「爪王」について | 木挽町日録 (歌舞伎座の筋書より)

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昭和43年5月30日

歌舞伎座で開催された〝猿若明石披露舞踊会〟

前田青邨表紙

 

中村勘三郎が名乗る猿若流宗家の、由緒ある舞踊家名跡

猿若明石を六代目として襲名したのは新派女優の

波乃久里子(当時は波野)

その披露演目として新しく作られた作品が「爪王」で

戸川幸夫作、平岩弓枝脚色、杵屋六左衛門作曲、藤間勘十郎振付

 

鷹 猿若明石(久里子)

狐 真帆志ぶき

鷹匠 市川猿之助(三世)

村長 中村錦之助(後の萬屋錦之介)

 

山に吹雪という白鷹を遣う鷹匠あり

老練な赤狐を狩るが、初戦では吹雪が敗れる、が

厳しい訓練の後の再戦で見事狐を倒す

という鷹と狐を擬人化したファンタジー性の強い新作舞踊。

 

プログラムに載った 吹雪の扮装

 

3年後の7月、歌舞伎座の七月特別公演でひと月本興行で上演された

昼の部は三世猿之助が、猿之助の名跡が誕生して途切れずに

100年が経ったという記念の奮闘公演。

夜の部は十七世勘三郎と初代水谷八重子による新派合同公演。

 

夜の部の打出しが「爪王」で

鷹と狐は、初演の波乃久里子と真帆志ぶきが続演

庄屋は安井昌二、鷹匠は父の勘三郎が勤めた。

〈筋書の舞台写真、演目ページの挿入写真〉

〈演劇界〉

 

真帆志ぶきは当時宝塚歌劇団在籍中で

この公演での扱いは〝特別参加〟事前に記者会見も行われた旨の

トピックが筋書に載っていた

〝3年前に波乃久里子が猿若明石を襲名したときに初演されて好評だった

「爪王」の再演にあたり初演と同じ狐の役に乞われて特別参加する

ことになった真帆志ぶきの記者会見が行われた、鷹を演じる久里子も

出席して和やかな一夕を過ごした〟

結果〝スータン〟ファンも歌舞伎座へ押しかけ、「中村屋!」「スータン!」

のかけ声合戦と相なった由。

 

約40年が経ち、第四期歌舞伎座のさよなら公演2年目の2010年2月

十七世勘三郎の二十三回忌の追善興行で勘九郎の狐、七之助の鷹で

歌舞伎舞踊として復活。話を持ってきたのは古参弟子の小山三と聞きました。

鷹匠は弥十郎、庄屋は当代の錦之助で初演に所縁

 

4年後2014年12月、京都南座の顔見世で兄弟による再演

舞台写真から、衣裳や演出に変更があるように見える

 

南座での公演から9年が経ち、2023年12月に歌舞伎座で

中村屋兄弟での上演予定、今年脚本を担当した平岩弓枝が

逝去したことも演目制定の理由だろうか。

中村屋所縁の舞踊演目も多くありますが、この「爪王」も

兄弟によって定番の演目となりました。

十七世がいずれ制定しようとしていた〝舞鶴十種〟の類が

今後決められるとしたらきっと「爪王」も候補に上がるでしょう。