ーー北朝鮮が核兵器で原発を攻撃するという戦略は考えられますか?
北朝鮮にある核兵器の数はまだ少数(ある非機密情報の推定では12~20個)です。しかし、少数でも、原発を攻撃すれば、それにより生じるインパクトは非常に大きい。そのため彼らは、核兵器で原発を攻撃するという戦略は、実践的にも経済的にも効力があると考えているかもしれません。
ーー北朝鮮の核兵器が原発に落とされたら、どういう事態が生じるでしょうか?
そもそも、核兵器は、より多くの放射性物質を降下させる目的で開発された兵器です。核兵器は、それが与えるインパクトも距離的により拡大するように作られてきました。そのため、核兵器が原発に落とされたら、放射性物質はより広域に拡散し、汚染もより長く続くことになるでしょう。
核兵器の場合、まず、破壊的ダメージは爆発で生じる圧力により引き起こされます。さらに、熱で火災も起きます。爆発や熱によって死傷者が出るのはもちろん、放射性物質を大量に浴びたことで亡くなる人も出て来るでしょう。
原子炉と比べた場合、核兵器には、核分裂を起こす核物質がわずかな量しか含まれていないため、それにより生まれる核分裂生成物も比較的少量です。例えば、150キロの核爆弾の場合、10キロのプルトニウムとウラニウムが核分裂を起こします。一方、原子炉の中では、1日1~3キロもの核分裂が起きています。つまり、原子炉内の方が、はるかに多くの核分裂が起きているのです。1日でこの量ですから、1年間では非常に多くの核分裂が起き、それにより多くの核分裂生成物が原子炉の炉心の中に蓄積されているのです。
そのため、原子炉にミサイルが落とされると、内部に蓄積されていた非常に多くの核分裂生成物が100%気化し、半減期の長い放射性物質が、福島第一事故の時以上に降り注ぐことになります。
続けて河合氏は、多くの工学者の見解であるとして「動いている原発はすごい高熱を発して文字通り沸騰している。まさに『火のかたまり』。高温、高速で回っているようなものが襲われた場合には、即時に爆発的な被害が発生する。止めてある原発だから安全だとは言わないが、それとは危険度が違う」との考えを示し、稼働中の原発の危険性をより強調した。
さらに河合氏は「ミサイルが原発を直撃した場合、格納容器を破ってミサイルが侵入してくる。つまり格納容器なしでむき出しの原子炉が破裂するのと同じ。格納容器に開けられた大穴から放射性物質が直接出ていくという即時性がある」と解説し、ミサイルの爆風によっても拡散されるだろうとも推測した。
その武力行使された場合には、北朝鮮・DPRKは自衛権を行使するだろう。自衛権の行使は、必要性(necessity)と均衡性(proportionality)を満たすことを国際法上求められている。東京都多摩地域にある横田基地は、空軍基地であり国連軍後方司令部と在日米軍司令部がある。神奈川県横須賀には第七艦隊空母ロナルド・レーガン母港の海軍施設があり、厚木海軍飛行場がある。関東に多数ある在日米軍基地、これらの機能を破壊することは、必要性(necessity)がある。これら関東にある在日米軍基地に必要な電力は、東京電力が供給している。
北朝鮮・DPRKは第一追加議定書を批准・加入しているので、原子力発電所を標的にしないと国際的に誓約している。ただし議定書は、「原子力発電所については、これが軍事行動に対し常時の、重要なかつ直接の支援を行うために電力を供給しており、これに対する攻撃がそのような支援を終了させるための唯一の実行可能な方法である場合」は例外としている。
柏崎刈羽原子力発電所6号機、7号機が再稼働すれば、当然にその電力は在日米軍基地に、国連軍後方司令部と在日米軍司令部に供給され、その軍事行動に対し常時の、重要なかつ直接の支援の電力となる。東京電力の電力供給に制限を加えるために、他の発電所とともに柏崎刈羽原子力発電所6号機、7号機にミサイル攻撃が行われるだろう。
電力供給の低減が目的だから、ミサイル攻撃はタービン建屋や中央制御室を標的にすることが合目的で合理的である。原子炉棟の格納容器は、原子炉を内蔵しているから、その破壊は議定書の「攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない。」の考えにも反する。