同僚のNさんと同行した時の話です。

話題がNさんの身の上話になり、離婚後、シングルで娘を育ててきたことがどんなに大変だったかを、Nさんは熱く語りました。

今、娘さんは中学3年生で、思春期のせいかNさんと衝突も多く、受験のこともあって、本当に難しいのだと言っていました。

私は、うん、うん、大変だね、と聞いていました。

そのうち、Nさんは別れた夫のことを話し始め、 「私はしょーもない男に引っかかった」 「最低の男だった」 「誠意のカケラもないヤツ」 と激しくけなします。

「あーあ、なんであんな男と結婚したんやろ。焦ってへんかったら、あんなしょーもない男と結婚なんかしてへんのに」 とあまりにもクソミソに言うので、ちょっとだけ言わせてもらいました。

「でも、養育費をちゃんと払ってくれてるやろ?」

その別れた夫は、12年も前に離婚したのに、今でも毎月欠かさず養育費を振り込んでくれているのです。

それも、相場より多い金額です。

Nさんによると、別れた夫はお金持ちではなく、普通のサラリーマンだということでした。

つまり、ちょっと無理して頑張って払ってくれているのです。

世間には養育費をもらえない人もたくさんいるし、最初は払ってくれていても、年数がたつと払ってくれなくなったという話もよく聞きます。

しかもNさんの別れた夫は、離婚の際に家もくれたのです。

「2人の間のことはわからないから、そこはしょーもない男だったのかもしれないけど、でも誠意はある人だと思うよ」 と言うと、

Nさんはハッとして 「そう言われてみれば、そうやなー、娘の入学とか特別な時は、養育費とは別に振り込んでくれるしなー」 と言います。

もしも、養育費がもらえなくなったら、暮らしていけない、とNさんは言うのです。

そんな大切な部分は評価せずに、過去のことだけをいつまでも取り上げて、文句を言うのは良くないと思いました。

「誠意あるいい男だと思うけどな~」 と第三者の立場から感想を言うと 「ホンマやな! よく考えたら、私、ラッキーやな」 と言っていました。

それから、その話題はスッパリやめ、Nさんは別の話を機嫌よくしゃべっていました。

そしてこれは、最近友人になったFさんの話です。

Fさんは夫のことを 「全然、面白味のない人やねん」 「お見合いやったんやけどな、私、騙されたわー」 「自分勝手な人でなー」 とこちらもクソミソです。 

どう自分勝手なのか聞いてみると・・・。

夫の趣味は囲碁で、NHKの囲碁の番組が大好きなのだそうです。

毎週その番組を絶対に見るので、日曜日の午後に出かけたくても、その番組が終わってからでないと出かけられない、と言います。

「な? 自分勝手やろー」

「・・・・・  ( ̄_ ̄ i) 」

週5日、残業もして頑張って働いて、やっとのお休みに大好きな囲碁の番組を見るくらい、いいのではないか、と思いました。

そのささやかな楽しみまで奪ってしまうと可哀想な気がします。

「ホンマ、面白味のない性格でなー」 とまだ文句を言っていたので、こちらもちょっとだけ言わせてもらいました。

「でも、浮気とかで泣かされたことないんやろ?」

そう言うと、Fさんはキョトンとして 「一回もない」 と言います。

お酒は飲めないので、お酒で泣かされたこともないし、ギャンブルもまったくしないのだそうです。

浪費癖もなく、お金がかかる高額な趣味を持っているわけでもありません。

それどころか、子供の教育にお金がかかるので、高校生かというくらい非常に少ないお小遣いで我慢してもらっていると言います。

それでも文句も言わず、せっせと働いているのです。

「出来たダンナさんやん」 と言うと、Fさんはじっと考えて 「そうやねん、あの人、ホンマにマジメやねん、そこがええねん」 と改めて夫の良さに気づいたようでした。

Fさんのパートの職場には、夫の暴力に苦しむ人がいて、でも離婚もしてもらえず、大変な状況なのだという話もしていました。

「囲碁の番組くらい、見せてあげてもいいんじゃないかなぁ」 と言うと 「そうやな、それだけがあの人の楽しみやからなー」 と言っていました。

「安上がりな楽しみで、ありがたいね」 と言うと 「ホンマ、お金のかからん人で良かったわ~。子供2人を大学に行かせてるから、うち、マジで苦しいねん」 と笑っていました。

幸せは、人と比べて感じるものではない、と思います。

ですが、自分のことだけしか見ていないと、感覚がマヒしてしまいます。

本当はありがたいことで感謝すべきなのに、それが当たり前、もしくは当たり前以下になってしまうこともあります。

人生を左右する、大切な自分の幸せです。

たまには世間を広く見渡して、再確認をするのも大事かな、と思います。