こんにちはオカメインコ

 



11月23日(木祝)から26日(日)まで、東京都現代美術館にて「TOKYO ART BOOK FAIR 2023」が開催されました。2009年にスタートした「TOKYO ART BOOK FAIR」は、アート出版に特化した日本で初めてのブックフェア。今年で13回目の開催となりました。

 

外が暗くなってもエントランスホールのブースには多くの人が!

国内外の作り手たちが本の魅力を伝える「TOKYO ART BOOK FAIR」。今年フィーチャーされたのは、北欧5カ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)でした。北欧のアートブックが並ぶ「Nordic Art Book Store」のブースが並ぶ会場は、前に進めないほど多くの人で賑わっていました。


北欧映画の上映(別会場)をはじめ、トーベ・ヤンソンにスポットを当てた展示スペースやトークイベントなども開催され、来日ゲストを招いた企画も充実。フィンランド在住のムーミン研究家で翻訳家の森下圭子さんと、少し前にArtek Tokyo Storeで作品が展示されていたグラフィックデザイナーのAYA IWAYAさんによるトーク、北欧5カ国のキュレーターによるプレゼンテーション&パネルディスカッションもありました。ご覧になった皆様、いらっしゃいますか?

 





北欧区は、スウェーデンと日本の絵本作家で、どちらも児童文学・青少年向けの文学作品に贈られるアストリッド・リンドグレーン記念賞の受賞者である、エヴァ・リンドストロムさん(2022年受賞/以下エヴァさん)と荒井良二さん(2005年受賞 ※日本人初/以下荒井さん)のトークイベント「『国境を超える絵本の世界』エヴァ・リンドストロム x 荒井良二」に入らせていただきました。

初対面だというエヴァさんと荒井さん。お互いの好きな作品について話したり、日本とスウェーデンの絵本や表現の違いなど、両国を代表する絵本作家によるリアルな声を聞くことができました。「(エヴァさんと)意外と共通点が多いな~」と、終始嬉しそうな荒井さん。本日は、お二人のトークの模様を中心にお届けします。

 

 

 


■ハッとさせられる(!)エヴァさんの作品『The Bridge(Bron)』

まず、エヴァさんの絵本『The Bridge』が紹介されました。荒井さんは、「絵が好き。簡素でシンプル。要るものしかない。要らないものを省くという作業は意外と大変なんです」と力説。

『The Bridge』は、ブタが森でオオカミと出会い、川を渡ろうとしたら、橋が壊れているのか、近くに住むオオカミに「今はこの先は渡れないよ」と言われたため、今渡るのを諦めて、オオカミの家に招かれます。そこにはオオカミの妻が居て、コーヒーやシナモンロールでもてなしてもらうブタ。壁にかかっていた橋の絵に話題を振りますが、会話が続きません。

そんな空気だけが流れていく中、オオカミから「そろそろ川を渡れるかも」と言われたブタは外へ出てみるのですが、川には橋も何もなく、来た時と何も変わらない風景が広がっていた……。そこで物語は終わります。

あまりの突然の結末に、会場騒然(笑)私もびっくりしました。どんな展開が待っているのかと思えば、「そこで終わるの??」と誰もがツッコミを入れたくなる状況に。

 



そんなエヴァさんの絵本は、テキストがほぼなく、絵がメイン。荒井さんも絵本のテキストが少なめなので、スタイルが自分と似ているといいます。「テキストが短いと絵を見て読み解かないといけない。作者である自分も読む人も、世界が広がると思います」と話しているのを聞いて、ピンをきました。

北欧映画でもよく見られるように、「あなただったらどう思う?」と、質問を投げかけてくるような作り。結末は一つだけではなく、その続きは、見た人それぞれがメッセージを受け取って、いろんな考察をしたり、答えを出したりするといった自由や余白をくれる形になっているのです。

登場するオオカミは妻と二人で森に住み、橋もかかっていない川のそばで暮らしています。川に橋があると、きっと便利で、向こう岸にも行けるし、迷い人がいちいち訪ねてくることもなくなる可能性があります。しかも、家の中の壁には立派な橋の絵まで飾られており、立派な壊れない橋に憧れがあるのかなと匂わせてきます。

 

そうやって一見、彼らの暮らしは不便に見えるのですが、もし橋がかかると、便利な道になって車がじゃんじゃん通り、人もたくさん来るようになり、これまでの森の中の静寂がなくなり、澄んだ空気が汚染されることだって考えられます。

橋がなくても、静かな暮らしがある。あったら便利かもしれないけれど、なくても幸せ。これはあくまでも私の推察ですが(笑)

 

でも、そういったことを1冊の絵本を通じて、家族や友人たちと話したりする時間がとても豊かだと感じます。



■お互いの共通点や、日本とスウェーデンの違いについて

エヴァさんが絵本作家になる前は、漫画家だったそうです。新聞の風刺漫画を描いていたとか。「アイデアを練るのが楽しいですし、考えるのが好きです」とエヴァさん。

 

絵本作家になったのは出版社から絵本の声をかけてもらったそうで、「漫画はコマの中に情報を詰め込まないといけないから、大きな絵を描けるのが嬉しかった」といいます。また、色はとても大切なもので、色もストーリーの一部として絵を描いているそうです。

両者お互いの印象をエヴァさんは「荒井さんは本と同じ印象です。自由で面白いです」。荒井さんは「エヴァさんは、作品どおりの人」と表現。

また荒井さんは、エヴァさんの作品を「とても静かで、演劇のステージを見ているかのよう」と表現。エヴァさんもまた、「荒井さんの絵本も静かですよね」と、お互いに絵で読む物語の本、という共通点もありました。

日本とスウェーデンの違いについて尋ねられると、エヴァさんは、「その国が持つ物語の伝統があると思います。日本の絵本は、最後まで行ったら、最初に戻るイメージ。北欧はストーリーが続き、最後に大きなクエスチョンが来たり、不穏な終わり方が特徴かもしれません」とエヴァさん。まさに自分の作品がそうだと話していました。

イラストレーターから絵本作家になったという荒井さんは、とにかく絵を描きたかったといいます。19歳の時に出合ったアメリカの絵本を見て、言葉も使えるところが魅力的だったとか。また、絵本は“自分のことを描いていいんだ!”とも思ったそうです。

「自分の作品は起承転結があり、結末、最後の部分は問いかけるスタイルです。日本の典型的な形ではないので、あまり好まれないかもしれません(笑)」と荒井さん。なので、読者から「これでいいのか?」といった答えを求める手紙をもらったりするといいます。エヴァさんは、「スウェーデンでも、最後はどうなるの?と聞かれることがある」そうで、「それぞれに答えがあると思うので、読者に慣れてもらうしかないですね(笑)」と会場の笑いを誘っていました。

■エヴァさんと荒井さん、両者の作品への取り組み方、お仕事スタイルについて

絵本は子ども向けと言われがちですが、子どもを意識するかどうかを尋ねられたお二人。

荒井さんは、絵本を作る時は、「“小さい頃の自分”に会いに行きます。その自分が喜ぶ作品かどうか」と答え、エヴァさんもまた、「私自身の中にも子どもがいます。かつて子どもでしたしね。“私の中の子ども”に対して作っています」と共感。「仕事をしながら自分で笑っています。『The Bridge』のときも大笑いしました。仕事が大好きです。喜んでやっています」と、二人とも、自分が楽しいと思えるか、面白いと思えるかを大切にしているようです。なので、子どものためというか、人間のためという感覚だそう。

また、仕事を始める時は、絵から描くのが先か、それともテキストが先かという問いかけには、荒井さんはテキストから、エヴァさんは、その時の状態によるとのこと。テキストから始めても、絵がテキストを支配するときがあるそうです。

「エヴァさんと似ているところが多くて良かった」と笑顔の荒井さん。エヴァさんは、そんな荒井さんから「大きなインスピレーションを受けています」と話していました。

最後に、アストリッド・リンドグレーン記念賞の受賞者の二人から紹介されたのが、アストリッド・リンドグレーンの著書『暴力は絶対だめ!』。

荒井さんが表紙を手掛けたこの本は、1978年、ドイツ書店協会平和賞の授賞式で、アストリッド・リンドグレーンが子どもへの暴力を禁止する法律を制定するきっかけとなったスピーチをまとめたもの。「子どもたちは自ら考え、行動する力がある。躾や教育といって鞭で打ったり罰を与えたりしてはダメ!」と訴えたリンドグレーン。暴力が暴力を生む。そして、その先にあるのは、さらなる暴力、戦争に発展する可能性だってあるということ。

荒井さんは、「今、まさに必要なメッセージだと思います」と、最後を締めくくりました。

 


【アストリッド・リンドグレーン記念賞】
全ての子どもたちが素晴らしい物語を読む権利を促進するために、2002年にスウェーデン政府により創設。児童文学およびヤングアダルト文学への顕著な貢献を果たした個人または組織に毎年授与される。賞金は500万スウェーデンクローナで、この種の賞としては最大規模。スウェーデン芸術評議会によって管理されている。

【エヴァ・リンドストロム】
1952年、ストックホルム在住。漫画家としてキャリアをスタートし、スウェーデンの新世代のコミックアーティストたちに多大なる影響を与えている。『Bron(The Bridge)』(2020年)、『Ingenting är omöjligt för oss』(2021年)絵本作家としても世界的に高く評価され、これまでに国際アンデルセン賞、アストリッド・リンドグレーン記念賞(2022年)など数々の賞を受賞。
https://alma.se/en/laureates/eva-lindstrom/

【荒井良二】
1956年、山形出身。2005年に日本人として初めてアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞。代表作は、『たいようオルガン』、『あさになったのでまどをあけますよ』など。JBBY賞、産経児童出版文化賞・大賞、日本絵本賞大賞などを受賞。
https://alma.se/en/laureates/ryoji-arai/

▼北欧はもちろん、世界中の絵本が集まったスペースがありました!たくさんの親子連れが集まっていましたよ。

 

絵本の自動販売機が登場!

エヴァさんの『The Bridge』に出てくる、立派な橋の絵のあるオオカミ夫妻の部屋のシーン。



TOKYO ART BOOK FAIR 2023(終了)
会期:2023年11月23日(木祝)~26日(日)
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/tokyo-art-book-fair-2023/
https://tokyoartbookfair.com/
11/23(木祝)12:00-20:00
11/24(金)~ 26日(日)11:00-19:00
会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F、エントランスホール ほか