四月十四日
つまり、先月のブラックデーに恋人の居ない僕は黒い服を着る事は無かった
周りには『恋人が居ないから』とその日黒い服を着て過ごして良い出会いがあったやつも居たらしい

正直、少し羨ましかった
だから、今月…
まだたった二日前の十四日、イエローデーに友人から
『黄色い服を着てカレーを食べないと、本当に恋人が出来ないかもしれないぞ』
なんてけしかけられた時に鬱陶しそうな顔をしたけれど、本当はこれでやっと僕にも出会いがあるかもしれない、なんて思った



「チャンミン…大好きだよ
諦めるつもりなんて無かった
だけど、年の差はどうしようも無いから…
俺が三歳年下だって知った時のチャンミンの顔を見たら足元が冷えていくようで怖かったんだ」

「…だって…まさか十六歳だなんて思わなくて」

「明日になれば、また一日十七歳に近付く
明後日になればまたもう一日
そうして直ぐにおとなになるよ」



こどもとは思えないような強い力で抱き締められる
年上でも年下でも、好きになれば別に…
とは思っていたけど、まさか三歳も年下の男に抱き締められてどきどきする日が来るとは思ってもいなかった

いや、だけど、僕は既に一昨日のイエローデーにチョンさん…
では無くて、今僕を抱き締めていて今さっき恋人になったばかりのユノに身体中触れられて、太腿の隙間に彼の熱くなったモノを挟まれて…



「…わあっ!」

「…っ、チャンミン?どうしたの?突然…」



思い出して、思わずユノの胸を押し返した
はあはあと息を荒らげていたら、ユノは驚いたように目を見開いている

社会人にしか見えないのに、それにしては何だか違和感があった
その違和感の正体が分からなかったのだけど、僕の言葉に合わせて年上の振りをしてくれていたのだと分かれば納得がいく



「チョンさん…いや、ユノ…
僕にその、凄い事をした、よね?」



勝手に僕が年上だと勘違いしていただけで、年下だったユノ
出会った翌日、昨日の夕方に高校の制服を着た彼を偶然見てしまったから年下だとは分かっていた
だけど、まだ敬語を無くして話すのも何だかむずむずするし…
分かってはいるつもりでも、受け入れ切れていない



「凄い、って?まだ最後まではして無いよ」

「最後までって…
と言うか、ユノは恋愛経験が有る…のは本当なの?」



隠されていた、と言うか、僕の勘違いの所為で言い出せ無かったらしいユノの真実
三歳も年下だったという事を知った上でも好きだと思ったから、彼の告白にOKして恋人になった
なった、けれどもまだまだお互いに知らない事ばかり



「付き合った事は何度か…でも、男はチャンミンが初めてだよ」

「…色々な行為、とかは?」

「一通りは」



当たり前のように言われて頭を抱えた
三歳も年下の高校一年生
だけど、ユノは僕の何歩も先を行っているのだ
勿論、僕の周りでだって…
本当か嘘かは知らないけど、たまに
『中学で経験した』
なんて自慢するやつも居る

僕が早くは無いだけで、特に珍しい事では無いのだろう
だけど、付き合うとなると恥ずかしい
年上だと思っていたから、リードされたって良いと思っていたのに…



「…はあ…」

「チャンミン、違うよ!その…
今まで付き合ったのは全部告白されて、で…
それに、皆本当の俺の事なんて見ていなかったんだ
だから、経験があったってそんなの…」



頭を抱えたまま溜息を吐いていたら、ぐっと肩を掴まれた
その勢いに思わず顔を上げたら、物凄く真剣な顔のユノが居た
僕の周りで経験があるやつらは自慢げだったり
『まだなのか?早くした方が良いよ』
なんて、心配してくれているのか馬鹿にしているのか…
どちらとも、なのかもしれないけど、僕を見下すような事ばかり言う

でも、ユノはそうでは無いように見えた



「本当のユノを見ていないって…どういう事?
僕にしたみたいに、年齢を誤魔化していた、とか?」



年齢に対する驚きは勿論有る
だけど、それを知っても結局好きだと思ったし…
むしろ、本当の事が知れて少しすっきりしたから、このままちゃんと好きでいて…
もっと好きになっても良いんだって思えた

おとなに見えたユノが本当の事を教えてくれた
年は上でも恋愛経験が全く無い、情けない僕に必死に気持ちを伝えようとしてくれている姿に心が打たれて、もっと知りたくなった



「この話をするのは、チャンミンが初めてで…
情けないんだけど、聞いてくれる?」

「…うん」



おとなだって思った
イケメンでスマートで少し謎めいていて
悩みなんてきっと何も無いのだろうと思っていた
『そんな訳は無い筈』
と思いながらも、ほんの一瞬では有るけれど、僕を騙して楽しんでいるのだろうか、とも思った

だけど違う
ユノを見ていれば、僕に対して真剣に向き合ってくれているのだと分かった



狭いソファで隣り合っている
ユノは身体ごと僕の方を向いて、肩に置いた手をゆっくり下ろしていく
そのまま僕の両手をぎゅっと握って少しだけ微笑んだ 



「チャンミンが俺を、社会人に見えるって思ったように、昔からずっと年上に見られてきたんだ」

「うん」

「本当の年齢を知っていても、学校でも
年上の先輩にも頼られたり、そうして…
先輩の女子から告白されて付き合ってみたら、本当は俺の方が年下なのに『頼りになるおとなの男』を俺に求めてきたり、俺はそうなんだって思い込まれていたり…」

「十六歳だって聞いても、やっぱりユノはおとなっぽいから…」



今のユノは、確かにさっきまでよりは年相応に見える
それは彼が僕の前で年上らしく振る舞う事を止めたからだろう
だけど、それでもやはり、見た目だけで無くて雰囲気や言葉もしっかりしていると思う
それを伝えたら、ユノは何故か少し傷付いたような顔をした



「そうなんだ
皆俺の年齢を知っていても…
それでも、そうじゃ無い『年齢以上に頼りになる俺』を求めてきたり、俺を頼って…
そうじゃ無い面を見せたら、『思っていたのと違う』って言われるんだ」

「え…」

「…チャンミンもそう思う?
チャンミンには本当の俺を知って欲しいんだ
本当に好きになったから
だけど、俺にはチャンミンの気持ちをどうやって引き止めたら良いのか分からない
…ただのこどもだから」



僕の手を握るユノの手に力が篭る
恋をした事の無い僕からすれば、ひとを想って…
その気持ちをしっかり言葉にして伝える事が出来るだなんて凄い事で、僕なんかの一歩も二歩も先を行っているように思える

経験が有る事だって僕からすれば余っ程おとな
それなのに、それをひけらかしたり、僕を馬鹿にする事も無い
それも全ておとなだって思う
だけど…
ユノの手が少し震えている、それを見れば彼が必死だって事が分かった
それをこどもだなんて思わない



「僕は…まだユノの事を何も知らない
やっと年齢が分かって、それから…
ユノの悩み、を聞く事が出来ただけ
だから、僕の思う事なんて見当違いなのかもしれない」
 
「……」



堂々と自身の気持ちを話してくれたユノ
だけど、僕の言葉を物凄く緊張した様子で聞いている



「…可愛い、ユノ」

「え…」

「僕の事がそんなに好きなの?」

「うん…好き、チャンミンの事が好き!
運命だし理想だし、絶対に諦められない
本当に俺と付き合ってくれるんだよね?」



ユノは男で、年下なのに格好良い
だけど、ユノの真っ直ぐな気持ちに心が打たれたし…
男で格好良いのに、可愛いって思った
この言葉が、気持ちが正解かは分からない
でも、ユノは嬉しそうに目を輝かせて僕をがばっと抱き締めた



「わっ、びっくりした…
付き合うよ、言っただろ
男に二言は無いよ
勝手に年上だって思ったのもごめん
ユノが僕に合わせてくれたのだって優しいと思うし、ちゃんと本当の事を話してくれたのも嬉しい」

「うん…チャンミン、好き」

「…っん……」



突然キスされて驚いた
そのまま舌が入ってきて、気が付いたらもう、ユノのペース 
僕は息継ぎをして応えるのに必死で、ユノの服を掴むのに必死
あっという間にシャツはたくし上げられて、胸にするりとユノの手が入ってきて…



「…っ、駄目!ストップ!」

「…っえ……どうして?正式に恋人になったのに…
それに、チャンミンだってこんなになってるのに…」

「んっ…、見なくて良いってば!」



触れられると気持ち良くてあっという間に力が抜けていく
だから、何とか残った力でユノの身体を押し返したら、余裕の表情の『僕の年下の恋人』は僕の中心にするりと触れた
慌てて両手で前を隠して首を横に振って息を整える



本当はもっと触れて欲しい
一昨日の体験が忘れられないし…
男に、しかも年下に良いようにされてしまったのに、それでも良い、もっと知りたいって思ってしまっている
だけど、これじゃあ駄目なんだ



「ユノの…年上の恋人として、ユノにもっと頼られて甘えてもらえるようになりたい」

「チャンミン…」

「だから、このままじゃ駄目だと思うんだ
僕はユノが全て初めてで何も知らない
だから、ユノをリードして頼ってもらう為にももっと、その…
色々調べないと」



多分、ユノは僕を抱くつもりだった筈
でも、本当はリードされて抱かれたいのかもしれない
正直、ユノの事は好きだけど…
抱きたいか、と言われたら想像すら出来ない
それよりも触れられてリードされて、どきどきしたのが本音
けれどもそんな事を言えば、またユノを傷付けてしまうかもしれない
好きになったからこそ、喜んで欲しいし…
これまでのユノの彼女とは違うんだって思って欲しい



「それ、に関しては俺が全部教えるよ
だから、チャンミンは任せてくれたら…」

「…駄目だよ!それじゃ…
ユノの事が好きだし真剣だから、少し時間が欲しい」

「…チャンミン…」



ユノの前も、反応していた
その熱くて硬いモノが僕の太腿の間で行き来して、それに物凄く興奮した
もう一度それを味わいたいし、もっとその先を知りたい
でも、歳上としてきっとそれじゃあ駄目なんだ



「ご飯にでもする?
まずは、もっとお互いの事を知ろう…ね?」



ソファから立ち上がってユノの頭を撫ぜたら、彼はこくん、と頷いた



その後はキスと手を繋いだだけ
まずはお互いの事を知る為に沢山話をした
ユノは知れば知る程、普通の高校生で、僕が嵌っているのと同じ漫画を彼も好きだったり
僕と同じヨーロッパのサッカーのクラブチームを応援していたり
年下だけどリア充、なユノとそれとは相容れないと思っていた僕
だけど、趣味が合う事に気付いた



ユノは時々、キス以上、を求めてきた
だけど、まだ僕にはリードする事が出来ないから断った
『また今度、ゆっくり進もう』
なんて、我ながら恥ずかしいけどおとならしい事を言って
でも本当は、ユノが僕に触れて前を硬くする度にぞくぞくしていたし…
年齢差なんて関係無く、もっと触れてリードされたいって思っていた



「だけど、それじゃあ駄目なんだ」



一週間はあっという間に過ぎた
土曜日にユノと会って、翌日は
『予定が有るから』
と言って、ユノの誘いを断った
本当は会いたい、でも会って求めて、そうしてユノに
『これまでの彼女達と一緒だ』
と思われたく無いから
  
  

この一週間、暇さえあれば男同士の行為、について調べていた
頼られたり甘えられたりする事があまり好きでは無い、とユノは言った
つまりはきっと、彼は僕に抱かれたいのだろう
僕だって男だから、異性を抱くのを想像した事はある
でも、年下とは言え自分よりも男らしくて体格の良いユノを抱きたい、とは思えなくて…
多分、むしろ逆だって事が分かった



「…これも、性の不一致ってやつになるのかな?
だけど、ユノを悲しませたく無いよ」



スマホでひたすらに調べていたから、今誰かに僕のスマホを見られたらおしまいだ
だけど、そのお陰で知識はしっかりと身に付ける事は出来た

残念ながら実践についてはひとりでは出来ない
でも、男同士でもちゃんと行為が出来る事は分かった



「…っあ…もう時間…」



ユノと恋人になって丸一週間
この一週間、会えなくても沢山メッセージを交わしたし電話もしていた
ユノは毎日僕に好きだと言ってくれて…
夜眠る前には
『チャンミンが欲しい』
と熱の篭った声で囁いた

それを聞く度に僕は身体の奥がぞくぞくして、経験なんて無いのに抱かれたいって思っていた
だけど、そんな事言えない
だって、僕はユノよりも三歳も年上だから



時刻は午前十時五十分
朝から部屋の掃除はばっちりだ
今日はこの部屋に直接ユノがやって来る
『外に遊びに行かなくても良いの?』
なんて、またしてもユノに気を遣われたけど、部屋のなかでゆっくりする方が気兼ねなくいられるし、何より…



「今日は、ユノの気持ちに応える為に…男として頑張らないと」



ソファに座ってぐっと拳を握り締めた
どれだけ調べて想像しても、ユノを抱きたい、とは思えなかった
だけど、好きだし触れたい
ユノの笑顔を見たい
男として気持ちに応えたい



「大丈夫、僕なら出来る
ユノだって僕が経験無い事は知っているんだから…」



自分に言い聞かせるように呟いて自分を鼓舞した
ふう、と息を整えて、もう一度スマホで
『男同士の方法』
を調べた
文字だけで書かれた事を見ても、映像を見ても、想像するのは自分が受け身になる事
僕に覆い被さるユノが僕を見下ろして欲を孕んだ目で、あの…
初めて出会った日のように余裕の無い荒い息を吐く事



「…っ、もう、何考えてるんだよ……っあ…」



思わず、チノパンの上からお尻に手を伸ばしそうになった
触れたくて気になって、だけど自分のそこに触れても仕方無いと思って我慢していた場所
後少しで触れそうになった時、インターフォンが鳴って慌てて立ち上がった



「ユノだ…」



一気に心臓が跳ねて、足が縺れそうになった
どきどきしながら玄関の扉を開けたら…



「チャンミン!会いたかった…一週間、凄く長くて…」

「…ユノ…僕も会いたかったよ」



慌てた様子でなかに入ってきて扉を後ろ手で閉めたユノは、靴も履いたまま僕を強く強く抱き締めた



「本当に?チャンミンも会いたいって思ってくれていた?
俺の事を好きでいてくれてる?」

「ふふ…当たり前だろ
毎日好きだって言ってるし…信じてくれないの?」



ユノは、初めて出会った時と同じ、黄色いスタジャンを着ていた
イエローデーじゃなきゃ有り得ないって思っていたけど、ユノに凄く似合っている
何だか太陽のように明るいし、月のように綺麗だし…



「信じてる
だけど、まだ自信が無いんだ
チャンミンの事が好き過ぎて
それに、チャンミンが最後までさせてくれないから…」

「……ユノと違って経験が無いから勉強したかったんだ
この一週間、ちゃんと勉強したよ
だから、その…今日はユノの気持ちに応えたいって思う」



年下のユノは、恋愛経験があっても僕なんかに不安になるらしい
それが可愛くて、そして早く安心させてあげたい
僕なんかにそれが出来るかは分からないけど、僕は三歳も年上だし、抱きたい、とは思わないけどユノの事を本当に好きで大切に思っているし…



「本当に?俺の気持ちに応えてくれるの?嬉しい、チャンミン…」



切れ長の瞳をきらきらと輝かせて僕を見つめるユノの瞳は真っ暗闇の宇宙に無数に煌めく星の光みたいだと思った



大丈夫、きっと上手く行く
僕はユノの年上の恋人なのだから
















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あと1話です、と前回書いたのですが、どうしても長くなってしまいました…しょぼん
今度こそあと1話です
最後までお付き合い頂ければ幸いです