Side Y






『オッパの感性は私よりも女子みたい』
そう言われた事は忘れられない
言葉を無くす俺に、妹は続けて言った
『あくまでも感性の話
オッパの見た目は男らしいから余計にそう思えるのかも
オッパはモテるから、オッパを好きな女子からすれば嬉しいと思うよ』

最後の一文については触れずに、そんな兄妹のやり取りがあったのだと話のネタにしていたら、クラスの友人達からも
「だから余計にモテるんだろうな」
「顔も良いし感性も繊細だなんて女子達からすれば理想でしか無い」
と言われた



モテないよ、と言ったら謙遜はいらないと友人達に即答された
だけど、俺にとって唯一好きな相手に特別だと思ってもらわなければ何の意味も無いのだ
この恋の相談は誰にも出来ないし、報われそうも無い不毛な恋



「お、チャンミン戻ってきたか」

「どうだった?やっぱり告白だろ?」



向かい合って座る友人が俺の向こう側を見ながら呼んだ名前にドキりとした
足音がこちらへと向かってくる、それだけで心臓は飛び跳ねそうになる事を俺以外は誰も知らない



「違うよ
仮にそうだとしても、皆が居る場で言う事じゃ無いだろ」

「本当か?
チャンミンはモテない俺達の仲間のままか?!」

「はいはい、そうだよ
僕達は爆モテのユノとは違うからね」



『違う』なんて言われたら、それがどんな内容であれ切ない
特に、今俺の隣の席に座った友人チャンミンからであれば尚更だ



「じゃあ、わざわざ呼び出してまで何の用だったんだ?」

「それは…」



別のクラスの女子から外へと呼び出されたチャンミン
俺が物凄く気になっていた事を聞いてくれた友人には心の中でガッツポーズをしたし賞賛を送った
全てポーカーフェイスのままでひっそりと



「言わないよ
言うまでの事でも無い」

「ええ、勿体ぶるなよチャンミン」

「勿体ぶって無いし、告白された訳でも無い
この話は終わり!
それより、僕が居ない間に皆で何の話で盛り上がってたのか教えろよ」



頬杖をついて笑うチャンミンがちらりと俺を見た
ドキッとしたのと同時に、無意識でチャンミンをじっと見ていた事に気付いて焦った
焦りなんて顔には出さないし、『いつも通り』普通の笑顔で何も無かったようにやり過ごした
もう何年もこうやって隠してきたから今更バレない自信がある



「さっき…何の話だっけ?」



会話の切り替え方も我ながら自然
いや、男同士仲の良い友人同士でたまたまぼうっと見ていたって不審になんて思われないから堂々としていれば良い



「ほら、ユノが女子よりも女子って話!」

「え?ユノが??はあ?」



誤解を生むような言葉、チャンミンは大きな目を更に真ん丸に大きくして俺と友人を交互に見ている
誤解は直ぐに、今から解けば良いからそんな事は問題じゃ無い
問題は、驚くチャンミンがあまりに可愛らしいって事



「ユノはどちらかと言うと男、って感じだよ
むさ苦しい男、よりは女子達の理想の王子様って感じ」

「王子様…はちょっと言い過ぎだし、持ち上げても何も奢らないからな、チャンミン」

「奢って欲しいからって無理矢理褒めたりしないよ
謙遜の仕方までユノはユノだよなあ」



じっ、と俺を見つめて納得いかない様子のチャンミン
誤解を解く必要も無さそうだし、こんなにも見つめてもらえたら今日は良い日だ



「妹に言われたんだよ
俺の感性は女子みたい、だから女子からすれば嬉しいんじゃ無いか、みたいに」

「感性…」



呟くチャンミン、もう彼の姿しか目に入らない
チャンミンが戻ってきたら全部で四人になったからか、残るふたりはふたりでまた別の話で盛り上がり始めたようだし丁度良い
ここからは俺がチャンミンを独り占め出来る



「ああ、そう言えばユノがこの間言ってた事を思い出した」

「ん?何?」

「あの歌…最近ユノがハマってて、お陰で僕までよく聴くようになった歌だよ
歌詞に共感出来るって言ってたよね?
僕にはあまり分からないし、ユノはロマンチストだなって思った」

「『一日だけで良いから好きな相手の飼い猫になりたい』の事?」



そうそう!と頷くチャンミンは、続けて
「女子に喜んでもらう為とかモテる為に『僕も分かる!』とは言えないかなあ」
と素直に苦笑いしている



「あ!ユノの考えを否定した訳じゃ無いからな!」

「分かってる」



俺が知っている限りでは、チャンミンにはそれなりに長く続いた彼女は居ない
さっきは謙遜していたけどチャンミンは女子から人気があるし、告白だって何度も受けている
その中の誰か、と付き合っては短期間で別れたのが数回
それが俺の知る限りでの、この友人の恋愛経験

そこに割り込むだなんてまず不可能
チャンミンは同性に対して恋愛感情を抱く人間では無いし、俺のように都合良くひとりだけに対しては性別も関係無い、なんて思う事も無いだろうから

戦わずして負けるのは俺らしく無い
だけど本気だからこそ慎重になる、全てを失って友人ですら居られなくなる事には耐えられないから、彼の一番の友人という位置を必死に守っている



「我ながら、健気だよなあ」

「何が?感性の話?」

「え、いや…ええと、うん」



じっ、と覗き込んでくる大きな茶色い瞳
本音を口にしてしまいそうになるけど、この眼差しに簡単に負けるような生半可な覚悟の片想いでは無い
この気持ちはずっと閉じ込めていくと決めたし、夢や想像以外ではどうにかなる事は不可能だとちゃんと分かっている



「そうだ、ユノ
さっき話をしてた隣のクラスの女子なんだけど…」

「チャンミン、やっぱり告白されたの?」

「違うって」



隣の友人ふたりはもう俺達とは別で盛り上がっているから、小声で話せば聞かれる事は無さそうだ
それでもチャンミンは言い難そうに様子をうかがってから、スマートフォンを取り出し素早く指を動かした

スマートフォンを見て、とジェスチャーされたから机の上の小さな機械を手に取った
チャンミンとのトーク画面に受信したばかりの新着メッセージがひとつ、それだけで物凄く胸が高鳴るのに内容は残念だった



「連絡先の交換はしたくないから、今度会った時に直接話すよ」



先程まで数分間チャンミンを呼び出していた女子は、俺との仲を取り持って欲しいとチャンミンにお願いしていたらしい
間接的に伝えずに直接伝えたら良いのに…なんて言えない
俺はどうやっても伝える勇気が出ないのだから



「交換はしないって…ユノは端から断るの?」

「うん」

「良い子だったよ
ユノを本当に好きなんだろうなあって思った」



その言葉が俺をどんな気持ちにさせるのか、チャンミンは知らない
友人同士、普通の会話
チャンミンは何も悪く無い
なのに、こんな時いつも胸がずきずきと酷く痛む
叶わない恋の苦しみを知っているからこそ、自分に向けられる想いに対しても誠実に応じて断らないと、と思うようになった



「考えてみたら良いじゃん!
深く知ればまた気持ちも変わるかもしれない、あの歌詞みたいに相手を想うかもしれないから」

「チャンミンは俺とその子に付き合って欲しいの?」

「え…そういう訳じゃ…ただ、良い子だったしユノは物凄く良いやつだし!友達として思っただけで、押し付けたい訳じゃ無いよ」



冷たく言い放ったつもりは無かったけど、しゅんとさせてしまった
そこまで大人にはなれない、そこまで気持ちをコントロール出来ない
だけどチャンミンは悪く無いから反省して
「ありがとう」
と伝えた



「そうだ、猫と言えば…
今日は『猫の日』らしいよ
ユノは知ってた?」

「そうなの?知らなかった」

「じゃあ教えてあげるよ
今日は何月何日?二月二十二日だろ?だから…」



二、を『にゃん』と呼ぶからそれが三つで猫の日なのだと言うチャンミンがあまりにも可愛くて…



「え、どういう事?チャンミンもう一回教えて」

「だから…にゃんにゃんにゃん、って読めるだろ?
それで猫の日…」

「うん…」

「ユノ、何で笑ってるんだよ」

「え?いや、チャンミンが可愛くて…」



隠し切れなくて思わず本音を漏らしたら、友人は耳まで赤くして揶揄ったのか、と怒ってしまった
そんなところも可愛いし、まるで猫のようだ

そうだ、もしもチャンミンが、たった一日でも良いから俺の、俺だけの飼い猫なら…
俺だけのものにして、閉じ込めて、他の誰も何も彼に近付けないように出来るのに



「うん、そうだな…」



あの流行りの歌は好きだし共感出来る
だけど、もしも俺なら、彼の飼い猫になるよりも飼い主になって大切に大切にしたい
そんな風に密かに思った











━━━━━━━━━━━━━━━

更新が空いてしまいましたよだれ
予定よりも少しだけ伸びそうです、が、後2.3話です
最後までお付き合いくださいね

読んでくださってありがとうございます
読んだよ、のぽちっもお願いしますドキドキ
                ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ

にほんブログ村