今日はジム・ペッパーの誕生日です。
僕のもっとも好きなテナーサックス奏者のひとり。1941年生まれ、1992年没。
彼はアメリカ先住民、コー(Kaw)部族の生まれ、「世界民族事典」によると、この部族はスー語族のひとつとのこと。1960年代、米東海岸でギターのラリー・コリエルらとジャズ・ロックのグループで活動したあと、1970年代以降は先住民の文化を色濃く反映した彼ならではの音楽を展開しました。僕が彼の音楽に初めて触れたのは1980年代初頭、当時は「エスニック・ジャズ」という適当なレッテルを貼られて、どこかキワもの扱いされてた感じでした。
僕は彼の音楽にいろいろ教えられましたね。彼を知って以降、「ジャズ」という言葉を使う際に細心の注意を払うようになりました。
「ジャズ」ってなんでしょう?
オックスフォード英語辞典(OED)によると、ジャズの本義は「ラグタイム・ダンスの一種、またそれに伴奏する音楽」とあり、文献の初出は1909年です。
ウェントワースとフレクスナーの「アメリカ俗語辞典」には「唯一のアメリカ固有の音楽。情感の表出、リズムの強調、即興性に特徴あり」などと書いてありますね。
簡単に言えば、「ノリノリで、ビートが効いて、演者におまかせの音楽」ってことです。
でも、ジョン・コルトレーンやアルバート・アイラー、セシル・テイラーらによる「フリー・ジャズ」以降、「ジャズ」に分類される即興性の勝った一連の音楽(たとえばECMレーベルの諸作品)は上の定義とはかなりズレるような気がします。
ジャズという言葉は一つの音楽様式を定義する方向に働くわけですが、その言葉で定義される一連の音楽は何しろ即興性を重視するものですから、次々と姿を変えて行ったということ。語感がズレるのも当たり前ですね。だから人によって「ジャズ」という言葉の守備範囲は千差万別、グレン・ミラーやデューク・エリントンを連想する人もいれば、チャーリー・パーカーやソニー・ロリンズがジャズだという人もいる。ハッサン・ハクムーンだってブッゲ・ヴェッセルトフトだってジャズです。ジャズは様式ではなく方法だ、なんてカッコいいことを言う人もいますが、では「ジャズ」という代わりに何と言えばいいのか。僕はとりあえず「即興音楽」と呼ぶようにしています。クラシックの古楽やバロック音楽だって、その筋の研究によると、発生当時は即興性に富んだものだったとのこと、これは残された楽譜などからわかるそうです。もうかなり前になりますが、古楽の声楽グループ、ヒリヤード・アンサンブルが前衛ジャズ(クラシックとの対比という意味において、とりあえずそう呼んでおきます)のサックス奏者ヤン・ガルバレクを加えて、即興性を前面に押し出した声楽曲集を出しましたが、これなどはまさに様式を表す用語ではカバーできない類の音楽でしたね。
えーと、前置きが長くなりましたが、僕がこういうことを考えるきっかけとなったのがジム・ペッパーの音楽です。先住民の儀式を思わせる音楽(というか、実際に行われていたそのもの)を取り入れつつ、しかもストレートフォワードな民族音楽ではない、ジャズとかロックとかいう用語で呼ぼうと思えば呼べそうな、言葉本来の意味での「フュージョン」を具現化した、独自の世界を作り上げました。
代表曲は「ウイチ・タイ・ト」。CDは絶盤、品切が多いですが、まあ今はどんな曲かを知るだけならいろいろ方法はありますので、ぜひ探して聴いてみてください。
この人は生き方も極端で、70年代に入ってからしばらく音楽から離れ、捕鯨船に乗って北極海に暮らしました。時化に遭って何度か死にかけたんですって。うーん、カッコいいなあ。僕には到底ムリだけど、こういう話を聞くだけでも胸が躍ります。

