夢を見た
夢の僕は一匹の猫を飼っていた
両手で簡単に抱き上げられる可愛い猫に僕は名前を呼び掛けて…



「……夢か…」



名前を呼んだら猫が僕の顔を舐めた
ざりっとした猫の舌の感触がとてもリアルで驚いた



「嘘だろ、何で『これ』は醒めないんだよ…」



目覚めたのはベッドの上
僕のものでは無い、これは友人であるユノのベッド、そしてユノの部屋
ぐぐっと伸びをして欠伸をしたのは、そんな余裕があるからじゃあ無くて止められない本能のようなもの
何の本能って?多分、猫の



「はあ……」



夢で、僕は人間だった
それが本来の姿で今が何かおかしいだけ
なのに夢が現実で、この現実が悪夢のよう
夢と今が真逆になったようだった、何故なら僕は夢の中で猫に向かって『ユノ』と呼んだから

舐められた舌の感触がリアルなのは、今僕が猫だから
眠ってしまう前に、これもきっと猫の本能なのだろうけど…手をぺろぺろと舐めたらざりっとした独特の感触があったから



伸びをして起き上がりジャンプした
窓枠にバランス良く着地して外を見下ろした
今、僕が居るこの世界は二月の下旬
つまり過去らしい…けど、二月のユノは猫を飼っていなかった
視界に入るのは僕が知っている近所の景色、冬の街、そして茶色い毛の猫の手や身体



「猫なら前脚、だっけ
違う、僕は人間…!」



間違い無く僕は人間だ
実際、この世界にも人間のシムチャンミンは存在していてユノと友人関係らしい
今朝もメッセージアプリでやり取りをしていたのを見たし、猫の僕が『チャンミン』と名付けられたのも人間のシムチャンミンからだと分かった

そう、僕は人間シムチャンミンだ
なのに猫の姿になってユノに飼われている
外に出ようと思えば出られたのに、その勇気すら出ずに登校するユノをただ眺めてふて寝してしまった



「お腹空いたよお…」



いつもとは違う不思議な腹の音
よだれを飲み込んでも空腹は満たされない
部屋を見渡したら水が入った皿が見えたから、これなら大丈夫だと自分に言い聞かせながら舌で舐めた



ユノは薄情だ
家族が認めるくらい『猫のチャンミン』を溺愛しているくせに、何度も何度も大好きだとか言って目尻を下げていたくせに
心は人間の僕からしたら有り得ない事だけど…キスまでしたくせに、置いて行くなよと懇願する『猫のチャンミン』を置いて家を出て行った
溺愛しているくせに、『人間のチャンミン』と放課後に予定があるから帰宅が遅くなるとか言う
溺愛しているくせに、僕を…『猫のチャンミン』を見つめるよりももっともっと、そう、まるで恋をするような表情で僕とのトーク画面を眺めていたから

ユノに大切にされたい、そんな願望を抱いてはいない
だけど今の僕にはユノしか居ない、多分
まるで恋をしているように見えたのはきっと勘違い、それか猫になってしまった事による被害妄想だとか、とにかく僕は今普通じゃ無いのだ



「そうだよ、だからこんなにも寂しいし…」



寂しい
人間に戻れない事もだけど、ユノが居ない事が寂しい
寂しいから、飛び出る勇気の出ない窓の外を眺めるよりもベッドに戻って毛布に潜り込んだ
ここはユノの匂いがする、体温が残っているような気がする



「くそっ…」



涙が滲むのは、悔しさゆえかそれとも寂しさがほんの少しだけ紛れたからなのか分からない
こんな事で寂しくなるよりも、人間のチャンミンがどうしているのかとか、人間のチャンミンの意識は一体何なのか、とか
どうすれば元の姿に戻れるのか、とか、考えなければならない事は山ほどあるのに
















ふて寝から目が覚めた後、更にまた眠ってしまった
これも猫の身体の所為なのか、眠くて眠くて堪らない
目が覚めても僕は猫のままでユノのベッドの上に居るまま

どちらかと言うとリアリスト、ファンタジーのような事はフィクションとして楽しむのは良くても現実味なんて皆無だと思っている
だけどこれはフィクションでは無くて確かに今僕の現実、受け入れるしか無い



「もう真っ暗じゃんか…」



そう言えば、最初に猫として目覚めた時には部屋の灯りが消えていたのに視界がはっきりしていた
今も窓の外は同じで太陽は沈んでしまった
今更気付いたけど、部屋の灯りが付いているのは『猫のチャンミン』を残して部屋を出るユノの優しさなのか、それとも単に忘れただけなのか
そんな事はどうでも良いから、早くユノに会いたい



「寂しいよ、ユノ……」



ユノの匂いがする毛布に包まれたまま呟いた瞬間、遠くからふわっと匂いが漂ってきた



「ユノ!!」



ユノの匂いだと直ぐに分かる
この部屋に残るユノの匂いとは違う、もっと濃い匂い
立ち上がり、窓枠に向かってジャンプした
二階のユノの部屋、その窓を覗き込み高鳴る鼓動を堪え切れないまま見下ろしていたら、街灯が照らす道を歩く制服の男子高生が見えた

同じ制服で歩いていても、もうひとりの方なんて目に入らない
僕に気付いていないユノしか見えない
ガラス窓を爪先でカリカリ引っ掻いた



「ユノ!気づけってば………っ!」



必死で叩いたり引っ掻いていたら、窓が開いた
しかも、突然だったからバランスを崩した
猫は反射神経が良いと聞いた事があるけど、僕は本物の猫じゃ無く人間だからドジをしたのかもしれない
…なんて、落下しながらスローモーションになった世界で考えた



「チャンミン…!!」



僕が落っこちてやっと気付いたなんてユノは遅い
遅いけど、僕をしっかりキャッチしようとした事は褒めてあげようと思う



スローモーションになった世界でユノに抱き留められる直前、隣に立つ制服の『僕』を見た
確かに僕なのだろうけど、その顔はまるでモザイクがかかったよで良く見えなかった












━━━━━━━━━━━━━━━

読んでくださってありがとうございます
あと少し、最後までお付き合いくださいね猫
読んだよ、のぽちっもお願いしますドキドキ
                     ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村