二週間前のあの時はされるがままだったのに、今度はチャンミン自ら『キスの練習を手伝ってください』なんて言ってきた
堂々とお願いしてきたくせに、未経験だからか顔を近付けたら強ばってぎゅっと目を瞑っていた
唇を押し当てたらあの日と同じように俺に全てを預けて微動だにせず…
だけど、あの日とは違って、ぼんやりとした表情と潤んだ瞳で感想を述べられたし逃げられる事もなかった



「キス…って、こんな感じなんだ…」



指で唇をなぞる仕草から目が離せなかった
キスは好きな相手とするもの、それ以外考えられなかったのに、手伝ってと言われてすぐに実行してしまった
そして、家族のような年下の幼馴染みに恋をしたのだと、分かってしまった



「……やば…」



思わず声に出た
この二週間の悩ましさも、答えの出ない問いも全部晴れた
理由はただひとつ、チャンミンを特別に意識して、いつの間にか恋をしていたからだ



「ユノヒョン」

「…っえ…うん、何?」

「好きな子に僕からする時は、今のユノヒョンみたいにすれば良い?」



少し潤んだ瞳で真っ直ぐ見上げられた
後ろめたさなんて何も無いような顔に、胸がずきんと痛んだ
これは、自分がその対象ではないという悲しみ、切なさ、そして嫉妬だ
気付いてしまったらもうすぐに分かる



「今、好きな子居るんだっけ?」

「居ないよ
別に報告する義務はないけど…ヒョンだって知ってますよね?
今は居ないけど、僕だってもう高校生だからいつそうなってもおかしくないので」

「キスより先に、もっと大切な所を俺に触れさせたのに?」

「…っ、だから、それはヒョンが『俺の所為にすれば良い』って…揶揄わないでくださいよ」

「あはは、そうだよな
ごめん」



揶揄ってなんかない
でも、こうでもして自分をアピールしなければ虚しくてやってられないだけ
自分が撒いた種なのに



「チャンミナ
さっきので、キスはちゃんと勉強出来た?
好きな子が出来た時に上手く出来そう?」

「……多分」

「本当に?
唇に合わせるのは意外と難しいと思うよ」



壁際に追い詰めたまま、至近距離で尋ねてみた
チャンミンはむむ…と眉根に皺を寄せて考えている様子



「今度はチャンミナから俺にしてみる?」

「…良いんですか?練習しても」

「良いよ
元はと言えば俺が言い出した事だし」



元はと言えば『手伝い』で、好きな子との行為の練習では無かった
でも、こんな風にして触れられるなら良いかと浅はかにも思ってしまった
 


「じゃあ…今度は僕からします」



チャンミンは俺の唇の辺りをじっと見て、それから舌で自らの唇をぺろっと舐めた
その行為があまりに刺激的で、不覚にも下半身に熱が集まった
大丈夫、まだ反応はしていないし隠せる



「俺の肩に手を置いても良いし、腕を掴んでも良いよ
その方がやり易いだろうから」

「あ…そっか…うん」



身体をもう一歩、ぎりぎりの距離まで近付けた
心臓の鼓動は一気に速くなった
胸と胸が触れたらばれてしまいそうだから、抱き締めたくなるのをぐっと我慢している



俺の気持ちなんて知らずに真面目な顔のチャンミンは、そうっと手を伸ばして遠慮がちに俺の二の腕をシャツ越しに掴んだ
少し震えているのが分かって、内心歓喜する俺はまるで初恋を知った少年のようだ

初恋なんてもうとっくに日常の中で過ぎて終わったのに、初恋よりも余っ程心が高鳴る



「…駄目です、ユノヒョンが動いたら…!」

「え、あれ、動いてた?」

「うん、近付いて…緊張するから動かないでください」



ファーストキスを俺で済ませても何食わぬ顔だったから、緊張しているだなんて思わなかった
チャンミンにとってはただの練習で、ただ唇が触れ合うだけなのだと思っていた



「チャンミナが初々しいから待ち切れなかった」

「僕はユノヒョンと違って慣れていないんです」

「うん…知ってる」



ほんの少し前まで、チャンミンの恋愛事情を詳しく知る必要なんてないと思っていた
だけど、今はこの先の彼の恋が気になって仕方無い
こうして俺が手伝って練習したとして、それをいつか大切な相手に実践するのだと想像すると胸が苦しい

今チャンミンが触れているのは俺、なのに、ただの練習でしかない
嬉しくて切なくて悔しい



「…キス、しますね」

「…うん、どうぞ」

「……目を瞑ってください、見られてたらどうして良いか分からないよ!」

「チャンミナも目を開けてるのに?」

「だって、目を瞑ったらどこが口なのか分からないよ」



あと数センチで触れる距離
口を開くと空気が震える
吐息が届く距離
チャンミンの長い睫毛がすぐ目の前にあって、震えている



「わっ、何…」



思わず、細い腰を抱いた
抱き寄せてはいない
身体に変化があった時に気付かれてしまうから
それに、抱き寄せたら止まらなくなりそうだから



「手持ち無沙汰だし、直立不動に立っているだけじゃあ雰囲気も出ないだろ」

「…そっか…」

「ぎりぎりまで目を開けても、キスをする時は閉じた方が良いと思うよ」

「分かりました」



こくん、と頷いたチャンミンは「今度こそ…」と決心したように呟いた
赤い舌が見え隠れして目が離せなくなる

こほん、と乾咳をしたチャンミンが俺の腕を掴む手に力が籠る
ゆっくりとチャンミンから近付いてきて、それを見ていたら腰を抱く手にじわっと汗が滲んだ

目を伏せているのはきっと、俺の唇を見ているから
だから俺はチャンミンの目を見て、ぎりぎりの所で彼の瞼が閉じられたのを確認してから同じように瞼を閉じた



「……」

「……あれ…」

「…ふ…チャンミナ、ちょっとズレてる」



チャンミンの唇が触れたのは俺の唇…から、ほんの僅か下にズレたところ
あまりに可愛過ぎる失敗にも、充分過ぎるくらいどきどきした



「え…あれ、何で…ぎりぎりまで見てたのに」

「慣れかな
感覚が掴めたら目を瞑っても失敗しなくなると思うよ」

「……キスって難しいんですね
初めての時に失敗したら恥ずかしいし、練習させてもらって良かったです」



また、チャンミンは自らの唇に指先を当てている 
無意識なのだろうけど、俺とのキスを思い出しているようでぐっとくるものがある
でも、それ以上にチャンミンの言葉が胸にちくりと刺さった



「チャンミナの初めてのキス、は今だろ」

「そうと言えばそうですけど…練習なら別ですよね?」



確かにそう、なのかもしれない
唇を重ねるまではそうだと思っていた
でも、今は違う
違うのにそれを言葉には出来なくてもどかしい

だからせめて、狡い言い訳を重ねてチャンミンの初めてをもっともっと奪ってしまいたい



「練習なら、ちゃんと習得出来るまで続けないと…」

「……っん……!」



空いている手で頬を包んで唇を重ねた
角度を変えて何度も押し当てて、苦しそうに唇が薄く開いたその瞬間に舌を入れて絡めた



「…っふ、苦しい…!」

「鼻で息をして
チャンミナ、これがキスだよ」



唇を離した時にはお互いに息が上がっていた
チャンミンの身体からは力が抜けた
ずるずるとしゃがみこみそうになったから、腰を抱く手に力を込めて抱き寄せた



「…ユノヒョン、あの……」

「チャンミナも、だろ」



身体の変化がバレてしまった
でも、お互い様だった



俺は恋で、チャンミンは初めての他人との触れ合いが刺激になっただけ
男の身体は簡単だから
分かっている
分かってはいても、それだけで嬉しかった









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今日も読んでくださってありがとうございますニコニコ

このお話以外にも、更新の間も今もずっと、以前のお話を読んでくださる方やコメントをくださる方もいらっしゃって、とてもとても嬉しく思っています
時間が経ったものも全て私にとって大切なお話です
本当にありがとうございますドキドキ

このお話はあともう少し続きます
お話のやる気スイッチになるので
読んだよ、のぽちっをお願いしますドキドキ
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