「認知症の不思議」 「親心」 という記事で紹介したFさんのお話です。

Fさんは胃ろうをしていて、毎回、使った器具はミルトンという消毒液に浸しておきます。

一定の時間がたったら、消毒液から取り出して洗います。

この器具を洗うために、Fさんのお部屋に行った時のことです。

中に入ると、研修中の新人と先輩が一緒にオムツ交換をしているところでした。

Fさんはとても怒っていて、 「わー!」 と大声を何回も出して抵抗しています。

洗いながら様子をうかがっていると、本人の許可なしにオムツ交換を始めたようで、さらに声をかけずに本人の体を、右に左にとコロコロ転がしています。

Fさんは腹が立って仕方ないらしく、新人の子の手をバチバチ叩いています。

抗議している、という感じです。

ですが、Fさんには力がないので叩かれても痛くはありません。

新人の子はFさんを重度の認知症と聞いているからか、 「ハイハイ、ちょっと我慢してくださいね~」 と幼児に言うような口調で、手を止めません。

スタッフの手を叩くのは重度認知症で何もわからないから・・・「わー!」 と声を出して怒るのも認知症のせいで子供みたいなもの、と思っているようでした。

そこにFさんの気持ちが入っているとは思わないみたいでした。

研修は新人教育ベテランの先輩がついて教えています。

勤務してまだ日が浅い、まだまだ新人に近い私が、横から口出しをすることではないので、器具を洗い終えると黙って部屋を出ました。

その後1時間ほどして、着替えと口腔ケアをしに部屋に行くと、Fさんはまだ怒っていました。

いつもなら 「お着替えをしてもらいますけど、いいですか?」 「うん」 という流れになるのに、何も答えてくれません。

「Fさん、まだ怒ってます?」 そう聞くと、Fさんは目をぎゅっとつぶったままうなずきます。

「わかりました。また15分くらいしたら来ますね」 そう言って部屋を出ました。

Fさんは手以外は自分の体を自分で動かせないし、抵抗されたところで全然痛くないので、着替えを強行しようと思えば出来ます。 (みんな多分、強行していると思われます。たまにFさんの大声が廊下まで聞こえるからです)

ですが、そんなことをすれば、本人をもっと怒らせて興奮させることになります。

Fさんには、何をする時でも ”今からFさんの体をどう扱うのか” という説明をすれば、絶対に怒りません。

それどころか、痛くても我慢してくれます。

Fさんのポロシャツで、ボタンが3つくらいしかない、胸の上のあたりまでしか前が開かないお洋服があります。

そのポロシャツを着ている日は脱ぐのが大変です。

その時の会話です。

「Fさん、またこのシャツ着てらっしゃるんですね~、これ、脱ぎにくいですよね」

「うん」

「ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」

「もう着替えんでええやんか。このままで寝る」

「あははは、それはいい案ですね~、でも私が叱られますので、我慢して着替えていただきます」

「着替える意味、あれへん」 とFさんは笑っています。

「そう思いますよね~。お気持ちはわかりますけどね、とりあえず今日は着替えましょう」

「んー」

そのシャツは高級品で生地が伸びないため、手や頭を通すのが大変難しく、Fさんにはちょっと無理をしてもらうことになります。

が、Fさんは痛くても何も言わないし、まったく怒りません。

オムツ交換で大量に便が出ていて、処理に時間がかかっても、 「全部キレイにしておかないと、後で痒くなったりかぶれたりしますから、Fさん、この体勢つらいでしょうけど、我慢してくださいね」 と言うと、 「うん」 と、じっと我慢しています。

Fさんに関しては、重度の認知症で、どうせ何もわからないだろうから、と決められたケアをさっさと済ませるだけのスタッフが多いのではないかと思います。

それは、Fさんを物扱いしているのと同じような気がします。

本人もそれを感じるため、怒って抗議をするのでしょう。

例えば、寝ている人の体を、本人の許可なく左右にコロコロ転がしたら、誰でも怒るはずです。

普通の人が相手なら、 「ちょっと転がしますけど、いいですか?」 とか 「体を触ってもいいですか?」 とか聞くはずで、何故認知症だと聞かなくてよくなるのか・・・おかしいです。

オムツ交換も 「オムツ交換しますねー」 と形式的に言いつつ、すでにオムツのテープをはがしています。

どうして先に、 「交換してもいいですか?」 と聞かないのだろう? と思います。

人の下半身を丸出しにするのに、なんで本人の許可をもらわないのか?

相手が認知症だからといって、失礼すぎやしないか・・・。

それをスタッフミーティングでも言っているのですが、その場では、そうね、それは大事なことだからみんな徹底してするようにしましょう、と聞き入れてもらえても、個人個人では実行していないようです。

先輩の中には、Fさんがそんなにしっかりした会話をするかなー、とか、Fさんに聞いて本人がわかればいいけどー、と信じてくれない人もいます。

というのはFさんは時間帯によって、ボーっと何もわからない感じの時があり、それに加えてスタッフの好き嫌いもあるようで、嫌いな人の時は 「うん」 すら言いません。

さて、さきほど怒りが収まらなかったFさんですが、15分後に行くとかなり落ち着いていました。

パジャマに着替えてもらい、口腔ケアをしましたが、腕を自分から動かしてくれたり、口を大きく開けてくれたりして、ケアを積極的に手伝ってくれました。

その日の深夜に、部屋に置いてあったFさんのアルバムを一緒に見ました。

Fさんと奥さんが (すでに亡くなられています) 海外旅行に行った時の写真です。

「うわぁ、Fさん! 奥さん、めちゃくちゃ美人じゃないですか!」 (お世辞ではなく、本当にアナウンサーのような知的な美人でした)

するとFさんは心底嬉しそうに 「そうか?」 と言います。

「Fさん、猛アタックしたんと違います?」

「うん」 とFさんはニコニコしています。

「あ! この頃、まだ髪の毛がフサフサしてますね~。髪の毛があると、Fさん、別人ですね」

と、聞きようによっては失礼な発言をしましたが、Fさんは笑いながら 「せやろ~、今、アカンわ」 と言って、自分の頭を撫でました。

今は髪の毛がだいぶん少なくなって、ほんのちょっぴり、はえている程度です。

「今は、ちょっと少なめ・・・ですもんね~」

そう言われても、Fさんは愉快そうに笑っています。

そして 「中学校の恩師がな・・・」 と、奥さんとのなれそめを話してくれました。

歯がないのと、うまくしゃべれないので、途中でよくわからなくなりましたが、一生懸命聞きました。

「奥さんとばかり海外旅行にいって、娘さんは? 一緒に行ってないんですか?」

「娘? 邪魔や。ははは」

こんなに楽しくて穏やかな人を、人の手をバチバチ叩いたり、大声で叫ぶくらいまで怒らせることはないだろう、と思います。

ケアの仕方、認知症の人の扱い方は、私たちはプロだからこそ、もっと本人の気持ちを考えてあげるべきなのでは? とも思います。

先日、娘さんが来た時に、前回受診した時の話をしてくれたのですが、Fさんの認知症はかなり回復しているとのことでした。

お医者さんが 「ここまで回復するとは思いませんでした。驚きです!」 と言ったそうで、なんでも驚異的な回復をしているそうです。

娘さんはとても喜んでいて、私のおかげだとお礼を言ってくれました。

とんでもない、と思いました。

私なんかの影響はありえないし、これは娘さんが毎日毎日、愛情を持って語りかけているからでしょう、と言いました。

娘のためにもうちょっと頑張って生きる、と本人は思っているのだし・・・とこれは口には出せないので言いませんでしたが。

娘さんは 「父さん、いい人が入ってきてくれて良かったねぇ、ありがたいね~」 とFさんに言っていました。

謙遜ではなく、私は回復のお役には立っていないと思いますが、でも、そう言ってもらえたら介護士冥利に尽きます。

これからもFさんの気持ちになって、少しでも精神的苦痛がないように、楽しく笑えるひとときを持てるように、ケアをして差し上げたい、とそう思いました。




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