本当は分かっている
十八年間生きてきたら、自分がどんなやつでひとからどう見られているのか…
それなりに自分の事くらい分かっているから



「チャンミン君、おはよう
あのね…今日の昼休みって空いてる?」

「今日?もう埋まってる…って言いたいとこだけど、今日なら空いているよ」

「本当に?じゃあ、何時もの部屋で会える?」

「先週も『会った』ばかりだけど、もう?
この学校はそんな子ばかりだね」



笑みを浮かべて、制服の上からでも女性らしい身体つきが分かる同級生の女子を覗き込んだら、彼女はむっと唇を尖らせて
「ばかり、なんて言わないで
皆…王子達に夢中なんだから」
と言った



「皆?それって、お互いに嫉妬したりしないの?
まあ恋愛じゃあ無いし関係無いのかな」

「良いの、だって、もしも毎日だとか…
例えば私がチャンミン君か『あの王子』を独占してしまったら、勉強や他の事に身なんて入らなくなっちゃいそうだから」

「ふうん
それって、あの王子よりも僕の方がイイって事?」



負けたく無い
でも、そんな事はおくびにも出さない
笑顔のままで、彼女の黒い髪の毛に手を伸ばして触れたら少し目を伏せて
「ひとりだけじゃ足りない
きっと皆そうだよ
だって、どっちの王子もそれぞれ素敵だから」
と言った



「それぞれ、ね
噂ではあの王子…いや、あいつの方が激しいって聞くけど
余裕が無いんじゃないか?」

「…余裕って言うか…
うん、確かにチャンミン君は余裕、と言うか控えめ…かな?
あの王子は…もう、何も考えられなくなるような感じ
男らしさとか…なんて、この話はまた後で」



「もしも先生方や、この秘密を知らない別の誰かに聞かれたら困るから」
そう言うと、彼女はスカートの裾をひらりと翻して駆けて行った



「…何が王子だよ」



吐き捨てるように呟いて、前髪をかき上げた
と言うか、かき上げようとして右手で前髪に触れたけれども、ついこの週末に髪の毛を切ったばかりで今は邪魔にはならないって事を思い出した



「…はあ」



結局、右手を前髪にあててわしゃっと左右に動かした
『王子達』なんて、周りには一纏めにされる
けれども一緒になんてされたくない
負けたく無い
そんな風に意識するのも嫌なのに、離れる事が出来ない



「チャンドラ、おはよう」

「…っ、後ろから急に…驚くだろ!」

「後ろから声を掛けるなって?
チャンドラの後ろから歩いて来たんだから仕方無いだろ」

「…急に触れるなって事だよ、ユノ」



もう、肩に乗せられた手は離れた
でも、そこが何だか熱い
触れられなければこんな風に感じなくて済んだのに

振り向いて、少しだけ視線を落としてユノを見下ろしたら彼は余裕の表情で微笑んでいる



「友達…いや、『王子』なんて呼ばれている仲なんだから肩に触れるくらい良いだろ?
それとも…『あの言葉』を未だに気にしているとか?」

「は?どうして僕が…
ユノが勝手に僕を…!」

「うん、それで?
今はもう何も言っていないけど
俺はもうあの時以来何も言っていないのに、チャンドラは未だに気にしているの?
俺より身長は高くなっても随分可愛いところがあるんだな」

「…っ、巫山戯るな
もう授業が始まるから教室に帰る」



歩き出したら、ユンホも直ぐに左側に並んだ



「…着いて来るな」

「俺は自分の教室に戻るだけなんだけど
チャンドラは随分自意識過剰なんだな
ただ隣のクラスなだけなのに」

「…馴れ馴れしく呼ぶな」

「幼馴染みで昔からそう呼んでいるんだから今更だ
呼び方を変える、だなんてまるで何か…
分からないけど、特別に意識でもされているようだな」



つらつらと、何でも無い事のように話すユノ
特別に意識しているのはユノの方だろ、そう言いたかった
でも、それだってもう…
いや、『あの言葉』なんてそもそも僕の勘違いなのだろうか
だけどユノだってさっき
『あの時以来何も言っていない』
そう言っていた

一度の事で意識する自分が情けなくて悔しくて…



「…僕はまた、一センチ身長が伸びていたよ
ユノは?また差が開いたんじゃあないの?」

「そう言えば最近測って無いな
身長だけが男じゃ無いし、ほんの数センチ…
チャンミンよりも低いからと言って困る事は無いから」

「…そう
僕は折角ならまだ伸ばしたい
ユノとは合わないみたいだ」



身長がやっと百八十センチになった
でもまだ伸ばしたい
もっと…
顔立ちが男らしく無い分、筋肉が付き難い分
少しでも男らしくなりたいのだ

同い年で幼馴染みのユノは僕よりも五センチは低い
だから、ユノがどれだけ男らしくなったって、激しいだとか言われて女子達が夢中になっていたって僕には敵わない
そう思っていないと自分が揺らいでしまいそうなのだ



「昼休み、今日は僕があの部屋を使うから」

「そう、分かったよ
チャンドラもなかなかやるなあ」

「…馬鹿にしたような事を言って
僕だって男だし、僕に抱かれたいって子が絶えないんだ
利害関係が一致しているだけ…ユノだってそうだろ?
別に特別な誰か、なんて居ないのだろうから」

「…そう思う?」

「……もう教室に着いたから
一々話し掛けないでくれ」



一度しか僕に『あんな事』を言っていない癖に
思わせぶりに尋ねてくる
そんなの、僕が知りたいのに



「…っ何だよもう…!」



ユノの視線を背中に感じながら教室へと入り、誰にも聞かれないように呟いた



授業が始まる
教室に入ればもう、隣のクラスのユノが着いて来る事は無い
席についたら周りのクラスメイト達が
「おはよう、王子」
だとか
「今日もアイドルみたいだな」
「御曹司で成績も良くて、教室に入ってきた途端に女子達が反応するだなんて羨ましいよ」
なんて口々に言う



御曹司なのは、僕の力じゃ無い
顔もスタイルも、別に何もしていない
勉強は頑張っているし周りの期待を裏切らないように気を付けている
僕なりに出来る事はしているつもり
でも…



「もうひとりの王子…チョン君も男らしくて良いよね」
「身長はシム君の方が高いけど、チョン君も充分高いし」



どれだけ頑張っても、身長を抜いたって何時もユノと比べられる
同じ、大企業の跡取り息子で幼馴染みの男と

























「チャンドラ」

「……何だよ」



午前中の授業が終わった
学校指定の革の鞄を持ち教室を出た途端、ユノに声を掛けられて振り向いた

朝のように肩を叩かれる事は無かった
それを安堵すれば良いのに、何故かむかむかする



「話し掛けるな
昼はあの部屋を僕が使うと言っただろ」

「うん、聞いたよ
でも…チャンドラは本当にあの子を抱きたいのか?」

「…は?」



身長は五センチも低い
それなのに、早足で歩く僕の左隣にあっという間にユノは並んだ



「俺…先週あの子を抱いたけど、その時に言っていたんだ
『シム君じゃ物足りない』って
他のクラスの…名前も忘れたけど、別の子も同じような事を言っていたな
最近、チャンドラを誘う子は少し減ったんじゃあ無いか?」

「…ユノ、お前…」



僕達は、この高校の王子、だなんて言われている
それはお互いに大企業の御曹司だから
この学園に多額の寄付をしているから
勿論それぞれきちんと試験を受けて入学している
でも、親が特別だから…
僕達はこの学園では他の生徒達よりも自由が許されている

つまりは、僕達の出自だとか顔だとか…
何かに惹かれて誘う女子生徒達と密会するのに使える自由な部屋をふたりで共有している、とか



けれども、僕達が同じ部屋を共有していたって
幼馴染みだって
もう高校生だしクラスも別々だし、仲良くする事なんて無い
ただ、立場が同じようであるというだけ
勝手に周りが僕達を『王子』と呼ぶだけ

お互いの事になんて言及せずにいれば良い
それなのに、ユノはこうしてたまに僕を馬鹿にして揶揄うような事を言う
誰よりもユノには負けたく無い
弱みなんて見せたく無い
それなのに…



「チャンドラは彼女達を抱きたいのか?」

「男だから誘われたら応えている、それだけだ」

「ふうん
俺は選びたいけどな」

「は?来る者拒まずじゃ無いのか?」

「そんな事無い
だって…チャンドラに興味が無い女子達には興味が無いから」

「…何だよそれ…」

「分からないのか?
別に俺だけを好きだとか、俺しか見えないだとか
『シム君には興味が無いの』
なんて言う誰かはどうだって良いって事」



僕達が自由に使える部屋
そこに向かう途中でユノは
「何も無理矢理抱く必要なんて無い
自分の気持ちに従ったらどうだ?」
そう、僕の耳の近くで囁いた



「…っ、僕に近付くな」

「本当に? 
呼び止めた時に肩や腕に触れないと寂しそうな顔をする癖に」

「…ユノが何を考えているのか分からない
あの部屋は今日は僕が使うって言っただろ
もう退いてくれ」



左にぴたりと近付いてくるユノ 
左手で彼の腕をぐっと押したらその腕が固くて驚いた



「何?俺に触れたいの?」

「…勘違いするな、それに巫山戯るな」

「…巫山戯てないんだけど
で?本当に、俺の方が良いって言うあの子をこれから抱くのか?
チャンドラがこの間抱いていた別の…
ああ、もう名前なんて本当に覚えていないんだけど
ショートカットの後輩も、俺の方がって言っていたよ」

「…僕だって別に彼女達に興味なんて無い
ただ誘われるから男として応えているだけだ」

「じゃあ、俺が誘えば俺にも応えるのか?」

「え…」



一瞬で心臓が飛び跳ねた
あまりにもユノの声が真剣だったから

でも、そんなのは勘違いだ
ユノは…
『あの言葉』とは裏腹に僕の事なんて嫌いだろうから
嫌いだから…
僕に興味を持った女子の誘いにだけ応じて、そして僕から全てを奪おうとしているのだろうから



「残念、着いたようだな
じゃあまた…チャンドラ」

「…っ、馴れ馴れしく呼ぶな
チャンドラだなんて呼ぶのはユノだけで…」

「知っているよ
他の誰かになんて呼ばせるつもりは無いから」

「……ユノ…」



僕達だけが鍵を持っていて自由に使える部屋
僕達と…僕達を誘う女子達、が正解だけど
その扉を開けてなかへと足を一歩踏み入れた
ノブを持ったまま振り返ったら、ユノが
「俺じゃ無くて良いの?」
そう言った



「…何言ってるんだよ」

「チャンドラに選んで欲しいんだけど
だって、言われた通りになったと思わない?
チャンドラよりも俺の方が女子達にモテてる
身長はまだ敵わないし、もう十八だからこのままずっと…
チャンドラよりも俺は低いままかもしれない
でも、身長以外は俺の方が…」

「もう良いってば!」



最後まで聞かずに扉を閉めた
別に、端から話なんて聞く必要無かったのに



「……直ぐに離れるくらいなら着いて来るなよ」



扉に背を預けたままじっと息を潜めていたら、足音が聞こえて直ぐに遠のいて行った

もう、ユノに振り回されたくなんて無いのに












 




「…はあ?誘った癖に遅れるとか…」


 
部屋のなか、どんな風に休憩したって許される大きな…
まるでベッドのようなソファに脚を投げ出して座っていたら、今朝僕を誘った女子から
『先生に呼ばれていて少し遅れる』
と連絡があった



女子がやって来たらする事はひとつ
彼女達が僕達『王子』を誘うのは抱いて欲しいから
と言うか、僕達はそれぞれ特定の相手は面倒だから…
絶対に作らないと名言している
だから、彼女達はせめて肉体関係を持ちたいと誘う、らしい


 
「別に、抱く必要だって無い 
ただ断るのが面倒なだけだし、僕は男だし…」



そう、男だから欲を発散する事も必要、だと周りには言っている
でも…本当はそれだって、異性を抱いて発散する必要なんて無い


 
「何処で歯車が狂ったんだよ…」



寝返りを打って横を向いて小さく足を丸めた



昔から、パーティーや何かでユノとは良く会っていた
お互いに同じような立場で、直ぐに打ち解けた
と言うか、周りからは恵まれていると思われても、僕達には僕達の悩みのようなものもあるし、庶民には理解されない感覚もある

おとなばかりの社会で生きてきて、学校に行っても同じ感覚の友達がなかなか居ない
そんななかでユノの存在は安らぎだった



『チャンドラは可愛いな』
それがユノの口癖だった
確か、中学に入った頃までは…
遊びの延長でキスをしていた
多分、挨拶のようなものだったのだ
ユノとのキスは何だか嬉しくて、キスをした後にユノから
『可愛い』
と言われると嬉しかった

でも…
次第に、周りは僕に『男である事』を求めるようになった
御曹司として自覚するように、だとか…
外見があまり男らしく無いから、少しでも完璧であるように、とか



「もう、思い出すなよ」



キスを、普通は友達同士でしない事も知った
それからは、ユノがキスを仕掛けてきても拒んだ
悲しそうなユノを見て心が傷んだけど、男らしくある為には男とキスをして
『可愛い』
と言われて喜ぶだなんて有り得ないから



高校に入って身長が一気に伸びた
男らしく無いと言われ続けた僕だけど、身長だけは男らしくなったしユノを追い越す事も出来た

キスはもうしなくなった
でも、何時もユノは僕の傍に居たし、相変わらず
『チャンドラは可愛いな』
と言う

王子、なんて呼ばれて同じくらいモテているユノが
『特別な彼女は作らない』
そう言うから、僕も…
恋愛に興味は無いし、目を瞑るといつも考えるのはユノの事だけだから同じように明言した



お金があって将来もあって、モテて勉強も出来て、羨ましいと周りには言われる
でも、僕は望まれる姿を演じていて時に苦しくなる
苦しくなるから見ない振りをしている
今の僕では無い、ユノとキスをして嬉しい気持ちになっていたような『向こう側』には行ってはいけない



「何なんだよ…」



キスをしなくなり、お互いに誘われれば応じて女子を抱くようになった
僕達はもう、お互いしか仲間が居ないふたりきり、だった僕達では無い
それがきっと、御曹司としての在るべき姿
だったのに、均衡を崩したのは一ヶ月前のユノだった



『チャンドラが好きだ
他の誰かで我慢したり代わりになるかと思ったけど無理だった
俺と付き合って欲しいしチャンドラを抱きたい』



「…っ、もう、思い出すなってば…」



本当はずっと、僕達は特別なんだって分かっていた
お互いに特別な想いを抱いていると
キスだって…
中学になればもう、そんな事普通はしないのだと分かっていた
でも、少なくとも僕は何も知らない振りでユノとキスをしていた

高校に入り異性を抱いた
初めは緊張した、けれども男として足りないのかと思うくらい、身体も心も盛り上がらなかった
行為は出来る、でも…
男として必要だからしている、望まれるから抱いている、という感じ



ユノも僕を特別だと思っているだろうとは思っていた
でも、それはもう口になんて出してはならない事だと思っていたし、この均衡を崩してしまったら後戻り出来ないと思ったのだ

だから、
『ユノはもう僕よりも身長が低いのに?有り得ない
せめて、僕を求める女子達皆をユノに振り向かせてから言ってよ』
そんな風に、わざと辛辣に返した



傷付けるつもりだった
そうして離れないと、もう…
今キス以上の仲になれば戻れないと分かっていたから

でも、ユノは傷付いた顔もせずに
『そうか』
とだけ僕に返して、何事も無かったように日々は繰り返された

 

「それなのに、一ヶ月経って急に
『チャンドラの言う通りにした』とか
『選んで欲しい』とか…」


 
呟いてぐっと唇を噛み締めた



あんな告白…いや、言葉は冗談だと思っていたのに
僕の言葉に怒って呆れてしまえば良いと思っていたのに



「違う…」



本当は、ユノに全てを攫って欲しかった
特別で居たいのに
誰を抱いても心には穴が空いたままで、むしろ自分がどんどん汚いものになっていくようなのに
それなのにどうしたら良いか分からずに藻掻く僕を引き上げて、ユノの場所まで攫って欲しかった

でも、僕の言葉に傷付く様子も無かったユノを見て、彼は何かの冗談で僕に告白をしただけで、本気で藻掻いているのは僕だけなのだと思った



でもやはりもう遅い
ユノが攫ってくれずに自ら素直になる事なんて出来ない
女子達が皆ユノの方をイイ、と言うのなら、僕はやはり男として魅力が薄いのだろう

これでは御曹司として情けない
もっと頑張って男しく居なければならないから



「…早く来てよ、もう…」



誰が?
そんなの…
僕を誘った女子の事だ

彼女か、もしくは他の誰かでも良い
女子がやって来れば男としての自分を再確認出来る



ユノにキスをされて可愛いと言われて嬉しいと思う
未だにチャンドラ、なんてあだ名で呼ばれて特別だって感じる
そんな僕を遠ざける事が出来る



「…っ、遅い…」



こんこん、と扉がノックされて声を出した
答えは無いから、ソファから立ち上がり扉へと向かった



色々な気持ちが混じった溜息を吐きながら扉をゆっくりと開けたら…



「…ユノ…」

「チャンドラ
やっぱりもう無理だって思ったんだ」

「何が…」

「もう、チャンドラに選んで欲しい
本当に嫌なら、もうチャンドラって呼ばない
これ以上どうだって良い女子達に応えるのも面倒だ
特別な彼女は作らない
だって、俺にとって特別なのはひとりだけだから」



扉を開けたら目の前に立っていたのは、僕にとってずっと…
認めたく無いけど特別な幼馴染み



「無茶はしたくないし嫌われたく無い
退路を塞ぎたかったけど、これ以上他の誰かを抱いても虚しいだけなんだ
だから…今、選んで欲しい」

「何を…」



分かっている
でも、怖くて足が竦んでしまう
だけど、自ら選んだらもう、本当に後戻り出来ない
だから攫って欲しいのに…



「今、選ばないならもうチャンドラ…
いや、チャンミンに迷惑を掛けないし関わらないよ
それから、俺はこの部屋を使わなくても良い 
此処に来る度に、此処でチャンミンが誰かを抱いていると思ったら……っ…」

「……うるさい、もう…続きは部屋で…」



ユノとの数年ぶりのキスは、上手く唇が触れ合う事無く、僕の唇はユノの唇の上に触れた
恥ずかしいから胸倉を掴んだままで顔を背けて引っ張った



「俺を部屋に入れるの?
そうして鍵を閉めたらもう、予定を入れていた彼女は入れない」

「…分かってる、そんな事」

「俺を部屋に入れるなら俺を選ぶって事で…
そうすればもう、手加減なんてしないけど?
ずっと、何時だってチャンミンの事を考えていたんだから」

「…チャンミン、なんて呼ぶな!」

「チャンドラ、良いの?」



胸倉から手を離して腕を掴んだ
入れば良いのに、ユノは一歩も動かない
従ってくれたらそれで良いのに
ユノは何処までも、僕に選ばせようとしているのかもしれない



「…僕は、ユノと違って男らしくないんだ、知ってるだろ
怖くて怖くて仕方無い
身長を抜かしたのに…
ユノに可愛いって言われて喜んで、ユノの方が女子達に褒められていても本当は悔しくなくて
誰を抱いても…本当はユノに、って考えて……っあ…」

「…チャンドラに敵わないのは俺の方だ
はっきりと俺を選ばせて後戻り出来ないようにさせたかったのに、結局俺の方が我慢出来なくてこうして扉を閉めてしまったから」



僕の方が腕を掴んでいた筈なのに、ユノに引っ張られるようにして部屋のなかに入った
直ぐに鍵が閉まる音が聞こえて、目の前はユノでいっぱいになって…



「…っん…」

「さっきの下手くそなキスも良いけど、足りない
この部屋での記憶なんてもう、これからは全部俺で塗り替えていくから」

「…それは僕の台詞だし」



ベッドに行くほんの数秒すら惜しむように唇を重ねた
中学の頃とは違う、もっと甘いキス



僕を特別に求めてくれるユノの居る方に行きたいと思っていた
でも、その気持ちだって本当は僕の勘違いで、ユノの方が正しい側に居て僕が在るべき場所に居ないだけなのかもしれないと思った

正しく、求められる自分で居ないと怖かった
周りからどう思われてしまうのか、が
でも、ふたりで僕達だけの場所で居られるならそれで良い

 

「昼休み…もう半分しか無いけどどうする?」

「…一時間くらいさぼったって良いだろ
普段、お互いに優等生なんだから」

「流石俺のチャンドラだ」



昔のような…
でも、昔よりも熱い視線
それに見つめられるとぞくぞくして、男らしさだとかこう在るべき、だなんてどうだって良いと思った



この部屋は、端からユノと僕だけが使える秘密の部屋
これからはもう、他の誰かなんて入れる事無く、本当の秘密にしてしまえば良いのだ













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本当は今日「Switching!」を更新予定でしたが、殆ど書気終わっていたものを間違って消してしまいました…ショック!
切なかったので、気分転換に突発SSでした

読んでくださってありがとうございます