2つの"成りすまし"が交錯する。
先生もネット世代(1) 880円 Amazon |
教職に就く者といえど、今の20代ならば完全なデジタルネイティブなのだ。考えてみれば。
「……よし、凸るか」
高校教師・上田祐介(25)は困惑していた。
受け持ちの男子生徒がSNSで可愛い女の子にハマっていた。恋しているとも言ってもいい。
まあ、それはまだ良い。
みなネットに繋がっている時代。
色んな事件もあるが、そんな風に生徒が道を踏み外さないよう指導することだ。
問題なのは、例の美少女の写真。
間違いない。
アレは上田祐介(♂)の昔の写真だった。
俺が女装してネットで男を釣っていた時代の、消せない黒歴史。
うむ、案外楽しい。
2018年11月に一迅社より発売された本書。書店で、表紙とタイトルで即買いをしてしまった。
本書で特徴的なのは、全体を通した爽やかで、少しビターな気配がある程度の展開。
「SNS! 消せない!」なお話ということで、買ったときは「多少、陰鬱な展開も覚悟するか……」という構えでしたが、杞憂。
『先生も、ネット世代』というタイトルに呼応するように、物語も「ネットが絡むと人間関係が陰湿になる!」などという悲観や怒りといったネガティブに流されることなく、ごく自然な「人間関係の拡張」として捉えているように思えます。
上田センセが女子高生に成りすまして写真をネットにアップしていた動機は「おやめなさい(苦笑い)」と言いたくなる、まさに黒歴史。しかも当時人気を獲得してしまったがゆえにネット上に永久保存され、殿堂入り。まさに消せない黒歴史。
だけど今、SNSでその写真を利用して美少女に成りすましている人物。その動機は優しい。
さて。
1巻なので、当然「2巻」が出るのでしょうが、実のところ「女装写真無断使用事件」については1巻で完全にケリがついています。
なのでこの話、果たしてどう続けるのが、引っ張るのか。
ですが1巻に、既にいくつか種が蒔かれてています。本作中の
「人間関係が現実だけじゃないのが当たり前な世代」
というモノローグ。その人間模様を今後も掘り下げることが出来るならば。
決して一発ネタではない、現代に適合した高校モノとして名作になりうる気がするのです。
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(コミックではなく新書ですが)気になる新刊情報メモ。
中公新書 2月新刊(19/2/21頃発売予定)
・ナポレオン四代
二人のフランス皇帝と悲運の後継者たち
野村啓介 著
・大統領とハリウッド
アメリカ政治と映画の百年
村田晃嗣 著
・三条実美
維新政権の「有徳の為政者」
内藤一成 著
・日本鉄道史 昭和戦後・平成篇
国鉄の誕生からJR7社体制へ
老川慶喜 著
・火付盗賊改
鬼と呼ばれた江戸の「特別捜査官」
高橋義夫 著
計5点、ですか。
全部気になるのですが、あえて選べば「日本鉄道史」シリーズのおそらく完結編と、「大統領とハリウッド」。クリスマス頃に見たホームアローン2に若かりし(?)トランプ出てましたしね(あの頃は誰一人として大統領になるなどとは夢想しなかったろう)。
(志田佑)