※前回の続きです。
その日はうちで、元夫と一緒に夕食をとっていました。
雑談をしていると、「あ、俺、義士祭行ってきたで」と、忠臣蔵が大好きな元夫が話を始めました。
「どんな感じやった?」
「良かったわ〜。泣きそうになったわ」
と、そこからは義士祭で見たことを説明していました。
義士祭とは、赤穂浪士のお墓がある泉岳寺で、討ち入りの日(12月14日)に行われる供養行事です。
義士の装束をまとった47人のパレードもあって、その義士行列が15時過ぎに泉岳寺に到着するそうです。
初めて泉岳寺を訪れた元夫は、四十七士のすべてのお墓……一基一基の前でしゃがんで合掌をし、資料館などもしっかり拝観したそうです。
義士行列を見た感想は、高々と掲げられていた首が妙に生々しかった、ということでした。
そこで「そういえば……」と、元夫はこの日のことを思い出し、こう言いました。
「俺、この日の夜、久しぶりに金縛りになってなー」
「へー、それはどんな感じで?」と詳細を聞くと……。
いきなり金縛りにあって体が動かなくなった元夫は、うわー! と、叫んだそうです。
しかし、声が出ないのでパニックになり、なんとか体を動かそうとしていたら……ベッドサイドから手が出てきた、と言います。
その手が元夫の体をつかみ、下に引きずり落とそうとしたのだそうです。
元夫のベッドはサイドレール(ベッドガード)がありません。
しかも、マットレスは床から1メートルほどの高さになっていますから、引っ張られたら転げ落ちます。(自分でカスタマイズしているベッドです)
落ち方が悪ければ、骨折……それも1本では済まないと思います。
手はものすごい力で、元夫をベッドから落とそうとしていました。
やばい! と思った元夫は必死で踏ん張ります。
しかし、だんだん腹が立ってきたそうで、「放せや! このボケがーっ!」と強く心の中で叫んだそうです。
その瞬間に、フッと体が解放されて、幽霊は消えた、とのことでした。
幽霊は強い意思をぶつけると消えることがあるので、それで助かったのだと思います。
「もしかして……その霊が、今もまだ……?」と、気づいた元夫はしばし考え、
「下がうるさい音を出し始めたん……この次の日からや」と言います。
ああ、なるほど、どこかで霊を拾ってきていたのだな、と思いました。
そしてその霊は、今も部屋に居座ったままなのでしょう。
階下から聞こえる、と言っていた音は、どうやらラップ音のようでした。
「赤穂浪士の霊?」
「いや、それは絶対に違う」
私は一度、泉岳寺に行ったことがあって、お墓の様子、そこにいる四十七士の様子を知っています。
「考えられるのは……首洗いの井戸……かな。あそこに行った?」
「えっ? 吉良の首を洗った井戸があったん? 境内に? どこ? どこにあったん?」
それはね、境内の……って、いや、今はそこ、重要じゃないから。
となると、泉岳寺は関係ありません。
元夫は、どこか別の場所で霊を拾ってきているのです。
そう言うと、元夫は急に青ざめた感じになって言いました。
「あ、俺、今わかった」
※続きます。
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天から聞こえるメロディを曲にしています。