こんにちはセキセイインコ青

日本でも人気の高いフィンランドの映画監督アキ・カウリスマキの最新作『枯れ葉』が、12月15日(金)より渋谷・ユーロスペース他にて全国劇場公開されます。

 



『枯れ葉』の舞台は、フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由からスーパーの店員の仕事を失ってしまった女性アンサと、工事現場に酒のボトルを持ち込み、酒に翻弄されながらも食いつないでいる板金工の男性ホラッパが、ある晩、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合います。

ほんのりと大人のロマンチックなラブストーリーが展開していくかと思いきや、ホラッパのアルコール依存症やいくつもの不運が重なり、二人はすれ違いを繰り返してしまうことに。果たして二人は無事再会し、想いを通わせることができるのでしょうか。

 



カウリスマキ監督は、前作『希望のかなた』(2017)でベルリン国際映画祭の銀熊賞(監督賞)を獲得した直後に引退を宣言したのですが、なんと本作で突如復帰。6年ぶりとなる待望の長編作品で、今年の第76回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞、2023年国際批評家連盟賞年間グランプリに選出されました。

高い人気を誇るカウリスマキ監督の代表作ともいえる『パラダイスの夕暮れ』(86)、『真夜中の虹』(88)、『マッチ工場の少女』(90)の労働者3部作の4作目にあたる本作は、孤独な男女二人が人生で最初で最後のかけがえのないパートナーを見つけようとする心温まるラブストーリー。

 



カウリスマキ作品に登場する無口な登場人物に、ちょっとしたユーモア、哀愁漂う絶妙な音楽セレクト(登場するバンドは監督の“推し”らしい!)、レトロな雰囲気やファッション、そして忘れてはならない犬の存在。カウリスマキ作品を彩る独特な演出は健在で、そのスタイルは一層磨きがかかっているようにも見えます。

 

 


 

 


主人公の一人、アンサを演じたアルマ・ポウスティは、トーベ・ヤンソンの半生を描いた『TOVE/トーベ』(2020)で、トーベを演じたことでも記憶に新しい女優。また、板金工のホラッパを演じたのは、ドメ・カルコスキ監督の映画『ラップランド・オデッセイ』(2010)でユッシ賞主演男優賞にノミネートされ、ヴァイニョ・リンナの古典小説「無名戦士」を原作にした映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』(2017)に出演したフィンラドの俳優ユッシ・バタネン。フィンランドの実力派の二人が、映画をさらに魅力あふれるものにしています。

 



先日、主人公の一人である、アンサを演じたアルマ・ポウスティさんが来日。カウリスマキ作品初出演の感想や興味深いエピソードが披露されました。

 

人々の心の動きを捉え、見ている人の心を動かす数々の作品を生み出してきた巨匠、アキ・カウリスマキ監督。ファンとして監督作品の鑑賞はもちろん、監督が運営する劇場やバーなどにも足を運んだりしていたアルマさん。カウリスマキ監督から電話でランチのお誘いがあった時は本当に驚いたそうです。「ユーモアのある方で、カウリスマキ監督の作品をコピーできる人はいないと思います」とアルマさん。

会ったとき、監督の手がペンキで汚れていたそうなのですが、なんと自身の映画館の壁をペンキで塗っていたからだそう。監督は自分でなんでも直したり、作ったりするそうです。ランチの時は、食べているアスパラガスの話、森の話、犬の話など、たくさんの話をしたそうです。

 

細かい演出が特徴のアキ・カウリスマキ監督ですが、どのような脚本が渡されているのか気になるところ。「少ない言葉で全てが詰まっている、私が今まで見た最も短い文章で綴られた脚本でした」と感想を述べたアルマさん。まるで詩のように美しい脚本だとも。何も足す必要がなければ、自分で何か作り出さないといけないというのもなかったといいます。
 

また、撮影はカウリスマキ監督の典型的なスタイルで進行。一つの絵画を作り上げていくような感じだったとか。リハーサルなし、ワンテイクなのでセカンドチャンスもなし(!)その代わり、物凄い集中力と緊張感の中での素晴らしい撮影だったと明かしました。

 


アルマ・ポウスティさん(右)と駐日フィンランド大使館の報道・文化担当参事官であるレーッタ・プロンタカネンさん(左)

ラジオから時折流れてくるのは、ロシアのウクライナ侵攻のニュース。ということは、ここ数年の時代設定のはずなのですが、携帯電話はあるものの、レトロなラジオが主な情報源。フィンランドの庶民的な風景も大きな見どころです。

フィンランド人が好きだといわれるカラオケも、バーで歌っている人を無表情で眺める客たちの様子は非常にシュール。盛り上がっている様子はあまり見られず、無関心かと思いきや実は真剣に聞いていて、拍手をしたり、声をかけるなど、静かながらも(一応)盛り上がっている様子がなんともフィンランドらしい。ぜひ注目してみてくださいね。

 



引退を宣言した時、もうカウリスマキ監督の作品は見られなくなると思っていたのですが、電撃復帰したとたん、またカンヌなどで賞をもらってしまうところがやはり凄い(笑)

古き良き時代を描いているわけでもなく、トレンドを追っているわけでもなく、不変的な人間模様を淡々と魅力的に描く監督だなとあらためて感じました。

皮肉を込めて密かに政治的な部分を入れたり、クスっと笑えて、味わい深くて、ちょっぴりロマンチックで、冬に静かに穏やかに見る映画にぴったり。話題の最新作は、この冬、見逃せない1本になりそうです。

 

アキ・カウリスマキ監督と2匹の愛犬。本作に登場している犬は監督の愛犬!
 



枯れ葉
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ 
2023年/フィンランド・ドイツ/81分/1.85:1/ドルビー・デジタル5.1ch/DCP/フィンランド語/原題『KUOLLEET LEHDET』/英語題『FALLEN LEAVES』
配給:ユーロスペース
提供:ユーロスペース、キングレコード
https://kareha-movie.com/

© Sputnik Photo: Malla Hukkanen

2023年12月15日(金)より、ユーロスペースほかにて全国順次公開

▼他のアルマ・ポウスティさんの出演作も気になる方はこちら!
『4人の小さな大人たち』Neljä pientä aikuista/Four Little Adults
※フィンランド映画祭2023上映(日本劇場公開未定)
監督・脚本:セルマ・ヴィルフネン
出演:アルマ・ポウスティ、エーロ・ミロノフ、オーナ・アイロラ、ウィルヘルム・ブロングレン
https://www.ses.fi/en/catalogue/film/four-little-adults/

『1日半』

※NETFLIXにて配信中
監督・脚本:ファレス・ファレス
出演:アレクセイ・メンヴェロフ、アルマ・ポウスティ、ファレス・ファレス
https://www.netflix.com/jp/title/81564974