江戸時代の中期あたりだと思います。
私は、江戸に住んでいる武士でした。
子供の頃から剣術を習っていて腕の立つ、明るく性格も良い、素直な青年でした。
19才くらいの時に女性関係のトラブルから、喧嘩に発展する事件がありました。
というか、複数の男たちに、夜、歩いているところを襲われたのです。
私は強いので大丈夫でしたが、一緒にいた弟が切られてしまいました。
倒れた弟に 「マサ! マサ!」 と呼びかけているうちに、相手の男どもは逃げていきました。
弟は、まさごろう、という名前だったと思います。
私は弟を背負い、家に向かいます。
助けてやれなかった自分が悔しくて悲しくて仕方ありません。
弟は 「ありがとう」 とか 「すまない」 とか言っていましたが、次第にしゃべらなくなりました。
そして、徐々に、ずっしりと重たくなっていきます。
弟の死んでいく過程を、私は背中で感じていました。
このショッキングな一件で、私の性格は一変し、人生を投げてしまいました。
妻をもらっても大切にせず、愛人と遊び呆けていました。
神社の秋祭りに愛人と出かけていて、妻と鉢合わせした場面は今でもクッキリ記憶に残っています。
その神社の祭りの旗の、はためき具合まで覚えています。
妻は心底驚いた顔をし、そして悲しく歪んだ表情になりました。
その時、心がチクッと痛かったです。
可哀想なことを・・・残酷なことをした、と無意識に思ったのでしょうね。
その時のことを、時を超えても覚えているのは、妻だけでなく、自分の心も傷つけたからだと思います。
手鞠を売る店で愛人に手鞠を買ってあげた日のことも鮮明に覚えています。
愛人が私にどれがいいか質問し、私が黄色系統がいいと言うと、赤もキレイだしどっちにしよう、と嬉しそうに悩んでいるのです。
その店の内部の造り、日当たり具合まで覚えています。
何故その場面を鮮明に覚えているのかわかりません。
手鞠くらいで喜ぶ愛人が不憫だったようにも思うし、
無邪気に喜ぶ愛人を見て、結婚もしないのに俺はこんなことをしていいのか、と良心が痛んだのかもしれません。
死んだのは45才くらいです。
たぶん肺の病気です。
布団に横になると苦しいので、柱と壁のところにもたれて座っています。
ガリガリに痩せていて無精ひげを生やし、幽鬼のようです。
家は長屋で、布団は煎餅布団、それが湿っていてすごく汚れています。
吐血の跡なのか、どす黒いシミがあちこちにあるのです。
そばには妻がいますが、妻に愛情はありません。
病気になってから苦しいのでイライラと当り散らしてきました。
そんな男でしたから、横になって安らかに死ねるはずがなく、座ったままで死にました。
誰1人幸せにしてやれなかった、クズのような人生だった、と死ぬ間際に後悔しました。
人生を投げてはいけない、とこの人生で学習しました。
「ちゃんと生きる」 という気力を失ったら、あとは何がどうなろうと、もうどうでもいい、となってしまうのです。
それと、昨日書いたように、人にしたことは自分に返ってきます。
今世で最初の夫に浮気をされて、浮気をされる側はどれだけ苦しいのかということを勉強させられました。
そして、驚くことに、私も最初の夫と浮気相手がいるところにバッタリ鉢合わせをしたのです。
カルマの仕組みはすごいですね。
しみじみとそう思います。 (*^.^*)
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