれはフィクションでは無くて確かに今僕の現実、受け入れるしか無い「もう真っ暗じゃんか…」そう言えば、最初に猫として目覚めた時には部屋の灯りが消えていたのに視界がはっきりしていた今も窓の外は同じで太陽は沈んでしまった今更気付いたけど、部屋の灯りが付いているのは『猫のチャンミン』を残して部屋を出るユノの優しさなのか、それとも単に忘れただけなのかそんな事はどうでも良いから、早くユノに会いたい「寂しいよ、ユノ……」ユノの匂いがする毛布に包まれたまま呟いた瞬間、遠くからふわっと匂いが漂ってきた「ユノ!!」ユノの匂いだと直ぐに分かるこの部屋に残るユノの匂いとは違う、もっと濃い匂い立ち上がり、窓枠に向かってジャンプした二階のユノの部屋、その窓を覗き込み高鳴る鼓動を堪え切れないまま見下ろしていたら、街灯が照らす道を歩く制服の男子高生が見えた同じ制服で歩いていても、もうひとりの方なんて目に入らない僕に気付いていないユノしか見えないガラス窓を爪先でカリカリ引っ掻いた「ユノ!気づけってば………っ!」必死で叩いたり引っ掻いていたら、窓が開いたしかも、突然だったからバランスを崩した猫は反射神経が良いと聞いた事があるけど、僕は本物の猫じゃ無く人間だからドジをしたのかもしれない…なんて、落下しながらスローモーションになった世界で考えた「チャンミン…!!」僕が落っこちてやっと気付いたなんてユノは遅い遅いけど、僕をしっかりキャッチしようとした事は褒めてあげようと思うスローモーションになった世界でユノに抱き留められる直前、隣に立つ制服の『僕』を見た確かに僕なのだろうけど、その顔はまるでモザイクがかかったよで良く見えなかった━━━━━━━━━━━━━━━読んでくださってありがとうございますあと少し、最後までお付き合いくださいね読んだよ、のぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
ダイニングでチョン家の朝の光景を見た自分が何故こんな姿になってしまったのかは分からないけど、少なくとも僕はユノにだけ見える透明人間…いや、透明猫では無いと分かったユノの家族もユノが溺愛する猫の『チャンミン』を知っているそして、ユノの同級生である僕、シムチャンミンの事も知っている人間の僕と猫が同じ名前で、ユノは僕という友人が居ながらも猫に友人の名前を付けた事も分かった「ユノ、僕を置いて行くのかよ」朝食を終えて自室へと戻ってきたユノの忙しない背中に向かって話し掛けた僕は今まで通り、人間の言葉を話しているなのにユノには猫の鳴き声にしか聞こえないらしい虚しい、だけど通じないって分かりながらだと何だって言えるからちょっとした憂さ晴らしにはなりそうだいや、それくらい許されなきゃ今の僕はあまりに悲劇のヒロイン…いや、男ならヒーロー?「ヒーローって、僕の柄じゃ無い」ベッドの上からぴょん、と勢いを付けて飛んでみた今の、猫の姿になった僕にとっては遠い距離に見えるのに、こんなにも簡単に、しかも軽やかにユノの勉強机の上に着地した猫の自覚はまだ無い、認めたくも無いだけどこの身体は確かに猫なのだ「チャンミン、今日は凄く甘えてくるね俺が高校に行くと寂しい?」「…っ…違っ…!置いて行くのか、って言うのは、僕だって高校に行かなきゃだから…!」身を屈め、目尻を下げて僕の頭に大きな手のひらを乗せる僕は身長の割に手が小さくてそれがコンプレックスのひとつ身長が変わらないのに手がしっかりと大きなユノを内心羨んでいたし男としては対抗意識もあるなのに、猫になってからはこの手に触れられると気持ち良くて…「ふああ…」思わず声が漏れ出た目を瞑って気持ち良さを噛み締める事しか出来ない「…チャンミン、そんな声で鳴かれたら本当に行きたく無くなっちゃうよ」「…引き留めて無いって!勘違いするなよ」触れられると気持ち良くて溶けてしまいそう、なんて思った自分に寒気がした女子ならまだしも、僕は男いや、これは性別関係無く猫の本能なのだろうか「早く帰りたいんだけど、今日は放課後にチャンミンと試験勉強する約束なんだ」「…は?」「あ!友達のチャンミン、高校のチャンミンの方な紛らわしいよな…なんて、チャンミンは分からないかな…」「紛らわしい、て言うか変だよ僕の名前の響きが好きだなんて理由でこんな紛らわしい事…妹にだって揶揄われてたじゃん、あんなユノ初めて見た」ユノの妹とも何度か会った事はあるユノ達兄妹の会話も…まあ、聞いた事はある少なくとも僕が知るユノの妹は、兄を揶揄うような事はしなかったし、そもそもユノが取り乱すような場面は学校でもそれ以外でも…「そう言えば初めて見たかも」「チャンミン、もう行かなきゃご飯…食べてないの?じゃあ、今日は特別にお気に入りも出しておくからちゃんと食べるんだぞ」会話は何も成立しないいや、僕はユノの言葉を理解しているけど逆は変わらず人間のシムチャンミン、が存在すると聞くと怖いような益々謎が深まるような何とも言えない気持ち『僕』は一体何処に居るのか…なんて、ミステリだとかSFの世界めいているせめてもの救いは、僕の心が僕のままであるという事後は…面倒だしややこしいし、友人の名前を勝手に借りるなよとは言いたいけど、ユノが僕をチャンミンと呼んでいる事「…ユノ、何その顔……」お気に入り、と言われても皿に出されても全く惹かれない猫の食事溜息を吐いてからふと見上げたら、僕の飼い主になった友人はまたしても見た事の無いような表情で目を疑った僕が声を掛けてたらユノには聞こえている筈なのに、こちらを向こうともせずに手に持ったスマートフォンのディスプレイをじっと見て嬉しそうにしている「もしかして…」ただの嬉しそうな顔なら知っている学校に居る時も、一緒に過ごしている時にも見てきた顔だけどこれは違う恋愛経験はあまり無くても分かるくらいに分かりやすい「ユノ!何見てるの?!見ちゃうからな!」ちゃんと先に言ったから覗き見にはならない僕だけに都合の良い理由だけど、それくらい許されないと駄目だと思うこの姿になったお陰で得られた抜群の跳躍力で、軽々とユノの肩に飛び乗った「あはは、びっくりした今日は本当に甘えてくれるんだな」「……」違う、と言ったところで通じないそれに、今はもっと気になる事があるそう、これで見下ろせるようになったユノの大きな手のひらの中にあるスマートフォンだ「……僕…?」「チャンミンがいくら賢くても、これは読めないだろ?人間の、俺の友達のチャンミンだよ」見えたのはメッセージアプリのトーク画面相手は確かに僕のアイコン、僕の名前『僕』がユノに送ったメッセージ内容は『ゲームしながら寝落ちして宿題を忘れた』『アイスを奢るから写させて欲しい』頭が痛くなりそうな内容だ「奢ってもらわなくても良いのに」呟いたユノの声は物凄く嬉しそうだ目尻は下がっているし、口角は上がっている自業自得の友人に面倒なお願いをされたのにアイスが嬉しいのかとも思ったけど、アイスを喜ぶ顔とはまた違うように見えるし…「…ん?、これ…」僕を肩に乗せたまま、ユノがメッセージを送信したそのメッセージに記憶が呼び起こされた「ほんと、ユノは何でそんな事を聞くんだろうって思ったんだよな…」『良いよ、でも、他の誰かにも頼ったの?』『アイスを奢ってくれるなら、俺はジュースかコーヒーを奢るよ』今見下ろしているメッセージ、やり取りは確かに『僕』がユノと行ったもの他の誰かにも頼ったのか、なんて聞かれて『聞いて無い』と答えたらそれ以上特に何も無かったけど、何故聞いてくるのだろうと少しだけ引っかかった奢り合ったらお礼にならないのに、ユノはいつもそんな感じだからその言葉に甘えた記憶がある確かほんの少し前、春休み前の事だった筈「…やっぱり、春休み前……」猫の僕はどうやら過去の日付に存在している二月の後半だとメッセージアプリのトーク欄で確認出来た確かにこんな会話をしたでも、ユノは僕が知る限り猫を飼っていない春休みになっても家に遊びに行ったから確実現実をなぞっている、なのに現実では居なかった存在、それが猫の僕なのか「は?何これ…」また一気に恐ろしくなって、身体がぶるっと震えたユノに両手で簡単に掴まれて、あろう事かキスされたそれでまた、今の僕の『現実』に戻って絶叫したら楽しそうに笑われたユノはもう、さっきまでの表情では無くなった僕とのトーク画面を見ていたユノは、まるでそう…好きな相手の事を想うような表情だったから━━━━━━━━━━━━━━━後2話か3話予定です最後までお付き合いいただけたら嬉しいです読んだよ、のぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
漫画やゲーム、アニメや映画ロマンチスト過ぎるものは苦手だけど、世界中のヒーローが出てくるような話や現実離れした話には没頭して夢中になるタイプ『現実主義者でフィクションになんて興味無さそう』以前同じクラスの女子に言われた時に、友人のユノが僕より早く『そんな事無いよ、チャンミンは入り込むタイプ』なんて知ったような事を言っていたまあ間違ってはいない、けど…「……夢じゃなきゃ有り得ないよ何で寝たのに醒めてくれないんだよお…」「んん…チャンミン?おはよ」「チャンミンだけど、確かにチャンミンだけどさあ…」寒くて無意識の内に声の主に身体を擦り寄せてしまった事にはっと気付いた離れようと思ったのに、その前にしっかりホールドされてしまった本来なら背格好の変わらない同級生の友人ユノに…そして、今は猫の姿になった僕からすれば信じられない程大きな人間のままのユノに「あれ、今朝はいつもみたいに舐めてくれないの?」「…はあ?!」「それで目が覚めるのに…寂しいな」寝て起きて確かに朝になってみても僕は猫だったどちらかと言うと現実主義者な僕でも、これはまるでフィクションがノンフィクションになったようで、受け入れざるを得ない現実だと必死に言い聞かせながら人間としての己の尊厳と朝から戦っているのに…「ユノ、お前さあ…僕と同じ名前を付けた猫に舐めてもらいたいって、その…せめて別の名前を付けた方が…」「ん?何て言ってるのかなあチャンミンと会話が出来たら良いのに」毛布を巻き付けたままでごろん、と寝返りを打つユノは猫の姿になった僕を離そうとしない僕の心は人間のままだから、冷静に考えるととても気持ちの悪い図だと思う後でユノに話したら真っ赤になって恥ずかしがるだろうか、と思ってふっと笑ってしまった「…後って…元の姿に戻れなきゃどうしようも無いじゃん」ただの友人であるユノにべたべたくっつかれているユノの飼い猫になってしまったどうすれば元の僕に戻れるのか分からない男とくっつく趣味なんて無いでも、今僕に居るのはユノしか居ない気がする「ユノ、どうにかしてよ…はあ…」「あはは、素直に甘えてくれるの?可愛いな」「舐めてなんてやらないけどな」「喉が鳴ってる、可愛い」成り立たない会話、こんなのどうかしている何がどうなっているのか全く分からない顔をつねってみても猫の爪で痛いし、痛いなら現実だと聞く「ほんと、どうかしてるって…」それでも、今までこんなに触れた事も無い、触れる想像すらした事の無い体温や力に安心して涙が浮かんでしまった夜中、『初めて猫になった』時のようにユノは猫の僕を優しく撫ぜて抱き締める大きく聞こえるユノの心臓の音や息遣い、これが現実で無いのなら何なのだろう「あの歌の歌詞みたいだ僕は共感すらして無かった、猫になるなら共感出来るって話していたユノの方だろ」ユノの腕の中、思わず舌打ちしてしまったけれども大きくなった…いや、小さくなった僕をいとも簡単に両手で持ち上げたユノは仰向けで寝そべったまま「今日はたくさんお話してくれるんだな」なんて目尻を下げている「舌打ちしたんだけど…」どうやら、今の僕は何を言っても何をしても、友人からすれば可愛くて仕方の無い飼い猫『チャンミン』でしか無いようだ「こうなったら、ユノの弱点でも見付けてやらなきゃ」「うんうん、それで?」「ふっ、分かったような事言って…分かって無いくせに」一瞬だけ会話が成立したから笑ってしまった悪態を吐く僕に、ユノはもっともっと目尻を下げて可愛いだとか大好きだとか、ひたすら言い続けている高校生だし、親にだってこんなに言われる事は無いから困惑してしまう…いや、我ながら適応力があるのか、既に慣れてきてしまったそもそも、僕の名前で呼ばれているけど今の僕は猫だしそれならば、この世界で本当の僕は?猫になっているから、人間の僕は存在しなくなったのだろうか「え…どうしよう」どうしようも何も、分かっているのは今僕が猫で人間のユノに飼われているという事だけ僕が知る現実のユノは人間の僕を抱き締めたり大好きだとか可愛いだなんて滅多に言わないし、現実のユノは猫を飼っていないって事それだけしか分からない「…っ!ヒッ!!」ユノに頬擦りされながら考えていたら、突然ドンドン、と音が聞こえて身を竦めたユノが「大丈夫だよ」と言うのとほぼ同じくして、その音が扉をノックしたものだと気付いた「ユノ、そろそろ起きなさい」「起きてるよ!母さん」「あら…チャンミンが起こしてくれたの?」「うん、直ぐに行くよ」ユノの母親、は扉の向こうに居て姿は見えないただ、彼女も『猫のチャンミン』を認識していると分かった「僕は僕だし、それならもうひとり僕が居る訳無いか…」嬉しいような寂しいような何とも言えない気分ただ、言葉にならない気持ちを抱えていたら、ベッドから降りたユノが僕の頭に優しく触れて、びっくりするくらい顔を近付けて「起こしてくれてありがとう、チャンミン」と言うから、胸のもやもやよりも至近距離のユノへの驚きでいっぱいになってしまった「別に起こして無いよ!それより、僕をこの悪夢から醒ましてよ…!」「うんうん」会話が成り立っていれば良いのに切羽詰まった僕の言葉はユノに届いていない一瞬消えた言語化出来ないくらいの不安やもやもやは頭に残ったままユノはあっという間に着替えて「ちょっと待って」と言って部屋を出て行った直ぐに戻ってきたユノ…いや、僕の飼い主は水と餌を置いてもう一度いった「…はあ?嘘だろ」残念ながら喉はカラカラで、小さな皿に入った水を飲んだせめて両手で皿を持ちたかったけど、思ったようには身体が動かない結局、本物の猫のように少しずつ舌で飲んだ人間の物とは明らかに違う餌には引かれない勇気を出して部屋から出てみたドアノブは今の僕にはあまりに高かった、だけど今の僕には驚くような跳躍力が備わっていたから容易だったユノの家は、何度か訪れた事のあるそのままの間取りだ不思議なような、安心出来るような、やっぱり言葉に出来ない気持ち分かっているお陰で直ぐに辿り着けたダイニングを扉の隙間から眺めてみた「……あ…」制服を来た寝癖の無いユノ、そして両親ユノと似ている妹の姿も僕が知っているそのままだった母親が『猫のチャンミン』を知っているなら大丈夫だろう、と思ってそうっとダイニングに足を踏み入れた「ねえオッパ、そろそろシム先輩に言ってみたら?」「…っ、突然何だよ、て言うか何の話…」足を踏み入れた瞬間に僕の苗字が聞こえたから、ぴたっと足を止めて気配を消した良かった、まだ誰も僕がダイニングに入ろうとしている事には気が付いていない見上げたら、ユノは妹から目を逸らし咳き込んでいて妹は何だかにこにこして嬉しそうに見える「仲良いんでしょ?なら話したら良いじゃない溺愛してる猫にシム先輩と同じ名前を付けてるんだ、って」「言わないよ!言ったらおかしな空気になるかもしれないだろ」「そうかなあ…?オッパがうちの子に『チャンミン』て名付けたのは名前の響きが好きだからって言ってたよね?ならおかしな空気になんてならないと思うけど…」「いや、そうだけど…」「気まずいなら別の名前にすれば良いのにそれに、家では毎日毎日毎日毎日、呆れるくらい溺愛して『チャンミンは可愛いなあ』『俺のチャンミン』って堂々と言ってるのに」「良い!良いからもう…!!遅刻するから早く食べよう」何だか楽しそうなユノの妹どう見ても焦っているユノ僕はと言えば…何だか目眩がした「僕は僕で存在する…って事?ユノの飼い猫なんて居ないのに?え?それか、居ないと思ってるだけで猫を飼ってる??」地面がぐらぐらと揺れているような感じ何とか自分を保ちながら考えてみたけど、最後にユノの家に寄ったのはつい数日前で飼い猫なんて居なかったそれに、僕の知る現実は春休みだけど今、ユノと妹は制服を着ている一体全体何なのか分からない「チャンミン?珍しいな、こっちに来るなんて…」「ユノ…珍しいって…」考え込んでいたら、ユノに呼ばれてはっと顔を上げた直ぐにユノが寄ってきて、大きな身体を曲げて僕を撫ぜる「チャンミンの話をしていたから来たのかも普段はオッパにしか懐かないし、私達が居る場所には着てくれないのに…今度からはもっとチャンミンの話をしなきゃね」妹も近付いてきた思わずユノの方に一歩寄ったら「やっぱり」と妹にくすくす笑われた「オッパにとって、シム先輩もチャンミンも特別だし…チャンミンにとってはオッパが何より特別なのね」「チャンミンとチャンミンは違う、変な言い方するなよ」「変かなあ、特別じゃ無きゃ名前にしないと思うよ」ふふ、と笑った妹は綺麗な長い黒髪を翻しダイニングテーブルへと戻って行ったこの世界の人間のチャンミン、そして今僕の意識がある猫のチャンミン何が何だか分からない分からないけど、昨夜眠ってしまうまでの僕の現実でも、今のこの信じられないような現実でも、ユノは僕に優しい友人だって事は分かる━━━━━━━━━━━━━━━読んでくださってありがとうございます足跡代わりのぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
流行りの歌を聴いた数年後にはきっと人々の記憶から忘れ去られてしまうであろう、今だけ持て囃されているポップス歌のフレーズは僕にはあまり共感出来ないけど、僕の友人ならば歯の浮くような台詞や甘い歌詞も似合ってしまう気がするその友人は、少年漫画のヒーローのようで少女漫画に登場する女子達理想の『彼氏』そのものだから高校二年生…いや、後少し、次に登校する時には三年生になる、まだ肌寒い春リアリストだと思っていた僕は摩訶不思議な体験をする事になった「ん……」ふっと目が覚めただけど違和感がある違和感は一つでは無く幾つもある寝ぼけた頭では一気に処理出来なかったけど…まず一つ、直ぐに分かったのは眠るつもりでは無かったって事「そうだ、確か…」流行りの歌僕にはあまり共感出来ない甘ったるい恋の歌それを聴きながら眠ってしまったのだイケメンでロマンチストでドラマに出て来そうな友人ならそれを聴く姿も口ずさむ姿も似合うだろうし、実際彼があまりにも勧めてくるから聴いていただけの歌何度か聴きながら眠ってしまったからか、あまりに理解出来なくて逆に印象深いフレーズが頭に残っている「…『一日だけ、君の飼っている猫になりたい』なんだよそれ」恋はひとをそんな風にもさせるのだ、と同い年の友人は知ったような顔で語っていたけれども彼には僕が知る限り異性の影は無い片想いの相手でも居るのかと尋ねたら、曖昧な笑顔でかわされたそんな事は今はどうでも良いどうでも良いけど、考えていたお陰で頭が冴えてきて他の違和感の正体に気付けた「…ん?どうしたあ?」「ひっ!!」この場所は僕の部屋じゃ無い匂いや寝心地、五感で分かるありとあらゆる要素でそうだと気付いた瞬間に頭上から声が聞こえて思わず身を竦めた「……」ドッドッドッまるでホラーゲームの主人公になったかのように心臓が音を立てている眠る前、確かに自分の部屋のベッドに横たわっていたのに、どうして?「チャンミン、まだ朝じゃ無いから一緒に寝よう寂しいからベッドから降りないで、抱きしめさせて」「……は??その声…ユノ?」ひとの事は言えないけど、寝ぼけたような声は確かに僕が良く知るくだんの友人流行りの歌の歌詞すら似合ってしまう、そう思わざるを得ない友人チョンユノ「チャンミン、甘えた声で鳴いてもだめ」「はあ?ユノ、何言って…」「寒がりなんだから…ベッドから降りてもどうせ直ぐに戻って来るって知ってるよ」甘えたような声、はユノの方だそんな事よりも、僕は何故か自分の部屋では無い場所、知らないベッドで温もっている何だかとても大きな何かに包まれている、そんな違和感の正体はどうやら友人のユノ男同士で密着するなんて有り得ないけど、そもそも何故こうなっているのかすら分からない「ユノ、ちょっと離してよ何で僕達一緒に寝て…」身体を捩り振り向いた時に更なる違和感に気付いたここは毛布の中、光は差し込んできていないなのに、何故かはっきりと見えるも更に言えば、ぐいっと押したユノらしき身体は思っている以上に大きくてまるで巨人みたいだって事そして…「うわあっ!!!」「…っ、チャンミン?!どうしたの??俺以外居ないよ、大丈夫だから…」自分の視界に写った、僕のものである筈の腕今、確かに自らの意思で動かしている手それが十数年生きてきた僕自身の知る僕では無くて、短い指や手のひらの肉球、短い毛に覆われた動物の手だから錯乱してしまった「痛っ…爪を立てちゃだめだよどうしたのかな…チャンミンも、猫でも怖い夢を見たりするのかなあ大丈夫、俺が居るから」毛布の中で大きな存在に包まれた男同士で有り得ないのに、僕は猫じゃ無いのに、何故ここに居るのかすら何もかも分からないのにただ、僕を安心させようとしているらしい大きな存在が友人のユノで、僕を確かに『チャンミン』と呼ぶからほんの少しだけ安堵してしまった「…痛っ……」頬を抓ってみた爪がくい込んで痛かったし、夢なら痛みは感じないと聞いた事がある「大丈夫、大丈夫だから…」「何が大丈夫なんだよ、僕の言葉分かってる?」「チャンミンが大好きだよ俺のチャンミン…」猫になったらしい僕の言葉は友人と意思疎通不可、らしい僕だけでも理解出来るのは幸いだったのか、それともいっそ何もかも分からない方が良いのか、今はまだ混乱していて考えられない「ユノの家、猫も犬も飼って無かったのに…しかも、何で僕と同じ名前なんて付けてるんだよ」はあ、と大きく溜息を吐いた僕の言葉はユノに届かないだけど、確かに僕である姿に対していつものようにチャンミンと呼んでくれる事は、今の僕にとってただひとつの救いなのかもしれない━━━━━━━━━━━━━━━昨日のお話に引き続き、旬では無いシリーズ?です過ぎてしまいましたが私にとって特別な2月、特別な日がたくさんある2月から22日、つまり…にゃんにゃんにゃんホミンちゃんの日のお話です1話は短め、数話完結予定のラブコメ毎日更新予定?目標?です最後までお付き合いいただけたら幸いです私のやる気スイッチになるので読んだよ、のぽちっもお願いします ↓にほんブログ村
ご訪問ありがとうございます2024年あけましておめでとうございます!!!!!をしないまま、なんとなんと暦の上ではしっかり春、の3月になってしまいました…が、ご挨拶は大事なので勝手にさせていただきますブログはすっかりご無沙汰になってしまいましたが、あまりにご無沙汰になってしまい更新するタイミングすら分からなくなってしまっていましたそんな状態なので、更新しても見に来てくださる方がどれだけいらっしゃるか、もはや皆無なのでは??という懸念もありますが、ここは私のお部屋なので自由にマイペースにいこうと思いますまだ返信出来ておりませんが、不在の間もメッセージやコメントをくださった数人の方には本当に本当に感謝していますそうでは無い方も、改めまして2024年も何卒宜しくお願いいたしますここ数ヶ月は久しぶりのカムバ、ソウルコンやアジアツアー、最近ではふたりのセンパやSMT東京、地上波出演とたくさんの活動がありましたよね私はデビュー日から年末にかけて、またはカムバ期間中やセンパ等でソウルへは行けませんでしたが、唯一1月13日の香港コンサートには参加出来ましたまた、今回のカムバでは対面サイン会やヨントン(ビデオ通話サイン会)があったのと、とにかくトレカを集めたいしCDをお迎えしたいオタクなので色々あれこれ応募し続けた結果初めてヨントンを経験する事が出来ました先日のSMTも有難い事に両日当選で参加出来ましたそんなあれこれを、またこの後ひっそりこのお部屋にも残しておきたいなあと思っています年末のあれこれは不参加でしたが、有難い事にソウルインチョンでの展示会(12月23日~27日開催)に参加された読者様から現地のお写真や動画を見せていただきましたその上、このお部屋でシェアしても大丈夫です、と仰っていただけたので、こちらも今更にはなりますが…私含め行きたくても行けなかった皆様に少しでも雰囲気が伝わるように、近いうちにひっそり載せてみようと思いますアジアツアーは台北で一段落ついて、この後はマカオとジャカルタが控えていますよね私は、もしも上海が出ればそこに…と思っていたのですが、予想が外れたので今の所不参加予定です気持ちだけは全て参加、ですが、今回20&2が大好き過ぎたあまり、(自分的には)かなりの数をお迎えし続けてしまい、予算的に厳しくなってしまいました…コロナ禍以前なら航空券ももっと安かったのに…とか円安…とかあれこれ考えてしまいますが、物事は全てタイミングだし、行ける時に行って推せる時に推さないと、と改めて思いましたが、今の所マカオジャカルタは厳しいです…CDにどれだけ使ったか、考えるのが恐ろしいくらいなので…でも、後悔は全くありませんCDお迎えを多少我慢すれば海外コンやセンパにも悩まずに行けましたが、何よりCDを買う応援をしたかったので後悔はありませんただ、富豪にはなりたいですなんて、これも本音ですが…昨年途中からは体調に左右されてユノソロを満足に応援する事が出来ずにとても悔しかったので、今回のグループカムバをリアルタイムで思い切り応援出来て本当に本当に幸せでした何より、「20&2」の楽曲が(私にとっては)どれも最高だったしユノとチャンミンの歌声が更にレベルアップしていたのでファンとして幸せでしたあまりに更新が久しぶりになってしまったので近況を伝えるばかりになってしまいましたが、皆様はおかわりないですか??元旦の地震や、他にも日々色々な事がありますよね(なんて書いたところで、あまりにも不在にする期間が長くて独り言になるかもしれませんが…)もしも何かあったり、聞いて欲しいような事があったり、ふたりに関する事でもそうで無くても辛い事でも幸せな事でもとにかく何でも、私に話してやっても良いよ、という方がいらっしゃれば話しかけてやってくださいね私ですか?????と、聞かれていない事は分かっていますが時々気にかけてくださる方もいらっしゃるので勝手に書きます身体の調子は最近はだいぶ良いです香港遠征は最初から最後だったので、飛行機等不安もありましたが元気に行って帰る事も出来ましたが、以前からあった食物アレルギーの程度が進んで?しまい…年明けにはアナフィラキシーで病院のお世話になってしまいエピペンデビューしました…極々少量でも完全に❌、大食いなのに食の楽しみが減って制限が増えてしまいましたが、ホミンちゃんのカムバが最高だったので全くもって問題無しですこちらは比較的暖かな冬でしたが、まだまだ気温の低い日、寒い地域も多々だと思います今年から来年にかけては日本での何かもありそうなので、それを待つのも楽しみですし、そんな楽しみをくれるユノとチャンミンと同じ時代を生きられる事が幸せですそんな気持ちを、(もちろんそれ以外のあれこれも)今年もこの場所で皆様と共有したりやり取り出来たら良いなあと思っていますという訳で…今更過ぎますが2024年もこのお部屋を宜しくお願いいたしますというか、寂しいオタクなので是非とも構ってやってください…それではまた、次の更新でお会い出来ますように…幸せホミンちゃんにぽちっ♡ ↓にほんブログ村
友達リスト、から探し出した登録名は『チョンユノヒョン』これはその本人が登録したものでは無い、そもそも不特定多数に自分自身を紹介する時に『ヒョン』と自称するひとなんてそうそう居ないつまりこれは僕が登録した名前「ヨボセヨ、ユノ先輩」『おお、チャンミナ…って、就業中でも無いのに先輩だなんて余所余所しいな畏まってどうした?』「あの、今はスピーカーにしてて…シギョニヒョンに聞こえてます」机を挟んで一、五メートル先優しげな風貌に反してとても鋭いところのあるヒョンはくすくす笑って僕達を…いや、僕を見ている「挨拶の声だけでチャンミンが畏まっているって分かるだなんて、ユノは流石だな」「変なところで関心しないでくださいよユノヒョンが言った通り、先輩と呼んだからですって…」カトクの友達リストやアドレス帳の中でもやり取りする回数が多いから、その登録名は常に目立つ位置にあるとっさの時に探す必要なんて無いくらい、直ぐ目に付くところにあるそれなのにフルネームにヒョンを付けて堅苦しく登録しているから、ついさっきそれを知った目の前のヒョンに笑われたばかり『シギョニヒョン?ご無沙汰しています』驚いた様子の『ユノ先輩』もとい『チョンユノヒョン』つまりユノヒョンに内心頭を下げた僕から音声通話をするなんて珍しいから、彼はきっと何かあったのかと思っただろう「ああ、久しぶりだなユノもチャンミンのようにそんなに畏まらないで、もっと普通にして欲しいな」「ユノヒョン、すみません突然…今大丈夫でしたか?」ふたりで次々に話し掛けたのに、大丈夫だと直ぐに返すユノヒョンは顔が見えなくても笑顔だと分かる僕とは違う、真逆とも言える人柄のひとだから『今はジムに来ていました本当は、仕事の後にチャンミナを食事に誘おうと思っていたんですよですが断られたので…』「そうなの?チャンミン言ってくれたらユノも一緒で三人で食事をすれば…」僕はユノヒョンと違うから『本当ですね』『三人の方が楽しかったかもしれません』と直ぐに良い返事が出来ないし、それが表情にも出てしまう事前に分かっていれば良いけれど、シギョニヒョンには以前から誘われていたし、ユノヒョンはつい数時間前に僕を誘ったし…「ユノヒョンとは何時でも食事出来るじゃないですかだから…良ければ今度また…」顔の見えないユノヒョンと、目の前で眼鏡の奥から何かを見透かすような目で僕を見る大学時代の学科の先輩でヒョンふたりの間でひとり勝手にあたふたする僕は、あたふたしている事だけは隠すのが上手い、と思う『俺は大歓迎ですよシギョニヒョンには俺のような男は暑苦しく無いですか?』「チャンミンの大事なヒョンなら俺にとっても大事な弟、大歓迎だお邪魔で無ければ俺も入れて欲しい」「邪魔って…シギョニヒョン何言ってるんですか」スピーカーからはユノヒョンの楽しそうな笑い声と共に『チャンミナの大事なヒョンを邪魔に思う訳ありません』と聞こえた目の前のヒョンには僕が付けた他人行儀な登録名を見られた目の前のヒョンはなかなか鋭い、だけどバレる訳は無いでも、これ以上はボロが出そうな気がする「それにしても、チャンミンは本当に面白いよなユノの事を『チョンユノヒョン』なんて生真面目に登録して…」『…え?』「俺の事は『シギョニヒョン』だったのに幼馴染みで会社でも先輩後輩でやってるふたりが…はは、思い出すだけで面白いよ」穏やかに見えて鋭いヒョンを止める、もしくは通話を切り上げようとしたけれども相手はユノヒョンより年上の先輩、そして僕のスマートフォンは何時の間にか机を挟んで向こう側に座る彼の手に渡っていた「ユノはチャンミンを何て名前で登録してるんだ?『可愛い弟、シムチャンミン』とか?」『チンチャチンチャウリチャンミニ』「「は???」」机を挟んで座る僕たちふたりの声は見事なハーモニーには程遠いけれども見事に重なった驚く僕たちを他所に、ユノヒョンは大真面目な声でもう一度繰り返した『チャンミナは何度か番号を変えているんですよ、それで変更する度に長くなって…』「…いや、それってさ、以前の番号は消すとか登録し直すだとか、色々あると思うんだけど…」僕は僕で知らなかった、ユノヒョンが付けた僕の登録名何も言えずにいたらシギョニヒョンの冷静な指摘ではっと気付いてうんうんと頷いたユノヒョンはあはは、と快活に笑うと『そうですね、だけど…』と静かに答えた『消せないし無かった事にも出来ないんですよねチャンミナに関しては』「ユノヒョン何言ってるんですか別に番号が変わったって僕は…」『分かってる、だけど全部消せないんだよそれと…ウリチャンミナは俺を「チョンユノヒョン」なんて他人行儀に登録してるって本当?』「いや、それは……あ!料理が一気に来たのでまた後で!ユノヒョン失礼します、じゃあ…!」大学時代からの先輩でヒョン、である目の前のひとに対して失礼だとは分かっている分かっているけどいても立ってもいられずに自らのスマートフォンを半ば無理矢理奪い返して通話を終えた「チンチャチンチャ、なんてユノヒョンなりのユーモアかもしれないですね、はは…」「それもだけど、『ウリ』なんて付けるのも驚いたよ俺は驚いたけど、チャンミンはそうでも無いみたいだな」それにも驚きなのだと言わんばかりの表情実際驚きは無かったユノヒョンは昔から誰かに僕を紹介する時に『ウリ』と言うし、他の誰かを紹介する時にはあまり、ほとんど…ほぼ絶対と言って良い程付けないから僕は自分がユノヒョンの特別だって知っている「ふうん…まあまあ、言わなくても分かる事もあるから今日はこれくらいにしておこうか」「良く分からない事を言わないでくださいよ」「三人で食事に行くのが楽しみだな、チャンミン」害なんて無さそうな温厚な笑顔眼鏡の奥の眼光がキラリと光っているのを見逃さなかった「で…どういう事なのか聞かせてもらおうか、シム」シギョニヒョンに散々飲まされ…いや、付き合って飲んで二日酔いが残る翌昼夜遅くのカトクに気付かないまま朝を迎えた、だとか例の登録名がバレた事だとか、原因は複数考えられるオフィス近くのコーヒーショップ、ハイチェアでも持て余すくらいの長い脚を優雅に組んでいるユノヒョンの笑顔は余裕でいっぱいだ「休憩時間なのにそう呼ぶだなんて、怒ってますか?」「いや?昨日のシムの真似をしただけだよ突然『ユノ先輩』なんて言うから」「……ユノヒョンって…」意外とこどもっぽいところがありますよねそう言おうとしたけど止めて俯きアイスコーヒーをぐっと流し込んだ「…今度は…」「今度は?何?」「ユノヒョン、今度は嬉しそうだなあと」「嬉しいよこっちはシムって呼んで仕返ししたのに、素直に『ユノヒョン』なんていつも通り呼ばれたんだから」「ふうん…」裏表が無い、まるで太陽のようなヒョン僕とは正反対で、二日酔いだからか余計に眩しい何度も何度も『どうして僕が?』と考えてきたし、考えても考えても僕はユノヒョンでは無いから分からない分からないけど僕たちはとても合う「チャンミナはどうして俺を『チョンユノヒョン』で登録してるんだ?昨日はショックだったよ、本当に…」「ショックとか言わないでくださいそんな風に思う必要も無いですただ、その…」誰かに見せるものでも無ければアピールするものでも無い他人行儀に見せたい訳でも無い理由なんて言葉にする程仰々しいものでも無い大きな窓ガラスから射し込む明るい陽射しの所為では無く頬が熱くなるのが悔しい「うん、何?」見つめる視線が刺さって痛い右手は透明なカップを持ったまま、左手はテーブルの下でスーツの裾を握り忙しなく動かしてしまう「ユノ、て名前は他にも居るじゃないですかチョンユノ、という知り合いは今は居ませんがこの先現れるかもしれないし…僕にとっては特別で他には居ないヒョンだって事です」「え?もう一度…」「…っ、絶対聞こえてましたよね?だから!他人行儀なんかじゃ無いです、むしろ逆…!」慌ててカップを零しそうになって焦ったそうで無くても焦っている僕を前に、ユノヒョンは嬉しそうに笑っている「つまり、俺はチャンミナにとって特別なヒョンで恋人って事?」「そう…て、勝手に付け加えないでください」「あはは、でも間違いじゃないよな?」「……まあ…」答えを濁すような恋人にも眩しいくらいの笑みをくれるユノヒョン「チャンミナいつも俺の傍に居てくれてありがとう」「ユノヒョンの傍に居たいってひとは大勢居ると思いますけど」「そう?もしもそうだとしても、俺が安心出来るのも情けないところを見せても良いって思えるのも…これだけだと情けないな他にも、一緒にこの先も過ごしたいと思うのもチャンミナだけだからこの先も覚悟しておくように」自信に満ち溢れているような言葉だけど、そんな言葉を紡ぎながらもユノヒョンの表情には不安が見え隠れしている不安になる必要なんて無いって言いたい、たくさんの言葉を尽くして伝えたいでも僕はまだまだそれが苦手、だからこの先も飽きる程一緒に居ようと思う「ユノヒョンとなら飽きる事なんて無いと思います」「あはは、俺もだ」そう、飽きる事なんて無い喧嘩も擦れ違いもこの先もきっと多々あるだろうそれすらも楽しめる相手なんて他には現れないと胸を張って言えるから━━━━━━━━━━━━━━Bae…babyのスラング昨年12月のカムバお知らせ、から怒涛の活動ラッシュでしたね必死に応援していたらあっという間にホミンちゃん月間が終わってしまいました…書きかけのお話や(どう考えても今更だと思いますが)お話の続きあれこれを今度こそ更新していこうと思いますという訳で2024年1話目は今更感しか無い「知ってるお兄さん」でのお互いの登録名からのお話でした読んでくださってありがとうございます最後に、読んだよ、のぽちっをお願いします ↓にほんブログ村
いっそ、元々ひとつだったら良かったのにと思うどうなっても何があっても物理的な距離が出来ても、俺達はひとつでひとりなのだと思えるからこの苦しみは誰ひとりとして分からないだろうその苦しみが向かうたったひとりの相手でさえも何故なら、俺達は元々ふたつで別々でしか無いから「ユノ、今ちょっとだけ良い?」「チャンミンならいつでも」「へへ、本当に?」毎回律儀に部屋の扉をノックして、俺の返事を待って開ける俺はいつでもどんな姿でも、チャンミンになら見られても良いのに他人行儀だ「とか言って、良からぬ事でもしてる時に僕が突然入って来たら嫌だよね?」「良からぬ事…例えば?」扉を閉めたチャンミンは鍵も締めたお互いにひとりで部屋に居る時は鍵を締めない、これはふたりになった時だけの決まりだ「人には見せられないような動画を観てる、とか…」「もしそうなら流石に鍵を締めるよ」「…そっか」唇を尖らせながらも平静を装うチャンミンの顔には『観るんだ』としっかり書いてある「観るとしたらチャンミンが映ってる動画か写真だろうな」「ユノ!もしかしてあれまだ残して…消してって言ったよね?!」耳まで真っ赤にして詰め寄ってきたチャンミンは、俺と顔立ちがまるで正反対因みに性格も全く違う身長や体格はほぼ変わらないのと、生年月日や生まれた場所は同一だけど「確かに言ってたなでも、消したら消したで、また盛り上がった時に『撮ってみたい』『撮っても良いよ』って言いそうなのはチャンミンの方だと思うんだけど」「……っ…分かってるなら言わなくて良いってば!」良いから貸してよ、と舌っ足らずに焦りながら早口で言いながらチャンミンの手にスマホが渡ったロックは勿論厳重に、だけど俺達はお互いに教えなくても解除方法が分かってしまう二卵生とは言え双子はそんなものだ「……あれ…無い…」俺のフォルダを見下ろすチャンミンの声は少しだけ残念そうでもある肩を組み抱き寄せるようにして顔を近付け、視線を合わせた「チャンミンが消してって言ったから嫌がる事はしたくない」「……そうだとは思ったけどなら揶揄うなよ」そう、チャンミンだって分かっている分かっているけど確かめたくて、それを理由に近付きたくて…きっと、お互いそう「じゃあこれも消してよ、ユノこの写真の僕、全然格好良くないよ」「駄目、これは俺のお気に入りだしこれも…他も全部お気に入りで消せない疚しい写真じゃあ無いから良いだろ?」日々撮り溜めている何でも無い俺達ふたりの写真や動画後少しで丸20年、毎日隣に居ても飽きる事は無い毎日隣に居て、明日こそは完全にひとつになれるだろうかと思い続けても叶う事は無いだからこそ、残せるものは全て残して置いておきたいいつ離れ離れになってしまうか、なんて、俺達が『別々のひとり』である以上保証なんて無いのだから「ユノはどんな時も格好良く撮れてるからそんな風に言えるんだよ僕なんてこれもこれも…はあ、双子なのにどうしてこんなに似てないんだろ」俺のスマホを持ったままで俺のベッドにダイブしたチャンミンほんの数十分差でこの世に生まれた双子の弟産声をあげる前からひとつでは無かったし、産声をあげるタイミングも同じでは無かったそれもまた悔しくて仕方無い「僕もユノみたいなイケメンになりたかったな」「俺はチャンミンが良いしチャンミンと一緒になりたい」「…それはちょっと意味が違うだろ」俯せで寛ぐチャンミンの上からそっと覆い被さるようにして、しっかりホールドした俺が話すと吐息が擽ったいのか、首を竦める姿に堪らない気持ちになる「へえ、チャンミンはどんな意味か分かるの?」「…だから…盛り上がると『そんな時』まで動画に残しちゃうような事…」わざと耳元で囁いたら、チャンミンの声が上擦っただけど俺も同じ、余裕ぶってなんていられない俯せのままで振り返ったチャンミンの唇に自らの唇を重ねた熱くて柔らかくて、幸福で泣きそうになるこんなにも満たされるのに、直ぐに足りなくなる「ユノ…今するの?」「うん、我慢出来ないのはチャンミンもだよな?」スマホはもう、チャンミンの手から離れたチャンミンになら見られて疚しい事なんて無い他の誰か、には見られる訳にはいかない記録や記憶が数多くあるけど、解除出来るのは俺とチャンミンだけ鍵は締まっている、夕食ももうとっくに終わったし大学生の息子達の部屋に両親がやって来る事はまず無い何度求めて求められて、繋がっても渇望が満たされる事の無い俺とは違う身体に触れて隙間無く抱き締め合った「そうだけど……あっ!!」「…っ、びっくりした…チャンミン、声が大きい」部屋の外まで聞こえる程では無いだろうけど、密着していたからかなりのボリューム触れ合っているのとはまた別の理由で鼓動が速くなったチャンミンは俺の胸を押し返して、困り顔で見上げている「ユノにレポートの相談しようと思って来たんだよ!思い出した…!」「レポートの提出日は?」「今週末だけど…」「明日だとしても、まだ明日大学に行くまでは時間があるし…今週中なら問題無いよ」意志の強そうな眉に音を立ててキスしたチャンミンは「他人事だと思って…」と呟いたけど、顔を見れば同じ気持ちだと分かる「他人じゃ無いよ、チャンミンと俺は双子だから」「そう言う事じゃ無くて…ああもう、ユノには嫌って程手伝ってもらうけど、それでも良いの?」「俺の答えはイエスだって分かって聞いてるよね?」一度押し返されたけど、今はもう俺の方が捕まっている仰向けになったチャンミンは俺の腰を挟むように脚を立てているから、逃げられないし逃げるつもりも無い俺達の真実は誰からも理解されないだろう俺達が元々ひとつでは無い事、それがこんなにも苦しくなる程に惹かれて止まないどれだけ傍に居ても細胞ひとつひとつまで一緒にはなれない、だからこうして求め合い混じり合う「…チャンミン、知ってた?」「何?」息を殺し声を潜め、肌と肌を合わせるその最中、チャンミンの内臓の熱さにくらくらしながら尋ねた「後少しで俺達が生まれた時間になる」「知ってるよ毎年、僕達ふたりでその時間を過ごしているんだから日付けが変わる時は父さんと母さんが一緒だけど、僕達だけの時間なら…」身体全体で抱き締め合った性格が正反対でも、外見で双子に見えなくても、俺達はお互いの考えが分かるそれを面白がられたり関心される事もあるけど当たり前でしか無い、特別なんかじゃあ無い俺達がひとつで無い以上は「ユノ」「ん?」「僕、ユノに対してコンプレックスで惨めになる事が今でもあるよ僕なりに沢山努力してもユノのようになれない、双子なのにどうしてって言われる事もある」「だから、そんなの気にする必要なんて……痛っ、つねるなよ」頬を軽く引っ張られた痛くは無いしこんな触れ合いすら嬉しいチャンミンにも伝わっているから、くすくす笑って「ユノの頬、気持ち良い」と悪戯っ子のように囁かれた「一卵性双生児ならこんなに悩む事も無かったのかなって思った事もあるよ」「俺も、今でも…」20年、隣で生きてきただけどこの感情だけは言えなかった、悟られたく無かったこの感情だけは、チャンミンには重過ぎると思ってやっぱり口には出来ない、と言いかけた言葉を飲み込んだら「僕だけは分かってるよ、当たり前だろ」と微笑む「今は、別々の僕達で良かったと思ってる別々だから、僕だけがユノにとって特別だしユノにとっての僕も同じ…だよね?全部分かるように感じるのに全く違う人間なんだよ嫉妬する事もあるし不安もあるだけど、僕達はきっと…」「…うん…絶対に離れられないよ」身体を繋げても、心が繋がってもひとつにはなれないそれにきっと、この先も絶望する程苦しんだりもするのだろうだけど、それらの感情は全て俺達だけが共有して俺達以外には理解出来ないものそう思うと悪くは無いと思う「大学、卒業したらユノとふたりで遠くで暮らしたいな…」「そうすれば、チャンミンと恋人だって思われるかな?」「恋人だし家族だし双子だし…僕達はふたりでひとつだよそうだよね?」汗ばむ身体を抱き締めて、抱いているのは俺なのに身体全体で抱き締められ抱かれているような錯覚に陥る俺達ふたりがふたりだけの世界に居た頃も、こんな風だったのかもしれない、と思った━━━━━━━━━━━━━━━20周年おめでとうございます、の気持ちで広がったお話なのに何とも言えない内容になりました2023年12月26日、今日は本当に本当にたくさんのコンテンツに溺れそうになりながら、20周年とカムバックをお祝い出来る幸せを噛み締められた一日になりましたいつも大切な事を言葉にしてくれるふたり、いつも素敵な姿を見せてくれるふたりをこれからも全力で応援していこうと、今日もまた思いましたこの先もふたりが幸せで健康でありますようにたくさんの活動に恵まれますように…20周年、本当に本当におめでとうございますのぽちっ♡ ↓にほんブログ村
職業、正統派アイドルグループ………の、正統派ではないキャラクター担当「僕達と一緒に暖かいクリスマスを過ごしましょう!」「雪が積もってきたね、今年はファンの皆さんとの思い出に残るクリスマスになりそうです」爽やかなアイドルスマイルでファンへのメッセージを伝えてもハマってしまう年上のメンバー達を横目に、一番年下で『可愛い』と言われる筈の僕はと言えば…「雪になれば、やっと治った僕の風邪がまたぶり返すかもしれません皆さんも、ホワイトクリスマスだからと浮かれ過ぎずに風邪に気を付けてください」「チャンミン、流石ブラックマンネだな!」「違うよ、ヒョンチャンミンは現実主義者なんだよ誰よりもファンの皆さんの心配をする出来たマンネだよな」年上のメンバー達に揶揄われているのか褒められているのか良く分からないフォローを入れてもらってうんうんと頷くこれが僕の立ち位置だし、年上メンバー達よりも実力も何もかも足りない僕に甘いセリフは似合わない数少ない僕のファンも、こんな僕を好きだと言ってくれるクリスマスに合わせた生配信が無事に終わり、美味しそうなケータリングはぐっと我慢した否、少しだけは食べた人より食べる僕にとってはそれでもかなりの我慢だ「チャンミン、この後は例のパーティーだけど…」「…ヒョン達に任せても良いですか?大人数は苦手だし、その…忙しい友人と会えそうなんです」業界の関係者達が集まるらしいパーティーは出逢いの場にもなっているメンバー達は出逢いを求めるような不埒な考えは持っていない、まさに正統派アイドル付き合いで出席する事も分かっているから申し訳無い気持ちだってあるだけど…「どうしてだか、は分からないけど、その『友人』は俺達より更に忙しい気がするなあ」「え…」見透かすような目で見てくるからドキッとしていたら「俺達も今は相当忙しいだろ?だからそう思っただけだよ」と笑顔で頷かれた「友人、と言うかヒョンですだから安心してください」この業界も昔はとても厳しかったらしいけど、今は最低限の規律を守って隠し通せば良しとされている男同士ならばそもそも外で一緒に過ごしていても何も思われない、思われる訳は無い正統派になれない問題児だけど迷惑は掛ける訳にはいかないからちゃんと伝えた「俺達じゃ無い別のヒョンだって思ったから大丈夫くれぐれも宜しく伝えておいて」「…友人、のヒョンにですか?」「うん」グループのヒョン達は笑って僕を見送った少し気にはなったけど、それよりも会える事が嬉しくて、念願叶って購入した車に文字通り飛び乗る勢いで乗り込み、空で言える住所へと向かった車内で流したのは毎週末楽しみにしているラジオオンタイムでは無く、数時間前に放送されたものをアプリで聴いているオンタイムなら、今こんなにも急いで焦って向かう必要は無い注釈するけど、急いでも焦っても安全運転だ『普段は僕がステージキング、舞台上の君主、と呼ばれていますが、今日は特別な日ですよね?クリスマスと言う素敵な舞台の主役はこのラジオを聴きながらホワイトクリスマスを過ごす皆さんです楽しむ暇は無い程忙しい方も、クリスマスどころでは無い程悲しみに暮れている方も、今とても辛い境遇にいらっしゃる方も…どんな方も皆さんの人生の主役で特別な一人一人です 』耳障りが良い、低くて甘い声ラジオのパーソナリティはカリスマ性溢れる実力派アイドルグループのリーダー近寄り難い程のオーラ、実力、ビジュアル、全てを兼ね備えているのに、こんなに優しく語り掛けてくる親密さがあるから魅了されるファンが絶えないこんなに優しく語り掛けてくるのに、ステージに立つとまさに君主として君臨する姿は誰も代わりにはならないと思う「カリスマなのに甘くて優しい、なんて…こんなギャップなら僕もアイドルらしくなれるのかな…」呟いてから、そもそも自分には実力が圧倒的に足りていないという事実にうっと胸が苦しくなったアイドルに求められる要素は幾つもあって、僕には少なくともダンスパフォーマンスや愛嬌、『アイドルらしさ』が足りない最後の一つに関しては、グループのファンからはキャラクターとして認知されているしメンバーのヒョン達からも同じくだけど、実力はと言えば…『自分に自信が無い?どうして?このラジオを聴いてくださっている皆さんはこんなにも優しくて素晴らしい方々なのに?会った事が無くても分かります、皆さんがいつも僕の、僕達の力になってくださっているのだから』「…タイミング良過ぎだよ」赤信号で停まった瞬間聞こえてきた優しい声に、思わずハンドルに顔を突っ伏した顔中熱いのは、まるで見透かされたような言葉の所為だけじゃあ無いもう、直ぐそこに目的地が見えてきたから「良く来たね!……これは?」「クリスマスなので、サンタからのプレゼントです!!」「え……」玄関の扉が開く前に俯いたまま、大きな紙袋を差し出してもまだそのままだから顔は見えない、見られない相変わらず顔が赤くてどうしようも無いしどうすれば良いか分からない生配信ではあんな事を言ってしまったけど、熱はもう下がったし体調はしっかり整えてきた「何だろう、この大きさはケーキかな嬉しいけど、それより早く顔が見たいしここじゃあ誰か来るかもしれないから…」「…っあ…!」中身が直ぐに当てられた紙袋の重みが消えて、手首を捕まれた後ろで扉がゆっくりと閉まっていく俯く僕を覗き込んでくるから、もう顔が背けられない「会いたかったよ、チャンミナ」「ユノヒョン…その声、反則なので止めてください」「ええ…どうして反則なの?」片手で軽く抱き寄せられたこれはまだ、親愛のハグだカメラの前で、ファン達の前で、僕だって何度もグループのヒョン達と交わしてきたもの「ラジオの時よりもその…何て言えば良いか分からないけど…恥ずかしいです」「恥ずかしいって俺の声が?」「ユノヒョンの声は凄く良いです!そうじゃ無くて、僕が恥ずかしいんです嫌じゃ無いから困るし反則って事で…ああもう、どう言えば良いのか分からないよ」最後は独り言として極小さく吐き捨てるように呟いたなのに、顔を近付けて来るから聞かれてしまったアイドルとして人前に立つ事や正統派では無い発言をしてしまう自分には慣れてきたのに、情けない本音をこのヒョンに聞かれる事は恥ずかしくて悔しくて堪らない「チャンミナさっきラジオって言ったよね?生配信の仕事で聴けなかったんじゃあ…」「後からでも聴けます、だからここに来る途中に…本人だから知ってますよね?」正統派では無くひねくれているのは元々正統派アイドル、らしい顔だと言われスカウトされたけど中身なんて全くアイドルじゃあ無いそれなのに、ユノヒョンは嬉しそうに顔を綻ばせて僕を見てくる「知ってる聴いてくれるかな、とも思ってた思ってたけど、実際に分かったら物凄く嬉しい」「…っ、僕はそもそもユノヒョンのファンなので聴きますよ、何だって…」リビングのテーブルの上に置かれたのは紙袋から取り出された大きな箱ユノヒョンが嬉しそうな顔でゆっくりと開けた「苺がいっぱいだチャンミナが選んでくれたの?」「ふたりで会うのに、僕以外の誰かだと思いますか?」「ああもう、可愛いなあ」はあ、と大きく息を吐きながら僕には似つかわしく無い言葉をもらった年上メンバー達からはマンネとして可愛がってもらっている、マンネだからと許される事もあるつまりは純粋な『可愛い』では無くお目こぼしのようなものそれならば、同じ業界で活躍する僕とは比べ物にならないくらいカリスマ性と実力に溢れ素晴らしいビジュアルとスタイルを持つこのヒョンは、と言えば…「やっぱり、ユノヒョンは変わってます」「あはは、またその話?変わっているチャンミナ、を可愛いって言うから?」「はいきっと、ユノヒョンはあまりに完璧に凄いから、僕みたいな足りない人間にも優しいんだと思います」自分を卑下する訳では無くて事実だ正統派アイドルグループに属しているからアイドル、だけど他のヒョン達のようにはなれない自信が無いし嘘になりそうで、甘い言葉を甘い表情で紡げないファンの健康や日常を心配して、毎日が少しでも良いものになって欲しいのは本当、なのに難しいユノヒョンはケーキを大切そうに冷蔵庫に仕舞った振り向いてまた僕の目の前にやって来たと思ったら腕を引かれて…「うわっ!ちょっと、ユノヒョン!重たいのに何を…」「鍛えてるし大丈夫この重さだって幸せだ」広いソファには並んで座っても充分過ぎるくらいスペースがあるのに、真ん中に座ったユノヒョンの腿の上に身長の変わらない僕が座っている横にずれて降りようとしたら、後ろからしっかり強く抱き締められて動けない僕も男で活動の為に鍛えているのに敵わないまだ良かったのは、向かいあわせでは無い事向かい合わせなら、顔と顔はとんでも無い至近距離だったろうから「しまった、これじゃあチャンミナの顔が見えない」「なら降ろしてください重たく無いし、隣に座れば顔を見て話せます」やっぱり少しだけ…いや、本当はしっかり顔が見たいそれでも今振り返って至近距離になるのは避けたい葛藤する僕を他所に、ユノヒョンは後ろから覗き込んでくるばちっと目が合って逸らせなくなった「向かい合わせになる?それともこのままでも良いよこうすれば顔が見えるし触れていられるから」「…ユノヒョンって心が広過ぎませんか?」正統派アイドル、だけど正統派では無い可愛げが無いし素直になれない素直になったらなったで変わっていると言われるそんな僕とクリスマスの夜に会うユノヒョンは冗談じゃ無く聖人だと思う「どうしてそう思うの?」「…僕なんかを恋人にして、クリスマスに会ってくれるから可愛い、とか言って顔を見ていたいとか触れていたいとか…」「顔だけが好きとか触れたいだけ、とか…勘違いしてないよね?好きだから可愛いし触れたいよ好きになる前から良いな、とは思っていたけど『僕なんか』じゃあ無いよ」「……」振り返ったままだと少し窮屈でしんどいそれ以上に恥ずかしくてもう一度前を向いた僕のお腹に添えられた僕より大きな節ばった手に触れたらあっという間に指で絡め取られた離れたく無い、離したく無いのは僕も同じだからそのまま触れて温もりを感じた「俺には無いものばかり持っているチャンミナが好きだよアイドルである自分、にもがいて良くなろうと努力するチャンミナが好きだアイドルらしいストレートな言葉よりも、チャンミナの想いが篭った本音を言葉にして届けるのを見ると愛おしくて堪らなくなる」「…ユノヒョン…」「俺は、本当は元々何だって出来るような人間じゃあ無い必死に努力して悩んで苦しんで、やっとアイドルになれただけどそれを言ったら…と思うと言えない、出せない完璧じゃ無い自分の弱音をチャンミナになら見せられる情けないけど、それくらい特別なんだって分かってよ」誰よりも努力している事を知っている同じグループでは無いから全ては知らないけどだけど、こうして教えてもらう事で少しは分かる努力して悩み苦しみ前へと進むのはきっと普通なのに、それでまた悩む程出来た人間だって事も知っている僕とは全く違う、カリスマ性溢れる実力派グループの努力を惜しまないリーダー「クリスマスだからって浮かれ過ぎないようにって言われたのに、やっぱり無理みたいだ」「ユノヒョン、その言葉……もしかして…観たんですか?!」「当たり前丁度帰って来たところだったから間に合わなかったらどうしようって焦ったけど良かった恋人に会えて浮かれ過ぎるような俺でも許してくれる?」「チキンを買い忘れたんです」「ん?」「ケーキしかありませんだから、ユノヒョンがチキンをオーダーしてくださいそうすれば…許すも何も、僕だって物凄く浮かれているのでお互い様です」身体を捻って振り返ったままの何だか無理矢理な体勢で抱き着いたこうすれば顔は見えないし、恥ずかしさからも開放される合わさった胸から響く鼓動はお互いにとても速い「カリスマ性溢れるリーダーにこんな面があるって知っているのは僕だけが良いです」「当たり前ブラックマンネ、なんて似合わない呼び名のついているチャンミナが本当はこんなに素直だって知っているのも俺だけ?」「…それは…もう少しアイドルらしく在りたいので、これから変わっていこうと思います」だけど、クリスマスを一緒に、ふたりきりで過ごしたい特別な相手はひとりだけ年上なのに子供のように拗ねた表情で僕を見上げる格好良いのに可愛い恋人の目元を手で覆って唇を落とした━━━━━━━━━━━━━━━20周年、カムバ、までもうあと僅か…なのに仕事に追われて日々を過ごすのに必死ですクリスマスとデビュー日あわせのお話だけは…と何とか間に合いました明日中にまた別のお話を更新、が目標です目標だけで終わるかもしれませんが、更新された時はそちらもお付き合いいただけたら幸いです読んでくださってありがとうございます足跡代わりのぽちっもお願いします 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薄汚い欲望が渦巻く夜の街から身体ひとつ、いや、身体と財布ひとつで逃げて海に命を投げ捨てようとした僕が足を踏み入れた海の『持ち主』だと言うユンホに命を救われてから数日間、僕は確かに全てに対し警戒していた無実の僕を金を盗んだ犯人だと決めつけたナムさんそして彼が経営するホストクラブのホスト達が僕を追って来るかもしれない警察が僕を探しているかもしれない天涯孤独になった僕を引き取る事で親戚達には良い顔を見せておいて実の所は僕の両親の遺産を全て手にしたり、僕をホストクラブの隅で住まわせて手伝いばかりさせていたナムさんとユンホが繋がっているかもしれないそうして僕をこの広い家に留めておいて、その内にナムさんが僕を連れ返しに来るかもしれないなんて思っていた僕はお金なんてほんのはした金、にもならない額しか持っていないから、ユンホがお金目当てとは思えないナムさんみたいに奴隷だとか使用人のように僕を利用するのか、とも思ったけど、僕にもしっかり食べさせてくれるし、お風呂は何時でも入って良いと言われるし、まるで小さな図書室のような部屋にも自由に入る事が出来る助けられた直後、突然性器を刺激されて『お前は俺のものだ』なんて言われたから、もしかしたら男が好きなのか、とか僕に性的な悪戯をしたり、そう言う道具として使うつもりなのか、とも思ったけど…あの一度以来、何もして来ない二十歳にして平凡な日常、という素朴な天国からナムさんの元での地獄を味わった僕は、地獄を…受け入れたくはなくとも受け入れられてしまうくらい、多分、それなりに頑丈だと思うそんな頑丈な僕だからなのか、は分からないけど、常にナムさんの目が合って緊張感を持っていた頃に比べたら、得体の知れない男、ユンホとの生活は天国だって思う程つまりは、夜の街から逃げてきて約二週間で、僕はもう新しいこの生活に慣れてしまったって事「チャンミンは本当は料理が趣味なのか?」「別にそんなんじゃ無い外に出たく無いから…家で出来る事をしてるだけ自分で作れば好きなだけ食べられるし」まるで休日の午後、のような今は…多分平日最近はもう、今日が何曜日なのか、もあまり意識していないし意識する必要も無いから、確かめなきゃ分からない「それは何を作ってるの?俺も仕事が一段落したから、何か手伝おうか」「……激辛の冷やし麺ユンホが何時部屋から出てくるか分からなかったから、辛いものしか考えて無かった」広いキッチンに立つ僕を後ろから覗き込んできたユンホ彼は、僕が刻んでいる生の唐辛子を見て「うわ!こんなに?」と驚いているから、つい笑ってしまった「美味しそうなレシピを見付けたんだこれ…まだ辛いタレは作って無いから、ユンホが食べられるくらいの辛さにしようか?」男らしいユンホのイメージとは何となく合わない気がする、柔らかなパステルカラーを基調としたキッチンいや、キッチンだけじゃ無い、この広い家は何だかとてもあたたかい雰囲気なのだユンホの趣味なのだろうか「へえ…何これ?サイトで見られるの?」「…料理のアプリ…ダウンロードしたんだけど、駄目だった?」キッチンに立てて見ていたタブレット数日前、ユンホから『俺が前に使っていたやつだけど、好きに使って良い』と渡されたものスマートフォンをナムさんの店に捨てて来て以来、何も持っていなかったから、何だかやっと現代に戻ってきたような…そんな気分でも、そう言えば、両親が居なくなってナムさんに引き取られてから心休まる時なんて無いし、環境が変わってしまったこともあって、以前の…大学生だった頃のように友人とやり取りする事が無くなったふとした時にスマートフォンを見てアプリゲームをしたり、流行りの何かを調べたり…そんな事も無くなっていたのだと、今更気が付いた「そっか…スマホを捨てたけど、そもそも必要無かったんだ…」「チャンミン?また過去に戻ってるのか?」「え…っあ、ごめんで…アプリって入れない方が良かった?」僕の斜め後ろからタブレットに指を伸ばして、レシピを見て「凄い、便利だな」と関心した様子のユンホに尋ねたら、彼は「これはチャンミンに渡したんだから、自由に使えば良い」と言った「そっか…料理は別に、僕がひとりで作るよ仕事も勉強も、今は必要無いし…」「本は?読みかけの物があるんじゃ無いのか?」「仕事も学校も無いから後で読めば良い」「ふうん…死にたいって気持ちは無くなったか?」ユンホは冷蔵庫からペットボトルの炭酸水を取り出して、ごくごくと気持ち良さそうに飲んだ「…そんなの、どう思ったって僕の勝手だろ」どう答えれば『正解』なのか分からないでも、分かる事は…今の本音、つまり、死にたく無いって言うのは…多分、不正解だって事「まだ気持ちは変わらないって事かまあ、俺がしっかり監視してるし…勝手な事なんてさせないからな」「ユンホなんて、一日の殆どを部屋で過ごしているくせに監視とか…出来る訳無いじゃん」嬉しさを顔に出さないようにして、ふん、と鼻で笑ったユンホは肩を竦めてにやりと笑ってから、後ろのリビングへと向かって…ソファに座った気配がした「ユンホを好きになったから死にたく無いまだこれからどうなるのかも分からないけど…」ユンホが言うところの『俺の海』で命を捨てようとした僕を彼は助けて、その海で死のうとする事は許さないと言ったユンホが何故僕をこの家に住まわせてくれているのか、その本音は分からないただ優しいだけなら、男が好きな訳でも無いユンホが僕の性器に触れて悪戯するような事はしないだろうし…本音は分からないけど、何となく分かるのは、死のうとしなくなった僕は用無しだって事ユンホは毎日のように『まだ死ぬつもりなのか』と聞いては、僕が曖昧に濁したりすると何処か満足そうな顔をするから多分、だけど、ナムさんの顔色を窺って一年弱過ごして来たから何となく分かる僕が死にたくないって希望を持ち始めたら、ユンホは僕を捨てるだろうってユンホは一日の大半を彼の部屋で過ごすその部屋には入った事は無い本当は気になるし、入ってみたいけど、ユンホが居ても居なくても鍵が掛けられているし…仕事をしているらしいその時にノックなんてしたら、ユンホに興味があるだとか好きだってばれてしまうかもしれないからでも…少しでも知りたいユンホの事を「あの…」「何?」「仕事って、何をしてるの?部屋で出来る仕事って、IT系、とか?」昼の激辛…にはしなかった冷やし麺を食べた後もユンホが広いリビングに居るから、僕も図書室のような部屋に向かうのを止めて、ユンホの斜め前のフローリングに膝を立てて座った「在宅で出来る仕事はIT以外にも幾らでもあるよ俺の事が知りたいのか?チャンミンは自分の事を話そうとしないのに?」「…それは…」「チャンミンの事をもっと教えてくれたら、俺も教えるかも苗字すら、俺が財布のなかの保険証を見てやっと知ったくらいだし…」ソファの上、肘掛けに肘を置いて頬杖するユンホ僕よりも十歳も年上なのに、そんな風に見えない「俺がチャンミンから教えてもらったのは、ホストクラブでホストをしてたって事それから、そこで無実の罪を擦り付けられそうになったから逃げて来た、それだけ親は?友人は?誰か、他に頼れるひとは居なかったのか?」「……」ユンホが敵か味方か分からない誰なのか、も分からないだから、自分の情報を明かしたく無かったユンホの名前が偽名では無いらしいって事は、この家に届いたネットショッピングの段ボールに書かれた宛名で分かるけど…僕だってユンホの事を何も知らない「まるで腹の探り合いだな何を考えてる?チャンミン」「僕は…」この居場所が無くなれば、僕にもう行く場所は無くなる親戚は皆僕を引き取る事に難色を示していたし、そもそもナムさんが引き取って親戚達には上手く言っているだろうし、それは今も変わらないだろうし…友人達とは、両親の亡き後、大学を退学した時点からもう連絡なんて取っていないし連絡先も全て消した「教えたら、ユンホも教えてくれる?」「ああ、良いよ」膝を抱えるようにして座って、ユンホを見上げた少しだけ笑ってくれた、そんな顔を見るだけで最近はどきどきと鼓動が速まる僕の命を救ったひと僕の事を俺のものだって言うひとだけど…何を考えているか分からないひとに恋をしたかも、と思ってからはもう、あっという間で、完全に滑り落ちてしまったナムさんが僕の世界の中心でも、好きになんてならなかったのに「僕は…一年前までは大学生だった両親がデートに出掛けてそのまま突然の事故で亡くなった十九だった僕には保護者になる誰か、が必要だったんだけど、親戚達は皆面倒がって…唯一手を挙げて僕を引き取ったのが、遠い親戚の男で…そいつが、ホストクラブを経営していたから、その店の手伝いをする事になった」「大学は?今は大学生じゃ無いって言ったよな?」「ナムさん…親戚に引き取られる事が決まって直ぐに退学した学校なんかに通わせるお金は無いからってそいつは両親の遺産を全部引き継いだのに」ユンホは僕の話を静かに聞いた話し出したら止まらなくて、ホストクラブのバックヤードの隅で寝泊まりしていた事プライバシーなんて無かった事ホスト、なんて名ばかりで雑用や…まるで使用人のようだったって事を話した「擦り付けられそうになったのは…店の売上金だか、その親戚の金だかを、僕が盗んだって別のホストが言ったんだ」「でも、チャンミンは無実?」「誓って無実だそんな事考えた事も無い日々を過ごすので精一杯だし、思考なんて停止してたからでも…多分誰かが僕を嵌めたんだろうけど、僕の場所から消えたお金が出てきたらしくて、僕が居ないところで警察を呼ぼうって話をしていて…無実だろうが何だろうが、捕まるし、捕まったら終わりだって思った行き場も無いし夢も希望も無いし、それならもう、自分で終わりにしようって…」「で…こんな所までやって来て、海に?」頷いて、更に膝を抱えていたら、ユンホが背中を曲げて僕の方に身を乗り出してきたから顔を上げた「フローリングの上じゃあ固いだろソファに来れば?」「……良い」本当は傍に行きたいでも、嬉しそうな反応をしたり、傍に行ったら…それで嫌われたら悲しいからひととの距離をどんな風に詰めていけば良いのか、なんて、もう忘れてしまった「ふうん、まあチャンミンが良いなら良いけど」「ユンホは?何をしてるの?」膝を抱えて小さくなって尋ねたら、ユンホは無言で立ち上がって「待ってて」と言ってリビングから出て行った「…何だよ…」気になる追いかけていきたい大きな一戸建て、一階のみだけど、広くてまるで洋風のお屋敷って感じ迷路のよう、とまではいかないけど、部屋の外に出たらもう、気配を感じなくなってしまって不安になるユンホがリビングを出てから、リビングからも眼下に望める海と砂浜を見た何時も、この海には誰も居ないそれはあの海がユンホの持ち物…つまり、ユンホの土地だから、なのだろう「あの砂浜なら…歩いていても、ナムさんや警察に見付かる事も無いかな」外に出るのは怖い何時誰に見付かるか、いや、そもそも自分が追われているのかそうでは無いのか、すら分からないからそんな事を言ったらユンホだってそうだけど…ユンホになら、騙されても良いユンホが僕の人生を終わりにするなら、それで良いかなと思うだって、好きになってしまったユンホに騙されても尚、これ以上生きていたいとはもう流石に思えない「僕って弱いのかなそれとも図太いのかな…分からないや」分からない事を考えられるくらいには気持ちに余裕が出来た余裕と時間が出来たからどうでも良い事を考えてしまう何もかも分からないから、想像ばかりしている「海を見ていたのか?まさか、また飛び込もうとしてる?」「…そんなの、ユンホに言う必要無い」「そうか兎に角、俺の海や俺のこの場所で死のうとするなんて許さないからな」ほら、やっぱり僕の気持ちがまだ、あの日から変わっていない事を匂わせると何だか…少し嬉しそうだし生き生きしているきっと、僕が生に希望を見出してしまったら、捨てられてしまう「ほら、これ」「え…」戻って来たユンホが座る僕に差し出したのは、一冊の本それは、僕が最近読み出した本で、天使のような少女に少年が恋に落ちる、爽やかな青春物語のような…「ペクドフンの小説…これが何?」「…これが俺だ」「え…」「チャンミンが俺を知っていて、しかもこの家に来てから俺の小説を次々に読んでいるから、偶然とは言え驚いたよだからまあ、最初は打ち明けるつもりは無かったんだけど…」「え、ちょっと待って!ユンホは偽名で、本当の名前はドフンなの?」受け取った本をじっと見下ろしてから、はっと気付いて顔を上げたら、ユンホは目を丸くしてからくすくすと笑った「何だよ!答えろよ」「ああ、その感じ…良いな最初にチャンミンを海から助けた時を思い出すよ助けるな、構うなって顔」やっぱり、僕が反発する方がユンホは嬉しいのだろうか「『ペクドフン』はペンネームだペンネームの方を本名だと思うだなんて、チャンミンは意外と純粋で可愛いところがあるんだな」「…ペンネーム…」「ああそう言えば、チャンミンは『可愛い』んだったな成り行きが成り行き、とは言えホストをしていたくせに、『あれ』は随分綺麗な色で、使い込む、どころか全く使っていなさそうだったし…」「言うな!…っあ…!」ユンホの手で握られて刺激された事を思い出してかあっとなっていたら、ペクドフン…いや、ユンホの小説は取り上げられた「これは俺の分チャンミンは書斎にあるやつを読めば良い」「…ふうん…ユンホって、純文学を書くような男には見えなかったけど…実は、意外と純粋だったりするの?」女性経験なんて無い付き合った事はある、けど、初めての彼女と付き合い出して直ぐに両親が他界して、彼女の居る大学に通う事も無くなったし…全てを失った、なんて格好悪いところを見せたくも無いし、彼女に気を遣う余裕も無くて別れて、キスだけで終わったそんな事言わなければ分からない筈なのに、ユンホは僕が…性器を使った事無いって決め付けたし、意外と純粋なんだな、なんて言ったそれが悔しくて同じように言い返してやっただけそれなのに…「脱げ」「……え…」「言ったよな?チャンミン、お前は俺のものだもう一度、それを分からせてやるよ」「……は?何だよそれ…僕は、もう死にたいって…」ユンホに助けられて直ぐに触れられた時は、プライドは傷付いたし最悪な気分だったでも、ユンホに恋心を自覚した今…何故かスイッチが切り替わったように冷たい目で僕を見下ろすユンホを見て、ぞくぞくした「死ぬ?また、俺の目を盗んで海で溺れるつもりか?俺の大切な海で?」「…別に……そんなの勝手だろ…っあ…!」腕を引っ張られて立ち上がったそのままソファに押し倒されて、ユンホから渡されて履いているスウェットパンツは下着ごと脱がされた「拒んだら握り潰すからな」「…何だよそれ……っ、最悪…」覆い被さられて性器を強く握られたけど、握り潰されるような力じゃ無い「…俺が純粋?知ったような口を聞きやがって」「…っあ……!」約二週間ぶりに触れられた恋心を自覚して初めて触れられたユンホは何かに怒っているし苛立っているだけど…心を読み取らせないような張り付いた笑顔で居られるよりも、こんな風に感情を露わにされた方が良いどんな形であれ、僕に執着を見せてくれる事が嬉しい「はっ、生意気を言うくせに、身体は弱いんだな」「…っくそ…!最低…っん…」本当は腕を伸ばして抱き着きたいでも、ユンホが触れるのは許されても、僕がそんな事をしたら一気に拒まれそうだから、右手の甲を噛んだそうすれば、好きだとか、もっと、なんて言わなくて済むし…ユンホに向かって腕を伸ばさなくて済むから小説家ペクドフン彼は数多くの作品を執筆しているジャンルも様々だけど…純粋な恋を描いた作品がとても人気だし、賞も取っている僕は何故か彼の作品に惹かれていたから、ペクドフンがユンホだと知って、嬉しかっただけど…ペクドフン、つまりチョンユンホが、その作品達のなかにどんな気持ちを込めているのか、それをまだ僕は知らないランキングに参加していますお話のやる気スイッチになるので、続きも読んでくださる方は足跡と応援のぽちっをお願いします 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このお話は後日限定に切り替えもしくは削除いたします感情は全て一続きで繋がっている愛と憎しみが紙一重だと言われるのだから、友情と愛情、特別な恋愛感情は更に近いものなのかもしれない「それがユノヒョンの言い分ですか?だから、ヒョンも僕と同じ時間悩んだのだと?」必死な顔で問い詰められても怖い、どころか愛おしさしか無い「俺達は別々の人間だから全く同じでは無いよ少なくとも、現実が信じられなくてこうして日を置いたくらいには悩む…いや、自信なんて無い」「……」言ってから、これでは『やっぱり違う』と思われてしまうかも、と思った思ったが、恋愛面で等身大の、器用でも無い俺の本音を伝えた方が良い恋愛の相手に格好悪い面を晒すのは一人の男として不本意これが仕事ならば、パートナーである目の前の男に裏も表も無く本音を伝えられる、どんな反応が返ってきても話し合って前に進める自信がある出会って十五年ほど経って、こんなに恥ずかしい気持ちになるとは思わなかった「僕はユノヒョンに焦らされたのかと思いました違うんですか?」「焦らす?」うん、と頷いたチャンミンは普段よりも幼く見える約二年離れていた間にそれだけ大人になったのに不思議だ彼も俺を前に不安な気持ちを持っているのか、それともこれが仕事でも普通のプライベートでも無く、今までに無い俺達の関係の始まりだからなのか「ユノヒョンは僕を好きで、僕はユノヒョンを…好きですそれが分かったのに、ふたりで会うのがどうして今になるんですか?忙しくても、こうして仕事終わりにヒョンのマンションに来れば話が出来たのに」俺達は真逆、正反対同じように恋愛感情を持っていると分かった今もそれは変わらない変わらないからこそ、まだまだこれからも知る楽しさがある「舞い上がって、冷静に話が出来る自信が無かったんだよチャンミナは俺よりも先に恋だと気付いたって言うけど、俺だってずっとチャンミナは特別だった」「…そう言えば僕が納得すると思うんですか?」チャンミンの今の不満は二つまず一つ、恋愛感情を自覚して耐えて悩んだ時間は俺の方が年単位で短い事次に、つい先日撮影の合間に同じ気持ちだと分かったのにその後恋人らしく二人で会う時間が無かった…いや、俺がそれを先延ばしにしていた事「僕ばかり会いたくて話がしたくて、しかもずっと好きで我慢したり誰にも知られないようにしたり、とか…物凄く大変でした!それなのにユノヒョンは余裕じゃ無いですか『舞い上がる』とか…今だって普通にしか見えません」俺のマンション、俺のリビング普段寛ぐこの場所、俺のソファにチャンミンが座っている流石に現実味が無いとは思わないここ数日、仕事中にチャンミンからこれまでとは違う視線をしっかり感じていたから「余裕?まさかチャンミナも夢を見たってあの時教えてくれたよなこれも、都合の良過ぎる夢ならどうしよう、なんて本気で考えたりもした明日になれば、『あれは無しにしてください』と言われないだろうか、とか」「…ユノヒョンが?本当に?大袈裟に言ってませんか?」じっ、と見つめてくるこの顔は期待に満ち溢れていると分かるここで『大袈裟に言った』と言えば拗ねてしまうだろうかそんな顔も見たい、と悪戯心が湧き上がるけれども、拗ねるどころか呆れられたら悲しくて仕方無いから止めた「大袈裟じゃ無い、本当だよこれからは無理をして隠さなくて良いから、本当の事しか言わない」「……」「でも、悪かったよ仕事があるから日を改めて…なんて尤もらしい事を言ったよな本当は二人きりになったら舞い上がってしまうからそれと…」「それと?」チャンミンの手は落ち着かない様子でスウェットパンツの太腿辺りを擦るように動いている表情は真剣で、上目遣いで瞬きもせずにこちらを見ているこんなに幸せな両想いがあるだろうかチャンミンの瞳に吸い込まれて息の仕方すら忘れてしまいそうになる「…髪の毛、短過ぎるって思ってます?」「俺も同じだったよ少し戻って来るのが早かっただけで」「髪が短過ぎる僕だと、恋人…にはなれませんか?」今のチャンミンを好きで、今のチャンミンだから好きだともう一度確信したのだと伝えている俺達は正反対と言える程違っていてもお互いを分かり合える分かり合えるから相手を疑う事なんて無いでもそれは仕事において、新しい関係になるとこんなにもちぐはぐで噛み合わなくなってしまうのか、ともどかしいような擽ったいような思いになる「チャンミナは、そんな風に言って俺から確かな言葉が欲しいの?」「狡い言い方しないでください」「恥ずかしいんだよ信じられないくらい幸せで、舞い上がってるどうすれば冷静になれるか分からない」短い髪の毛、その襟足に手を伸ばし触れてみた恥ずかしそうにぴくっと揺れて、一度下向きになった睫毛はまた持ち上がり視線が交わった「もっと見せてください『若気の至り』と言っていた頃に抱き合っていた頃も、ユノヒョンはいつも僕とは違う場所に居るみたいだった恋愛関係とは違ったから当たり前だと分かっています、でも少し寂しかったんですあんなにユノヒョンに救われたくせに我儘ですが」ドラマのようにあの頃からお互いに恋愛感情を抱いていたか、と言えばそうでは無いけれども特別だった事は確か特別だから、チャンミンと秘密を持った俺が守りたい、俺しか守れない、独占欲めいた気持ちがあったあの頃の自分達は今だからこそ若かった、と言える若かったけれどもそれが精一杯でそうするしか無かった特別で、他の特別な感情に揺れる紙一重の状態だったと思う「チャンミナもこれからは沢山見せて俺だけにしか見せない顔」「今でも、今までも僕はそうですよ」「うん、知ってる」格好付けて臆病なのは俺の方だ彼の理想で居たい、肩を並べようと言いながらも前を歩いて何とかヒョンで居たい、と藻掻いているチャンミンはそんな俺を良く見ているその証拠に『いつも違う場所に居るようで寂しかった』と指摘された「チャンミナにこれ以上見透かされるのが怖いんだと思う自分が弱くなりそうで…」「ユノヒョンが繊細で思慮深い事も知っていますだから、こうして一旦距離を置かれたんだと思っているし分かっています」自らの言葉に確信を持つ顔で頷いたチャンミンが動いて、俺達の僅かな距離がゼロになった堂々としているかと思えば今度は照れたように含羞む、髪の毛で隠す事の出来ない大きな耳は赤い感情は全て一続き愛と憎しみが紙一重であるように、様々な愛情は濃淡で続いているあの頃感じていた独占欲に確かな名前を付ける事は今もまだ出来ない若さ、境遇、色々なものが重なってあの頃の俺達が居る『若気の至り』と名前を付けて終わりにしたら、普通に戻れるという安心感があっただけど後悔した事は一度だって無い「舞い上がるヒョン、まだ見ていないんですが…」「余計に意識するから言わないで」チャンミンの方が余裕だ嬉しそうに笑みを浮かべて肩を寄せてくる布越しに触れたそこが熱い数日間経てば、この幸せな現実を受け止めて冷静になれるかと思ったけれども無理だった「ユノヒョン……!」ソファに座ったまま、腕を伸ばして強く抱き締めたそれだけでも心臓の鼓動は速まり、落ち着けと言い聞かせても言う事を聞かない「はは、何だ…チャンミナも俺と同じくらい緊張してたんだな」「…っ、…当たり前じゃないですか…!急にこんなの…何も無くたってずっと緊張して浮かれているのに…」首元に顔を埋めたら、どちらの熱か分からないくらい熱い同じ高さで合わさった胸から耳奥にドッドッ、と速いリズムが届く身体全体が心臓になって、一つになったような幸せな錯覚に陥る「あんな事をしてもここまで恥ずかしく無かった、夢でも大丈夫だったのに…ユノヒョン、僕に何をしたんですか?」もごもごと恥ずかしそうな声で尋ねられたその声で、言葉で、それだけで涙が込み上げてきた元々特別な愛情を抱いている特別な弟二人だけの秘密の過去を共有する相手それ以上のまた違う形に変わる事はもう無いと思っていた、だけど俺達にはまだ新しい未来がある気付かせてくれたのはチャンミンだ愛情は一続きで大きくは変わらない、だなんて冷静に考えたかっただけそう思わないと冷静では居られないから「俺も教えて欲しいチャンミナだけだよ俺をこんなにも冷静で居られなくさせるのは」冷静では無いのは俺チャンミンはチャンミンで「昔は大丈夫で当たり前だったのに」と触れ合う事に照れているそれならば俺が…とリードしたかったのに、抱き締め鼓動と体温を感じるだけで満足してしまい、若かった頃よりも純粋で真面目な夜を過ごしたどんな感情も愛情も、不変では無い不変であるように努力をしても、どれだけ抗っても人間である以上どうしようも無い感情の先に自分以外の誰かが居るならば、それがまるで自分自身のような、もしくはもう一人の自分だと確信する相手だとしてもどうしようも無い事があるだから知る楽しさがある飽きる事なんて無いそれは上辺の強がりで、本当は夜が来る度に孤独に潰されそうになるもっと信じて、何も疑う事無く強く在りたいのに「……これでまた眠れなくなるな」明かりを消したリビング薄く入ってくる月明かりが顔の辺りを照らしているスマートフォンに届いたのは、俺を幸福にも孤独にもさせるたった一人の相手『明日は会えますね』『本当は声が聞きたい』『だけど、我慢出来なくなるから』「チャンミナ…」長い時間を掛けて話し合い納得して決めた事これが俺達の選んだ道だからこそ、俺達は今また秘密の関係を続けてこの愛を守っているそれでも、時にこんなにも孤独なのは自分だけなのでは無いか、と不安に苛まれる『離したく無い』『傍に居て欲しい』本音を押し殺して、時に憎しみにも変わってしまいそうになる程強く求め愛する人の事を想う明け方、漸く眠りに就いた頃秘密の恋人からのメッセージが届いていた『たまに自分の事が分からなくなります』『ユノヒョンが居てくれれはそれで良いのに』翌日、仕事の場で顔を合わせたチャンミンからはおかしな事を言って申し訳無いと謝罪された軽いハグで大丈夫、同じだと伝えたチャンミンに言い聞かせて安堵する表情を見て、大丈夫同じなのだと安堵したのは俺の方どれだけ時間が経っても普通の在り来りな幸せ、には程遠いけれどもたった一人にしか引かれない、引き寄せられない誰からも理解されなくても、この感情は俺達だけのもの ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄先日のお話のその後でしたこのお話が無い方が暗く?ならずに済むので、冒頭に記載した通り削除もしくは限定に切り替えるかもしれません読んでくださってありがとうございます足跡代わりのぽちっをお願いします ↓にほんブログ村
箱入りだとかお坊ちゃんだとかこの世界の汚い事を何も知らずに育った、なんて事は無い現代社会に生まれたら、例え自分とは程遠い世界の事だってインターネットやスマートフォンを通じて何だって知れるから本や漫画を読むのがこどもの頃から好きだった平凡な日常では体験出来ないような出来事が繰り広げられているからそこには突拍子も無いような事も時にあるけど、似たような事は世界のどこかで現実に起こっているのであろう事もある両親が突然の事故で他界するまでは僕はずっと、非日常のような世界は僕の平凡な世界と交わる事は無いって当たり前に思っていた「…これって何なんだろう監禁?いや、もう繋がれてなんて無いし…」図書室、と言うよりは狭いけど、一般家庭の書斎、と呼ぶには広い部屋背の高い本棚が三方の壁一面にあって、真ん中には丸くて大きな、ベッドにもなりそうなソファがある本棚の無い壁には大きな窓があって、海を見下ろす事が出来る此処は、海を見下ろす高台にぽつんとあるユンホの…まるで、ちょっとした屋敷のような家本棚に並べられているのはありとあらゆる本残念ながら漫画は無かったけど、小説、エッセイ、歴史を学べる本に世界の美しい景色を全て網羅していそうな数々の写真集「このコーナー…もしかして、全部海に関するものなのかな…」僕を海から助けたユンホはどうやらとても几帳面なようだ大きな本棚の一角、窓の近くにはタイトルに海の付くものや海の生物に関するもの、海の写真集だったりが集められていて、書店のコーナーのようだ海の傍にたったひとりで暮らしているユンホ彼が何をして生活しているのかまだ何も知らないけど、分かるのは多分、海に思い入れがあるって事「この海もこの広い家も全部ユンホのもの…外に仕事に行く事も無いし…何だろ、金持ちの息子なのかな…別にどうだって良いけど」一年に満たない、けれどもとてつも無く長く苦しかった夜の街での暮らし名ばかりのホストとして、ホストクラブのバックヤードの隅で寝起きして、僕を引き取った遠縁の男、ナムさんの言いなりになって過ごしていた真実が何なのか、は分からないナムさんか、もしくは店のホストの誰かに僕は罪を擦り付けられて金を奪ったと決め付けられた警察に通報すると話しているのを聞いたらもう生きている意味も無いと思って、財布だけ持ってホストクラブを飛び出て電車を乗り継いで、眼下に広がる海に命を投げ捨てようとした「……今は、綺麗なだけの話が良いな…」本棚を見てふと引き寄せられたのは、作者別で並んでいる小説のコーナー確か、何かの賞も取った事のある、だから小説には詳しく無い僕でも知っているペクドフンという小説家の本タイトルも表紙も、何だか穏やかそうな話に見えたから、ハードカバーのその本を棚から取って、丸い大きなソファに腰掛けたこの家にやって来て、数日が過ぎた海で助けられたは良いけど、ユンホは『この海は俺のものだから、そこで命を落とそうとしたチャンミンも俺のものだ』なんて言っていたり、ホストクラブを飛び出して朝に海に足を踏み入れるまでほぼ一睡もしていなかったから泥のように眠ってから目を覚ました僕を…「…うわ、思い出しちゃったし…」流石に悪ふざけが過ぎると思うのだけどユンホはあろう事か、追い詰められて海に身を投げたばかりの僕の性器に触れて刺激して…今思い出すと本当に最悪だし、あの時はまだ何が起こっているのか、とかも分からないし体力も消耗していてされるがままで、ユンホの手で達してしまった「何が『良く出来たな、これでチャンミンは俺のもの』だよ自分の土地だかテリトリーに来たから自分のものだとか、こどもかよ」僕がもしも女の子なら、セクハラだとか犯罪だとか大騒ぎするところだし心の傷になるかもしれないでも、僕は男、それにあれはきっと嫌がらせの類だろうから、別に傷付いてなんて無いいや…もしも僕が平凡に両親と共に暮らしていた頃にあんな経験をしたらショックで寝込んでしまうかもしれなかったけどナムさんの元で、ホストクラブで綺麗では無い色々なものを見て来たから、別に…男に触れられて、なんて最悪は最悪だけど、罪を擦り付けられて警察に突き出されたりホストクラブで使用人のようにこき使われるよりはマシだ「…癒されよ」はあ、と溜息を吐いてハードカバーの表紙を捲った帯が付いているから、どんな話なのか何となく分かるけど…病気の少女が不思議な力を持った少年と出逢って、少年の力で世界中の綺麗なものを見てまわる、というファンタジー風味の可愛らしい青春小説、らしいペクドフンという作家については正統派の小説家のイメージだったけど、そもそも名前しか知らなくて作品を読むのは初めてだし…色々な話を書いているようだ小説を読むのも本当に久しぶりだ平凡な日常が壊れてしまってからは一度も読んでいなかったから心を殺して日々を過ごしていたけど、夜の街から離れてみたら我ながら良く耐えていたな、と思うスマートフォンは店に捨てて来たし、逃げて来てから一度もインターネットに触れていないから、例えば僕が警察に今追われているのか、とかナムさんが僕を血眼になって探しているのか…とか何も知らないテレビは僕に与えられた部屋で見ているけど、今の所ニュース番組だったりでナムさんの店も僕の名前も出て来ないこの先僕がどうなるのか、何も分からないでも…一度助かって、少なくとも今心が潰されそうな思いはしていないから、何としてでも死にたいという気持ちは無くなった「…小説、久しぶりだけど…凄く綺麗な文章だな」挿絵の無い小説易しい文体で書かれた、まるで大人の絵本のような小説は不治の病と戦う少女が主人公で、決して希望に満ち溢れたものでは無いけれども、少女に手を差し伸べる少年は明るく優しくて前向き、少女もそんな少年に感化されて『命のある内に世界中の綺麗な物を全部見たい』と瞳を輝かせて…「へえ…ホストだなんて…夢を売るだとか言って実際は夢の無い仕事をしていたって言うから、その小説を選ぶだなんて意外だな」「…っ、ユンホ、何時の間に…」「五分くらいは見てたチャンミン、そんなに集中して読んでいたの?」無地の白いTシャツにデニムパンツシンプルなそんな装いでもユンホは何だか何時も神秘的で、まるで芸能人のように整った顔をしている一度、芸能人なのかと聞いてみたら、笑って「まさか!大御所芸能人ならこの辺りにも住んでいると聞くけど、わざわざこんな辺鄙な場所から都心に通う事なんてしない」と言ったその反応を見ても、僕の予想は外れたらしい「気配を消して扉を開けたの?」「いや、ノックはした幾らチャンミンが『俺のもの』だとしても、ひととして尊重しているからね」「…尊重する相手に手錠とか…」「根に持ってるのか?あの時は、目を覚ましたチャンミンが勢いで逃げてまた危ない事をするかもしれないと思ったから今は、水から命を投げ捨てる事はしないだろうと思ったから外したんだよ」「ふうん…」僕よりも十も年上しかも、『俺のもの』なんて言うユンホだけど、僕が敬語を使わなくても何も言わないし、この家で広い部屋まで与えてナムさんのように、まるで使用人だとか…今思えば奴隷のようにこき使う事も無く、僕を住まわせている「そろそろ腹が減って来た食材は揃えてあるし、昨日?一昨日だったか?辛い唐辛子が欲しいと言っていたから、取り寄せた」何だかまるで友達のようだいや、全くもって友達では無い僕達はお互いの事を殆ど知らないのだから「ありがとう…で?」「で?腹が減ったんだ食事を作ってくれチャンミンの料理はなかなか美味いから助かる」「…それ、僕が拒んだらどうなるの?」僕は、頼んで此処に住まわせて欲しいと言っている訳じゃ無い助けて欲しいとも言って無い、けどユンホが勝手に助けた…助かって良かった、と今は思っているけど僕は今、この家を出るのが怖い行き場が無いし、もしも此処を出て警察に捕まったら…何もしていない、無実だけど、それでも全て僕の所為だってナムさん達に言われて逮捕されてしまいそうだから夜の街では『当たり前』が通用しない事を知っているからこの家を出るのは怖いそれに、今無理矢理死ぬ勇気も無いとは言えユンホにただ従う事も嫌だ最初は何だか恐ろしい男だと思ったし今でも素性すら良く分からない、けど、こうして普通に話が出来る男だから、僕も下手に出ずに対等に…と思っている「…拒んだら?俺はそれでも良いけど…知りたいのか?」「……勿体ぶるなよ」何だか余裕の表情で、素性も何も分からない僕を見つめるユンホナムさんの元に、あのホストクラブにやって来てから、誰かに敬語以外で話すなんて無かったから、強がっているだけたけど…でも、何だかまだ変な感じだ「チャンミンは随分敏感らしいって知ってるから…『また』気持ち良くさせてあげようか」「敏感…また……っ、悪趣味!巫山戯るなよ」「あはは、そうしていたら年相応だな澄ましているよりその方が良いよ」腕を組んで楽しそうに笑うむかつく、けど、こんな風に普通に話が出来るのも、両親が居なくなってから初めてで、それだけで油断すると泣きそうになる「ユンホは男が好き、とか?だから僕を助けたの?」「ん?いや、全く俺は普通に女性が好きだよ言っただろ、俺の大切な海で死なれたら困るから助けたって」「じゃあ、何で料理を作らないとまた変な事をするって…」「感じてたから罰にはならないかもしれないけど、男としてプライドが傷付くかなと思ったまあ、喜ばれたら罰にならないから別の何かを考えないと…」「作る!作るよ!その代わり、文句言うなよ」ユンホの家はキッチンも広い簡単な料理を作る事が出来ると言ったら、その翌日には大量の調味料だとか食材がキッチンに届いていた家は決してとても新しい訳じゃ無いけど…やっぱり、大富豪か何か、なのだろうか「作ってもらった料理に対して言って無いし言わないよただ…俺は、あまり辛過ぎるのは苦手だから、唐辛子は少しだけ控えめにして欲しい」「…考えとく」ユンホに背を向けて本を棚に戻したそうしてもう一度、ペクドフンの本が集まったその一角を見ていたら、見た事の無い言葉があった「…こじょう…らくじつ…?」「………へえ……読めるんだな大学は行って無いチャンミンでも」「…馬鹿にするな僕は成績は悪く無かったんだ」大学も途中までは通っていた、とは勿論言わないし言えないまだ完全に味方かどうかも分からないユンホにこれ以上、自分の情報を明かしたく無いから「これは読んでもつまらないものだから、俺の部屋に戻しておくよ」「え…」ひとつだけ、少し雰囲気の違った本背表紙のタイトルは『孤城落日』僕の後ろから、まるで抱き締めるように近付いて腕を伸ばしたユンホは、その本をすっと本棚から取って脇に抱えたまるで僕が触れて、読んではいけないのだと言うような『何か』を感じて、ユンホの長い指に掴まれた本をじっと見て、違和感の正体に気付いた「さあ、早く食事の準備をしてくれもう腹の虫が鳴りそうなんだ」まるで僕の視線を避けるように背を向けて、扉へと向かうユンホユンホが脇に抱えた本には、通常必ず書かれている出版社の名前が何処にも無かったし、何だか味気無い表紙だったけれども確かに作者はペクドフンだった「孤城落日、救いなんて何も無い事だ流石に意味までは知らないだろ?」「え…あ、うん…」扉を開けて出たユンホが、僕の方を振り返り言った救いが何も無いまるで、両親を失ってからの僕のようだ一週間前、ユンホの海に足を踏み入れてそして助けられた時にも、助かったって地獄でしか無いと思っていた僕は、まさに孤城落日、だったのかもしれないだけど今は…?それよりはマシだもしかしたら、ユンホはとんでも無い犯罪者だとか、僕を貶めようとしているかもしれない何も分からないけど…ユンホは悪いやつじゃ無いって…汚いおとな達を夜の街で見て来たから分かる「ねえ、ユンホ、あのさ…」「何だ?」「その本、どんな話なの?小説でしょ?」キッチンへと向かいながら、半歩前を歩くユンホに語り掛けた「つまらないとか言って…本当は、凄くエロい、とか?」「あはは、気になるのか?そうだな…チャンミンが俺に、まるで女性のように抱かれても良いって覚悟を決めたら教えてやろうか」「…はあ?何だよそれユンホは男を好きじゃ無いんだろ、僕もだけど…そんなの、お互いにとって罰ゲームじゃん」やっぱり、ユンホはあの本を見せたがらない別に気にしなければ良いんだろうけど、隠されると気になるいや、ユンホの事が気になる何をしているのか、何を考えているのか何故…僕を匿ってくれているのか「チャンミン、随分元気になったな」「……お陰様で」振り向いたユンホの笑顔にどきりとしたこれは吊り橋効果だ漫画でも小説でもドラマでも、良くあるやつ同性間でも起こるとは思わなかったけど…僕はきっと、あまりに酷い環境から解き放たれて助けられて、勘違いしかけているだけユンホももしかしたら、僕を必要としてくれているのだろうか「も、って何だよ、僕は違うし…」「どうした?ひとりで焦って」「…何でも無い!」まだ僕はユンホの事を何も知らない知らないから都合の良い事を考えられるでも…都合の良い事を考えられなくても良いから、ユンホの事を知りたいこの世界から消えようとしたのに、僕をこの世界に繋ぎ止めた男ひとりで海の傍に暮らしている、何をしているのかすら分からない男男が好きな訳じゃ無いのに、あろう事か僕の性器を素手で触ったり『俺のものだ』とか言ってしまう男僕に…ほんのひと時かもしれないしまがい物かもしれないけど、久方ぶりの平穏を与えてくれた男、ユンホ「この気持ちって何なんだろう」階段を降りていくユンホの小さな黒い頭を見て呟いたランキングに参加していますお話のやる気スイッチになるので、続きも読んでやっても良いよ、という方は足跡と応援のぽちっをお願いします 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