あの日から約二週間、あまりに顕著に避けられてきた
原因は俺
分かっているから強く出られないしどうしたものかと悩んだ
悩んでいるし、何とかして元の気さくな関係に早く戻りたい

なのに、何度も何度も『あの日』のチャンミンの表情や体温、感触、それにこっそり確かめてしまった味まで無意識のうちに反芻している



初めて恋を知った時だって、ここまでじゃあなかった
恋愛対象でも恋愛感情でもないのに、あの日から年下の大切な幼馴染みの事ばかり考えているし、思い浮かべて熱を処理している



「帰る時、気付かれてたのかな…」



何度も何度も確かめてみようかと思っては、結局勇気が出なくて聞けないままでいる

『俺も同じようになっていたって気付いた?』
『気付いたから気持ち悪いって思った?』
『勝手に手伝って、触れたのが嫌だった?』



「…嫌だろ、普通に
誰にも触られた事がないって言ってたし彼女もまだ居ない
分かっていたのに、どうして俺は…ああもう…」



兎にも角にも謝罪すべきだ
手伝う、だとか俺の所為にすれば良い、だとか勝手な事を言ってチャンミンの大切な場所に触れた
お互いに恋愛対象ではないから良い、なんて事も言ったような気がするけど、冷静になってみたら支離滅裂だ

少し触れて刺激しただけで、チャンミンは拒絶するどころかその逆で…俺の手の中で達した
だから大丈夫、だとか冷静になったら思えない
だって、あの日以来どう考えても避けられていて…



「堂々巡りだ…はあ…」



今までと同じように話がしたい
でも、避けられている原因はどう考えても二週間前のあの日
謝れば許してくれるだろうか
いや、そもそも怒っているのか嫌われているのか、気持ち悪いと思われているのか分からない
分からないし、分からないからこそ怖い

幼い頃から兄弟のように過ごしてきた
チャンミンの事なら何でも分かる、そう自負していたのに、ここに来て全く自信がない



「……」



授業は終わったけど、今日はこれから部活動がある
一年生の教室まで直接会いに行く時間はない…否、直接向かって可愛い幼馴染みに拒絶されたら切ない
メッセージを送る勇気もない



「部活、行かなきゃ…」



悩みがあっても何か辛い事があっても、ダンスをしている時はそれだけに没頭して忘れられる
なのに、あの日以来大好きなダンスをしていても頭の隅にあの日の事がちらついて離れない

申し訳無さ、そして初めて見たチャンミンの姿に隠し切れない興奮
恋愛対象じゃあない、恋愛感情でもないのに、熱を持つ身体

不甲斐無さに溜息を吐いて立ち上がった
握り締めたスマホをふと見たら、メッセージの通知があった



「……これは…チャンスって思って良いのかな」



母親からのメッセージには、今夜自分達両親の帰宅が仕事で遅くなる事、シム家で晩御飯を食べるように、とチャンミンの両親が俺に伝言をしていた事が書かれていた
最近は以前より少なくなったけど、元々両親同士の仲が良いから良くある事で、チャンミンが俺の家で食事をする事もあった

廊下を歩きながら、メッセージアプリからチャンミンのアイコンを探し出してタップした
『あの日』以前は常に上部にあったのに、あっという間に探さないと見付からない場所まで下がってしまった
毎日のように名前とアイコンを探してはタップして、文字を打っては送信する前に消しているけど



「どうせ後で会えるから…」



今日もまた、同じ

『久しぶりにチャンミナの家でゆっくり出来るな』
『手土産にお菓子を買って行こうか?』
と打ってから、全て消してスマホをポケットに仕舞った



緊張するし、顔を合わせたらどうなるか、怖くもある
でもそれ以上に会いたいし話がしたい
謝りたいしこの関係を壊したくない

あの日のチャンミンを思い出して何度も…
なんて事は言えないけど


















部活動が終わるまでチャンスはないと思っていた
でも、普段は部活の見学になんて来ないチャンミンの姿を多目的室の外に見付けた

ダンス部は人気があるのか、常に見学者がいるし今日も大勢だった
それでも、奥の方にまるで隠れるようにして佇むチャンミンの丸い頭や癖毛はすぐに分かった

最後まで見学してくれるかもしれない
もしかしたら、今夜の事があるから一緒に帰ろうとしてくれているのかもしれない
なんて、真剣に後輩に指導しながらも考えた
だけど…



「…チャンミナ!」

「…っ、チョン先輩、どうしたんですか?」

「あ…ごめん、ちょっと抜けるよ」



丸い頭が奥の方に見えなくなって、隣で誰かが引き留めている様子に気が付いた
チャンミンはこの場から離れようとしていると分かった
理由は分からないけど、俺なのかもしれない
いや、それならば何故見学に来てくれたのか…
分からないけど、考えるよりも先に身体が動いて多目的室を飛び出し走ってチャンミンの腕を掴んだ



「チャンミナ…」



二週間前のあの日以来、初めて触れた身体
泳ぐ視線、間違いなく俺から逃げようとする大切な年下の幼馴染み
やはり、完全に避けられていたのだと分かって、自業自得だけどショックだった

それでもこのチャンスを逃したくなくかった
必死に説得してふたりきりになれる場所まで移動して、あの日の事を謝り本音で話をした



意外にも、チャンミンは俺に怒りを抱いたり不快感を覚えてはいなかった、らしい
嘘ではないと分かる、俺とチャンミンの仲だから

それでも勝手な事をしたから謝っていたら、恥ずかしいから忘れて欲しいと必死に言われた
蒸し返されたくはないようだし、確かに忘れてしまえば元に戻れる…かもしれない
でも、忘れるなんて無理だし、忘れた振りも何だか違う

恥ずかしがるチャンミンを見ていると、今まで感じた事のない複雑な感情が湧き上がる
それはまるで、俺の体温をぐっと引き上げるような『何か』
もっと見たくなる、知りたくなるような『何か』



何でも分かっている、知っていると思っていた家族のような年下の幼馴染み
そんなチャンミンのまだ知らない顔をもっと見たくなってしまった



「実は…あの後、俺もひとりでした」

「………は?」



鳩が豆鉄砲をくらったような顔
チャンミンのこんな顔も珍しいけど、見たいのはこれじゃあない



「言わずにおこうと思ったけど、フェアじゃない気がして
それに、手伝った後に俺も『そうなった』って分かったら、チャンミナの恥ずかしさも小さくなる……ならない?」



嫌われてはなかったから、きっともう大丈夫

共犯者になってしまえば『恥ずかしいから忘れて』と言えなくなるに違いない
そうすればふたりで秘密を共有出来る
今までのように誰よりも近い幼馴染み、で居られる



「安心して
チャンミナを『そういう目』で見た訳じゃないから」

「……うん」



こくん、と子供のように頷くチャンミンを見て、思わず抱き締めそうになった
俺からハグをした事は何度もあるし、その度に『近い!』『苦しい!』と半分冗談で突っぱねられた事もある
でも、今は触れてはいけない気がした



触れたらきっと、熱がぶり返すだろうから
あの日、あの後一回限りだったとは言えても、あの日以来何度も…なんて、流石に知られる訳にはいかないから



「ええと…チャンミナ、このまま一緒に帰る?」

「え…いや、ヒョンはダンス部の練習…」

「荷物は取って来なきゃいけないけど、他の皆も居るし大丈夫
今日は久しぶりにチャンミナの家で一緒に過ごせるんだし、折角だから」



やっと目を見てくれるようになったから嬉しくて、畳み掛けた
がしかし、チャンミンは俺の言葉に怪訝そうな表情を浮かべている



「チャンミナ?どうした?」

「…喧嘩してたとかじゃないですけど、仲直り?をしてすぐに、即家に遊びにくる、とか
ユノヒョンの行動力…」

「え?あれ、聞いてないの?
今日、俺がチャンミナの家で食べる事になったって…」

「え??」



スラックスのポケットからスマホを取り出して、ほら、と母親からのメッセージを見せた
多目的室を出る時に咄嗟に持ってきて良かった

チャンミンは大きな目を丸くして、『僕には連絡なんて…』と言いながらスマホを取り出した



「………あった」

「連絡、あった?」

「…うん、母さんからさっき…
『一緒に帰って来たら?』だって
いつまでも小さい子供じゃないのに」



はあ、と呆れたような…でもどこか恥ずかしそうな様子を見て何故かぐっときた
きっと、その理由は…



「チャンミナが小さな子供じゃないって事、俺はちゃんと分かってるから大丈夫」

「…っ、ユノヒョン!!」



何を意図するのかがすぐに伝わったようで、真っ赤な顔で俺を見つめるチャンミン
色々な顔を見せてくれる年下の幼馴染みと過ごしていて、こんなに心躍るのは初めてかもしれない











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読んでくださってありがとうございます
まだもう少し続きます
お話のやる気スイッチになるので
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