私が住んでいるマンションの同じ階でのお話です。
仮に、私が2階に住んでいるとして、部屋が207だったとします。(仮の部屋番号です)
このマンションは中心部に階段が造られているので、廊下がぐるりと1周するような形になっています。
で、私の部屋の207を出たら、203の玄関がよく見える位置にあります。
この203には、高齢の男性が住んでいました。
見た感じでは80歳を超えており、しかも体がちょっと不自由らしく、移動はいつも車椅子でした。
でも、ひとりで出かけることはなく、いつもヘルパーさんが車椅子を押していました。
私が5年前、ここに引っ越してきた当時は、そのようにして買い物や散歩に時々行っていました。
しかし、その回数は徐々に減っていき、ここ2~3年はほぼ見ない、という状態でした。
「おじいさん、元気にしてるのかなぁ」と、気にはなっていましたが、全然知らない人ですし、名前すら知らないのです。
そして、この春のことです。
救急車の音が鳴り響いて、近くに停車したようでした。
たまたま出かける時間だったので、玄関を出たら、そこに救急隊員の方が3名ほどいました。
203の前です。
驚くことに、おじいさんが全裸で車椅子に乗せられており、玄関の外にいました。
「!」
本当に驚きました。
え? 何事? と思いましたが、じろじろ見るわけにはいかず、サッと玄関を出ました。
救急隊員さんが、部屋の中にいるヘルパーさんと会話をしているのが聞こえます。
状況を把握するために、いくつもの質問をしていたので、それを聞いていた私にも状況がつかめました。
私は玄関の鍵を閉め、203の真ん前は通れないので、ぐるりと廊下を回り、エレベーターのボタンを押して、エレベーターが来るまで、その会話を聞いていました。
状況を説明すると、ヘルパーさんが来た時、おじいさんは浴室に倒れていました。
ひとりでシャワーをしようとしたらしいのですが、うまくいかず、転倒したのです。
おじいさんはあちこち強打したようで、自力で起き上がることができないため、ヘルパーさんが来るのを、裸のままで待ちました。
「え? 裸のままって、こんなに寒いのに?」とビックリです。
春とはいえ、まだ寒い季節だったのです。
訪問したヘルパーさんはすぐに救急車を呼び、あわてておじいさんを〝そのまま〟車椅子に乗せました。
そして、玄関から外に出しました。
ヘルパーさんは外国籍の男性だったので、もしかしたら介護業界に慣れていなかったのかもしれません。
「何か着せてあげてー! 寒いから肺炎になるのでは……」と思った瞬間、救急隊員さんが、「毛布とかありますか?」と聞いていました。
救急隊員さんが、ヘルパーさんに「一緒に救急車に乗ってもらえますか?」と質問をしていましたが、ヘルパーさんは「それはできません」と断っていました。
「では、着るものと、帰りに履く靴の準備をしてください」と言っていたところで、エレベーターが来ました。
おじいさんが転倒したのは朝の8時頃で、ヘルパーさんが来たのは12時だということも言っていました。
4時間も裸で! この寒いのに! おじいさん、大丈夫なのかな、と思いましたが、その後の容体はわからずで、何ヶ月かがたちました。
※続きます。