「吉原狐」聞き書き拾い読み | 木挽町日録 (歌舞伎座の筋書より)

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令和5(2023)年7月、松竹座で「吉原狐」が3回目の上演。

吉原随一の人気芸者おきちは、早とちりゆえに失敗ばかり、また、落目の男を見ると狐憑きのように惚れてしまうという悪い性分で、いつも周りを巻き込んで引っ掻き回している。

 

再演時、平成18(2006)年8月 歌舞伎座

筋書の聞き書き

幇間十寸見東作の片岡亀蔵

「吉原狐」が初演されたのは生まれた年のこと。今回はそれ以来の上演となる。

「そういう芝居があることも知りませんでした。ただやっぱり中村屋のお弟子さんは覚えてらっしゃいますね」

 

小山三や千弥ら中村屋の古参の弟子が初演と再演どちらにも出演している

平成18年の配役表

 

昭和36(1961)年1月 歌舞伎座での配役表

初演には歌江や先代の吉之丞(当時万之丞)ら懐かしい名前も。

 

舞台写真の見比べ

平成18年 孝太郎の隣に付いている新造が千弥

お馴染み小山三も演劇界の舞台写真に写り込んでいる

 

昭和36年

さて、古い写真です。誰が誰でしょう…

 

初演の筋書から

〝心配と安心〟 村上元三

芝居や小説を書くときの着想などと言うのは、ひょっとした時、とんでもない事を思いつくもので、私が中村勘三郎の芸者を書こう、と考えたのは、もうだいぶ以前のことになる。

中村吉右衛門在世のころで、「伊勢音頭恋寝刃」の福岡貢が吉右衛門、お紺が中村歌右衛門、お鹿が勘三郎という配役で上演された時の、勘三郎のお鹿はそれまでのお鹿の演出とは全く異なったもので、哀れで、現代人にもよくわかる人間として演じていた。それに数年前、「夏祭浪花鑑」のお辰という素晴らしい演技を見てから、ますます私は勘三郎の芸者を描きたくなった。

もちろん、お鹿やお辰とは違う型の、わたしなりに創作をした女で、ユーモラスな味を加えた芝居にしたい、と考えたが、別に筋立てもまとまらず、いつ書こう、と言う気も起きずにいるうちに、今度の機会が来た。

この「吉原狐」という新作には、かつて私が書いた小説の一部が入っているが、それもほんの一部だけで、小説とは全く違った形になっている。

現在の吉原と言う土地を、若い人たちは知らないに違いない。関東大震災を境にして、古い頃の吉原の俤というものは全く失せてしまったと言うし、私の知っている吉原の無形文化財とも言うべき桜川忠七から、参考になる話を聞いた。

初めから、勘三郎を吉原の仲之町芸者、その父親を幸四郎、と言う設定で書きはじめたので、そのほかの配役にも、私の我儘を通してもらった。

この芝居が、若い人たちにどういう風に受け取られるか、それが心配だが、わたしの狙いは、なにも面倒なものではない。観終わった人たちの胸に、ほのぼのとしたものが残れば成功、と思っているし、勘三郎と幸四郎の演技力なら、それが十分に出せる、と作者は安心している。

 

雑誌幕間に載った富十郎(当時鶴之助)の聞き書き。

「おえんは、中村屋の兄さんと膝を引っ叩き合うだけですが、兄さんは、これは自分の役と対等の芸者だから、気がねをせず思い切って叩け、といわれますが、これも大先輩を相手ではどうしてもそんなに手が動きません。おえんは吉原の芸者ですが、吉原の芸者に限っては、右の褄をとり、玉かんざしも挿し方ちがっていて、必要な時には直ぐ抜けるようになっているのだそうです。これに出して頂くことになったのは、作者村上元三先生のご指名なのだそうですが、これは私の太っちょなところがお目当てのようです。でも私としては実に光栄です。毎日これに出るのが楽しいくらい、実に楽しい芝居です。おえんは江戸の芸者らしい、すっきりした気性の女というつもりでやっています」

(このインタビューは初日が始まってからの貴重なもの)

 

平成18年では そのおえんにやはり立役の

橋之助(現芝翫)で、喧嘩相手のおきちは兄の福助

「ちょっとした役かと思ったら兄とのからみが結構多いんですよね。僕、女方ってほとんどやっていないんです。三津五郎のお兄さんや兄に教えを受けながらつとめます」

 

福助

この年の4月に96歳で長逝した作者村上元三

「先生には本当にお世話になりました。追善の気持ちを込めてつとめさせていただくつもりです。おきちはとっても優しくていい子なんだけれど、そそっかしくて…。村上先生ならではの、江戸の人たちの機微が描かれた素敵な作品ですよね」初演は十七世勘三郎のおきちに、初世白鸚の三五郎という配役だった。「斎藤先生に少し台本を整理していただき、三津五郎兄さんと平成の「吉原狐」をお目にかけたいと思っています。新作のつもりで、でも江戸の風情は忘れずに…」

 

令和5年の松竹座では

平成18年に出演していた幸四郎や扇雀、孝太郎らが役を変えて出演して

芝居を伝えてゆく。