※前回の続きです。
救急車で運ばれた、203のおじいさんを見かけなくなって、しばらくたったある日のことです。
私は夜遅く帰宅しました。
エントランスからマンションに入って、エレベーターに乗り、「2」を押し、「閉」を押しましたが、ドアが閉まりません。
はて? と少し待ったのですが、閉まる気配がないのです。
「ま、こういうこともあるよね」と、もう一度「閉」を押すと、ようやくドアが閉まり始めたので、手に持っていたスマホを見ていました。
すると、突然、
ガチャン!
という大きな音がして、閉まりかけていたドアが開いたのです。
は? なんの音? というか、なにが起こったん? とあたりを見まわしましたが、目の前には何もありませんし、誰もいません。
私は普段、意識して幽霊に波長を合わせていないため、幽霊を見ることはありません。
けれど、この時、音は聞こえました。
その音は、閉まるドアが車椅子に当たった音でした。
介護の仕事をしていたので、車椅子のことはよく知っています。
音の種類といい、音がした高さといい、ベビーカーが当たったとか、そういう音ではありませんでした。
車椅子に乗った幽霊がいたのです。
203のおじいさんだな、と思いました。
ああ、そうか、亡くなったんだ、と、ここでわかりました。
雰囲気から、憑いたりすることはないように思いましたが、私の家に入られては困ります。
なので、お不動さんの真言を流しつつ、玄関を開けて中に入りました。
それから、時々、ですが、エレベーターにおじいさんが乗ってきました。
乗ってきた時は、ドアがなかなか閉まりません。
見えない世界でも、おじいさんは律儀に車椅子に乗っているのです。
たまに、ドアが閉まる時に、何かがドア付近にある、何かを挟みそうという警告ブザーが鳴ることもありました。
「おじいさん、なんで成仏していないのだろう?」と思いましたが、もしかしたら、無宗教だったのかな、とも思います。
成仏するという考えがない可能性があります。
無宗教でも、49日とかの供養をしてもらえれば、それなりに気づくこともあるのですが、おじいさんは身寄りがないようでしたから、供養をされていないことも考えられます。
亡くなったおじいさんは、我が家に戻ってきたのに……玄関から中に入れないので、困っているようでした。
それで、マンション内をうろうろしているのでしょう。
このマンションは、今は賃貸の人が多いのですが、もとは分譲でした。
おじいさんは賃貸で入居していたのではなく、購入したのだろうと思います。
賃貸の私と違って、ここは、おじいさんにとっては、大事な自分ち、我が家、です。
けれど、玄関が閉じられているので、入れない……というわけで、住居がある2階と1階、エレベーターをさまよっているのでした。
エレベーターに乗った時に「ああ、おじいさんも乗ったな~」とわかった時は、
「おじさん(さすがに本人におじいさんとは言えないので、おじさんと言っています)、光が見えていませんか? 見えているでしょう? そちらへ行くと成仏できますから、行ってみて下さい~」
と、語りかけているのですが、いまだに成仏していないようです。
もしかしたら、自分の部屋に何か、気になるものがあるのかもしれませんし、ワシが帰るところはここしかない! という意識が強いのかもしれません。
※続きます。