2wayスピーカのクロスオーバ位相が与える影響 | 音響・映像・電気設備が好き

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「ヒゲドライバー」「suguruka」というピコピコ・ミュージシャンが好きです。

かつて、オーディオ屋で働いていた頃、自作のパッシブスピーカネットワーク(木の板にコイルとコンデンサで組んだもの)で2wayを鳴らす場合、「ウーファの位相どうしようか?どっちがいいかな?」なんて問答があった事を記憶しています。
当時、「スピーカの位相は決まっていて、直流電流をユニットにかけ、コーン紙が前面に出る極性が正しい」という知識があったので、「どっちが良いも悪いもないだろう」と思っていました。

 

この話を理解するのは十数年後です。

 

この話を理解してもらう事を前提に解説してみます。
 

 

パッシブスピーカネットワーク

 

 

こちらが2wayスピーカのネットワークの模式図です。
スピーカ入力が1に対してユニット2つがひとつの箱に収まったものはこれに該当します。

 

2wayですので、それぞれのユニットが高音と低音を担当します。お互いがクロスオーバ(入れ替わり)する部分が肝心です。この部分がきれいにつながらなくてはいけません。
単純に合算できれば話は早いのですが・・・

 

 

クロスオーバ部分が「減る」事があります。
これが、冒頭に書いた「ウーファの位相どうしようか?」の話につながります。
※市販の2wayスピーカではまずあり得ないことですが、システムがバラバラの場合は起こり得ます。聴いて判断か、測定して判断かどちらかの作業が必要です。

 

では、なぜこのようにクロスオーバ部分が「減る」のでしょうか。それを理解するには「位相」を測定することが必要になります。

 

専用の測定器やソフトウェアを用い、各ユニットの位相を測定してみます。
オーディオ屋で働いている時に、この位相を測定する方法がもっと身近にあれば・・・と悔やまれます。

 

筆者が使用しているソフトウェアはRational Acoustics Smaart V.8です。
参考リンク:
Rational Acoustics Smaart V.8にアップグレードしてみた

 

「クロスオーバの位相が合致する場合」と「クロスオーバの位相が合致しない場合」の模式図を描きました。(誇張しています)
※余談ですが、この様に180°ずれている場合は位相という言葉より「極性が反転している」という表現が正しいです。

 

ある音源の逆位相(極性)の音源を同時に鳴らすと、お互いに打ち消し合います。近年普及しているノイズキャンセリングヘッドフォンやイヤフォンはこの技術を使用しています。
これと同じ現象がクロスオーバ付近でも起きます。
ただ、2wayを同時に鳴らしている場合はこの「クロスオーバで減った部分」はキャンセルされて減ったのか、クロスオーバのポイントが悪いのか聴感では判断することができません。
※ノイズキャンセルされた成分を聴けないのと同じ(ないものはない)

 

このクロスオーバの位相を合致させるために、ウーファの位相を変える必要があったというわけです。
※別にウーファに限った事ではありません。各ユニットそれぞれに「クロスオーバポイントが逆位相になる」可能性はあります。

近年では、大型のPAスピーカではパッシブ型クロスオーバネットワークではなく、DSPを用いたクロスオーバが主流です。PEQやディレイ、リミッタなどの機能が使え、利便性・音質が雲泥の差だからです。
※ディレイによる細かい位相補正も行うことが可能です

 

 

イメージ 7
参考DSPクロスオーバ設定※Electro Voice N8000

 

 

パワードサブウーファに極性反転スイッチ(ポラリティ)が付いているのもこれと同様の話です。
仕事でもまれにクロスオーバ設定をする事がありますが、一度ソフトウェアによる測定を伴う設定を経験してしまうと、聴いて判断なんてとてもじゃないですが出来ません。

 

今回の説明で、どなたかの理解の手助けになれたら幸いです。