憑いてきちまった | 不思議なできごと

不思議なできごと

できるだけオリジナルな、或いはそれに近い怪異譚を公開してゆきたいです。

不思議なできごと-神社 7月29日。 この日は友人と朝から川の流域を探索していました。
 というのは、この川周辺には、明治から昭和中期までの人々の生活の跡が残っているということと、しかもその中には幽霊の噂のある場所もあるということで、非常に興味を持ったためです。
 デジタル写真を撮りながら流域を歩き、終点の公園ではビールとウイスキーをいいだけ飲んでよい気持ちになってその日の川めぐりは終わりとなりました。
 その日のうちに私は友人のみが閲覧可能なソーシャル・ネットワークに簡単な記事と写真を掲載しました。

 翌日、ひとつのメッセージと数本のコメントを読んで愕然となりました。一緒に歩いた友人からの、記事と写真の削除要請だったのです。驚いて連絡を取ると、こういうことでした。

 『昨日、サイトに掲載されたページを見て、特に問題がないことを確認して眠ったんだけど、数時間したら眼が覚めて、トイレに行こうと立ち上がった時、部屋の隅に何かの気配がしたのでそちらを見たら、男の影が見える。まあ、そんなことは俺には日常茶飯事なので大して気にも留めずそのまま用足してまたすぐ眠りに就いた。
 朝起きると、人の影はなく、特に何事もなかったように思えたんだけど、かすかに右腕が痛む。見ると、紙で切った様な浅い直線の切り傷が2本あった。どこかで擦ったかなぁ、程度のものなので、さほど気にもしないでそのまま茶の間へ入った。奥さんと娘さんがいつもと同じように、朝食を作ったり食べたりしている。ふと娘の右腕を見ると、紙で切った様なキズがある。
「ねえ、M(娘さんの名前)、その腕、どうした?」
「それがね、全然わかんないの。気がついたら、キズになっていたの。大して痛くないからいいんだけど。」
 するとかみさんも
「あら、あなたも?私もほら。」と右腕を見せる。そこには4センチ程度の細長いキズがあった。
 それを見て俺、ああ これはやばいな 憑いて来たなと思った。恐怖感はないけど 家族に害為すのだからこれは無視出来ない。多分サイトにアップされたことで、侮辱されたと思ったんだな。と。それで、削除をお願いした、という訳なんだ。』

不思議なできごと-滝 それで、すぐに記事と写真を削除したのですが、後で考えると確かにやばい写真だったのです。 まずは1枚目。川べりの道に入る前に地元の神社へお参りしたのですが、その時本殿を望む階段で友人を入れて撮った写真が紫色のヴェールのようなものに覆われていたのです。デジタルカメラが時々逆光の時に起こるエラーと似ていることは似ているのですが、その時は逆光ではなかったですし、友人の前を紫色のヴェールで遮断したという感じの、ちょっと普通のエラー時とは違う気がするものなのです。
 もう1枚は、天然氷を作っていた氷池を再現した沼の写真。ここではかつて事故があったらしく、「水の中に入って遊ばないでください」という看板がしつこい位立てられている所で、なんとなくどんよりとした空気が漂う池を写したもの。
 そして最後の1枚。実は案内してくれた友人が数年前首吊り自殺をした男の姿を幻視した藤棚があって、その現場で彼がその姿を再現した写真を撮ったのです。
今回は特に最後の写真がやばかったのでしょう。確かに死者に対して失礼なものだったのかも知れません。
 こんなことがあったので、今回は実際の写真を掲載するのは遠慮します。ただ、写真がないのは寂しいので、差し支えのなさそうな当日の写真を掲載したいと思います。ただ、これも、もし何かあったら即削除する積もりなので、公開は期間限定になってしまうかも知れません。

不思議なできごと-川 ちなみに、なぜ写真を掲載した張本人の私には何も起こらなかったのか、ということにも触れておきましょう。もしかしたら、私に霊感がない、ということなのかも知れませんが、ひとつ思い当たることがあります。
 実はこの日、友人と自分は用事を済ます為に2時間ほど別行動を取ったのです。
 自分は彼の用事が済む間、どこかで時間を使わなければならなかったのですが、近所に適した場所がなかったので、近くの霊園の中で過ごそうと考えたのです。そこには長時間休憩できる東屋があることを知っていたからです。自分はそこへ向かいました。思っていたより霊園の奥まった場所にあった東屋でしたが、無事到着することができました。そして、さあ、座って休もう、とした瞬間、そこに一人の老婆がいることにやっと気づいたのです。

「あっ、すみません。   ・・・私もここで休んでいいですか?」
 ととっさに言ったのですが、老婆は普通にしたまま
「どうぞ、どうぞ。」と手を長椅子のほうへ差し伸べながら言いました。
 年の頃は60代後半位でしょうか。おとなしい感じの老婆でした。
 彼女が私に拒絶感を持っている様子はなく、私も変な感じはしなかったので、普通に世間話をすることになりました。天気の話から入って、この東屋をなぜ知ったか、そして、今友人の連絡を待っている事などを話したと思います。それ以外は極普通の当たり障りのない話をしていたと思うのですが、何故か、いつの間にかこういう話になっていました。
「変に思われるかも知れませんが、私は時々奇妙なものを見るんです。」
「奇妙なものとは?」
「そう、世間では幽霊とかいうものなのかも知れません。・・・・信じませんよね。」
「いえ、そうでもありません。全部が全部無条件に信じるということではありませんが。」
 すると彼女、ちょっと微笑んで
「今日はどちらに?」
と問いかけてきたので、自分は今日の川巡りのことを語りました。もちろん当時は写真や友人の異変に気づいては居なかったので、川での怪異についてはここで語れる訳がありませんでした。
すると彼女は
「ふふっ」
と軽く笑うようにしながら、今度は彼女が身の上話を始めました。
 内容は個人的なものなので、ここで公表できるものではありませんが、彼女の立場からすると、非常につらい話だったに違いありません。
 なぜこんな場所でこんな話になるんだろうと思う気持ちもありましたが、なぜか嫌な気持ちはしなかったので、真剣に話を聞き、真剣に自分の意見を言いました。そして、いつの間にか2時間が過ぎていたのです。友人から呼び出しの電話が来ました。電話を切った私が
「それでは、これで失礼します。」
というと、彼女は
「それでは、持って行きましょう。」
と言ったのです。
"持って行きましょう?”
私はその言葉に違和感を持ちました。
「行きましょう。」ではなく「持って行きましょう。」と彼女は言いました。
彼女は何を持っていったのでしょうか?
 今となってはわかりかねることですが、今回自分に霊障が来なかったことと関係があるように思えてならないのです。


$不思議なできごと-氷池