江戸時代を勉強している知人から教えてもらった話です。
江戸時代の初期に「明暦の大火」という、ものすごーく大きな火事が、江戸であったそうです。
江戸の町をすべて焼く尽くしたほどの大規模な火災で、江戸の町は全滅、死者はなんと、10万人以上だったといいます。
当時は紙と木でできたような家ですから、風にあおられて火は激しく燃え広がり、逃げ惑う人々で町はごった返していたそうです。
以前にブログでもお伝えしましたが、小伝馬町というところに牢屋敷がありました。
この時、120人ほど囚人が入っていたそうです。
燃え盛っている火はこの牢屋敷にも迫っています。
このままでは囚人は、全員焼け死んでしまいます。
牢屋の鍵は奉行所に保管されていたので、小伝馬町の牢屋敷にはありません。
鍵を開けたくても、牢屋敷にいる役人には開けられないのです。
「このままでは囚人たちが全員焼死してしまう!」
牢屋敷を管理していた石出帯刀吉深という人が、奉行所に許可も取らず、独断で鍵を壊しました。
120人の囚人たちの命を助けるためです。
石出さんは囚人を逃がす時に、こう言いました。
「火事が落ち着いたら、ちゃんと戻ってこいよ」と。
本来なら正式に手続きをしなければ、鍵は開けられません。
それを勝手に開けて、犯罪を犯した囚人を逃がしたのですから、石出さんの罪は重いと思われます。
囚人たちは、二度と戻って来ず、どこか遠くに逃げるかもしれません。
火事騒ぎに便乗して、ものを盗んだり、もっとひどい悪さをするかもしれません。
もしも、そのようなことが起これば、犯罪者を逃がした石出さんは切腹です。
それくらいのことをしたわけです。
自分の命をかけてまで囚人を焼死から救う、その勇気ある行動に、囚人たちはみんな感激したといいます。
囚人たちは迫りくる火を避け、それぞれの方向にバラバラに逃げて行きました。
その翌日……。
火事がおさまったら、なんと! 命拾いした囚人120人は、全員がちゃんと戻ってきました。
すごいですね。
戻ってきたのは……「牢屋」なのです。
自分の命をかけてまで、囚人である自分たちを助けてくれた誠実な人を、裏切ってはいけない、と思ったのでしょう。
それが、10人や20人ではなく、全員というところに感動しました。
日本人は素晴らしいですね。
天照大神(あまてらすおおみかみ)が言った、
「この国の民を、この国を作った時から育ててきた」という言葉を思い出しました。
日本人は、神様が手塩にかけて育てた民、なのだそうです。(詳しいお話は「和の国の神さま」という本に書いています)
それを実感したお話でした。
石出さんは、律儀に約束を守って戻ってきた囚人たちのために、幕府に減刑することをお願いしたそうです。
そしてそれは、見事に受理されて、全員の減刑が確定したということです。