映画「少年時代」
1990年 東宝 117分
<監督>
篠田正浩
<脚本>
山田太一
<製作>
藤子 不二雄Ⓐ
<主題歌>
井上陽水「少年時代」
<キャスト>
藤田哲也、
堀岡裕二、
細川俊之、
岩下志麻、
河原崎長一郎、、
仙道敦子、
高畑淳子、
芦田伸介、
大滝秀治、
浜村淳、
大橋巨泉、
<内容:ネタバレ注意>
昭和19年10月、戦況の逼迫する中、東京の小学校五年生だった風間進二は、富山に縁故疎開することになった。
富山で最初に進二に近づいてきたのは地元のリーダー武で、田舎での生活に不安を抱き始めていた進二は、そんな武に親しみを感じるのだった。
ところが武は学校でよそ者扱いされる進二を無視し、自らも進二に対しい高圧的な態度で接してきた。
進二は武の矛盾する態度が理解できないまま、皆の前では召使いのような扱いに甘んずるのだった。
年が明けたころ、進二は東京からの荷物を受取りに行った隣町で悪童どもにからまれる。
だがそれを救ったのは武だった。
追手から逃れ、荒れた建物に潜んでいたとき、武はふっと思い出したように進二を近くの写真館に誘い二人で写貴をとってもらうのだった。
春になり、病欠していたクラスの副級長須藤が復学してきた。
武は須藤の巧みな策によって権力を失い孤立してしまう。
武はかつての取り巻きたちにまで屈辱的な仕打ちを受けたが、毅然とした態度を守り続けるのだった。
やがて終戦となり、進二が東京へ帰る日が来る・・・・。
(映画COM)
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井上陽水の名曲「少年時代」」が流れるラストシーン、
その瞬間観客は頬を濡らすに違いないでしょう。
少年時代のかくも美しく、また残酷な理屈では計りしえない感情。
この作品を観た者は、ありしの自分の少年少女時代が蘇るのではないでしょうか。
公開時に映画館で鑑賞していましたが、少し前に映画館ジャック&ベティで上映しているのを発見。
よ~し見に行くぞと思いつつも忙しくて見逃してしまい、ネット配信にて鑑賞。
昭和19年の富山を舞台に、そこに疎開してきた少年と地元の少年との友情と葛藤を描いた作品。
藤子不二雄の安孫子素雄(藤子 不二雄Ⓐ)が、作家・柏原兵三の小説『長い道』を漫画化した作品を元に映像。
漫画版の舞台は、安孫子素雄が戦時中に疎開した富山県下新川郡朝日町山崎山崎をモデルにしています。
その漫画「少年時代」はもちろん自宅にあり、遠い昔何度も何度もむさぼり読んでいました。
そしてこの映画のラストシーンは公開当時観た時も今回も、胸が熱くなり自然と泣けてしまうのでした。
ネタバレになってしまいますが、東京から疎開していた進二と疎開先で出会った武の別れの場面。
遠くから一人進二を見送る武、その姿を見つけ思いっきり汽車の窓から手を振る進二。
よくある別れのシーンですが、そこに井上陽水の「少年時代」が本当にドンピシャのタイミングで映像にかぶせてくるものだからたまりません。
そのメロディ、
その歌詞が、
より涙を誘うのでした。
音楽の力は偉大ですね。
戦時中そして終戦の時代ですから今と背景が全く違うでしょうが、子供の頃の子供たち特有のコミュニティでの葛藤は普遍的なものがあるはず。
この物語の舞台とは異なっても、誰しもが過ごしてきた少年少女時代の思い出はそれぞれあるのではないでしょうか。
かくいう私も進二と同じように東京から田舎へ疎開、いや単に転校した経験もありますのでその時の思い出も蘇ったりしました。
地元のリーダー武を演じている方は地元の子供さんで、全くの素人だったようです。とっても素朴でリーダー的、そしてどこか粗野な一面ももっている武の役に本当にピッタリだったと思います。
私の好きな場面。
この年頃にありがちな、うまく言葉にできないモヤモヤ、感情にふり振り回されてしまう、やるせない危うい行動に胸がしめつけられる。
隣町に出向いた進二がそこで地元の悪童にからまれる。
その窮地に駆けつけたのが、いつも進二に対して降圧的な武。
進二が隣町に荷物を取りに行ったと聞かされ、自転車を借り一目散に隣町に向かうのです。
田舎特有なのか、それぞれの学校や地域での縄張的なものがあるのでしょうね。
彼が一人で果敢に隣町の悪童に立ち向かい救ってくれたのでした。
進二が武に向かって、
「こんなに優しい武君なのに、なぜいつもは僕を虐めるの」
それに応える武、進二の頭を押させて馬乗りになり
「わからんの~、わからんの~」
といって殴るのでした。
良いシーンでしたね。
この武の、自分の感情気持ちをうまく言葉にできない行動表現、わかりますわかります。とてつもなく美しくも感じたのでした。
そうそう二人は武の急な提案で、その隣町の写真館で写真を撮ります。
すっかりそのシーンは忘れていました。そこの写真館の主人がなんと大橋巨泉さん。
そしてその時に撮った写真が、映画の中でいい仕事をするんですよね。
武の牙城が崩れる
そんなリーダー的な存在だった武の牙城が崩れる時がきます。
クラスの中での対立軸がはっきりしてきます。
武は家が貧乏、しかし勉強もできて喧嘩も強い昔のガキ大将的なリーダー。
そこに病欠していた副学級委員須藤が登場する。
彼はそこそこ勉強ができるがしかし身体が弱い。
家はどうもお金持ち。
武とは陰と陽の関係。
わかりやすい対立軸です。
日頃から武の行動に反感している反対勢力を密かに囲い、ある時に武をリーダーの座から引きずり下ろす計画を決行します。
そのやり方がなかなかの策士で頭脳的。
武は級長の座から引きずり降ろされてしまいました。
しかしその副学級委員須藤がリーダになってからは専制君主的であり、どこか冷たい感じの空気がクラスの中には流れるのでした。
武はリーダの座から引きずり降ろされてから孤立するのですが、毅然として家の手伝い学校と日々を過ごしていくのでした。
進二は今こそ真の友達として対等なつきあいが出来ると思って武に近づくが、武は頑なに進二を拒んだ。
やがて終戦となり、進二が東京に帰る日が来る。
心揺さぶられるラストシークエンス
叔父や叔母、級友たちが見送りに来てくれる。
ただその中に武の姿はない。
進二を乗せた汽車が走り出す。
進二は窓の外を見つめ続ける。
武とはこのまま分かれてしまうのか。
その時、少し離れた田んぼの道を必死に手をふりながら走る武の姿を見つけた進二。
進二も夢中で手をふりかえすが、武の姿はみるみる小さくなっていく。
夏が過ぎ 風あざみ
誰のあこがれに さまよう
青空に残された 私の心は夏模様
夢が覚め 夜の中
永い冬が 窓を閉じて
呼びかけたままで
夢はつまり 想い出のあとさき
夏まつり 宵がかり
胸のたかなりに あわせて
八月は夢花火 私の心は夏模様
目が覚めて 夢のあと
長い影が 夜にのびて
星屑の空へ 夢はつまり
想い出のあとさき
夏が過ぎ 風あざみ
誰のあこがれに さまよう
八月は夢花火 私の心は夏模様
(井上陽水、少年時代から)
エンディングの曲がとてもしみる素晴らしい作品でした。
5点満点中4.1