誰かと付き合う、好きなひとがいる
こんなどきどきした気持ち、何だか久しぶりな気がする

大学生活にはそれなりに夢を抱いていたし
受験勉強で恋愛どころじゃあ無かったから、
こんな気持ちが自分のなかにあった事が何だか新鮮で…



「おはよう、チャンミン」

「…おはようございます、ユノヒョン」



ほぼ毎朝、電車のなかで会えるって分かっているのに、
僕を見て嬉しそうに微笑みユノヒョンを見て、それが幸せで胸がぎゅうっと締め付けられるなんて…
恋はまるで魔法のようで、不思議だ



「奥にどうぞ、姫」

「…姫って何ですか」

「あはは、ごめん
チャンミンに会えたのが嬉しくてつい」



僕の為に空けておいてくれたふたり掛けの座席、彼の隣に座ったらもっと嬉しそうに笑う、昨日の夜から僕の恋人になったひと



「昨日はありがとう
また部屋に来てくれる?
俺も一緒に楽しみたいから、ゲームを上達させたい
チャンミン、俺の先生になってよ」

「…予定が無い日なら」

「ありがとう」

「先生って何だか変な感じですね
僕の特訓は厳しいけど大丈夫ですか?」



少し茶化して言ったら、
「お願いします」
と嬉しそうに頭を下げる
サークルにも所属していないし友達が多い方でも無いから、放課後は特別予定の無い日の方が多い
だけど、そんな事を言ったら物凄く楽しみにしているんだって知らしめてしまうようで恥ずかしい

でも、本当は…
今日だって会いたい
朝の数十分は眠ればあっという間な貴重な時間
それが、今日はもっともっと、時間の流れがあっという間に感じる
だけど、それをどう言葉に、行動に移せば良いのか分からない

ユノヒョンを好きだって自覚したけれど、
男同士で付き合うなんて初めてで
何が正解なのか、どう振る舞えば良いのか分からないんだ



「…ふあ…あ、ごめんなさい」



真剣にそんな事を考えていたのに、
欠伸が出てしまった
多分、昨日ユノヒョンの部屋から帰ってからもずっとどきどきして、キスした感触だったり繋いだ手の温もりを何度も何度も思い出して寝不足になってしまったから



「可愛い
俺に凭れて寝たら良いよ
ちゃんと、着く前に起こすから」

「…でも…」



眠ってしまうのが勿体無い
だって、眠ってしまったら話せないから
朝の通学電車は睡眠を取る貴重な時間だと思っていたけれど、今の僕にとってはユノヒョンと話す事の出来る貴重な時間

眠ってしまいたくないなあ、と思いながらユノヒョンを見たらくすり、と微笑んで長い綺麗な指が伸びて来る



「…実は、俺も今朝は眠いんだ」

「どうしてですか?」



こめかみに触れられた
そっと、壊れ物を扱うように優しく耳に向かって触れられた
少し擽ったくて、だけど心地好くて目を瞑った
そして、ゆっくりと瞼を持ち上げたら…



「わっ、びっくりした…」



ただでさえ、肩も腕も触れ合っている
今朝は少し暑かったから、半袖のシャツ
左隣のユノヒョンも半袖のTシャツ姿で素肌が触れ合っていてどきどきしているのに、整った顔も目の前にやって来た



「昨日のキスを何度も思い出して…
チャンミンの事を考えて、眠れなくなった」

「…っ…」



キスしてしまいそうな距離で囁かれて、
かあっと顔が熱くなる



「ええと、じゃあ…
今日はユノヒョンが眠ってください
僕が降りる時に起こします、だから…」



腕が触れ合っているのが何だか生々しくて、
少し窓際に身体を動かした
だけど、そうするとユノヒョンも、まるで僕を追い掛けるように身体を傾けて来る
窓側だから逃げ場も無くて、車内は空調も効いているのに熱くなる



「チャンミンも同じ理由で寝不足だったら嬉しいんだけど…
まさか、呑気に帰ってもゲームをしていたから、とかじゃあ無いよね?」

「してない、です
その、多分同じ…色々考えてて…」



黒い瞳に見据えられたら逃れられなくなる
こくこくと頷いたら、ぼっと溜息を吐いて優しく微笑むユノヒョン



「じゃあ、一緒に少しだけ眠ろう
大丈夫、俺はちゃんと起きるから…
駅に着く前に起こすよ」

「…はい」



本当は起きていたい
何でも良いから…
つまらない話だって良いから話していたい
だけど、そんな事恥ずかしくて言えないから
ユノヒョンの左肩に凭れるようにして瞳を閉じた



何だけど…
正直、本当に眠たかった
朝なんて普段以上に起きられなくていつものこの電車に間に合わないかと思った

少し前は、ユノヒョンを避ける為にわざと時間を遅らせていたのに、今は絶対いつもの時間に乗らなきゃって思っている

眠たくて眠たくて、駅に着くまで何度も欠伸をした
だけど、今だって勿論眠いけれど、それ以上に緊張が大き過ぎて瞳を閉じても左側が気になって仕方無い



左手はユノヒョンの右手に繋がれて、意識すると汗をかいてしまいそう
速くなる鼓動が掌や触れ合った腕からユノヒョンに伝わってしまいそうで、そっと瞼を持ち上げた



「…どうしよう、こんなの初めてだよ…」



男を好きになるなんて初めて
だけど、恋は勿論経験済み
それでも、今までの恋で、女の子にこんなにどきどきした事なんて無かった
優しいし柔らかいし可愛い女の子
癒されたり穏やかな気持ちが大きかった
だから、こんな…
まるでジェットコースターのような
予測不能な出会いから始まった全てが初めての恋を自分のなかで消化し切れない

でも…



「見られていなければ、ちゃんと見る事が出来るかも…」



少し俯いて眠るユノヒョン 
伏せられた睫毛は、目を開けている時よりも長く見えて、それは新しい発見だった
それに…切れ長の瞳やシャープな輪郭でおとなっぽく見えるけれど、眠っていると少し可愛らしくも見える

それでもやっぱり、眠っていてもイケメンである事は変わりなくて…
どうして、こんなひとが僕を好きだなんて思ったのだろう、と考えてみたけれど、やっぱり分からない



「……好き」



昨日、初めて自覚した気持ち
駅まで手を繋いで送ってもらった時、
別れる直前にキスをした
その時に、『好きなんだと思います』
そう、告白をした

想いを自覚すると驚くくらいの速さで滑り落ちていく
昨夜、自分の部屋に帰ってからも何度も心のなかでは言ってみたけれど…
物凄く小さく、でも口にすると一気に想いが膨れ上がる



「…ふう…」



どきどきし過ぎて息が出来なくなってしまいそうだから、ゆっくりと息を吐いたら繋いだ手にぎゅっと力が篭った



「…っ…びっくりした…」



ユノヒョンが起きたのかと思ったけれど、目は瞑ったままだからほっとした
でも、もう一度ぎゅっと握られて…



「チャンミン…
どうして起きている時に言ってくれないの?」

「…っ、びっくりした…
聞いていたんですか?」



しっかりと黒い瞳を開いたユノヒョンが、まるで僕を窓際に追い詰めるようにずいっと顔を近付けて来る
手も繋いだままで、逃げ場が無い



「緊張で眠れないよ
でも、俺が寝るって言えばチャンミンも眠れるかな?と思ったんだけど…
目を瞑っていても、何だか物凄く視線を感じたんだ
眠らずに俺の事を見てた?」

「…っ騙したなんて酷いです
それに、僕もどきどきして眠れなくて…
だって、付き合い始めたところだから…」



恥ずかしいけれど、お互いに同じ気持ちだったと分かって少し安堵した
だから、本当の事を言ったのに…



「付き合ってる、って?俺達が?」

「…違うんですか…?」



ユノヒョンは難しそうな顔
だって、好きだって何度も言われて、
僕も…



「チャンミン、昨日何て俺に言ったか覚えてる?」

「え…好き、かも…って…」

「そう、多分、とか思う、とか…
だから、俺は漸く一歩進めたと思ったんだけど…
かも、も多分、も無しで良いって事?」



綺麗な瞳に見つめられて動けない
確かに『かも』『多分』と言ったけれど、
それは恥ずかしかったからで…

でも、ユノヒョンはそんな僕の言葉を信じて
まだ好かれていない、なんて思っていたのだろうか…



「言っただろ
怖がらせたくないし、ちゃんと好きになって欲しい
だから無理強いはしない、待つって決めたんだ」



嬉しそうな、でも少し困った顔でそんな事言われたら、
もっともっと溢れてしまう



「…好き、ユノヒョンが…
昨日、そう思ってからどんどん好きになってます」



握った掌に、今度は僕から力を込めて
恥ずかしいけれどちゃんと言葉にしたら、
そんな恥ずかしさなんてあっという間に飛んでいくくらい嬉しそうな顔でユノヒョンが笑う



「よかった…
じゃあ、俺と付き合ってもらえますか?」

「…はい」



朝の通学電車から始まった不思議な出会い
まるでストーカーのような男、チョンユンホ

でも、これまでの恋よりも一番…
今、純粋にユノヒョンを好きだって思っている












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