※お玉ちゃんシリーズ「4」です。
ふたたび、箱根に行きました。
お玉ちゃんを祀っているところがあるというので、まずはそこに行ってみました。
左にあるのが、「御玉観音」です。
お玉ちゃんに声が届くのなら、ここで話をしたい! と思いましたが……
残念ながら声は届きませんでした。
仕方がないので、お玉ヶ池に向かいました。
この日はラッキーなことに、お玉ヶ池のすぐ横で工事をしていました。
車やトラックが何台も停まっており、工事をしている人や、交通整理のおじさんがいて、停滞していた「気」が、少しですが、流れていたのです。
思わず、バンザイをしそうになったくらい、ホッとした気持ちになりました。
太陽光がふりそそぐ、絶好のお天気で、これもラッキーでした。
どんよりとした空気感が、かなり薄らいでいたのです。
「これなら車を降りても大丈夫そう」ということで、車を降り、前回見た大きな石のところに行きました。
ここから、池に向かってお玉ちゃんに話しかけてみました。
「お玉ちゃ~ん、約束どおり、お話を聞きに来たよ~」
「お玉ちゃ~ん、聞いてほしいことがあるんだよね~?」
しかし、返事はありません。
はて?
ちゃんと幽霊に波長を合わせているので、聞きもらすことはないのですが、まったく何も聞こえないのです。
池にはシラサギが1羽いて、こちらを向いています。
池に真っ白なシラサギが1羽、ですから、その光景は、「この池は神聖な池ですよ~」と言っているように見えます。
工事関係者のおじさんたち、関係車両、お天気のおかげで、少しマシになっているとはいえ、ここはダークな霊気が漂う心霊スポットです。
おかしいな~、と思っていると、かすかに「道が……」と聞こえました。
え? 下に降りる道があるん? とそのへんを歩いてみたら、ありました!
池に降りていく小さな道が。
で、何も考えず、てってってっと、降りていくと……
そこは想像以上の、強烈な心霊スポットでした。
真っ黒い霊気が渦を巻いています。
ひー、ここ、本格的にヤバいやん! いてはいけないところやん! 帰りたいっ! と思ったのですが、約束をしているので……
話を聞かなくてはなりません。
覚悟を決めて奥へと進み、
さらに奥へと行きました。
すると、声が聞こえてきたのです。
ここでわかったのですが、道路がある場所は、池から少し上がったところで、心霊スポット度が、池のそばよりもだいぶ低いのです。
そのため、道路のところでは声が聞こえなかった、というわけです。
「お玉ちゃん、処刑されたんだよね?」
「うん。そう」
ここからは、お玉ちゃんに聞いた話です。
お玉ちゃんは、手形がないから関所を通れない、ということは、わかっていました。
けれど、関所の取り締まりの厳しさとか、幕府の法令とか、難しいこと、詳しいことは知りませんでした。
関所破りが重罪だということも知らなかったのです。
なので、山さえ越えれば家に帰れる、と軽く考え、山越えをしようとしました。
関所から離れた場所で、山に登っていたところを役人に見つかり、
お玉ちゃんは、獄屋に入れられました。
でも、厳しい取り調べなどはまったくなく、みんな、優しいのです。
役人たちは、お玉ちゃんの事情を聞いて、「かわいそうに」と同情してくれました。
けれど、関所破りは死刑です。
だから獄屋に入れているんだ、勝手に許すわけにはいかないからね、しょうがないのだよ、と役人たちは悲しそうな顔で説明をしてくれました。
本当に、どの人もみんな親切で、にこにこと話をしてくれたし、中にはこっそりと差し入れをしてくれる人もいました。
食事もちゃんと与えられていましたし、お玉ちゃんはここでつらい思いをしていません。
奉公先での生活より、獄屋での生活のほうが幸せだった、と本人が言うくらい、大事にされていたのです。
運命のその日、役人たちはみんな「すまない」「許してくれ」とお玉ちゃんに謝り、「心やすらかに」と泣いてくれました。
中には号泣している人もいました。
お玉ちゃんは、処刑されることについて、納得していました。
関所破りをしたのは自分です。
悪いのは自分ですから、死刑は仕方ありません。
最後に、両親に会いたかったな、とは思ったものの、お玉ちゃんの最期の感情は「みんな、優しくしてくれて、ありがとう」でした。
処刑されて、お玉ちゃんは亡くなりました。
恨みとか、憎しみ、心残り、などは一切持たなかったので、成仏することに支障はありませんでした。
しかし……成仏できなかったのです。
というのは、成仏の仕方がわからなかったからです。
どこに行けばいいのかわからない、ということで、お玉ちゃんはちょっとの間、うろうろしました。
そのちょっとが、何日なのか、何ヶ月なのか、何年なのかは、本人もわかっていないので不明ですが、その期間、さまよっていたのです。
関所破りのお玉ちゃんが首をはねられて殺された、うらめしく思っているようで、幽霊になってあちこちに出る、
つかまった峠に出るらしい、
首を洗われた池に出たのを見た、
という噂が、さまよっている時に広まりました。
こういう話は面白がって広める人がいるため、お玉ちゃんは怨霊にされてしまったのです。
お玉ちゃん自身は、成仏の仕方がわからなかっただけで、成仏できる状態です。
怨霊なんかではありません。
けれど、人々の意識の中では、お玉ちゃんは強烈な怨霊、となったのでした。
※続きます。