先日、退院されたばかりのPさんが、以前借りていた電動カートを再びレンタルすることになり、メーカーさん・ケアマネと一緒に訪問しました。
Pさんは80代前半の男性で一人暮らしです。
Pさんは長年電動カートに乗っているので、操作に問題はないと思われたのですが、なにせ高齢で2ヶ月も入院していたため、とりあえず練習をしてもらうことになりました。
Pさんが住むアパート前から、道に出て少し走ってもらいます。
「Pさん、動かし方、わかります? どうやってしますか?」 とメーカーさん (30代男性) が聞きます。
「これは何か知っていますか? わかります?」
「これは何でしょう? わかりますか?」
クイズ番組か、とツッコミたくなるような質問責めで、メーカーさんはPさんがどれくらい知っているのかチェックしていました。
Pさんは慣れた手つきで操作をしますが、慣れているがゆえに少し運転が荒く、段差でも減速しません。
「Pさん、危ないですから! こういう段差の所はスピードを落として下さいね!」
Pさんは 「うん」 と答え、そのままスッと道に出ました。
そこは見通しの良い場所で、Pさんはちゃんと左右を見ていました。
ですが、「Pさんっ! 道に出る時は一旦、止まりましょうね! 危ないですから! わかりますよね!」 メーカーさんは厳しめの口調です。
このメーカーさんは最近新しく入社された方で、介護業界は初めてだと言っていました。
Pさんは普通に走っていましたが、メーカーさんがいちいちダメ出しをします。
「Pさん、あまり端を走らないで下さいね! 溝がありますよね? 落ちたら大変ですからね~」
「そんなにスピードを出さないで、もうちょっとゆっくり行きましょうね、Pさん! スピードが出てたら下り坂は危険なんですよ、わかりますか?」
「そこはそういう角度で入らないで下さい! もっと回り込んで直角に入らないとダメですよ! わかります? もう一回やり直してみましょうね~」
・・・と、まあ、口うるさいというか、メーカーとして安全に走行してもらうためには仕方ないのでしょうが、Pさんはもう何年もその機種を使っているのですから、そこまで言わなくても・・・と思っていました。
しかもメーカーさんはダメ出しをする時に、幼稚園児に言うように、少し屈んで顔をPさんにグッと近づけて、覗き込むような恰好で言うのです。
一応笑顔で言ってますが、目の前に顔を持って来られて不快じゃない人はいないだろう・・・と思いました。
「Pさん! 目の前が四つ角ですよね? 車が来てるかもしれませんよね? わかります? スピードはこれくらいにしときましょうね~」 とメーカーさんが勝手にスピードのつまみを減速にした時に、Pさんがポツリと言いました。
「もう、やめる」
ですよね、いくら安全指導といっても、ちょっと失礼だものね、と思いました。
私なら最初のクイズのところでやめていると思います。
Pさんは身体は不自由ですが、立派な大人です。
いちいち顔を近づけて覗き込み、 「わかる?」 「わかってる?」 と子供扱いするのは、どうかと思いました。
言葉がうまく出ないとか、耳が遠いお年寄りに、認知がないにもかかわらず、子供に接するような対応をする人がいます。
多分、優しい対応をしているつもりなのだと思いますが、果たしてそれが優しいことになるのか・・・私が常々疑問に思っていることです。
Pさんはアパート前に電動カートを止めました。
「Pさん、もうちょっと練習しときましょう! 2ヶ月も入院してたんですからね」
「いや、やめる」
「ちゃんと練習しないと危ないですよ! ね? もう少ししときましょか。ね?」
Pさんは無言でカートから降りようとしました。
そこでケアマネ (30代女性) が言いました。
「Pさん、もうちょっと練習しとこうよ」
「いや、もうせえへん」
「なんでー? 2ヶ月も乗ってへんのやから、もうちょっと練習した方がええって!」
Pさんは黙ったままカートから降り、キーをOFFに回します。
その瞬間、ケアマネはムッとしたようで、 「じゃあ、電動カートはレンタルさせられへんわー!」 と言いました。
えっ? という驚きの表情でケアマネを見つめるPさん。
「あのなー、私がプランに入れへんかったら、借りられへんねんでー!」
「・・・・・」 Pさんは悲しそうにケアマネを見つめたままです。
「ええの? そうなったら困るやろ?」
「・・・・・」 Pさんは自分のプライドと戦っているようでした。
「レンタルしたいやろ? もうちょっと練習しよか」
「うん・・・」
この一連のやり取りを見ていて、何か釈然としない、心にザラザラした砂があるような、やりきれない気持ちが残りました。
そのせいか、 (←違います) 書類に一ヶ所ハンコをもらうのを忘れ、夕方にまたお邪魔しました。
Pさんは、 「ちょうどいいところに来てくれた、あがってあがって」 と私を招き入れました。
ヘルパーさんに夕食を作ってもらって食べ終え、残りをラップしようとしていたところだったそうです。
そこでトラブルが発生し、女性なら経験があると思いますが、ラップの端っこがロールにペタっとくっついて、どこが切れ目かわからなくなっていたのでした。
Pさんは手の指が何本か欠けているので余計難しかったと思います。
私が無事に端を見つけ、ラップし終えると、Pさんはいつもの笑顔で、 「ありがとう。来てくれて助かったー」 とニコニコしていました。
さっきの出来事が心に引っかかっていなければいいなと思いました。
Pさんが入院する直前のことです。
ケアマネに手すりを2台、デモ出し (無料でお試し) するよう言われました。
本人はいらないと言っているが、足元が不安定で危険なので、手すりは必要、何とかうまいこと言って置いてきて、との指示です。
寝室と居間 (この二間のみの間取りです) にそれぞれ1個ずつ、少々無理してでも置いてほしいというのです。
ベッド脇はいいとしても、居間にはでっかい座椅子があり、手すりを置くスペースがありません。
ケアマネは、その座椅子を寝室の仏壇の前に持って行くように、と言っていました。
Pさんにそうしてもいいかと聞くと、 「そこは仏様を拝む場所だから、座椅子は置きたくない」 とキッパリ言います。
ケアマネが 「座椅子に座って拝んだらええねん、その方が本人も楽やろ」 と言っていたことを話すと、 「仏様を椅子に座って拝むのは絶対にしたくない」 とこれまた強い意志で言います。
「悪いけど、それ持って帰って。たのむから」 とまで言われ、ムリヤリ置いて帰るには、座椅子を仏壇の前に移動しなければならず・・・そこはPさんが譲れる部分じゃないことはわかりますので、私は手すりを1台持って帰りました。
ケアマネには、えー、置いて来れへんかったん・・・と、説得が甘かったんじゃないの? 的な口調で言われました。
居間に手すりを置かないとトイレに行く時に転倒の恐れがある、転倒して骨折でもしたら寝たきりになるかもしれず、その事態は避けたい、だから何とか手すりは置きたい、というケアマネの気持ちはわかります。
Pさんの体を考えると、それは必要な対策です。
でも・・・Pさんはちゃんとした大人であり、しかも私たちよりはるかに長く生きてきた歴史があり、意思もあり、こだわりもあって・・・それらは尊重しなくてはいけないと思います。
Pさんが心穏やかに暮らしてこそ、介護サービスの意味があると思うのです。
そんなこんなをいろいろ考えると、介護の仕事は難しい、とつくづく思います。
Pさんは80代前半の男性で一人暮らしです。
Pさんは長年電動カートに乗っているので、操作に問題はないと思われたのですが、なにせ高齢で2ヶ月も入院していたため、とりあえず練習をしてもらうことになりました。
Pさんが住むアパート前から、道に出て少し走ってもらいます。
「Pさん、動かし方、わかります? どうやってしますか?」 とメーカーさん (30代男性) が聞きます。
「これは何か知っていますか? わかります?」
「これは何でしょう? わかりますか?」
クイズ番組か、とツッコミたくなるような質問責めで、メーカーさんはPさんがどれくらい知っているのかチェックしていました。
Pさんは慣れた手つきで操作をしますが、慣れているがゆえに少し運転が荒く、段差でも減速しません。
「Pさん、危ないですから! こういう段差の所はスピードを落として下さいね!」
Pさんは 「うん」 と答え、そのままスッと道に出ました。
そこは見通しの良い場所で、Pさんはちゃんと左右を見ていました。
ですが、「Pさんっ! 道に出る時は一旦、止まりましょうね! 危ないですから! わかりますよね!」 メーカーさんは厳しめの口調です。
このメーカーさんは最近新しく入社された方で、介護業界は初めてだと言っていました。
Pさんは普通に走っていましたが、メーカーさんがいちいちダメ出しをします。
「Pさん、あまり端を走らないで下さいね! 溝がありますよね? 落ちたら大変ですからね~」
「そんなにスピードを出さないで、もうちょっとゆっくり行きましょうね、Pさん! スピードが出てたら下り坂は危険なんですよ、わかりますか?」
「そこはそういう角度で入らないで下さい! もっと回り込んで直角に入らないとダメですよ! わかります? もう一回やり直してみましょうね~」
・・・と、まあ、口うるさいというか、メーカーとして安全に走行してもらうためには仕方ないのでしょうが、Pさんはもう何年もその機種を使っているのですから、そこまで言わなくても・・・と思っていました。
しかもメーカーさんはダメ出しをする時に、幼稚園児に言うように、少し屈んで顔をPさんにグッと近づけて、覗き込むような恰好で言うのです。
一応笑顔で言ってますが、目の前に顔を持って来られて不快じゃない人はいないだろう・・・と思いました。
「Pさん! 目の前が四つ角ですよね? 車が来てるかもしれませんよね? わかります? スピードはこれくらいにしときましょうね~」 とメーカーさんが勝手にスピードのつまみを減速にした時に、Pさんがポツリと言いました。
「もう、やめる」
ですよね、いくら安全指導といっても、ちょっと失礼だものね、と思いました。
私なら最初のクイズのところでやめていると思います。
Pさんは身体は不自由ですが、立派な大人です。
いちいち顔を近づけて覗き込み、 「わかる?」 「わかってる?」 と子供扱いするのは、どうかと思いました。
言葉がうまく出ないとか、耳が遠いお年寄りに、認知がないにもかかわらず、子供に接するような対応をする人がいます。
多分、優しい対応をしているつもりなのだと思いますが、果たしてそれが優しいことになるのか・・・私が常々疑問に思っていることです。
Pさんはアパート前に電動カートを止めました。
「Pさん、もうちょっと練習しときましょう! 2ヶ月も入院してたんですからね」
「いや、やめる」
「ちゃんと練習しないと危ないですよ! ね? もう少ししときましょか。ね?」
Pさんは無言でカートから降りようとしました。
そこでケアマネ (30代女性) が言いました。
「Pさん、もうちょっと練習しとこうよ」
「いや、もうせえへん」
「なんでー? 2ヶ月も乗ってへんのやから、もうちょっと練習した方がええって!」
Pさんは黙ったままカートから降り、キーをOFFに回します。
その瞬間、ケアマネはムッとしたようで、 「じゃあ、電動カートはレンタルさせられへんわー!」 と言いました。
えっ? という驚きの表情でケアマネを見つめるPさん。
「あのなー、私がプランに入れへんかったら、借りられへんねんでー!」
「・・・・・」 Pさんは悲しそうにケアマネを見つめたままです。
「ええの? そうなったら困るやろ?」
「・・・・・」 Pさんは自分のプライドと戦っているようでした。
「レンタルしたいやろ? もうちょっと練習しよか」
「うん・・・」
この一連のやり取りを見ていて、何か釈然としない、心にザラザラした砂があるような、やりきれない気持ちが残りました。
そのせいか、 (←違います) 書類に一ヶ所ハンコをもらうのを忘れ、夕方にまたお邪魔しました。
Pさんは、 「ちょうどいいところに来てくれた、あがってあがって」 と私を招き入れました。
ヘルパーさんに夕食を作ってもらって食べ終え、残りをラップしようとしていたところだったそうです。
そこでトラブルが発生し、女性なら経験があると思いますが、ラップの端っこがロールにペタっとくっついて、どこが切れ目かわからなくなっていたのでした。
Pさんは手の指が何本か欠けているので余計難しかったと思います。
私が無事に端を見つけ、ラップし終えると、Pさんはいつもの笑顔で、 「ありがとう。来てくれて助かったー」 とニコニコしていました。
さっきの出来事が心に引っかかっていなければいいなと思いました。
Pさんが入院する直前のことです。
ケアマネに手すりを2台、デモ出し (無料でお試し) するよう言われました。
本人はいらないと言っているが、足元が不安定で危険なので、手すりは必要、何とかうまいこと言って置いてきて、との指示です。
寝室と居間 (この二間のみの間取りです) にそれぞれ1個ずつ、少々無理してでも置いてほしいというのです。
ベッド脇はいいとしても、居間にはでっかい座椅子があり、手すりを置くスペースがありません。
ケアマネは、その座椅子を寝室の仏壇の前に持って行くように、と言っていました。
Pさんにそうしてもいいかと聞くと、 「そこは仏様を拝む場所だから、座椅子は置きたくない」 とキッパリ言います。
ケアマネが 「座椅子に座って拝んだらええねん、その方が本人も楽やろ」 と言っていたことを話すと、 「仏様を椅子に座って拝むのは絶対にしたくない」 とこれまた強い意志で言います。
「悪いけど、それ持って帰って。たのむから」 とまで言われ、ムリヤリ置いて帰るには、座椅子を仏壇の前に移動しなければならず・・・そこはPさんが譲れる部分じゃないことはわかりますので、私は手すりを1台持って帰りました。
ケアマネには、えー、置いて来れへんかったん・・・と、説得が甘かったんじゃないの? 的な口調で言われました。
居間に手すりを置かないとトイレに行く時に転倒の恐れがある、転倒して骨折でもしたら寝たきりになるかもしれず、その事態は避けたい、だから何とか手すりは置きたい、というケアマネの気持ちはわかります。
Pさんの体を考えると、それは必要な対策です。
でも・・・Pさんはちゃんとした大人であり、しかも私たちよりはるかに長く生きてきた歴史があり、意思もあり、こだわりもあって・・・それらは尊重しなくてはいけないと思います。
Pさんが心穏やかに暮らしてこそ、介護サービスの意味があると思うのです。
そんなこんなをいろいろ考えると、介護の仕事は難しい、とつくづく思います。