映画「にっぽん昆虫記」
1963年 日活 123分
<監督>
今村昌平
<キャスト>
左幸子、
北村和夫、
小池朝雄、
北林谷栄、
長門裕之、
春川ますみ、
小沢昭一、
殿山泰司、
久米明、
露口茂、
吉村実子、
河津清三郎、
<内容>
大正7年の冬、
東北のとある寒村で松木とめは、父である忠次(北村和夫)と母えん(佐々木すみ江)の間に生まれた。
少々頭の弱い父は、村役場に出生届を出すべく向かい、我が子の誕生を喜び周囲に自慢したが、忠次がえんと結婚したのは10月でえんは既にそのときには妊娠8ヶ月である…。
このえんは、誰とでも寝る乱れた女で、とめの本当の父は、当時えんが関係を結んでいた情夫の小野川と思われるが、母であるえんも分からないという。ただ、忠次がとめの血縁上の父親ではない事は明らかである。
昭和16年
23歳で、とめ(左幸子)は高羽製紙の女工となったが日本軍がシンガポールを落した日、とめは実家に呼び返され、地主の本田家に足入れさせられ、出征する俊三(露口茂)に無理矢理抱かれた。
翌年の秋とめは信子を生み、本田の家を出て、信子を預け再び高羽製糸に戻った。がそこで係長の松波(長門裕之)と肉体関係を結び終戦を迎えた。工場は閉鎖となり実家に帰ったが、再開した高羽製糸に戻り、松波の感化で組合活動を始めた。過激なとめの活動は、会社に睨まれ、又、課長に昇進した松波からは邪魔とされた。
高羽製紙をクビとなったとめは7歳になった信子を忠次に預け単身上京した。
松川事件で騒然とした時であった。基地のメィドや売春宿の女中と、体を投げ出すとめの脳裏を、信子の面影が離れなかった。宮城前広場でメーデー事件があった数日後基地のメイド時代に知り会ったみどり(春川ますみ)に会い、とめも共に外で客をとるようになった。
信子への送金を増すためであった。
問屋の主人唐沢(河津清三郎)がとめの面倒をみてやろうと言い出したのは、丁度こんな時だった。がそれもとめの豊満な肉体めあての愛のない生活であった。
新しくコールガール組織を作ったとめは、どうやら生活も楽になり、念願の忠次と信子(吉村実子)を故郷から呼んだ。
しかし、それもつかの間心の支えであった忠次は亡くなりそのうえ、とめは仲間の密告から売春罪を課せられ刑に処した。
刑期を終えたとめを今は唐沢の情婦となった信子がむかえた。
恋人の上林と開拓村をやる資金欲しさに唐沢に体をあたえたのだ。
契約期間が過ぎると信子は故郷へ帰り上林と開拓村をはじめていた。唐沢の店を持たしてやるからとひきとめる言葉を胸にとめは故郷の土を踏んだ。
健康な二人を前にして、やはりとめの心は店をきりもりする安楽な母娘の姿を描いていた長い間の人生の波にもまれたとめが、最後にもとめたささやかな夢だったのだ。
(映画COM参考、一部修正)
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作品名は知っていたものの、初鑑賞。
前に記事アップした映画「神々の深き欲望」とともに、
今村昌平監督の自然主義リアリズムの作風が炸裂しているといえるような内容。
そして相変わらず今村監督のエロが印象的(根源的なエロですが)。
人間の性と欲望、命を見続けた巨匠といわれるだけのことはあります!
ちなみに鑑賞した今村監督作品のなかで一番古い作品は、「にゃんちゃん」。その時はこんなにエロい作品を作る監督だとは思ってもいませんでしたw
少しこの作品の内容がわかりにくいかもしれませんので、簡単に説明。
東北の農村に生まれたとめ(左幸子)が主人公。
家族から地主に足入れ婚を強要され、やがては働きに出た東京で、売春宿の女中からコールガール組織のマダムとなる一人の女性と、その母えん(佐々木すみ江)と娘信子(吉村実子)、三代に渡る女性たちのセックスを通して、昆虫のような生命力に満ちた半生記をエネルギッシュに描いているというような内容です。
今村監督の師匠、私の好きな監督の一人でもある川島雄三監督。彼は地方出身であるがゆえか都会派志向、それに対して意識的に今村昌平は地方土着の民衆のエネルギーを描くようになったと言われています。
今作品もまさにそのものでした。
今作品と映画「彼女と彼」合わせて主演していた左幸子さんは、その2作品でベルリン国際映画祭で日本人で初めて主演女優賞を受賞しています。
すごいですね!
そしてこの映画、公開当時は成人映画の指定を受けていたようです。
たしかにきわどいシーンが結構ありました。
たとえば主人公のとめは、少女時代に母のえんが、父とは違う男の情夫と戯れているのを偶然見てしまいます。
そして父と母が本当に夫婦なのか疑問を持つのですが、同時に父の忠次を好きになっていいきます。
戸籍上は父と娘だが血縁上他人の2人の間には、近親相姦にも似た愛情が芽生え始める…。
というようにただならぬ父と娘の関係がセキララに描かれたりします。
また子育て中のとめが、乳が張るといって父親忠治に乳を吸ってもらうなどの映像も出てきますからね。
とめ演じる左幸子はもちろんですが、父親役の北村和夫がこれまたいい演技しているんですよ。
とにかく泥臭くも身体を張って生きる人々の姿を描いていますが、たぶん今の時代ではこのような作品は作れないだろうと思いながら鑑賞していました。
また特徴的なのは、年月日を明確化して物語が進行していきます。
しかし、それは戦前までの出来事に対してだけ。
戦後の出来事は、明示されないかわりにニュース映像が差し込まれます。
なぜにそのようにしたのだろうかは疑問でしたが・・。
今村監督の独特の視点から、本能のまま生きる者たちを、昆虫観察をするがごとく描かれた作品。
好き嫌いはあると思われますが、一見の価値ありかと。
たぶん昔の地方ではこのようなできごとが、地域、親戚、家族間でもあったかもしれないですね。
生きていくためには多少理不尽で無茶なことを行ったり。母娘で同じ愛人に抱かれたりして、最後はまた冒頭に出てきた昆虫がスクリーンに映し出されて終わる。
出演者が話す東北弁が、これまた生命の息吹をより感じさせます。
とにかくガツンとした作品であることは間違いないでしょう。
5点満点中4,0