第46回カンヌ国際映画祭
パルム・ドール受賞
映画「さらば、わが愛/覇王別姫」
1993年 中国172分
<監督>
陳 凱歌(チェン・カイコー)
<原作>
李碧華(リー・ピクワー)『さらば、わが愛 覇王別姫』
<音楽>
趙 季平(ちょう きへい)
<キャスト>
程蝶衣:張 國榮(レスリー・チャン)
/映画「男たちの挽歌」「チャイニーズ・ゴースト・ストリー」「ビエノスアイレル」など多数出演そのた、歌手活動2003年飛び降り自殺にて他界、
段小楼:張 豊毅(チャン・フォンイー)
/映画「項羽と劉邦」、「レッドクリフ」で曹操の役を演じていました、
菊仙:鞏 俐(コン・リー)
/映画「紅いコーリャン」「生きる」「マイアムバイス」「SAYURI」「ムーラン」など多数出演、
袁四爺:葛優(グォ・ヨウ)
/映画「生きる」など多数出演
<内容>
2人の京劇俳優の波乱に満ちた生きざまを描き、中国語映画として初めてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した一大叙事詩。
京劇の古典「覇王別姫」を演じる2人の京劇役者の愛憎と人生を、国民党政権下の1925年から、文化大革命時代を経た70年代末までの50年にわたる中国の動乱の歴史とともに描いた。
デビュー作「黄色い大地」で注目され、本作の成功によって中国第5世代を代表する監督となったチェン・カイコーがメガホンをとった。
1925年の北京。
女郎の私生児である小豆子は、京劇俳優養成所に連れられる。多指症故に入門を断られるが、実母に指を切断され、捨てられるようにして預けられる。
厳しい稽古と折檻の中、仲間から娼婦の子といじめられる彼を弟のようにかばい、つらく厳しい修行の中で常に強い助けとなる石頭。
しだいに小豆子は、石頭に同性愛的な思慕を抱くようになる。
やがて成長した2人は、それぞれ程蝶衣(小豆子:レスリー・チャン)と段小楼(石頭:チャン・フォンイー)という芸名を名乗り、『覇王別姫』 で共演しトップスターになっていくが……。
時代に翻弄されながらも、愛を貫こうとする女形の程蝶衣をレスリー・チャンが演じ、恋敵の高級娼婦菊仙役でコン・リーが出演した。
製作から30周年、レスリー・チャンの没後20年の節目となる2023年に、4K版が公開。
(映画.COM一部修正追記)
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近代中国における圧倒的な一大叙事詩
レスリー・チャンの、魂が込められた妖艶な演技は見どころ。
7月29日、4Kレストア版にて相鉄ムービルで初鑑賞。
この作品、前回のリバイバル上映で見逃してしまった作品。そのリバイバル鑑賞記事をブロ友のみみをさんが書かれていて、すごく興味を持っておりました。今回復活上映をするということをたまたま目にし、チェックして楽しみにしていたそんな時に、みみをさんからの復活上映のご連絡を頂いたものだから、さらにエネルギー充填にての鑑賞。感謝感謝です。
いやぁ~いやぁ~素晴らしかった。
太厉害(タイリーハイ)!太厉害(タイリーハイ)!
この中国語間違っているかな?w
今年のほくとのグランプリ候補筆頭かも!
圧倒的な一大叙事詩。
3時間の長丁場作品。
インターミッションも入らずで、どうかと思っていたけれど、ぐいぐいと作品にひきよせられ、その長い時間はまったく気にならず、逆にこの歴史的出来事を深堀したら、3時間でも足りないのではと思ったりしたくらい。
とてつもない鑑賞達成感!
面白かった、感動した、楽しかった、泣けたなどの感覚とは異なった感覚を覚えた作品になりました。
鑑賞前は、京劇という世界の中で母親にも捨てられ、そして京劇養成所の仲間からも虐められるなか、事あるごとに助けてくれる兄のような存在の者に、同性愛的な感情をもったまま成人していく主人公の、ボーイスラブ的な物語かと思っておりましたが、浅はかな考えだったことに大いに反省したのでした。
鑑賞後は、とにかく映画館で観ることができて良かった、見応えある作品だったという気持でいっぱいになりました。
物語は、子どもの時の京劇の養成時代~成人になって日中戦争や文化大革命などを背景として、時代に翻弄される京劇役者の小楼(チャン・フォンイー)や蝶衣(レスリー・チャン)の目を通して、近代中国の50年を描く壮大なドラマになっています。
また「覇王別姫」とは、「四面楚歌」で有名な、項羽と劉邦の戦いのなか出てくる垓下の戦いでの、項羽と虞美人とを描いた京劇作品。この映画では劇中劇として演じられています。
ちょっと脱線しますが、項羽と劉邦の物語も好きですが、この垓下の詩は高校の漢文の授業でも特に印象に残っていた好きな詩でした。
「力は山を抜き
気は世を蓋(おお)う
時利あらず
騅(すい)逝かず
騅(すい)逝かざるを
奈何すべき
虞(ぐ)や虞や
汝を奈何(いかん)せん」
のくだり「虞(ぐ)や虞や汝を如何せん」は特にしみますねぇ。
絶望的な時に、愛する虞美人を思っての詩は泣けます。
そしてこの演目の内容は、この映画においてもポイントになっていたのではないでしょうか。
ラストの幕引き本当にお見事でした。
まさに覇王別姫を彷彿させるシーンとなっておりますので注目です。
ちょっと内容にふれますが、主人公二人の過酷な京劇養成所時代。
そこで兄のように慕う石頭に、しだいと同性愛的な感情が目覚める小豆でした。
またそこで、ターニングポイントになるような出来事がありました。
ある時、小豆は仲間の小癩と共に過酷な養成所から脱走を図るのですが、折しも天下の名優が北京を訪れている日。
そして名声通りの素晴らしい舞台「覇王別姫」を繰り広げる。それを見た小豆は、覇王(項羽)に心奪われ涙を流し養成所に戻ることを決意します。
ただしここで悲しい出来事もあったのです。
そこはスルーしますが、観た方はわかると思いますが、一緒に脱走した小癩。
彼はこの世で一番美味しいものサンザシというお菓子、それをお腹一杯食べるのが夢でした。それを街中で買って二人で食べます。
養成所に戻ってまず罰せられる小豆を見る。
その過酷な罰を耐えられないと感じ、ポケットに入れていたそのサンザシを急いで口いっぱい頬張るあのシーンは、そのあとの出来事を思うと胸が切なくなりました。
時が経過し、その養成時代から程蝶衣(小豆子:レスリー・チャン)と段小楼(石頭:チャン・フォンイー)という芸名を名乗り、『覇王別姫』 で共演しトップスターとなり、京劇のパトロンとの出会いがあります。
程蝶衣(レスリー・チャン)の秀麗な舞台姿に魅せられた一座のパトロンは、彼の身体を求めるのです。
かたや段小楼は程蝶衣の気持はしらず、やがて女郎の菊仙((コン・リー)と結婚をします。程蝶衣は嫉妬心と、自らを捨てた母と同じ女郎の菊仙に激しい敵意を抱きはじめます。
この3の人間関係、愛憎関係、微妙な心の揺らぎ感も見ものになっています。
そして日中戦争、国民党政権下~文化大革命の中でそれぞれが時代に翻弄されていきます。
時代の変化の中で、登場人物それぞれがどのような立場で、どのような思いをもってその時代を生きていたのかが、明確にわかるよう創作されていました。
京劇が悪とされてしまう時代、文革で糾弾されることで自分自身を守るために自己批判の末、愛する者の命を奪ってしまう、人間の弱さももろさ卑屈さも見事に演じられていました。
印象的だった場面の一つ。
戦後は漢奸(かんかん、漢民族の裏切り者)裁判が行われ、程蝶衣(レスリー・チャン)も裁判にかけられます。
段小楼(チャン・フォンイー)は、京劇のパトロンだった袁(グォ・ヨウ)に頼み、有利な証言をさせようとしますが、蝶衣は
「日本人は自分の体に指一本触れなかった」
と話し、自ら不利な立場にたってしまいます。
このシーンは強烈でしたね。
そのパトロンだった袁も、文革では捕まってさらし者になってしまうのですが・・・・。
このまま書いていると最後までネタバレで書いてしまいそうなので、いつものパターンですがこの辺で止めておきます。
とにかくレスリー・チャン演じる程蝶衣、見事なまでの女形、所作や目の動きは、パトロンの袁でなくても見るもの全てを魅了することでしょう。
すばらしい演技でした。
秀逸なラストシーン。
四人組の失脚を受けて、ようやく蝶衣と段小楼二人が再会し京劇を共演できる日が戻ってきた。
リハーサル途中、以前と変わらぬ美貌を保った蝶衣。
優雅に段小楼を見つめ微笑み、そして幼い頃養成所と同じセリフの間違いをする。
蝶衣はおもむろに劇中の虞美人と同様に・・・・。
余韻を残すラストはお見事!
壮大なスケールの一大叙事詩、見応えある素晴らしい作品でした。
5点満点中4.3