60代男性の要支援の利用者さん、山本さん (仮名です) のお話です。

浴槽台が必要とのことで、お伺いしました。

浴室の中を計測し、見本を見てもらって商品を決め、その後でいろいろと書類を書いてもらっていた時です。

「ちょっとお茶を入れましょう」 と言われたので、やんわりとお断りすると、 「人がうちに来てくれるのは珍しいので、お時間が許せば、ゆっくりしていってもらえませんか?」 と言います。

なんだかとても寂しそうだったので、次の利用者さんの訪問の時間をずらしてもらい、お話を聞きました。

山本さんは、病院が経営するサービス付きワンルーム老人マンションに住んでいます。

ここに引っ越してきたのは、3ヶ月前で、それまでは少し離れた市に住んでいました。

山本さんは、警察関係の仕事をされていて、コツコツ働いて出世され、大きな持ち家も買うことが出来ました。

定年退職をしてからも、自治体やNPOからお声がかかり、ボランティアをいくつも掛け持ちして、世の中に貢献してきました。

町内会などでも知り合いがたくさんいたので、毎日のように自宅に人が集まって、ワイワイと楽しく過ごしていました。

山本さんは、定年退職後も忙しく、でも充実した日々を過ごしていました。

そんな矢先、奥さんが亡くなられました。

つらく苦しい出来事でしたが、たくさんの知人・友人が励ましてくれて、なんとか乗り越え、また以前のような日々が送れるようになりました。

そんなある日、今度は自分が病気になり、1ヶ月ほど入院しました。

その入院中に、一人娘に、出来れば自分の近所に引っ越してきてほしい、とお願いをされました。

娘は車の免許を持っていないので、山本さん宅まで行くのに、電車とバスで片道3時間かかります。

加えて、子供がまだ小さいので、何かあった時にすぐに駆けつけることが出来ません。

入院していても、離れた土地に暮らしていては、毎日お見舞いをするのは不可能です。

母が亡くなり1人ぼっちになった父親を、毎日お見舞い出来ないのは、娘としてはつらいものがありました。

娘からすると、父親が病室で、孤独に寂しく過ごしているのが、たまらないのでした。

それに、山本さんが1人暮らしをしていて、もしものことがあったら、娘さんは間に合いません。

そうなると、大事な父親をたった1人で逝かせることになる、そうなったら一生後悔する、と言いました。

娘さんの父親への愛情は、とても深いのでした。

山本さんは、可愛い娘がそこまで心配しているのなら、と素直にその意見に従いました。

というか、もし、独居で何かあった場合、娘は自分自身を責めることでしょう。

となれば、一生、娘に十字架を背負わせることになります。

そんな可哀想なことは親として出来ません。

大切な娘を思って、家を売って引っ越すことにしました。

山本さんの親心も、とても深くて大きいのでした。

お互いがお互いを思いやり、大事に思っている、素敵な親子です。

ここまでは美しい話なのですが・・・。

山本さんは、今は時間がたたなくて、一日がとても長くてつらいと言います。

というのは、以前なら、知人友人がたくさん遊びに来てくれたり、自分からもよそのお宅に行っていました。

が、今の土地に知り合いは1人もいません。

出かけるところがないのです。

町内会などの集まりもありませんし、趣味の囲碁をしたくても、そのサークルを知りません。

テレビは好きではないので見ないし、たまに戦艦のプラモデルを作ったりしますが、それもすぐに出来て終わってしまうのです。

持ち家の時は庭に畑や花壇を作って、園芸などもしていましたが、それも今は出来ません。

本当にやることがなくて、時間を持て余しています。

なかなか時計が進まないのだそうです。

朝が来たら、 「また朝が来た、今日も長い一日が始まる、どうやって時間をつぶそう・・・」 と思うそうです。

なんかもう、毎日が全然楽しくない、という雰囲気です。

持ち家は大きくて広々としていたのですが、今はワンルームなので、息が詰まりそう、とも言っていました。

背中を丸め、しょんぼりとお茶を飲んでいる姿がとても悲しそうでした。

娘さんも、山本さんも、心から相手を思うがゆえの決断だったのですが、動機が立派でも、うまくいかないこともあるのだなと思いました。

老後の問題は本当に難しい、と山本さんのお話を聞いて、改めてそう思いました。




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