「全部俺の所為にすれば良い」

「何の事?ユノヒョン
ヒョンだって僕のこんな情けない姿見て楽しむ趣味無いだろ
流石にもう離してって」



チャンミンはまだ分かっていない
分かっていない、どころか焦って目が泳いでいる
分かっていないどころか、俺がこの状況を楽しむような悪趣味な男だと勘違いしている



「いつものヒョンじゃないよ
いくらユノヒョン相手だからって、プライバシーってものがありますよね?」

「警戒するなよ、チャンミナ
揶揄ってないし楽しんでもない
このまま帰るのは大変だろうから、ヒョンが手伝おうかって言ってるだけだ」

「…は?」



何か言おうとしたチャンミンの唇に人差し指をあてて、次の言葉を紡げないようにした
自分で自分がどんな顔をしているのか、は分からない
だけど、冗談でも揶揄いでもない事は伝わったようだ



「俺の方が経験はあるだろうし、同じ男だからその状態だと辛いのも分かるってだけだよ
チャンミナを狙ってる、とかじゃないんだから…な?」



目を大きく見開いたチャンミンが、座ったまま後退りしようとした
右手で腕を掴み、制服のスラックスに包まれた中心に左手を伸ばした



「……っ…ヒョン……」



流石に驚かせたからか、時間が経ったからか、最初に気付いた時よりも随分柔らかい
だけど、そうっと手のひらで形を確かめるように触れたらそれだけでもう反応した



「違っ、これは……」

「分かってるよ
俺だからこうなったんじゃなくて、刺激に慣れていないからだよな
男として普通だし、これで良いんだよ」



俯いて顔を逸らして逃げようとするチャンミン
今まで触れた事の無い場所に触れている俺の左手を掴むチャンミン
だけど、もう本気で逃げようとはしていない

無理矢理顔を見たら嫌がられると思ったから、右手で少し抱き寄せるようにして、肩越しに囁いた



「今、こうしていて…俺に触れられて気持ち悪いって思う?」

「…気持ち悪くは……大丈夫」

「良かった、無理してない?」



彼の言葉に安堵した
少しずつ手指を動かして、ゆっくりと刺激してみる
チャンミンの肩に力が入って、息が荒くなった



「無理、はユノヒョンの方じゃ…
ヒョンは『手伝う』って言ったけど、こんな風に手伝うのは嫌じゃないんですか?」



本当はもっと抵抗されるかも、とも思った
いや、後で思えば笑える程必死に冷静を装って真摯な対応を心掛けたお陰なのか、そもそもチャンミンが俺の事を『博愛主義者の完璧なヒョン』だと思っているからか、彼はもう抵抗を見せなくなった
…どころか、俺を止めようともしない



「…俺以外には手伝わせたら駄目だからな」

「はあ?当たり前……っ…ん…!」



スラックスの上からでも完全に分かるようになった形
親指と人差し指の腹を使って上下にゆっくりと動かしたら、チャンミンの熱い息が俺の首にかかった
余裕が無いのもされるがままなのもチャンミンだけなのに、全身に一気に血が巡ったように熱くなった



「このままじゃちゃんと手伝ってあげられないから…」

「え…あっ!あの!ユノヒョン…!」



肩から右手を下ろした
「大丈夫」と出来るだけ優しく囁いて、スラックスのベルトを緩めた



「チャンミナが恥ずかしいなら出来るだけ見ないようにする」

「でも、流石に…」



カチャカチャ、と金属音が響く
小さな音なのにとても大きく聞こえるのはきっと気の所為
そう感じる程緊張しているのだろうか
リードする俺が緊張する必要なんてない筈なのに



「チャンミナが気になる子に触れられてるって思ったら良いよ」

「…何言って…女子?こんなに大きくないよ!」

「…っ……」



チャンミンの表情が見えない
つまり、チャンミンからも俺の顔が見えていなくて良かった
だって、不覚にも彼の言葉に都合の良い主語をあてて想像してしまったから
彼を『そういう対象』には決して見ていないのに、初めて見たチャンミンの大人の部分に慣れていないからだろう



「まだ言い返す余裕はあるんだな
じゃあ、何も考えなくて良いからこのままヒョンに任せて」



何故か俺の方が気が逸っている
『ヒョンだから』と何度も何度も、これじゃあまるで自分に言い訳して理由を付けているようだ



スラックスの前を緩めてつるりとした下着の生地に触れたら乱れていた息がひゅっと止まって密かになった
息を殺しているのはチャンミンだけじゃない、俺も同じ

あの、とかその、とか、震える声で何か聞こえたような気もするし、勘違いだったのかもしれない
分からなくなるくらい、多分この時の俺は昂っていた

息を潜めたまま、向かい合ってチャンミンの顔は見ないまま、薄い生地に覆われたその下に手を忍ばせた
熱くて、言葉では形容出来ないような感情が湧き上がった



「チャンミナ…」

「あ、だめ……っ…!!」



チャンミンの切羽詰まった声はそのまま、俺の肩に吸い込まれていった
ぐっと握ったその瞬間に弾けたのだとその時初めて気が付いて、心臓の鼓動が突然耳の奥でうるさく響き始める

力を無くしたチャンミンの一部を確かめたくて身じろいだら、どんっと胸を押された



「え…」

「ごめん、ユノヒョンごめんなさい…
でもこれ以上無理!誰かに触られた事なんてないし、なのにユノヒョンの手に…無理無理無理!」



チャンミンは座ったまま背中を向けて、身支度を整え出した
濡れそぼったものを覚束無い手つきで仕舞う姿を覗き込みたい気持ち、よりも『無理』と連呼された事にショックを受けてしまった



「チャンミナ、ごめん、俺…」



一時の言葉に出来ないような衝動で何て事をしてしまったのか
一気に血の気が引いて、濡れた手のひらを握り締めて呟いた
チャンミンは少し乱れているものの、制服で肌を覆い隠して立ち上がり漸くこちらを見下ろした



「ユノヒョン」

「うん…」

「いくら博愛主義者だからって、こんな事まで手伝うだなんて…人が良過ぎるよ!
でも恥ずかし過ぎて無理!お願いだから忘れてください!」

「え…」



想像もしていなかった言葉に呆気に取られて固まった
不覚にも、そのままチャンミンを逃がして…
否、彼は俺の部屋を出て帰ってしまった



「……不味っ…」



なんとはなしに手のひらに残った体液をひと舐めした
同性も恋愛対象、同性との経験があったって今までした事がないのに
そして…



「……気付かれてない、よな?」



触れても触れられてもいない自分自身の身体は、大切な家族のような、弟のような存在であるチャンミンを見て、触れただけで変化してしまっていた

嗚呼、このまま俺は大切な弟の前で面目を保てるだろうか











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