半年くらい前のことです。

ある利用者さんが入院したという連絡が、ケアマネに入ってきました。

利用者さんの名前は上田さん (仮名です) で、97歳の男性、脳梗塞の後遺症によるマヒがある人です。

「年が年だから、もう今回は戻って来れへんやろなー」 とケアマネは言っていました。

「でも、わからんでー。あの人毎回、もうアカンって言われながら、不死鳥のようによみがえってくるやろ?」 と所長が横から言いました。


上田さんは以前にも、意識がなくなったり、けいれんを起こしたりして救急搬送され、もう駄目だろうということが、何回もあった人です。


そのたびに驚異的な回復をして退院しています。

でも今回ばかりは多分無理だろう、とケアマネは言いました。

上田さんはパンをのどに詰めて息が出来なくなり、奥さんがオロオロしているところに、運よくリハビリの先生が来たのだそうです。

すぐに救急搬送されたけど、何分間か呼吸が停止し、顔色も変色していたということで、もう今回はさすがに自宅に帰るのは無理だろう、と家族も覚悟しているとのことでした。

ですが、奇跡的に上田さんは回復し、退院しました。

呼吸停止による後遺症もありません。

病院で退院前のカンファレンスがあったのですが、医師も看護師もみんなが、奇跡! 驚異的な生命力! と言っていました。

私もそう思いました。

その上田さんから、先日、電動車椅子のバッテリーの調子が悪い、と電話が入り、行きました。

バッテリーの減りが異常に早いというので、充電の仕方に問題はないか、本人に実際に充電してもらって、私はそれを見ていました。

すると奥さんがリビングから 「おとうさん、さかさまにして充電してたん違う~?」 と言いました。

上田さんは、 「アホか・・・」 とひとこと言って、また私と話を続けました。

また少しして、奥さんが 「おとうさん、間違えて裏返しにして充電してたかもしれへんね~」 と明るく言いました。

「裏返しにして充電出来るわけないやろ・・・何言うてんねん、あいつは・・・」 と上田さんはブツブツと言い返していました。

奥さんは、怒られちゃった~、みたいな仕草でウフフと笑っていました。

上田さんは、礼儀正しくとても親切な人なのですが、昔の男の人ですから、威厳がある感じです。

メンテと点検が終わって、お茶の時間になりました。

ここのお宅は夫婦2人のせいか、お客さんが来たら一緒にお茶をするのが、奥さんの楽しみになっています。

本来なら利用者さん宅で出されたお茶は飲んではいけないのですが、ケアマネもここでは内緒でいただいています。

奥さんがお茶と和菓子を出すのですが、上田さんも必ず一緒に食べます。

奥さんが準備をして 「はい、おとうさんも食べて下さいね」 と言うのです。

お茶と和菓子の後にも、コーヒーを入れ、おせんべいやチョコレートなどを出してきます。

おもてなしが趣味なので、出される量もすごいです。

「お腹がいっぱいですから、もういいです~」 と断っても 「若い人が何言うてますの?」 と奥さんは聞き入れてくれません。

先日は手作りのゴーヤジュースも出てきました。

もちろん上田さんも一緒に飲みますが、苦いので、難しい顔をして飲んでいました。

奥さんはそれを見て私に、 「おとうさん、苦いからこれ嫌いですねん」 と笑っていました。

一度、お昼の1時に伺ったことがあって、さすがにお昼ごはんが終わったばかりだから、上田さんはお菓子は食べないだろうと思っていたら、奥さんに出された和菓子もまんじゅうも、残さず必死で食べていました。

私もそうなのですが、食べてあげると奥さんが本当に喜ぶのです。

可愛らしい奥さんですから、残してしまって、ガッカリさせたくない、とみんなが思います。

食べながら、いつもいろんな話をしますが、いつだったか奥さんが、自分たちはお見合い結婚なのだと言ったことがありました。

自分たち夫婦は、好きとか嫌いとかではなく、もちろん恋愛もせず、親の言うままに結婚した・・・と言っていました。

ニュアンス的には、お見合いだから愛されて結婚したのではない、という寂しげな感じでした。

聞いた時は、昔の結婚はそんなものなのかな、と思いました。

先日は食べながら上田さんの若い頃の話になりました。

上田さんは昔の父親、という感じで、いつも私と奥さんの女同士の会話には入らず聞くだけです。

耳が遠いせいもあって、ところどころ聞き取れないことも関係しているのかもしれません。

上田さんは昔は軍人で、戦争に行き、勲章もたくさんもらったそうです。

奥さんがその勲章を実際に見せてくれました。

「うわー、本物の勲章を見るのは初めてです」 と言うと、触ってもいいよ、と言われました。

手に取ってじっくり見ていたら、突然、目の前に上田さんの若い頃がパーッと広がりました。

上田さんは若い奥さん (9歳年下です) を見て、ひと目で気に入っています。

一目惚れです。

ハッとして現在の上田さんを見たら、その瞬間、若い頃の上田さんの感情が流れ込んできました。

奥さんのことを、好きで好きで好きで、可愛くて仕方ないのです。

この人が俺の嫁さんになってくれるなんて! 嬉しい! 一生大事にしよう! 絶対に悲しませないし、一生涯大切に守ろう、とそれはもう、強く決心しています。

ああ、それでなのか、とそこですべてが見えました。

上田さんの魂は、一生大事にする、と誓った気持ちを忘れていません。

だから、意識を失って救急搬送されても、パンを喉に詰まらせて呼吸が停止しても、不死鳥のごとくよみがえっていたのでした。

自分が先に死んだら奥さんが1人残ってしまう、奥さんは悲しむだろうし、その後寂しい思いをさせてしまう、となると自分はまだ死ぬわけにはいかない、と頑張っているのでした。

表面はぶっきらぼうに見えますが、深い愛情です。

でもこれは注意深く見れば、わかることです。

奥さんが出すお菓子もお茶も、残さず一生懸命平らげることを見ても、愛情があるのはわかります。

何回ももう駄目だろうと医者に言われながら、必ず奥さんの元に帰ってくることを見ても、愛情は見えます。

上田さんは寝たきりになるのは嫌だと言って、日中は横にならず車椅子で過ごしています。

昼寝も車椅子の上でしています。

97歳ですから、これはさぞかししんどいだろうと思うのですが、少しでも長く生きて、奥さんが一人ぼっちになる時間を短くしてあげようと思っているのがわかります。

上田さんは不自由な体で電動車椅子に乗って、通院しています。

その帰り道、奥さんに頼まれた買い物もして帰っています。

病院から帰るだけなら15分の距離なのに、スーパーまで行くと30分の距離になります。

この距離を電動車椅子に乗って移動するのは、かなりきついのですが、文句も言わず行っています。

よくよく観察してみると、本当に奥さんを愛していることが、その行動からわかるのです。

「愛している」 と一回も口にしなくても、花束のプレゼントを渡さなくても、恋愛結婚でなくても、ここまで愛情は深いのです。

もしも今、自分は愛されていない、と思っている人がいたら、一度、じっくりダンナさんの、もしくは奥さんの行動を観察してみて下さい。 (親にもあてはまります)

愛情そのものは目では見えません。

見えないからといって・・・、

相手が口で 「愛してる」 と言わないからといって、愛されていないと思うのは間違いです。

愛は見ようとしなければ見えません。

ですが、見ようとすれば・・・上田さんのように、ささいな行動からでも見えてきます。

愛されてないと思っている奥さんに、 「大切にされていますね」 と私が感じたことを全部、お話ししました。 (上田さんに聞こえない程度の小声で)

奥さんは最初は 「何言うてますの」 みたいな感じでしたが、 「そう言われてみたら・・・ホンマにそうやわ!」 と気づかれ、最後はとても嬉しそうにしていました。

奥さんにも上田さんの愛情がしっかり見えたみたいでした。

気分がウキウキしてきたのか、奥さんは 「おとうさん! コーヒーおかわり入れましょか?」 と言い 「はぁ? 2杯も飲めるわけないやろ、いらんわ」 と断られて、笑っていました。

いいなぁ、この夫婦、と思いました。


漫才のような掛け合いと、静かだけどとても大きな愛情が素敵で、そばにいるだけで癒されます。






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