エリカ・モリーニという女流ヴァイオリニストがいました。1906年ウィーン生まれ。1938年にアメリカに移住、1976年に引退、1995年ニューヨークで死去。彼女の藝風は古きよき時代のウィーンのスタイルと言われます。古きよき時代のウィーンのスタイル、って、そもそもどんなものかわからない僕のような門外漢でも、優雅とかおっとりした感じは何となくわかります。
初めて彼女の演奏を聴いたのがこのレコード。タルティーニのヴァイオリンソナタト短調「悪魔のトリル」が入ってます。タルティーニは夢の中で悪魔の演奏を聴いてこの曲を作ったと言われてますが、それが本当かどうかはどうでもいい。でも、悪魔と音楽家の組み合わせというイメージには惹かれますね。小説でもヴァーノン・リーの「悪魔の歌声」とか、エルクマン=シャトリアンの「首吊り人のヴァイオリン」とか、面白い短編がいろいろあります。
この「悪魔のトリル」という曲が好きで、いろいろな人のレコードを集めましたが、モリーニの演奏を一番最初に聴きましたので、これが僕にとってのこの曲のスタンダードになりました。ウェストミンスター録音、W規格の共通ジャケット再発盤。この再発シリーズは中古市場ではタダ同然の値段が付いているものが多いのですが、このモリーニ盤とクララ・ハスキルのスカルラッティ「11のピアノソナタ集」だけはそこそこの値段で取引されているようです。
ウェストミンスター・レーベルのモリーニは確かあと4枚あったと思いますが、いま僕の手元にあるのは、タルティーニのほかではブラームスとチャイコフスキーのVn協2枚。いずれも同じようなジャケットです。
ブラームスの第三楽章、「アレグロ・ジョコーソ・マ・ノン・トロッポ・ヴィヴァーチェ」(単なる発想標語ですが、語感がいかにもこの曲らしくてカッコいい)、あの魔術的な旋律にモリーニのヴァイオリンはよく合っていて聴きごたえがあります。でも初期ステレオ録音のレコードとしての出来はチャイコフスキーの方に軍配を上げざるを得ない。これ、録音技師は誰だろうとジャケットを見てもわかりません。ところが盤には見慣れた刻印が……
ルディ・ヴァン・ゲルダーですね。ジャズの方では神様扱いされている録音技師です。クラシックのレコードも手がけており、特にVoxレーベルには彼による録音がたくさん残されてます。
モリーニのこれはたぶんカッティングだけ担当したんでしょう。ヴァン・ゲルダーはクラシックの世界ではあまり評価されてません。彼の持ち味は中音域の過剰な強調にあるので、ホールの響きを重要視するクラシック録音には向かないのかも。でもこのチャイコフスキーは奥行きがよく感じられる素晴らしい出来でした。まあ結局は彼も人間だということ、あれだけ仕事していれば出来不出来は必ずあります。要は自分の耳で良し悪しを判断することですね。
ちなみに、僕の所有するチャイコフスキーにはモリーニのサインが入ってます。
中古レコードの市場ではサインはあまり珍重されません。むしろ落書き扱いされて値段が下がることも。
エビ中の写真とは大違いですね。
うーん、結局はエビの話か(´・_・`)





