介護職の実情という記事で、 ”食後のお部屋への誘導等で忙しくしているスタッフに、自分を優先してもらおうと、大声で 「助けてー!」 「ちょっと誰か来てー!」 「私、もう死にたいー!」 などと叫ぶ人がいます” と書きました。

この女性はJさんで、車椅子に乗っています。

認知症は軽度~中度に移行中といった感じですが、主に体の方 (排泄がコントロール出来ない、箸やスプーンの使い方を忘れて手で食べる、うまく歩けない等) なので、会話などはまだまだ普通に出来ます。

食後の、ダイニングからお部屋への誘導は、いろんな要素から先輩が判断していますので、その日によって若干違いますが、順番はほぼ一緒です。

Jさんは車椅子に乗っているから徘徊をしないし、勝手に脱走したりもしないし、車椅子に座っていること自体が体の負担になるほど悪くないので、どちらかというと後半組になります。

つまり、食事を終えた後、テーブルに座っている時間が長いのです。

そこで、 「ちょっと誰かー!」 「お部屋に連れてってー!」 と時々、叫びます。

スタッフが 「どうされました?」 と聞くと、 「しんどいねん」 とか 「腰が痛い」 と訴えます。

でも、もっと体調の良くない人や、徘徊を始めたり、そこらへんの物を取り込んだり、食器の片付けをしようとしたり、危険な行動をとる人たちがいるので、先にそちらを連れていかなければなりません。

そこでスタッフは 「Jさん、ごめんね、もうちょっと待ってくださいね」 と言うことになります。

すると、 「もう待てへん!」 「限界や!」 「早う連れてってー!」 と大声でわめきます。

男性スタッフの中には 「大声で叫ばれるとうるさいから静かにして」 とか 「大声出したら不安になる人もいるから静かにして」 とハッキリ言う人もいます。

すると 「誰か助けてー!」 「ここから連れ出してー!」 とわざと、さらに大声で叫びます。

Jさんが叫び出すと、スタッフの何人かは明らかにイライラし始めます。

先輩によると、Jさんは裕福なお金持ちの奥さんだったから、自分を優先されることに慣れていて我慢が出来ない、そこに認知症が進んできたため、さらに我慢が出来なくなっている、ということでした。

”そうか、病気のせいだったら仕方がないなぁ” と私は思っていました。

でも、Jさんがこのように叫ぶのは毎日毎回ではなく、時々、なのです。

一週間に一回だったり、二回~三回だったり、そこに規則性はありません。

先日、またしても大声で騒ぎ始め、その日のリーダーをしていた先輩が 「もう、うるさいから先にJさんを連れていって!」 と私に指示を出しました。

車椅子を押してお部屋に向かっていると、Jさんは小さなため息をついて 「は~、助かった」 と言いました。

そのニュアンスが、みんなが言う ”わがままな性格だから自分を優先してもらいたい” という感じではなく、本当に ”救われた~” という安堵感が混ざっていたので、 ”あれ?” と思いました。

そこでいろいろと質問をしてみました。

すると最初は 「腰が痛い」 とか 「しんどい」 とかいつものように答えていましたが 「あそこに長くいるのは・・・苦痛なんや・・・」 とポツリと言いました。

「何が苦痛なんですか?」

「何がって・・・」 ここでJさんは少し黙っていましたが、 「○○さんや・・・」 と言いました。

Jさんのテーブルは4人掛けです。

一つの大きなテーブルに、ファミレスのように4人が向かい合って座るのではなく、4方向から人が座ります。

○○さんというのは、Jさんの右隣り、右隣りといっても真横ではないので、斜め前といった位置になります。

Jさんから丸見えの場所です。

「○○さんがどうして苦痛なんですか?」

「あの人なぁ、箸を・・・ベローン、って舐めるねん」

「へぇ~」

「箸やで? 箸を、こう、ベローン! ってベロ出して、下から半分くらいのところまで舐めるねん。気持ち悪いやろ?」

ここで 「はい」 と言うと、○○さんの批判になるので、 「そうだったんですね~」 と返事をしました。

でもたしかに、食事中にそれをされて、するのは本人の自由だからいいのですが、見るのはちょっと嫌かなぁ、と思いました。

「それでな、あの人な、時々、食後に歯をチュッ、チュッ、って言わすねん・・・」

思わず、吹いてしまいそうになりました。

○○さんは多分、悪気なく無意識でやってるのでしょうが、気になる人には耐えられないのでしょう。

「今日なんかな、チューッ、って、音が長いんやんか、チュウーッ、やで?」

ウププ、と我慢出来ずに笑ってしまいました。

「笑いごとちゃうで。あれ、舌で歯を掃除してんのやろ? あの音聞いたら、背中がゾーッとすんねん。耐えられへんねん」

なるほどね~、そういう生理的に我慢が出来ない理由があったのか、と思いました。

入居者さんの中には、人のことをとやかく言う人、スタッフに他人の文句を言う人が少なからずいますが、このJさんは一切、悪口はもちろん、人のことは言わない人です。

だから、一刻も早くその場を去りたくても、○○さんが・・・とは言わず、腰が痛いとかしんどいとか、理由をつけていたのでした。

スタッフもその理由が切羽詰まったものではないことはわかりますので、 ”この人はわがままな人だから。認知症だし” ということで処理されていたのです。

この話はすぐに主任に言って、食事の席替えをしてもらいました。

○○さんと遠く離れたJさんは、食後、少々待たされても文句を言わなくなりました。

たまに部屋への誘導が最後の方になったりして 「お待たせしてすみません、Jさん」 と言うと 「構へんで。そんなことぐらいで謝らんでええよ」 と優しい言葉をかけてくれたりします。

先入観で物事を見てしまうと、判断を誤る、ということを、私はこの件でJさんに教わりました。

間違った判断で、生理的に我慢が出来ないことを無理矢理我慢させられ、さらに大声を出すとうるさいだの静かにしろだの言われ、Jさんの心の負担はどれほどだったのだろう・・・と思いました。

私も、先輩が言うことを鵜呑みにして、病気だから仕方ないと思っていたことを反省しました。

先入観を持っていなければ、最初からどうして早く部屋に帰りたいのか、詳しく聞いていたはずで、そうすれば解決はもっと早かったのです。

先入観で物事を判断してはいけない、ということを、この件でしっかりと心に刻みました。

身をもって大事なことを教えてくれたJさんに、感謝です。

そして、また一つ、自分の未熟なところが改善されて、ありがたいことだなぁ、と心から思いました。




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